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36 座敷わらし、封印する

 夕食後、部屋で十也の武器について相談することにした。


「教官が言うように投げナイフだと森蜥蜴みたいに一方的な攻撃ならいいけど、ランクを上げるには★の数が多い依頼を受けていかなきゃいけないし、防御ができないのは困るよね。剣がいいのかな」


「そうだな十也は攻撃より防御が必須だから、盾でも持った方がいいと思う」

「この世界ってゲームみたいに魔物を倒した分だけレベルが上がるのかな。もしそうなら、数多く倒すか、レベルが高い魔物を倒すかを、ひたすら続けた方が早く強くなれると思うんだけど」


「ステータスオープ「言わないよ! ラトレルさんに聞くからいいよ」


 言葉を遮られ十也に拒否された。




 にゃーお、にゃぁーお

 ——猫の鳴き声がしたので窓の外を見ると、部屋の近くに屋根まで届く大木があり、その枝から黒猫がこちらに向かって鳴いていた。


「ネコ!」

「窓あけてくださーい。そっち行きますからぁ」


 窓を全開にするとネコが木から部屋の中へ飛び込んできた。町で拾った情報を話しに来たらしい。


「オークの件ですが、結局正体不明の魔物については(にゃに)も発見できず捜査は打ち切りだそうです。足跡もあの場所にしかありませんでしたからね。西の森の警戒は続けるので西方面は当分Cランク以上しか依頼が受けられにゃいって言ってました」

「魔物なんて見つかるわけないからな」


「それと救出された男たちは回復したようですが、大型の魔物については遭遇していないので(にゃに)もわからないと答えたそうです。童は男たちと町で会った時の心配をしていましたけど、たぶんあの人たちは拠点を変えるから大丈夫ですよ。Cランクなのにオークの嫁の噂がたったから、屈辱にたえられにゃいそうなのでぇ」


「『あいつオークの嫁なんだ』って人から言われた確かに嫌だよね」

「ユタラプトルが見られてなくて良かったな」


「そうですね。ただ、童が噛み傷のついた魔物をセンターに持ち込んだでしょ、もともとテンゴウ山にいたのが西に移動したんじゃにゃいかって少し疑われてました。傷の大きさが違うし、持ち込んだ時にラトレルさんの口添えがあったから、他の魔物に襲われて弱っていたところを童が魔法で止めを刺したんじゃにゃいかって話になって、関係にゃいことににゃったそうですけど、気をつけた方がいいですよ」


「それは最悪だな。効率のいい攻撃だとどうしても噛み傷が出来てしまうぞ」

「確かに猛獣を連れていないのに噛み傷っておかしいし、万が一センターで証明しろって言われてもそんな魔法があるかもわからないから変身するわけにいかないよね。変身しちゃったら恐竜の噛み傷も疑われるだろうし」


「そうなると私も武器が必要になるのか」


 ネコの情報がなければまた同じ方法で狩りをするつもりだったので助かった。

 化け物扱いされないように十分気をつけなければ。疑惑の目を向けたられたら、やっと拠点ができて十也のレベル上げを始めたところで、町から逃げ出すはめになっていたかもしれない。


 話が終わるとネコはまた情報収集へ行くと言って窓から出ていった。


「武器のことは、明日、ラトレルさんに相談しながら決めようか。アドバイスもらえるかもしれないし」

「私は自分の変幻能力で何ができるか考えておく」


「ねぇ、話は変わるけど、ネコちゃんって謙虚って言うか、控えめで、僕の思っていた猫とはだいぶ違うんだけど」

「ああ、昔はネコも気まぐれで態度も高飛車だったぞ。妖精の中では末端の存在なのに高位の妖に喧嘩を売って、こてんぱんにやられたことがあってな。それが切っ掛けではあったが、姿は猫でも交流するのは他の妖精や妖だから、自然とあんな性格に変わっていったな」


「妖精って手が出せないんじゃないの? 」

「いや、高位の妖になら簡単に吸収されて、霊力にされるな。高位になればなるほど縛りがあるから、討伐されたり、精気が減った今ではほとんど存在しないがな」


「そうなんだ。なんか元の世界でも僕の知らないところで、別の世界があったと思うとなんか不思議だ」


 今日は個室だからネコに不寝番を頼んで私は霊力の温存のために休眠すればよかった。気づいたのは、十也がおやすみと言った時だ。

 明日の夜からはそうすることにしよう。


 翌日、ラトレルさんと会う前に相談したいことがあったので、早朝に十也を起こし、一晩考えたことを話した。


 まず、私の武器についてだが、肩からゴリラで実体化し打撃武器を使用したらどうか。武器を使用するとなると普段も持って歩くことになるので、邪魔にならずそれでいて攻撃力は高めの武器がいい。私でも取り回しが難しくないものを探したい。


 それを踏まえて、私が戦えるから、十也が魔物に近づく必要もないので防備に力を入れたらどうか。強くなることばかり考えていたが、実際私たちは物語に出てくるであろう敵と表立って戦う必要はない。


 主人公の仲間になるわけではないから隠れて尾行できるだけの強さがあればいい。十也は攻撃より死なないための手段を考えるべきだ。素人が今から剣を学んだとして上達するのには何年も掛かるのだろう。


 ずっとこの世界で暮らしていいくのならそれも有かもしれないが、いずれ元の世界に戻る予定の十也には剣士としての技術を学ぶが必要あるとは思えない。


 盾を幸運の盾にすれば攻撃を防げるだろうし、武器は遠くから攻撃できるように、やはり飛び道具がいいと思う。わざわざナイフに不幸を付与して不幸魔法を使わなくてもいいように、もともと適性があるのであればそれを伸ばすように鍛錬した方が絶対にいい。


「何度も言うが十也は死なないことを第一に考えるべきだ。私たちは一蓮托生だ。お前が死ねば私もどうなるかわからない」

「わかった。教官が言っていたように急所が狙えるように頑張ってみるよ」




「おはようございます」


 話がついて二人で食堂に下りていくと、昨日は見かけなかった十也よりも少し年下の女子が挨拶をしてきた。


「オラク君、トーヤ君。おはよう。この子はエルシーちゃん」

「ベルナさん、エルシーちゃん、おはようございます」

「エルシーちゃんこの子たち昨日からうちに泊まってるオラク君とトーヤ君よ」

「はい。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げたエルシーは銀髪のショートボブ、孤児院から通ってきている子どもで、理由があって静水館に勤めているそうだ。


 いまは暗くなる前に帰っているが、十五歳になったら正式に従業員になる予定とのこと。

 大人しい子なのか給仕の仕事も最低限しか喋らず淡々とこなしていた。


「あの子、十歳くらいだよね。あんな小さなころから働いているんだ」

「日本だって昔はそうだったぞ。特別な者をのぞいて働けるものはみんな働いていた」


「そういえばお楽って大昔から生きてるんだもんね。僕たちが習っている歴史に間違いってない?」

「私は屋敷に引きこもっていたから人間のことはよくわからん。ただ、何故か妖精や妖が起こした出来事はいつの間にか御伽噺にされていて歴史から消されていることだけは確かだな」


 だから信仰する人間が少なくなって妖精たちがどんどん姿を消していった。


「なんでだろうね。あ、ラトレルさんおはようございます」

「二人ともおはよう。朝飯食べたら出掛けようか」

「はい、お願いします」


 今朝の静水館の朝食はパンと具だくさんのスープだったが味に独特の酸味とくせがあり私は少し苦手だった。


 十也は旨いと言っているので私の味覚の問題なのだろう。


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