34 十也、武器の適性を調べる
十也が武器の適性を知りたいと言うので、センターで調べてもらうために店を出る。
すると外でネコが待っていた。これからの予定を話すと、十也の用事が終わったら、一緒に行ってほしいところがあるというので、まずは三人でセンターへ行くことにした。
センターについてから受付で武器の適性検査を受けたいことを相談すると、午後一番からなら教官が空いているというので予約を入れてもらった。
そうしているうちに、私たちを見つけた担当眼鏡が奥の方から受付カウンターに向かってすごい勢いでやってくるのが視界に入る。表情からして何か怒っているようだ。
「オラク君、ちょっといいですか」
「何かようか?」
「冒険者は初心者のころ自分の実力を過信し、無茶な行動に出て命を落とすことが多いんです。今回のようなことは大変危険なので気をつけてください。それと守衛を振り切るようなことは二度とやめていただきたい」
昨夜のことを説教されてしまった。言いたいことはわかるが私には命の危険はないのだからこれからも気をつける気はまったくない。
門番の件はさすがに反省している。
時間が余ったのでそれまでネコの用事に付き合うことにした。
ネコが自分について来てほしいというので、十也と二人で後を追っていくと、やって来たのは屋台がでている広場の端。
ここ、とネコが指さす場所には雨水を排水する溝があり、苔が生えている中をよく見るとそこに何かが落ちていた。ネコがそれを拾えというので私が手を突っ込んで拾ってみるとそれは大銅貨だ。
「あのですね、あと二ヶ所あるんですよ」
自慢げに言ったネコは、昨日からずっと硬貨を探し回っていたようだ。元の世界で町を歩いている時に、何度か隙間に落ちている小銭を目にしていたので、この世界でも落ちているのではと思ったそうだ。
「我、トウヤさんのお役に立ちたかったんです」
「ありがとう、ネコちゃん。十分役に立ってるよ。ネコちゃんはいるだけで癒されているからね」
ネコも元の世界では、人間と交流することがほとんどなかったようで、十也に大切な仲間だと言われたことがとても嬉しかったらしい。
ほかの二ヶ所には銅貨が一枚づつあり、十也は宝物にするといって大事そうにポケットにしまっていた。
午後になり、十也の武器の適性検査を受けるため、私も冒険者ギルドの裏手にある広場に来ていた。カウンターで手続きをしていた時に職員に見学をしてもいいと言われたので、私は広場の隅っこで様子を見ることにした。
屋外だったのでネコもそばに来ている。
教官はアルガンと言う四十代ほどの男で右目を眼帯で隠している。プロレスラーのような筋肉質でがっちりした体形、身長は二メートルを超えているだろう大男だ。
説明を聞いているとロングソード、バトルアックス、ダガー、槍、弓、メイスなど、広場に用意してある武器を十也が次々に使用して教官がそれを受けるだけのようだ。
まず、ロングソードから始めた。十也は剣を構えても、腰が引けたまま一向に攻撃しようとはしない。それに焦れた教官が自分は動かないからとにかく打ち込んで来いと言うので、やっと十也は教官の持っている剣に向けて自分の剣を振り下ろした。
ところが、受け止められた反動で後ろに転んでしまう。何度か同じことを続けたがやはり踏ん張ることができずに尻もちをついていた。
「子どもが遊びでやっていたチャンバラの方がもっと動きが良かったと思うぞ」
「武士の子どもは小さにゃころから木刀を持っていましたからねぇ。比べたらトウヤさんが可哀そうですよぅ」
次は大き目のバトルアックスだ。十也は柄を持った状態でフラフラしていて、持ち上げるのがやっとのようだ。斧の先端を腰より高い位置まで持ってこれず、構えることができない。あとで聞いたが身体が小さくとも斧の適性があれば振り上げることが出来るそうだ。
ダガーやメイスでは相手に近すぎるのか十也が怖がってまったく攻撃ができない。ロングソードの時よりもひどい状態だ。
槍は自分の攻撃範囲がわからないのか、突き出しても教官に届かなかったり、うまく突けずに教官に柄を掴まれてしまう。その度に十也は手を離してしまっていた。
最後に飛び道具類を試すことになった。飛んできても大丈夫だからと教官に向かって矢を射っていいと言われ、オーソドックスな弓とクロスボウ、投げナイフ、スリングショットを教官に向かって順番に放つことになったようだ。
弓矢は弓を引く腕力がなく矢を飛ばすことすら出来なかった。
他のものもことごとく素手で叩き落されてしまう。もし教官がそれを防がなかったとしても命中する場所ではなかった。
よく見ると十也の手のひらは赤くなっている。武器を少し扱っただけで豆ができて皮がむけてしまったようだ
十也はたぶん運動を何もしていなかったはずだ。身体は元のままだから、体力も持久力もないと思う。十也がこれから物理的な攻撃手段を得るのはとても大変そうだ。
私にはどれも素質がないように見えたが。診断の結果は……。
「手で持つ武器の中で選ぶとしたら剣だが、人に対する攻撃に戸惑いがあるな。これでは魔物ですら傷つけることができるかわからない。これから剣士をめざすなら肉体と精神の両方とも相当な鍛錬が必要になるぞ」
確かに教官の身体は狙わず剣に向けてしか攻撃していなかった。
「クロスボウと投げナイフ、スリングショットはちゃんと目標を捉えていた。わざと外したことは冒険者として評価できないが、いつも同じ位置に打ち込まれていたから、おまえは動体視力が良いらしい。だが、クロスボウは連射できないし、他の飛び道具は殺傷能力を考えると急所を狙えるだけの技術が必要だからな。こちらも冒険者として上を目指すつもりなら難しいぞ」
飛び道具は十也の不運魔法が使えるので考えていたのだが、教官は否定的だ。
「全て踏まえた結論として冒険者としてやっていくのであれば、連れが魔法使いらしいから、おまえは前衛ができるようロングソードを鍛錬しておいた方がいいだろう」
そう薦められた。
攻撃することへの戸惑いは小さな魔物から経験を積んで慣れていくしかないそうだ。
この教官、何も伝えていないのに私のことを魔法使いだと言った。
大鹿の持ち込みのことを知っていたようだ。




