33 座敷わらし、報酬を得る
センターの受付は、真夜中は締まっているので中に入ることはできない。しかし別棟にある素材受取所だけは、夜遅くの持ち込みもあるため二十四時間受け付けていて、こんな時間でも煌々と明かりが灯っている。
やっとのおもいで運んできた大鹿は、肉は食用、皮や角は素材や薬で使えるからと買取金額は大銀貨八枚にもなった。
普通ならあの鹿はCランクがパーティで捕獲する魔物だそうだ。それがパーティの持ち込みでなく、しかも傷口がおかしいことにセンターの職員が首をかしげている。
ラトレルさんが、私が魔法を使って倒すところを見たので間違いないと証言してくれたおかげで、しつこく質問されることはなかった。
報酬の受け取りは明日になるので、ラトレルさんから借りた銀貨三枚は明日返却することにして、私は青獅子荘に戻ることにした。ネコは町へ入ってから、朝また来ます。と言ってどこかへ行ってしまっていたので、今はここにはいない。
部屋に戻ると十也はまだ寝ていたが顔色も良くなり熱もなさそうだ。左頬の赤みも消えている。大丈夫そうなその姿を見てほっとした。
翌朝。
「身体が軽い」
朝七時ころに目が覚めた十也は、身体の痛みと疲れがとれたことを喜んでいた。この世界に来てから一番調子がいいそうだ。治癒魔法は本当にすごいらしい。
「それで昨日は僕を一人にしておいて、何してたんだよ」
昨夜のことをすべて説明したら、治療費のためとは言え、無謀な行動に出たことと、ひとりになるのが怖いと伝えたばかりなのに十也を置き去りにしたことでこっぴどく叱られた。
「でも、僕のためにありがとう」
それでも怒っているだけではなかったようだ。
「ラトレルさんにお礼がしたいけど、今はきっと休んでいると思うから夕方に会いに行きたい」
十也がそう言うので、今日はそれまで、これからのことを二人で話し合うことにした。身体の調子がいいと言っても、十也はここ何日かまともな食事をしていない。
今朝はモーニングプレートのような朝食を出しているお店に入ることにした。一皿にサラダとスクランブルエッグがのっている。それにパンと具のないスープがついて大銅貨二枚だ。
始めは渋っていたが、十也が病気になると私が困る、と言えば従うしかなかったようだ。十也だけ頼むのもおかしいと言うので、私は持ち帰ることができるようにパンだけを頼んでおいた。
「体調が悪くなる前には宿屋のパンと携帯食しか食べてないから、胃腸炎はたぶん携帯食だと思うんだよね。もったいないけどあれは全部捨てるよ」
「そうだな、十也はちゃんとした食事をとった方がいいから、今日からは食事がついている宿に泊まるぞ。私の分は無駄になるがその分稼げばいいからな」
「それについては、お楽の言う通りにするよ」
昨日は我ながら無茶をしたと思うが、おかげで効率のいい攻撃の方法もわかったし、事前に準備さえすれば、十也が普通の宿で暮らしていけるくらいは稼げるだろう。
「僕、魔法をいろいろ試してみたいんだ。不運はお楽が側にいなきゃ使えないから、他にも僕に何ができるのか調べたい」
「それも試しつつ、幸運を効率よく溜められる方法を考えるべきだな。幸運ならいくらでも十也の中に貯蔵できるからな」
「善良な人が多いところでしょ? 教会とかかな?」
「ファンタジーの世界だと聖女とかいるしな」
「あ、でも逆に教会が黒幕の時もあるんだよね、その辺は慎重になった方がいいかもね。ここが完読の世界だったら、欲しい物がどこで手に入るかわかりやすかったのに」
「そればっかりは仕方ない、ひとつずつ確認していくしかない」
「そうだね……あと」
十也が食事をしていたフォークを皿に置いて立ち上がり姿勢を正した。
「お楽の稼いだお金のことだけど、全部お楽に捧げて霊力にするべきだと思う。だけど、僕が生きていくためにはどうしてもお金が必要だから、僕が冒険者として一人前になるまで貸してもらえませんか。余裕ができたら少しづつでも奉納して返します。どうかお願いします」
十也が私に頭を下げた。
頼まれなくてもそのつもりだ。
「今は十也を元の世界に戻すことを一番に考えているし、座敷わらしとして、私自身のためでもあるから気にしなくていい」
「わかった。でも、よろしくお願いします」
センターで報酬を受け取ったら、とりあえず、大銀貨一枚は私に捧げてもらい、一枚を奉納金の予備とする。あとは当分の生活費を残し、十也が冒険者として最低限やっていける装備を購入することに決めた。
必要な物がわからないので、また迷惑をかけてしまうがラトレルさんに教えてもらうしかない。
奉納金は私が稼いだものでも、私が十也に渡して、十也の所有物になれば問題ないらしい。自分で稼いでいる座敷わらしなど聞いたことがないので、その辺は曖昧なのかもしれない。




