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28 幸運魔法?不運魔法?

 幸運のことを考えているうちに魔物の狩場に到着した。


「この辺にはモリトカゲ【森蜥蜴】って言う小型のトカゲが生息していて、食用だからセンターで買い取ってもらえるんだ。主食が昆虫で、人間からはただ逃げるだけの魔物だから危険はないけど、素早くてなかなか捕まらない。参考になるかわからないけど俺が一匹捕まえるから、離れて見ていてもらえるかな」


 ラトレルさんがそう言って指さす方向を見ると五メートルほど離れた木の幹に茶色いトカゲが張り付いているのが見えた。教えてもらわなければ保護色で全くわからない。捕まえる以前に、見つけるのが大変そうだ。


 ちなみに少しでも魔力がある生き物はすべて魔物だ。昔、研究者が生き物の魔力を調べて分類したそうだ。少量の魔力を持つ魔物はたいていは繁殖行動で使う。魔力で蛍みたいに光るものもいるらしいが、ほとんどは匂いを拡散したり、音波を飛ばすのに魔力をを使っているのだと研究者は言っているそうだ。


 ラトレルさんは槍を肩の上で横に持ち、槍投げの要領でモリトカゲに向かって投げつけた。槍はモリトカゲの胴体の真ん中につき刺さり木に串刺し状態だ。簡単にやっているように見えるが私たちだったら槍を投げたところでまず木につき刺すことすらできないだろう。近づいて見てみると、姿かたちは元の世界の蜥蜴とあまり変わらず、体長はしっぽまで入れて六十センチほどの長細いトカゲだった。


 ラトレルさんが必要分だけ捕獲したら、そのあとに、私たちも試してみればいいと言うので、とりあえず邪魔にならないよう、私たちだけ街道まで戻ってラトレルさんを待つことにした。


 その間に十也の魔法? の実験をしてみる。


「僕に魔法が使えそうなの?」


 十也に伝えるととても喜んだ。なぜか幸運が魔力として認識されているが、厳密にはこの世界の魔力とまったく違うはず。魔法の元になるものではないと思う。そんなことができたら私にだってポルターガイストが起こせたはずだ。ぬか喜びになるかもしれない。


 幸運の流れはわかっているので、今度は不運を試してみよう。ただ、十也に不運を授けたあと、十也の中に不運が残っているのはまずい。本当に微量を十也に授けて、さっきの要領で指先から放出してもらった。幸運も放出されてしまうと困るので、不運をイメージするよう十也に伝えて実験を開始。


「実感がないからよくわからないけどやってみるよ」


 十也には何も見えないと言うが、やはり幸運と同じ流れで私に戻って来た。しかもイメージしたおかげか不運だけが放出されて幸運は十也の中に残っている。次は不運を誰かにぶつけたらどうなるのかの実験だ。

 とりあえず地面を動き回っている蟻で試すことにした。十也の指先を蟻に近づけて同じことをすると蟻の動きが止まり死んでしまった。


「うそ? これって魔法みたいに攻撃できてるってこと? 本当に動かなくなっちゃったんだけど」


 そしてその不運は私に戻ってくることはなかった。蟻が不幸になったということか? 

 何度も試してトウヤが何かに不運を移すことが可能だと検証できた。


 ちなみに私も試してみて驚いた。私にも蟻に不幸を移すことができたのだ。虫にも不幸を授けることが出来るなんて知らなかった。ただ、十也のようにすぐに死んでしまうようなことはなかったので違いがわからない。


「えいっ」


 ネコも一緒にしゃがみ込んで自分の前脚を蟻に向けて同じことをしていた。しかし、私がネコ(妖精)には運を授けることができなかったから「お前の指先からは本当に何も出ていないから無理だ」と教えたら肩を落としてしまった。落ち込んだネコを地面にしゃがんだまま十也が一生懸命慰めている。


「トウヤが使うと殺虫剤のようだな。人間に使用したらどうなるんだ」

「見えないから僕には実感がないんだけど、とりあえず、魔物で試してみようよ。蟻みたいに人が死んじゃったら殺人になっちゃう」


 普通なら私が不運を授けても間接的に不幸になるだけだ、しかもすぐに不幸になるわけではないから、蟻が即死したのも本当だったらあり得ないことなのだ。まだまだ不明なことが多すぎる。


「実験中に思ったんだけど、例えば僕が持っているナイフに幸運を移したら獲物に刺さらないかな? 僕みたいに技術がない者が獲物を捕獲出来たら運がいいってことだよね。やってみていい?」


 物質に幸運を授けることなんかできるのか?


 的になる獲物が何もいないので、とりあえず太い木へ狙いを定めてナイフを投じてみることにした。


「当たれぇぇぇ」


 トウヤは心臓からナイフへ幸運を移すイメージをして狙った大木へナイフを投げる。なんと本当に狙い通りナイフが木に突き刺さった。そして幸運は私に戻ってくることはなかった。これ成功だよな? しかし私には物に運を授けることが出来なかった。

 不思議なことばかりだ。


「やったぁー。これで僕も役にたてるようになったかな」


 喜ぶ十也には悪いが幸運が底をついてしまったので二度目はない。ただでさえ溜まりにくいのに一度投げて終了では効率が悪すぎる。

 どちらかと言うと不運の方が溜まりやすいし、この世界に来て人ごみにいる時間が長いため、現時点で『借金地獄の上、一家離散』に追い込むほどは溜め込んでいる。そちらを使用する方法を考えた方がいい。それを話したら十也が少し考えてから


「だったら同じようにナイフに不運を移して投げて当たったら、相手にしたら不幸だよね? この世界ってイメージで魔法を使っているでしょ。考え方次第だと思うんだけど」


 確かにこの世界の魔法は十也が言っている通りな気がする。このあと森蜥蜴で試してみるか。


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