100 座敷わらしとロックチョウの卵 6
その日センターは大騒ぎだった。
岩鳥の卵は通常二十人規模でこなす依頼だそうだ。
半分の十人で親鳥の足止めをして、残り半分で卵の採取と運搬をする。
足止めの冒険者がわざと親鳥を怒らせて、そちらに向かわせているうちに卵を盗むらしいが、言葉で言うほど簡単なことではない。
人間が騎乗できるほどの大きな鷲だ。冒険者に危険がない訳がない。
卵側の担当も反り返っている崖っぷちから、卵を割らずに運ぶのは並大抵のことではない。
万が一途中で親鳥が戻ってくれば全滅もありえる。
命懸けで卵が手に入ったとしても、最高報酬の金貨二十二枚を二十人で分ければ、一人頭金貨一枚と大銀貨一枚。
間違いなく無傷ではいられいない仕事で、割りにあっているかと言えば微妙なところだ。
それを三人で持ち込んでしまったのだから大騒ぎにもなるだろう。
相変わらず私たちに話しかけてくる冒険者はいないが、ラトレルさんだけは質問攻めにあっていた。
採取方法はもちろんノーコメント。
普通ではない私たちの方法を教えることはできないのだが、他の冒険者だって効率のいい方法があったとして、それを他人に教える馬鹿はいない。
実はラトレルさんが魔法印を用意してくれていて、パーティメンバーになったからと今回は使用していた。
魔鹿や玉虫蛇を運んでいる時は自分の所有物ではなかったので使うに躊躇っていて、もしものことがあった時だけ押印するつもりだった。と言っていたから今回初めて使ったことになる。
途中で誰にも邪魔はされなかったが、注意は怠らない方がいいに決まっている。
今後のことを考えて十也にも魔法印は持たせた方がいいと思う。
私はどうせ狩りの間に落としてしまうだろうから作る気はないが……。
「今日は魔道具屋に行くぞ」
私たちは岩鳥の卵を持ち込んだ分の報酬が入ったので、この前見てきた魔道具屋に行って十也待望のマグボトルを購入することにした。
孵化に成功した場合の報酬はまだいつ入るかわからないが、ヒナのことを考えれば卵が孵ることは間違いないので、金貨二十枚のうち三分の二は手に入ることが確実だ。
いままで後回しにしていた装備もこれで揃えることが出来る。
ラトレルさんは治療院に行くそうなので今日は別行動をしていた。
「大銀貨二枚じゃ。これは孫の失敗作で見た目が悪いからのう。材料代だけでいい」
渡されたマグボトルは私たちにはわからないが、外側に描かれている魔法紋の文様にいびつなところがあって、保温機能を果たしていないから本当なら売り物にはならないそうだ。
「あと、魔法印はここでもつくれるのか」
「大丈夫じゃ。ほれこれじゃ、ここを持って自分の魔法をおくってみい。筒の端はここへ向けるのじゃよ」
十也は店主に渡された口紅サイズの細長く四角い筒を眺めていた。
店主に言われ、用意してもらった皮の切れ端に先を向けて幸運を送ってみたようだ。
あれ、このパターンは私の時と同じではないだろうか……。
「ふむ、問題なさそうじゃな。次はこれに手をかざして魔力を送ってくれんか」
十也が店主に言われた通りその皮に手をかざすとボワンと淡く光って消えた。
あれ?
「獲物に印を押した後は一度こうやって確かめてみるといい」
「へえ、魔道具ってやっぱり不思議で面白いね」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
魔法印は押せたな。だったら十也なら大丈夫かもしれん。
「店主、十也にも変換筒を試させてもらえないか」
「かまわんよ」
カウンターの下からこの前私が見せてもらった炎の変換筒を出して渡してくれた。
そして十也が同じように筒を握り魔法をおくったのだが……。
「この子もダメじゃのう。水も試してみるかの」
「いや、それも使えないと思うからもういい。なぜ魔法印は使えて変換筒はダメなんだろうな」
「魔法印は魔力ならなんでもいいんじゃよ。そこにある魔力を取り込んでいるだけじゃからのう。魔法筒は属性を違う属性に変える物じゃからな根本が違うのじゃ」
「なるほど。いろいろ世話になったな」
「ありがとうございました。二つとも大事にします」
「何かあったらまたおいで」
私たちはついでに時刻板も購入して、代金を支払ってから店を後にした。
「これであの、まっずい水飲まなくていいかと思うとすごく嬉しいよ」
それを聞いて、私は水分が必要な身体ではなくて本当に良かったと心から思っていた。




