表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/227

与えられた役割の中で行うしかない


オーエンと別れたあと、シリは乗馬服のまま城に戻った。


侍女たちと一緒に、戦に備えて携帯食を保存袋に詰め、包帯や薬草の補充をしていた。


気づけば、空が赤く染まり始めていた。


けれど、まだ一つ、やらなければならないことがある。


シリは城の中を歩き回り、ある人物を探していた。


――カツイ。


つい最近、重臣に任命されたばかりの男だった。


見つけたのは、レーク城でも特に見晴らしの良い窓辺だった。


カツイはそこに一人で立っていた。

少し疲れたような背中で、遠くをぼんやりと見つめている。


「カツイ」


控えめに呼びかけると、カツイはびくりと肩を震わせ、振り返った。


「シ、シリ様・・・! ど、どうされましたか?」


目を白黒させながら、慌てて一歩下がる。


「重臣になったと聞いて、ご挨拶に来ました。おめでとうございます」


「と、とんでもない・・・わたしなんか・・・重臣の器では・・・」


しどろもどろになるカツイに、シリは柔らかく微笑む。


「最初から役職にふさわしい人なんて、ほんの一握りよ。

私だって、自分が“妃”にふさわしいなんて思ったこと、一度もないわ」


「そ、そんなことは・・・!」


「でもね、与えられた立場に恥じないように、一歩ずつ努力していけばいいの。

そのうち、少しずつ追いついていけるわ。これは私自身の経験です」


その言葉に、カツイは目を瞬かせた。

自信なさげだった顔に、ほんの少しだけ光が差す。


「・・・ありがとうございます。そう言っていただけるだけで、救われます」


彼は頼りないところもあるが、誠実そうだ。


――おそらく、オーエンはまだ重臣とは認めていないだろう。


それでも、人は与えられた役割の中で育っていくものだ。

シリはそう信じていた。


「息子に・・・恥じないように、頑張らなくては」


ぽつりと、カツイが呟いた。


「息子さん?」


シリは驚いて問い返す。


「はい。13になります。いつか、立派な戦士になって、ワスト領を守ってほしくて」


「13歳!!」


カツイは33歳。


年齢的に不思議ではないはずなのに、やはり驚いてしまう。


「それなら、あなたがまず見本にならないとね」


シリが笑うと、カツイの表情もわずかに和らいだ。


「・・・はい」


その声には、さっきまでの不安とは違う、かすかな決意がにじんでいた。


シリはふと、まっすぐカツイの目を見つめる。


「カツイ。あなたに、どうしても頼みたいことがあるの」


静かな口調だったが、その言葉には重みがあった。


カツイは驚いたようにまばたきし、そして、片膝をついてひざまずいた。


「・・・なんでも、命じてください」


シリは小さくうなずいた。



今ここで交わした言葉が、

やがて長い月日を経て、思いもよらぬ形で実を結ぶとは――


このとき、まだ誰も知らなかった。


あの日、カツイが「息子に恥じぬように」と願ったように。


そして、シリが守ろうとした子どもたちもまた、立派に成長し――


10年後、とある城で彼らは再び出会うことになる。



グユウが旅立つ日まで――あと、2日。


父と子の願いは確かに受け継がれていく。


だが、その矢がいつかシリへ向けられるとは、まだ誰も想像していなかった。




次回ーー


「・・・約束だ」

グユウが旅立つ日まで、あと8時間。

けれどその約束が、無事に果たされる保証はどこにもなかった。


次回――今日が最後の日だと思って過ごしていきたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
, ,

,

,

,

,
,
,
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ