表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/227

陽に乾く願いと、母の眼差し

黄金色に照りつける八月の陽射しの下、レーク城の庭には、ずらりと丸い保存食が並んでいた。


干し台の上に並んだそれは、遠征用に作られた携帯食だ。


「ものすごい量だわ」

シリはズラリと干された携帯食を見つめた。


戦の最中、兵たちはゆっくり食事を摂る余裕もない。

天候が崩れれば火も使えない。

だからこそ、調理せず口に運べる食糧は命をつなぐ要だ。


「この前の戦でも、兵たちはこれに助けられましたね」


エマが日傘をたたみながら言う。


「飲まず食わずで、10時間以上戦い続けることはできないわ」

シリが話す。


シリはつぶやきながら、干しあがったばかりの保存食を手に取った。


ワスト領の携帯食は、蕎麦粉と砂糖を練った素朴なもの。


そこに、シリは独自の工夫として、免疫力を高めるエキナセアと、血を整えるよもぎを粉末にして加えていた。


薬草の効能を信じて、祈るような気持ちで作ること――


それが、女の自分にできるささやかな「戦」だと、シリは思っていた。


高温続きの夏。

保存食はあっという間に乾く。


まだ温もりが残るひと粒を、シリはそっと口に運んだ。


「どうですか?」

エマが質問をする。


「美味しい・・・とは言えないわ」

苦笑まじりに言うと、エマが肩をすくめて笑った。


「味は二の次ですからね。とにかくエネルギー補給になれば」


毎日、大量に作っても困ることはない。


むしろ足りないくらいだ。


◇◇


争いが一段落し、久しぶりに夫婦で子ども部屋を訪ねた。

入るなり、シンとユウがシリに飛びついてきた。



・・・笑いながら、叫びながら、ふざけながら、シンがまとわりついてくる。


ユウは、じっとシリを見つめて離れない。


ウイはグユウにむかって手を差し伸べた。


まだ3歳と1歳なら、争いや両親が不在の意味も理解もできないだろう。


それでも、いつもと違った城内の雰囲気を感じ取ったかもしれない。


ーー子供たちに寂しい想いをさせてしまった。



言葉が遅いユウは、何かを言いたそうだけど話さない。

その言葉が出てくるまで、ユウの顔をじっと見つめたかった。


「ははうえ!」

無邪気に叫ぶシンが、得意そうに小さな竹刀を振り回す仕草も眺めたい。


普段、無表情のグユウも、

子供部屋にいる時は眉毛が下がり、目元が緩み、口元が上がる。


抱きしめたい子が百人分もいる気持ちだった。

ひとりひとりの声を聞き、手を取り、肌を確かめていたい。


けれど、時間はあまりに短い。


子どもたちが眠りにつくと、シリはユウの寝姿をそっと直した。


うつぶせになっていた身体を仰向けにすると、金色の髪が枕に波打った。


ぴたりと目を閉じたまま、ユウは微動だにしない。

その顔を見つめながら、シリはそっと言った。



「毎日、子供達の寝顔を見ることができたら・・・幸せだわ」


隣で眠るウイの淡い髪に指をすべらせながら、吐き出すようにつぶやく。


その肩に、グユウの手がそっと置かれた。


ぬくもりは優しかった。


けれど――


ーーきっと、こんな時間は長くはない。


そう思うと、願わずにいられなかった。


無理だとわかっていても、声にしてしまいたくなる。


この平穏が、どうか、少しでも長く続きますように――と。



明日の17時20分 オレは変わる 努力をしてみる

続きが気になる人はブックマークをお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
, ,

,

,

,

,
,
,
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ