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復讐の鬼 血に染まる争い

午前3時


レーク城は争い前の静かな緊張感に包まれていた。


紺色の軍服を着たグユウをシリは見上げる。


いつもの凪いだ瞳の奥に、静かな闘争心がチラリチラリと見える。


二人は無言で強く抱き合った。


大事なことは昨晩伝えた。


グユウが無事に返ってくることを信じるしかない。


シリは血の気がない顔をしながら、雄々しい態度を見せていた。


シリをそっと手放した後にグユウが静かに話す。


「ホールに行こう」


城のホールには大勢の家臣がひしめきあっていた。


皆が興奮している。


グユウとシリが登場すると、足を踏み鳴らす。


グユウは大勢の家臣を見つめながら、静かな、よく通る声で話した。


「ゼンシがいる限り、ミンスタ領はよみがえる」


後ろでシリが力強くうなづく。


「この争い、目指すはただ1つ・・・ゼンシの首一つ」

静かな闘志がグユウを纏っていた。


シリの後ろにいたジムは驚いたように息を呑んだ。


横に立っていたトナカは、まじまじとグユウの顔を見つめる。


寡黙で温厚なグユウが闘志と怒りを露わにしている。


そんなグユウは見たことがない。


「行くぞ!倒すぞ!ゼンシの首を取るぞ!!」

トナカが掛け声をあげる。


こういう場の盛り上げ方はトナカは上手だ。


家臣達は鬨の声をあげ、その声の大きさはホールの壁を震わすほどだった。


突然グユウが振り向いた。


真剣な眼差しでシリを見つめる。


「ご武運を」

シリが力強く答える。


頭を凛と上げ微笑む。


シリの顔を見て、グユウは少しだけ眉毛を下げた。


青いマントを翻し、トナカと共に階段を降りる。


重臣達がグユウに寄り添うように後を追う。


シリは微笑みを浮かべていたけれど、微笑んだまま、その表情を取り替えることができなかった。


大勢の兵は争いのため城から出て行った。


喘ぐような息と共にシリは我に返った。


突然、あたりは静かになった。


女のシリは争いについていくことができない。


レーク城のそばで行われている争いー夫と兄が戦い終わるのを待つしかないのだ。


「シリ様・・・」

ジムが優しく声をかける。


シリは不安を打ち消すように頭を振った。


「・・・今日は忙しい1日になるわね」

シリはわざと元気な声を出した。


そうしなければ不安でしゃがみたくなる。


家を失った領民のために朝食の炊き出しもある。


怪我をした領民の傷の手当て、

これから増えるであろう怪我人のための包帯、薬の補充がある。


争いに帰ってくる兵士のために、

厨房では大量の食材と格闘している。


女の争いも始まった。


「ジム、頑張りましょう」

シリは微笑んだ。


ーーーーーーーーーーー

午前4時


川を挟んでワスト領とミンスタ領の兵士が対面した。


信頼していた義弟 グユウに裏切られたゼンシは、怒り心頭だった。


離婚せずにレーク城に居残る、妹シリにも苛立ちを感じていた。


事前の打ち合わせでジュンに命じた。


「お前はシズル領を攻めろ」


ジュンは動揺した。


ワスト領よりもシズル領の方が領力がある。

兵も多い。


「私が・・・私がシズル領ですか」

ジュンの声は裏返る。


ゼンシは薄く笑って答える。


「あぁ。グユウを殺すのはわしがする」


グユウとシリが自分に向けて刃をふるう。


裏切られたゼンシは復讐の鬼と化していた。


ーーーーーーーーー

午前4時半


グユウはワスト領の最前列に並んだ。


鎖帷子に甲冑を身にまとい、静かな声でつぶやく。


「目指すはゼンシの首のみ」


隣にいるオーエンは、いつもと雰囲気が違うグユウの様子を見て手に汗が滲んできた。


開戦のラッパが鳴り響く。


それと同時にグユウは、ゼンシがいる本陣にむかって、

馬を操り一直線に飛び込んでいった。


黒髪をなびかせ、凪いだ瞳にはメラメラと闘志が見える。


ーーあの男が、シリにしたこと。あれを返させてはならない。


領民のためにも、オレの手で終わらせる。


グユウの目は、はるか後方で悠然と座っているゼンシしか見えてなかった。


オーエンは必死になって馬にしがみついて、グユウの後をついていく。


グユウのスピードは速い。


突き進むグユウとオーエンの元にヒュンヒュンと矢が降り注ぐ。


何度も盾で矢を防ぎ、剣で弾く。


ーーこれは危険だ。グユウ様、無謀すぎる。


後ろを振り向くと、他の重臣達は後から迫る敵と戦っている。


誰もグユウを止める人がいない。


ーーどうしてジムがいないんだ・・・。


オーエンは心の中で嘆いた。


ーーーーーーーーー


午前10時


シリはジムと共に争いの様子を見に城の先へむかった。


レーク場は小高い山の上にある。


そこは・・・争いの様子が少しだけ垣間見れた。


川を挟んで戦っている両領。


普段は清らかな水が流れている川が・・・真っ赤になっていた。


戦で傷つき、血を流し、死んでしまった者達の血で川の色が変わった。


シリはヘナヘナとその場に座りこんだ。


「シリ様」

ジムが慌ててシリの腕をとる。


「私は大丈夫・・・大丈夫よ」

シリは青い顔をして気丈に答える。


戦場を見るのは初めてだった。


予想以上に、怖くて生々しくて血みどろだ。


自分がいるのなら良い。


あの戦場にグユウがいる。


もしかすると、怪我をして血を流しているかもしれない。


グユウだけではない。


ワスト領の顔馴染みの家臣たちもいる。


友人のトナカもいる。


そして・・・ミンスタ領にも幼い頃から共に過ごしていた家臣達がいる。


誰1人、怪我がないように。


そんな甘い夢は、この戦場の現状を知れば吹っ飛ぶ。


ーーこれが争い・・・。


それでも私は、この血の色を見ていなければならない。


遠ざけてはならない。


逃げても、嘆いても、ここが私の立つ場所だ――


あの人が命を懸けて守ろうとしている、この場で。


シリは青ざめた顔のまま、血に染まる川と、そこで戦う男たちを見つめ続けていた。


次回ーー


伝令が告げる敗戦の報。

頭が真っ白になるシリ。だがジムとエマの声が彼女を支える。


――今は、未来を嘆く時ではない。

やるべきことを一つずつ。

レーク城に戻る兵と民を迎えるために。


明日の17時20分 天は我らを味方にした

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