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離婚命令


シリの生家 ミンスタ領からの手紙が届いた。


ジムから手渡され、読んだグユウは顔色を変えた。


「どうされましたか」

グユウの表情を見てジムが質問をした。


「・・・ゼンシ様が、俺とシリの離縁を求めている」

乾いた声で、グユウは呟いた。


重厚な封筒に押された赤い花柄の封蝋。モザ家の旗印だ。

誰が見ても、それがただ事でない書状だとわかる。


「同盟の約束を破った報いとして、シリを返してほしいという内容だ」


グユウの視線はどこか遠くを彷徨っていた。


「どうなさいますか」


「すぐに重臣を招集してくれ。父上にも声をかけてくれ」



子供部屋にいたシリをグユウは書斎に呼び出した。


「離婚命令・・・」

シリは青白い顔で呟く。


「あぁ。ゼンシ様は約束を破られたことに怒っている」


「兄上こそ、約束を破ってシズル領を攻めたくせに!!」

シリの青い瞳に怒りが灯る。


「シリ、離婚命令が来たんだ。オレ達2人で決めることではない。

領の未来を担うことになるので、これから重臣達と会議で決めていく」

グユウは淡々と話した。


「その会議、私も参加させてください」

シリが強い瞳でグユウにお願いをする。


「私の知らない所で、自分の未来を決められるのは嫌です」


重臣達の会議に女性が参加する。


この時代、ありえないことだった。

女性は政治のことに口を挟まず、黙って男の指示に従うことが良しとされていたからだ。


「良いだろう」

グユウはよくある事のようにさらりと許可をした。


これも通常なら、ありえないことだった。



ワスト領の応接室。


重臣十名が揃い、緊急会議が始まろうとしていた。


グユウが現れると、皆が一斉に起立し頭を下げる。


「グユウ、遅いぞ」

マサキが声をかける。

引退したとはいえ、マサキは発言権があった。


重臣達は、グユウの後にシリが入ってきたことに驚いた。


シリは何食わぬ顔でジムが用意した椅子に座った。


「グユウ、妃とはいえ女を重臣会議に参加させるとは何事だ」

マサキの口調は厳しい。


「女に政治の話なんかわかるはずはない」

マサキの発言にオーエンは深くうなずく。


「私が望んだことです」

凛としたシリの声が会議室に響く。


「よろしいでしょうか。父上」

マサキの顔を真っ直ぐに見つめる。


シリの眼差しは独特のものだった。

その瞳で見つめられると、思わず頭を下げそうになる。


圧倒されたマサキは、口を開こうとしたが何も言えず渋い顔をした。


シリがその場にいるだけで独特のオーラを放った。

会議室にいた重臣達は、すでにそのシリの空気に圧倒されていた。


ただ1人、ガッチリとした顎、暗灰色の大きな目、濃い鳶色の髪をしたオーエンだけが警戒していた。


ーー俺は騙されない。ミンスタの魔女なんかに。



会議が始まった。


「本日、集まったのはミンスタ領から届いた重要書類です」


ゼンシから届いた羊皮紙の内容をジムが読み上げる。


1 同盟の約束を破ったので、グユウとシリは離婚することを命じる


2 離婚の流儀を持って、シリをミンスタ領に返すこと


3 1週間後にシリを領境の宿まで送り届けること



「・・・確かに同盟が崩れたら離婚だ」

サムが声を上げた。


「離婚ですな」


「そうだ。それが流儀だ」

マサキもうなずきながら話す。


重臣たちの声に、グユウが静かに言った。


「シリは離婚しないとのことだ」


「それはない」

「同盟が崩れても結婚は継続するなんて聞いたことがない」

「離婚は当然だ」


重臣達は口々に声を上げる。


冷ややかな空気のなか、シリが口を開いた。


「兄上は約束を破ってシズル領を攻め込みました。

先に約束を破ったのはミンスタ領。

ワスト領が約束を破ったと明言するなんて、おかしな話です」


その言葉に重臣たちは息を呑んだ。


静かな語り口の奥に、怒りの炎が燃えているのがわかった。

怒りの色を宿した青い瞳が星のようにきらめいた。



「私は離婚しません」

シリは重臣達の目を一人一人見ながら伝えた。


「まるで、こちらに非があるような書き方に憤りを感じます」


一人ひとりの目を見据えて、はっきりと告げた。


炎は赤い部分より青い部分の方が温度が高い。

怒りに燃え盛っているシリの青い瞳は、

触れたらやけどしそうなほどの勢いで、怒りを表していた。


オーエンは、彼女の瞳を見つめた。

そこにあったのは、まぎれもなくゼンシと同じ“力”。


人を惹きつけ、支配し、飲み込む瞳。

ミンスタ領の者の血――それが、確かにここにもあった。



「シリ様の引き渡しは1週間後になっています。どうしましょうか」

ジムは静かに話した。


「ジム、離婚の引き渡しは誰が対応するの?」

シリが質問をした。


「基本的に婚礼と同じ家臣が対応します。ワスト領は私が対応し、ミンスタ領は・・・」


「ゴロクとキヨね」

シリが引き継いだ。

2人ともゼンシに忠実な家臣だった。


「はい。両家の家臣が対応してシリ様を引き渡す。そんな流れになっています」


「・・・なるほど、ならば」


シリは一息おいて告げる。


「ミンスタ領の対応は私がします」

一瞬、場が静まり返る。


「そんな話、聞いたことがありません」

真面目で冷静沈着なサムが声をあげた。


「妃自らが交渉するなんて前代未聞です」

「他の領主がなんと言うでしょうか」


押し寄せる異論に、シリは静かに微笑んだ。


「離婚命令も前代未聞です。ならば、私の対応も異例で良いでしょう」


その言葉に、誰も返せなかった。


そして、シリは最後にこう締めくくった。


「私は『引き渡される妃』ではありません。

自分の足で立ち、自らの言葉で、未来を選び取る女です」


会議室には、シリの声だけが残った。


次回ーー


「ジムには頼めません。私が対応します」

凛とした声で放たれた言葉に、会議室は静まり返った。

前例なき離縁の交渉を、自らの任務として背負うシリ。

強き瞳が、次なる嵐を呼び起こす――。


明日の17時20分 型破りで大胆 人を虜にして惑わす

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