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親友との別れ・・・そして、無口な夫が抱きしめた


「グユウ、世話になった」

シズル領に旅立つ前にトナカがグユウに挨拶をした。


「あぁ」

グユウはトナカを見つめ何か言いたげだ。


しばしの沈黙の後、珍しく、自ら腕を広げた。


トナカを、抱きしめたのだ。


一瞬、驚いたような顔を見せたトナカだったが、すぐに目を細めた。

グユウの背に手を添えながら、低く笑う。


「・・・俺は男と抱き合う趣味はないんだがな」


まわりに笑いが起こった。


けれど、シリはその様子を見ながら、ふと胸の奥がざわめいた。

――まるで、最後の別れみたいだ。


シズル領とワスト領は隣国で、馬で走れば一日で行き来できる距離だ。

雪の時期さえ外せば、会おうと思えばすぐに会える。


「シリ。世話になった」


トナカは彼女にも頭を下げた。


「トナカさん この手紙を奥様に渡してくださいね」

シリはトナカに手紙を渡した。


トナカの妻とは何度か手紙のやり取りをしている。


「こんな楽しい3日間はなかったわ」

微笑むシリの顔をトナカは見つめた。


トナカはシリの顔を両手で挟んで、その青い瞳を優しく見つめた。


「シリ・・・グユウのそばにいてくれ」

戸惑うシリにトナカは微笑んで手を離した。


「グユウ、挨拶だ。妬くな」

トナカが笑いながら話す。


確かにグユウは面白くなさそうな顔をしている。


シリは笑いながら見送った。


「手紙を出す」

トナカは馬車に乗り込んで去った。


トナカは、いつも別れ際に『また会おう』と言っていた。


手紙を出すという挨拶は初めてだ。


小さな違和感が胸に残る。


グユウはトナカの馬車をいつまでも見送っていた。


城に戻ると、グユウは滞っていた領務にとりかかった。

シリは身体のだるさを感じながらも、シンとユウがいる子供部屋に行った。


その日の夜、グユウは少し強引だった。


「・・・いいか?」

いつも恥ずかしそうに聞いてくるグユウが、何も言わずにシリに口づけをした。


口を重ね合わせると同時にグユウの体重がシリにのしかかる。


肩に触れるグユウの手が熱く感じた。

唇から離した後はシリの首筋に唇を寄せる。

その息遣いも熱く感じた。


「シリ・・・」

何度も掠れた声でシリの名を呼び抱きしめた。


翌朝、シリは目を覚ますと昨日以上に身体がだるかった。


いつも通り、グユウは不在だ。


胃がムカムカして、気持ちが悪い。

こんな経験は初めてだった。


重い身体を引きずり、ようやく食堂に着いた。


廊下で鍛錬帰りのグユウに出会った。


「どうした?」

青白い顔をしたシリの顔を見て、グユウは心配をした。


「少し・・・体調が悪くて・・・」


「すまない・・・。昨夜は無理をさせた」

グユウが切なさそうに瞳を揺るがす。


「毎回、反省会をするのをやめてください」

シリは弱々しく笑う。


「無理をさせた・・・」

グユウは反省をやめる気配がなかった。


「疲れているだけですよ」

シリはグユウの手を握った。


朝食は進まなかった。


やっとの思いでパンをかじり、大好物のりんごの砂糖漬けをつついてみたが、

パンも砂糖漬けも目に見えた減り方はしなかった。


エマの目には、はっきりと“薬湯湯“と表していた。

その薬湯湯はとても飲めない。

水ですら飲みたくなかった。



昼過ぎになっても、シリの体調が戻らないので医師が呼ばれた。


グユウは不安を抱えながら、書斎で領務に励んだ。


グユウの耳に軽い足音が聞こえた。


「シリ様!走ってはいけません!!」

エマの金切り声が聞こえる。


勢いよく書斎の扉が開いた。


書斎の入り口には、目を輝かせたシリが立っていた。


「シリ、どうした」

グユウは思わず立ち上がる。


書斎にシリが来ることは滅多になかった。


シリは勢いよくグユウの腕に飛び込んだ。


「シリ、体調は大丈夫なのか?」

グユウは戸惑いながら声をかける。


「4月!」

シリが叫んだ。


「どうした?」

グユウが怪訝な顔をした。


「4月よ! 信じられないの! こんな短い期間に・・・ああもう!」


「シリ、どうした?何が起こった?」


「グユウさんは信じないでしょうよ。信じられないでしょうよ」

シリは興奮のあまり頬に赤い点が表れた。


「話すわ。グユウさん、あぁ、私、嬉しくてー」

シリの興奮は落ち着かない。



「シリ、落ち着け。どうした?」


「グユウさん、あのね――」


その隣で、ジムも困惑していた。


シリは嬉しさに輝く目を上げて、グユウの瞳を見つめた。


「妊娠したの!来年の4月に赤ちゃんが産まれる!」


グユウの瞳は驚きで揺れー

そして、信じられないことをした。


ジムとエマがいる前で、シリを強く抱きしめて口づけをしたからである。


明日の17時20分に更新します。

年子で妊娠 つわりと決断

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