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愛の確認と終わらぬ疑念


「グユウさん 私のこと嫌いになったのですか」


 その言葉に、グユウはまるで雷に打たれたような顔をした。

慌ててシリの方を向く。


「どうして目を合わせてくれないのですか」

シリは震える声で問いかけながら、布団の上に身を起こした。


「出産前は・・・あんなに優しかったのに・・・ユウの父親がグユウさんではないからですか」

最後のセリフは言い過ぎた。

それはわかっているのに、感情と言葉が制御できない。


グユウは呆然とした顔でシリを見上げていた。


「どうして口づけをしてくれないのですか・・・」

涙声になってきた。


もう泣いている。


グユウは慌ててベットから起き上がる。


「シリ・・・違うんだ」

その声は、どうしようもなく狼狽していた。


「何が違うんですか!!」

泣きながら声を荒げる。


グユウの顔が滲んでぼやけてきた。


みっともない。

感情の抑制ができずに泣くなんて。


恥ずかしい。

口づけをしてくれない事を口にするなんて。


どんどん欲張りになっていく・・・。

グユウがユウを無条件で可愛がってくれる。

それだけで十分幸せなのに。




泣き続けるシリをグユウはそっと抱きしめてくれた。


グユウの息がシリの耳の上で聞こえる。

心音の音も聞こえる。


一緒のベットに寝るようになってから、この音を聞くことができなかった。


近くにいるのに遠かった。


「シリ。すまない」

グユウが耳元で囁いた。


「なんで謝るのですか」

抱きしめられて嬉しいはずなのにシリの口調は頑なだった。


「グユウさんは何も悪いことをしていません」

シリは首をふる。


「私は、ただ・・・あなたに、見てほしかっただけなのに・・・」

 そのひと言に、グユウは彼女を強く抱きしめ直した。


「・・・難産だったと医師から聞いた」

グユウは耳元で呟く。


「痛い思いをして、命をかけて、ユウを産んでくれた。そんなシリに・・・次の子を”なんて、簡単に口にされて・・・」


 言葉が続かない。


グユウの瞳は優しく揺らいでいた。


(私の身体を心配してくれたの?)


シリの憤りがどんどん抜けていく。


「私のことを想ってくれるなら・・・どうして目も合わせてくれなかったのですか?」

少し拗ねた口調になる。


「それは・・・」

グユウは急に顔が赤くなった。


「目を合わせると・・・シリを抱きたくなるからだ」

目を逸らしながら答えてくれた。



「だから、口づけもしてくれなかったのですか」

シリの問いにグユウはコクリと頷いた。


「温泉の時に背中をむけたのは・・・」

「あれは目に毒だ」


「毒?」

「シリの肌をみたら邪な気持ちが出てくる」

グユウは真面目な顔をしていた。


シリは笑っていいのか泣いていいのかわからなかった・・・それで笑いだした。


笑いたい気持ちになるのは素晴らしいことだった。

全てが急に良い感じになった。


「私の身体はもう大丈夫です」

シリは頬を赤らめ伝えながら微笑んだ。


グユウはソワソワし始めた。


「口付けしてもらえなくて・・・寂しかったです」

潤んだ瞳でグユウを見つめた。


その瞬間、グユウはシリの首筋に顔を埋め、掻き抱くように抱きしめた。


シリはグユウのパジャマの胸元をギュッと握った。


「・・・もっと強くお願いします」

「・・・うん」


グユウの顔が近づいてきた。

唇が触れる寸前に視線が絡み合う。


それから唇を重ね合わせたまま、シリは流れるようにグユウに組み敷かれた。

グユウの唇は離れなかった。

何度も何度もシリの柔らかい唇を貪った。


久々の行為にシリは顔が真っ赤になった。

心臓の音がうるさい。


うっすら目を開けると、

グユウの顔は余裕がない顔をしていた。


「グユウさん 好きです」

シリはそっとつぶやいた。






「すまない」

グユウが申し訳なさそうに伝えた。


シリは力なく首をふる。


「優しくしようと思ったのに・・・未熟だった」


「・・・大丈夫ですよ」

シリは答える。


そっとグユウの手を握った。


「グユウさん、思ったことを口にしてもらわないと・・・」

「すまない」

「数日間、ずっと不安でした」


シリの小さな呟きにグユウは深いため息を吐き出した。


シリをそっと引き寄せて抱きしめた後につぶやいた。

「シリ・・・好きだ」






今日は、シリとグユウの間に生まれた娘――ユウの初お披露目が控えていた。


昨年、グユウからもらったピンク色の生地で作ったドレスに袖を通した。

シリは鏡に映った自分の姿を何度も確認した。


ピンク色の服は初めてだった。

その生地はシリの肌を美しくみせてくれる色だった。


冬の間、仕立て屋がドレスの裾にバラの蕾の刺繍をしてくれた。


「シリ様、お似合いです」

エマが褒めてくれ、侍女たちもうなづいてくれた。


着飾ったシリの姿を見て、グユウが驚いた表情を見せた後、瞳が輝いた。


その瞳を見るだけでシリは満足だった。


グユウの瞳は美しいを100回表現しているように思えた。



「オレとシリの子、ユウだ」

グユウは身内以外の者に“オレとシリの子供“と話したのはこれが初めてで、

嬉しさにはちきれそうになっていた。



 グユウが高らかに宣言したその言葉に、シリの胸は震えた。


 “オレとシリの子”――


 それは、誰よりも強くこの子を守るという宣言であり、

 過去のすべてを引き受け、未来を共に歩む覚悟の表れだった。


 拍手と笑顔に包まれ、シリは小さく頷いた。


 ──この幸せが、ずっと続きますように。


 シリはそう祈りながら、隣に立つ夫の手をそっと握りしめた。


けれど、この穏やかな日々の背後で、黒い影は少しずつ近づいていた。


次回ーー


「お子を産んでまだ三ヶ月ですよ!」

エマの声を背に、シリとグユウは馬を走らせた。


りんご並木の下、去年と同じ場所に腰を下ろす二人。

けれど、語られるのはゼンシの野心と迫る戦の影――。


「それでも、オレはこの一年、幸せだった」

散る花びらの中で交わした口づけは、切なくも温かかった。


明日の17時20分に更新します 悩ましい選択 どちらに着くか

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