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無表情すぎる夫が、私の妊娠を誰よりも喜んでくれた


長い口づけの後、グユウはシリを強く抱きしめた。


どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。


突然、グユウは目を見開き、ぎこちなくシリを引き剥がした。


ーーグユウさん、急に恥ずかしくなったのかしら。


彼の心中を察したシリは、思わず笑ってしまった。



「・・・何だ」

グユウは、少し拗ねたような表情をしている。


「少女時代、夢見たプロポーズみたいでした。グユウさん素敵でした」


グユウは何も返事をしないまま見つめる。

もう一度、シリをギュッと抱きしめて身体を離した。


「今日はしゃべり疲れた・・・」

「いつも、このくらい話してください」


「一年分話した」

「もう一度、グユウさんの笑顔が見たいです」


「オレはいつでも笑っている」

その言葉に、シリは吹き出した。


グユウは、そんな彼女をやわらかな目で見つめていた。


「城に戻ろう」

「お腹空きました?」

「あぁ」

そっと、シリの手を取る。


「大丈夫です。1人で歩けます」

「・・・危ないだろう」


ふたりは自然に手をつなぎ、城へと戻っていった。


城の玄関前で立ち尽くしていたジムは、ふたりの姿を見て安堵の表情を浮かべ、迎えに出た。


「昼食の用意ができています」


駆けつけたエマが半泣きでシリにしがみついてきた。


「エマ、心配かけてごめんね」

「シリ様は本当に・・・心臓が持ちません」



昼食はゼンシの訪問のために頑張ってくれた家臣達、侍女、女中、馬丁、城中の者を集めて労を労った。



気さくな雰囲気の中、皆が笑い、食べ、飲み、語った。


宴の終わり頃に乳母のヨシノが挨拶にきた。


「グユウ様、シリ様、お世話になりました」


グユウと前妻との間に生まれた子――シンを育ててくれた乳母・ヨシノは、自身の出産のため城を離れることになっていた。


「ヨシノ、大変世話になった」

グユウが礼を伝える。


「ヨシノのお陰でシンが健やかに育ってくれました。ありがとう」

シリも伝える。


シンは、生後六か月で母と生き別れになった。


そんな彼を、ヨシノは昼夜問わず愛情をもって育ててきた。


彼女の働きぶりは、まさに敬意に値するものだった。



「ヨシノ・・・子はいつ頃に産まれる」

グユウが問いかけると、ヨシノはやや驚いた顔で答えた。


「10月頃には産まれます」

ヨシノは不思議そうな顔をした。


グユウが女性の出産月に興味を持つ。


そんな事、今までなかった。


「10月に子を産んだら2月は乳が出るのか?」

乳、母乳のことだ。


ヨシノはグユウの質問に目を白黒させた。


「は、はい。もちろん2月ならまだ出ています」


「そうか。じゃあ、2月からまた働いてくれるか」


「お言葉ですが・・・2月になればシン様は乳は不要かと・・・」

どもりながらヨシノは答える。



「シンではない」

その言葉に、隣にいたシリは、居心地の悪さを覚えた。


ーーまさか・・・この場で子どものことを。



「シリに子ができた。2月には産まれる」

グユウはサラッと伝えた。


その発言は家臣団に一大センセーションを巻き起こした。



ジムは一瞬にして若返ったようだった。


「グユウ様 本当ですか」


「あぁ、本当だ。医者に診てもらった」

グユウはシリを横目で見る。



シリは赤い顔をしていたけれど、こほんと軽く咳をして認めた。


「ええ・・・あぁ。そうです」

なんとなく恥ずかしい。


「万歳!」

重臣ジェームズが音頭を取り、皆が万歳をする。



恥ずかしい感情は、家臣、侍女、女中、馬丁達の笑顔と喜びようを見ていると薄くなってきた。


ーーあぁ、子を授かるって本当は幸せで嬉しいことなのだ。


この数日間、絶望的な気持ちで過ごしていたので忘れかけていた。



「そういう訳だ。ヨシノ、2月からまた城に来てもらえるか?」

グユウがお願いする。


隣でシリが頷く。



「はい!!承知しました。2月に城に参ります」

ヨシノは深々と頭を下げた。



グユウとシリは、微笑んで顔を見合わせお互いの手を握った。



ーーあ!またグユウさんの笑顔が見れた。


結婚して以来、3回目の笑顔だ。


終わりかけていた宴が妊娠発表と共に再び盛り上がってしまった。


このまま夜まで続くだろう。


シリを快く思ってない重臣 オーエンは、他の重臣と囁き声で何かを話している。


グユウに全てを話した今でも、シリは不安が拭えなかった。


秘密を打ち明けたとしても、子供の父親はどちらなのか未だに不明だ。



それでも、隣に座っているグユウは幸せそうな顔をしている。



「どうして、こんなに早く発表したのですか」

シリは思わず唇を尖らす。



発表をするのなら事前に知らせて欲しかった。


心の準備が必要だった。


シリの可愛い文句にグユウは目を細め告げた。


「喜ばしい事は皆に早めに伝えるべきだ」


その瞬間、シリの顔は嬉しさでほころんだ。


「シリ、2月が楽しみだ」

グユウの声は弾んでいた。



次回ーー


◇ レーク城 寝室


月明かりに照らされ、シリとグユウはついに心をぶつけ合う。

ジムの記録に隠された「恋文」のような告白。

「オレにはシリがいればいい」――揺るぎない言葉が胸を打つ。

だが同じ頃、重臣たちは“第二夫人”を巡る密談を始めていた。



明日の17時20分に「兄上のことを許せますか?」更新します。

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