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偽れぬ想い、告げられぬ命


「シリ様。ご結婚以来、月のものがありません」

エマの発言にシリはポカンとした。


そういえば・・・生理が来ていない。


この二ヶ月、慌ただしい日々に追われていた。


思い返せば、自身の体調にまで気が回らなかった。


ようやく気づいた自分に、シリはゆっくりと息を吐く。


エマにしては珍しく歯切れが悪そうに伝えた。


「・・・おめでたではないでしょうか」


おめでた・・・妊娠?


その言葉が、ふわりと空中を漂い、重くシリの胸に落ちてくる。


たしかに妊娠していても不思議ではない。

グユウとは、たしかに夜を共にした。


だが――その前に、不本意ながらも、兄・ゼンシに・・・。


その瞬間、足元がスッとなくなり地に落ちる感覚になった。


指先が震える。


「エマ・・・最後の生理はいつだったか覚えている?」

シリは震える声で聞いてみた。


「最後の生理は・・・ワスト領に嫁ぐ半月前です」


シリはヘナヘナと床に座りこんだ。

エマが慌てて駆け寄る。


「違う。妊娠しているわけない。私は元気なの・・・妊娠すれば気持ち悪くなったりするはず・・・」


「シリ様、つわりは人それぞれです。感じない人もおられます。お医者様を呼びましょう」


「私、妊娠をしているの?」

不安な目をしながら、シリはエマにすがりつく。


「それを知るためにお医者様を呼ぶんです」


「エマ、城のものには風邪ということにしてほしいの」

シリはうつむきながら話す。


「承知しています」


忙しい時で良かった。


通常なら、風邪を引いたと知られれば皆が心配する。


医師を呼ぶことをグユウに伝えると、彼は眉をひそめた。


「・・・大丈夫か」

その黒い瞳が、心から心配しているのがわかる。


「大丈夫ですよ。ちょっと風邪を引いて・・・念のためです」

シリは曖昧に微笑んだ。


「・・・無理をさせた。昨夜は・・・」


口ごもったグユウに、シリは顔を赤らめた。


彼は視線をさまよわせ、小さな声で「すまなかった」と呟く。


んんっ、と咳ばらいをした後にシリは口を開く。


「謝らないでください」

「そうか・・・すまない」


グユウは、シリが無垢な身体で嫁いできたと思っているだろう。


20歳とはいえ、シリは初婚だった。


もし、シリが実の兄と交わった事があると知ったら、どんな顔をするのだろうか。


・・・とてもじゃないけれど言えない。


グユウさんだけには知られたくない。




「おめでとうございます。ご懐妊されていますよ」

医師は診断後に朗らかに伝えた。


それを聞いた途端、女性としての喜びではなく、冷たく、凍りつきそうなほどの不安と恐怖にとらわれた。


ーー父親は・・・グユウさんであってほしい。


そうあってほしい。


けれど・・・あの夜の記憶が、どうしても頭をよぎる。


真っ青な顔で布団を握りしめる。


医師には、体調が悪いので安定してから発表したいと伝えた。

エマは通常より多くの支払いを渡した。


医師が帰った後、シリは深い絶望に見舞われた、

どうしたら良いの・・・?


誰にも相談できない。



無意識に何度もお腹を触る。

涙が溢れてくる。


「シリ様・・・」

エマがそっと声をかける。


ーー妊娠はおめでたいことなのに。


嫁いだ時に清い身体だったら、すぐにグユウに報告できただろう。


グユウだって喜ぶに違いない。

あの無表情がどんな風に顔を崩すのだろうか。


けれど・・・けれど・・・。


「グユウ様には妊娠したと告げれば良いだけです」

エマの言葉が、鋭く静寂を切り裂いた。


「お子様は・・・もし、恐れている事だとしてもシリ様に似ているはず。何の心配もありません」


その言葉に、シリははっとした。


エマは気づいていた。


――あの夜のことを、ずっと。


それでも、何も言わず、今もなお寄り添ってくれている。


エマは説明をした。


子供の父親がゼンシだとしたら、シリにそっくりな子供になるはず。

シリとゼンシは兄妹なので顔が似ている。


母親似の子供と皆が納得してくれるだろう。


けれど・・・。


グユウはシリに誓った。


“約束する。オレはシリに嘘をつかない“


この上なく優しい瞳でシリを見つめて言ってくれた。



シリは手のぎゅっと握りしめる。


「グユウさんは私に嘘をつかないと約束してくれた・・・。私も・・・正直に話さなくてはいけない」


「いけません!!シリ様!!」

エマは叫ぶように否定した。



シリの手を握り、エマは乳母というより母のような表情でシリの瞳を覗き込む。


「お子様の父親はグユウ様の可能性もあります。

例え、真実だとしても言って良いことと良くない事があります。

グユウ様と・・・長く一緒に過ごしたいのなら本当のことは言わぬべきです」


ーー嘘をつくのは良くない。


けれど・・・グユウさんのそばにいたい。


あの人と一緒に共に過ごしたい。


そのためには、この秘密は打ち明けないほうが賢明だ。


シリは、目を閉じ、長く息を吐いた。


「・・・わかったわ。グユウさんには、妊娠したことだけを伝える。

兄上の来訪が落ち着いてからにするわ」


それが、最善の選択なのだと、自分に言い聞かせながら。



次回ーー


「……わかったわ。グユウさんには、秘密にする」

そう誓ったのに、心は夜ごと揺れる。

そして、朝――レーク城に“あの男”がやってくる。

「シリはどこにいる?」

兄の声に、凍りついた心が再び疼き始めた。


明日の17時20分「妊娠 それはトップシークレット 兄が来た」更新します

小説を書き始めて2週間経ちました。

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