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あの人は、私以外の誰かと――不安と嫉妬の6日間

「いつ頃、お帰りになるのですか」


「7日ほど」 


「そうですか・・・」


シリがワスト領に嫁いで2ヶ月。


グユウはゼンシと領境で打ち合わせをするので、数日間レーク城を離れることになった。



「話し合いだけだ」

シリの瞳を見て、グユウは優しく伝える。


ーーこれって、争いではないから心配するなということなのよね。


シリはグユウが言いたい事を察し、自動変換をするようになってきた。


「行ってくる」

凪いだ瞳でシリに別れをつげた。


10名ほどの家臣を引き連れグユウは出発した。


もちろんジムも。

そして、あの無愛想な青年オーエンも同行する。


小さくなるグユウの背中をシリは見つめていた。



けれど、シリの心配は別のところにあった。


ーーゼンシとの会談。


そこには、たいてい女が伴う。


接待という名目で、ゼンシはきっとグユウに女をあてがうだろう。


グユウは見た目は良い。


背が高くて、涼し気な黒い瞳にすっと通った鼻筋。

薄く引かれた唇も、どこか誠実さを感じさせる。


女性が惹かれるのは当然で、それをグユウ本人はきっと自覚していない。


一夜だけの時もあるし、グユウが気に入ったら女性を城に連れて帰るかもしれない。


それは普通の事であり、騒ぐような事ではない。


領主には後継ぎが求められる。


第二婦人、第三婦人がいるのは当たり前。


妾に嫉妬するのは、下品でみっともないこと――エマにそう教わって育ってきた。


わかってはいる。けれど。


グユウの優しく揺れる美しい瞳、優しい手つき、

普段、無表情なのにひどく歪める時の顔を自分以外の女性が知るのは嫌だった。


「私、疲れてるのかしら・・・」


そう呟いたシリは、書きかけの文の上でうたた寝してしまった。


目を覚ますと、背には毛布がそっとかけられていた。


エマがしてくれたのだろう。


湿度の高いワスト領の空気が、やけに重く感じる。


グユウのいないレーク城は、どこかがらんとしていて、食事も喉を通らなかった。


そんな日が5日続いた。


エマは、何か言いたげな顔でシリを見つめることが増えてきた。


シリは気づいていたけれど、長い付き合いなので気づかないふりをしていた。


ーーお説教を言いたいのだわ!


出発して6日目にグユウが帰ってきた。


予想より1日早い。


しかも!女の人は連れてきていない!


窓からグユウの帰宅を発見したシリは、踊るような足取りでグユウの元へ駆けた。


後ろでエマが追いかけたけれど、シリの足の速さには敵わない。


途中、ドレスの裾を踏みそうになったのでドレスを持ち上げて門までグユウを迎えた。


ものすごい早さで駆けてくるシリの姿を見て、グユウは驚いて口を開けた。


「おかえりなさい」


息を切らしながら声をかけると、グユウは少し驚いた顔をしたあと、柔らかな目で頷いた。


「あぁ」



夕刻、二人はいつものように散歩へ。


グユウからは打ち合わせの話を聞きながら、シリの頭の中は女の人のことでいっぱいになった。


ーー聞けない。


もし、本当だったら聞くのが怖い。


口を開きかけては閉じ、また開きかけては飲み込む。



グユウは、相変わらず無表情のままシリを見つめた。


無言のまま見つめられると居心地が悪い。 


シリは赤くなってうつむいた。


グユウはポケットから、ピンク色の包みを取り出して無言でシリに渡した。


柔らかなピンク色の布の中に硬いものが入っている。


「これは・・・私にですか?」

グユウの顔を覗いてみると小さく頷いた。


恐る恐る開くと、中には優しい光を放つ花の飾り櫛が入っている。


「キレイ・・・」

思わず、シリの口元が緩む。


装飾品に関心を持ったことはあまりなかった。


これまで身につけてきたのは、すべてゼンシが選んだ青や紫の冷たい色ばかり。


こんな柔らかな色合いの櫛を贈られたのは、初めてだった。



「この石は紅水晶?」 


「知らない」

照れ隠しのようにグユウは目をそらす。


グユウはどんな顔でこれを選んだのだろうか。


想像するだけで面白い。


「その・・・こういう色も似合うと思う」


「グユウさん ありがとうございます」

シリが微笑むと、グユウは切れ長の瞳がかすかに細くなった。


ーーこの優しさが、誰にでも向けられるものなのかどうか。



夜になると、心の奥に押し込めた疑念がまた顔を出した。


結局、シリは我慢できなくなった。


眠りにつこうとしていたグユウの隣で、静かに、けれど真っ直ぐに問いをぶつけた。


「グユウさん、私以外の女性と一緒に夜を過ごしました?」


次回ーー

「私以外の女性と夜を共にしましたか?」

胸に秘めてきた疑念を、シリはついにグユウにぶつけた。

揺れる心を確かめ合った夜のあと、届いたのはゼンシ来訪の報せ。

そしてエマが告げる――「ご結婚以来、月のものがありません」


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