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未熟な領主が辿り着いた答え

「最後の重臣会議だ」

書斎のいつもの椅子に座り、グユウが話した。


残った重臣は、ジム、サム、ロイ、チャーリー。


この4名になった。


3年半にわたる争いで多くの兵を失った。


シリは城から去り、カツイはシリの警護をしている。


「グユウ様、最期までお供します」

チャーリーが覚悟を決めたように話す。


サムとロイも真剣な眼差しでうなずく。


「皆の気持ちはありがたい」

グユウは優しく話した。


ジムがグユウの後ろにそっと立つ。


「けれど、その気持ちだけをもらっておく。命を大切にするのだ」

グユウの発言に3人は言葉を失った。


「どういう意味ですか?」

いつも冷静沈着なサムの声が震えた。


「明日、オレは命を断つ。争いを終わらせるのだ」

グユウは澱みなく淡々と話す。


まるで何度も練習をしたかのように。


言葉が落ちた瞬間、書斎の空気が凍りついた。


誰一人として声を発せず、ただグユウを見つめるだけだった。


「私達は最期まで騎士らしく戦います。グユウ様をお守りします!!」

グユウの提案にロイが熱くなる。


ーーこの領主を死なせたくない。


その想いが溢れて止まらない。


「義兄上に連絡済みだ。オレが死んだら争いを止め、家臣全員を助けると。

最期まで仕えたお前達を無駄に死なせたくない」

グユウの黒い瞳は慈しみで溢れていた。


「グユウ様!!」

「そんな!」

「無理です」

3人は口々に悲痛な声をあげる。


「オレが死ぬことは気にしなくて良い。領主ならば家臣達をを守るのは当然だ」

グユウは1人1人の目を見て伝えた。


グユウは今まで重臣達の意見を尊重し、自分の考えを表にしない領主だった。


ミンスタ領との開戦はグユウは反対していたが、重臣達の意見に押されて始まってしまった。


最後の最後に、争いの後始末を自分の命で終わらせることを、グユウは誰にも相談せずに決めた。


「最後にオレの頼みを聞いてほしい」

グユウは改まって3人の顔を見つめた。


3人は顔を上げる。


「明日、ミンスタ領はこの城を攻めてくるだろう。

その時に、この城を燃やさないように力を尽くしてくれるか?守ってほしい」

グユウは話す。


「はい」

3人は声を合わせて返事をした。


「この城は・・・シリがとても気に入っていた。オレが死んだ上に城まで燃えていたら・・・悲しむはずだ」

グユウの発言にロイは不意に思い出した。


シリがよく話していた言葉を。


『最期までレーク城にいます』


「もちろん、この城を守るために命を捨てることはしなくて良い。

オレは早くに蹴りをつける。それでも・・・頼む」

グユウの願いに3人はうなづいた。


「この城の周辺は、シリ様が周到に罠を仕掛けています。

時間稼ぎはできるかと・・・」

サムが話す。


「サム、任せた」

グユウはうなづいた。


その日、レーク城の書斎は朝が来るまで様々な話で盛り上がった。


亡くなったマサキ、ジェームズ、オーエン、

そして、シリの話がたくさん出た。


「離婚協議の時もそうだった・・・。あの別れ方も国中の噂話になると思います」

ロイが膝を叩いて話す。


「あぁ。ミンスタ領の重臣はシリ様の怒鳴り声に腰を抜かした」

チャーリーが思い出したように笑う。


「見事な采配でした」

ジムが微笑み、サムがうなづく。


「オレは・・・すごい妻を天から授かった」

グユウは目を細めながら話した。


暁月の爽やかな薄明かりがレーク城を差す頃、

グユウはホールの壇上に立った。


最期までセン家に忠実な兵達が、ホールを埋め尽くしている。


軍服を着て、紺色のマントを翻したグユウの姿は堂々としていた。


自分の命を賭けて、皆の命を守る。


そう宣言したグユウの表情は、恐れも迷いもなく静かな決意に満ちていた。


家臣達は、グユウの発言に動揺しざわめいた。


「オレが死んだ後、ここはミンスタ領の土地になる。

残された領民を支えるためにも、皆は生き抜いてほしい」

短い力のこもった文言は、兵達の血を沸かせ、心を掴んだ。


「立派な領主になられた」

グユウの姿を見ながら、ジムは目にどうやら涙らしいものが浮かんできた。


『オレは未熟な領主だ』


事あるごとに、そうつぶやき自信がなかったグユウが遠い昔に感じる。


誰よりも心優しい青年の心は、蓋をしたように開かなかった。


無表情、無愛想、無口のグユウは誤解されることが多く、損をすることが多かった。


5年前、美しい女性がグユウの元に現れた。


誰もが目を奪われる美しい女性は、気が強く、突拍子もない言動でグユウを振り回し続けた。


晴々とした美しい瞳、しなやかな身のこなし、馬を乗り、

虹のように色彩豊かで、どの色が現れても魅力的だった。


グユウは、その女性に夢中になり虜になった。


「グユウ様を変えられたのは・・・」

サムがつぶやいた言葉をジムが引き受けた。


「シリ様でしょう。今日のお姿を見せたかった」


東側の空が茜色に染まる頃、雄叫びと共に、ミンスタ領の兵達が続々と城の敷地内に入ってきた。


高い土塁の影から、攻撃を仕掛けられミンスタ領は思わぬ苦戦を強いられた。


城門前で、シリが仕掛けた罠に続々と引っかかる。


足を取られた兵が次々と落ち、後方の兵が前に押し寄せて潰される。


「退け!退け!」と叫ぶ声が響くが、誰も動けない。


「セン家の底力を見せるぞ!!」

チャーリーの矢は迷いなく敵の盾の隙間を射抜いた。


「あぁ。最後の最期まで戦い抜く」

ロイは血に濡れながらも、前線の兵に指示を飛ばし続けていた。


「いいか。命が危うくなったら、すぐに退却をしろ!」

サムは兵達に声をかける。


雄叫びと悲鳴が入り乱れる城内。


だがその裏で、二頭の馬が音もなく裏門を抜けた。


乗っているのは、グユウとジムだけだった。


「グユウ様、私の屋敷が空いています」

ジムが伝える。


ーー領主としてではなく、一人の男としてのグユウ殿に仕えたい。


ジムの胸には、そんな静かな誇りが芽生えていた。


ジムは、グユウの死に場所を事前に準備をしていた。


「感謝する」

美しい朝焼けの中、グユウは微笑んだ。


明日の9時20分 グユウ 最期のお願い

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最終回は金曜日を予定しています。

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