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最期まで一緒に過ごしたかった


城門の扉は閉められた。


扉が閉まる音と共に、それまで必死に笑顔を取り繕っていたシリは

涙が堰を切ったようにあふれ、地面に座りんだ。


「あぁ・・・」

絞り出すような声を出し泣きじゃくった。


「グユウさん!グユウさん!」

扉を撫でて縋りつく。


ーー見えなくてもわかる。


グユウは扉のすぐそばにいる。


そんなシリの隣にエマが寄り添い、黙ってシリの背中を撫で続けていた。


泣いて動かないシリを見て、皆はどうして良いのかわからなかった。


しばらくして、カツイがシリのそばに近づく。


「シリ様・・・参りましょう」

カツイが控えめに声をかけた。


シリはカツイの声を聞こえないふりをした。


ーー許されるなら、このままここにいたい。


レーク城とグユウのそばを離れたくない。


困ったカツイは周囲を見渡した。


泣いているシリを1人で移動させるのは困難だ。


ゴロクとキヨに声をかけるのは論外であり、オリバーは泣いているウイをなだめている。


ふと、エルと目があった。


ーーこの人なら大丈夫そうだ。


敵兵とはいえ、エルには、そんな気持ちにさせる雰囲気があった。


「お願いできますか」

カツイが頼む。


「承知」

エルが近づき、2人でシリを立ち上がらせた。


エマの案内でミンスタ領の馬車にシリを運び込む。


シリは泣き腫らした目で、馬車の椅子に座った。


エマはシリの隣に座り、カツイは迎えの席に座った。


馬車が動き始めた。


目的地はレーク城の西側にある宿と聞いている。


ミンスタ領の馬車の椅子は、フカフカで座り心地が良かった。


ーーこんな立派な馬車に自分が乗るなんて・・・身分不相応だ。


今日の午後、感状をもらった後、カツイは重臣会議でグユウから命を受けた。


その命とはレーク城を離れた後、シリに付き添うことだった。


グユウの指示に、重臣達は静まり返った。


その指示は予想外のことだったからだ。


『グユウ様、シリ様は生き残ることを望んでないと思います』

カツイはオズオズと自分の意見を伝えた。


シリはあんなにグユウを慕っているのに。


生き別れる事はシリにとって酷な話しだと思った。


『カツイ、シリが生き残ることはオレが望んでいることだ』

グユウは優しく伝える。


ーーグユウ様は、それで良いのですか?


口元まで出そうになった質問をカツイは呑み込んだ。


とても言えなかった。


なぜなら、グユウの表情が悲しみに溢れているように見えたからだ。


「レーク城を離れたら、生家とはいえ敵兵に囲まれる。シリの気持ちも乱れているはずだ。

もしものことを考えて、シリに付き添ってほしい」


グユウは自分の子供達の付き添いに、息子のオリバーを任命した。


揺れる馬車に乗りながらカツイは思った。


ずっと不思議だった。


剣技も体力も闘争心もない自分が、重臣に選ばれたことが。


その理由は、ようやくわかった。


グユウ様は、こんな未来が訪れることを予想していたのではないのか・・・と。



「あぁ!」

エマが突然声を上げた。


「シリ様、申し訳ありません。サファイアのネックレスを城内に置いてしまいました」

エマは必死に謝る。


シリは、虚な目で窓を見ていた。


「どうでもいいの。気にしないでエマ」

その声は力がなく掠れていた。


エマとカツイは黙って目を見合わせた。


「・・・悔しいわ」

シリがポツリとつぶやいた。


ーー何が悔しいのだろう。


カツイが顔を上げると、シリは静かに涙を流した。


「最期まで一緒に過ごしたかった」

震える声で話した後に唇を噛みしめた。


「それでも、母として子らを守らねばならない」

震える声で話す。


『グユウ様はシリ様を想うからこそ・・・』

カツイはそう伝えたくて仕方なかった。


けれど、言えなかった。




◇◇ レーク城 城門


城門が閉まった後、グユウはそっと門に手を当ていた。


厚い門の向こうで、シリが泣いている。


自分の名前が聞こえる。


シリは門に触れているのだろうか。


摩るような音が聞こえる。


泣きじゃくるシリを、今すぐ抱きしめてあげたいけれど・・・もうできない。


悲しげに目を閉じた。


「グユウ様・・・」

ジムがそっと声をかける。


グユウは目を開け、最後まで残ってくれた重臣、ジム、サム、ロイ、チャーリーを見つめた。


「最後の重臣会議を行う。城に戻ろう」

淡々と話し、シリがいないレーク城に足を運んだ。




◇◇ シリが滞在する宿


宿に到着後、シリは優しくエマの腕を外すと、ぼぅとしたまま部屋の窓辺にひざまずいた。


窓からはレーク城が見える。


グユウがいない人生は、空虚で暗黒の年月だ。


ーーこれから、どうやって生きていけば良いのだろう。


シリが窓に顔を伏せて沈黙しているあいだ、

エマは自分の膝の上にハンカチを広げ、静かにシリの手を包んだ。


震える指先を少しでも温めようとする仕草だった。


シリは窓辺にうずくまり動かなくなった。


夜が更け、エマとカツイはそっとシリの部屋の入り口にしのんできたが、

ひっそりと静まった気配に、無言のまま、不安そうに首を振り合った。


廊下でエマはつぶやいた。


「今晩は私が部屋についています。朝になったら見張りの交代をお願いします」


「わかりました」

カツイは答えた。


シリがいるた窓辺を背に、エマは椅子に腰かけ、夜通し灯りを絶やさぬように番をしていた。


「シリを決して一人にしない」――それが自分の務めだと固く心に誓って。



◇◇ミンスタ領 本陣


「シリ様と姫様達を無事に保護しました」

意気揚々とキヨがゼンシに伝えた。


「そうか。よくやった!」

キヨの報告に、ゼンシは立ち上がり声を弾ませた。


「これで心置きなくレーク城を攻めることができますね」

ビルが話す。


「あぁ。長い戦いだった」

ゼンシは話した後、静かに椅子に座った。


その表情は曇りがちで冴えない。


ゼンシらしくもない表情だった。


「明日、城に攻め込みましょう。

堀からではなく、父親の住んでいた館から攻めれば落城は容易いかと」

ビルが提案する。


「あぁ。明日の早朝に攻め込もう、支度をするのだ」

ゼンシは表情を整え、指示を出した。


「承知」

争い前に家臣達の士気は上がった。


皆が立ち去った後に、部屋にはゼンシと息子 タダシが残された。


ゼンシに部屋に残るように言われたタダシは落ち着かない。


ーー父と一対一で何を話せばいいのだろう。


ゼンシは紅茶ではなくワインを家来に希望した。


奥に座っていたタダシは目を見開いた。


父 ゼンシは酒を飲まない領主だった。


悪魔のような所業をする父も、明日の争いは想うところがあるのだろうか。


「タダシ、お前も飲め」

ゼンシはタダシのグラスにワインを注いだ。


「ありがたく頂戴します」

タダシは一礼をしてグラスを受け取った。


ワインを一口飲んだ後に、ゼンシは切なげにため息をついた。


重苦しい沈黙が部屋を満たした。


「なんとも・・・愚直な義弟よ」



今日の17時20分 争いを終わらせる

ブックマークをつけてくれた方、ありがとうございます。このお話も今週で終わりです。

最後までよろしくお願いします。

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