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新しい土地で一緒に幸せになりましょう


キヨとの面会を終えた後、シリとグユウは、その足で寝室へむかった。


眠るような時間帯ではなかった。


2人でゆっくり話すことができるのは、この部屋だけだった。


扉が閉まる音がやけに大きく響いた。


シリはグユウの顔を見つめながらも、言葉が出ない。


言えばすべてが決まる――そう思うと、心臓が早鐘を打った。


それでも、黙ってはいられない。


「グユウさん、降伏を受け入れましょう」


「オレもそう思っていた」

グユウは力強く答えた。


「家臣だけではない・・・父上の命が助かるなら、ワスト領を離れる」


グユウは力強く言ったものの、胸の奥には苦いものが広がっていた。


戦うことなく領を手放す――それは屈辱以外の何ものでもない。


武を重んじてきた父に顔向けできるのか。


だが同時に、父を死なせてまで意地を張る意味はあるのか。


迷いの末に残ったのは、ただ一つ。


ーーシリと共に生きたい。


屈辱も苦労も、この妻となら受け入れられる。


そう思えた自分に、少しだけ救われる気がした。


「はい」

シリも力強い瞳で応えた。


マサキが無事で良かった。


「降伏に反対する家臣達はオレが説得する」


「グユウさんにお任せします」

シリは静かに話した。


降伏することを一番反対していたのは、マサキだった。

そのマサキが捕えられているのなら、文句は言わないだろう。


グユウにとって不安材料がもう1つあった。


「シリ・・・東領は豊かな領土ではないと聞く。

今まで以上に生活は厳しいかもしれない。それでも・・・良いか?」

少し遠慮気味にグユウは話した。


「当然じゃないですか」

シリは微笑み、グユウの大きなマメだらけの手を握る。


「領を豊かにするために・・・何でもします。一生懸命働きます。

どんな場所だろうが生きていける気がします」


その言葉は、心から思っていたことだった。


ーー子供達が笑い、シンも戻るかもしれない。


義父母、それに仕えてきた家臣、そして隣にグユウがいる。


それ以上に望む未来はない。


グユウがいれば、どこにいても生きていける――そう信じられた。


「グユウさんがいれば・・・それだけで生きていけます」

シリの美しい青い瞳からは涙があふれた。


「シリ」

グユウはシリの手を強く握りしまた。


「今まで以上に苦労をさせるかもしれない・・・」

グユウはシリの瞳を覗き込む。


「大丈夫です。任せてください。いざとなったら、この髪を売ります」

シリは頭を無造作に振った。


陽の光を受けて金色の髪はキラキラと輝いた。


「・・・それはさせない」

グユウはつぶやく。


シリの胸には希望が広がった。


ーーグユウと共に・・・過ごせるのだ。


シンも許されるかもしれない。


「新しい場所で・・・幸せになりましょう。グユウさん」

シリはグユウを抱きしめた。


「あぁ」

グユウも目を閉じてシリを抱く腕の力を強めた。

次回ーー

深い森の奥、血に染まったオーエンがレーク城へ運び込まれた。

彼が最後に絞り出した言葉――


「…マサキ様は、襲撃され亡くなりました」


その報せは、城に集った者たちの運命を一瞬で変えていく。



長い一話を二話に分けて、加筆修正しました。続きは後ほど更新します。

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