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朝が来なければ良いのに

◇ミンスタ領 本陣


「申し訳ありません。今回も説得できませんでした」

キヨとエルは深々と頭を下げた。


ゼンシは黙って2人の詫びを聞いていた。


今日のゼンシは静かだ。

いつもなら怒り出すのに、こうなることを予想していたかのような態度だった。


「わかった」

ゼンシはつぶやき椅子に腰掛けた。


エルは恐る恐る顔を上げた。


美しい金髪が色白の顔にかかる。

争いの最中、鬼の生まれ変わりのような残酷さが宿る青い目は、今は落ち着いている。


ゼンシは罵声の代わりに長いため息をついた。


「こんな状況にもなっても・・・アレは城に残ると言うのか」

その声は少し悲しみを帯びているようにエルは感じた。


アレとはシリの事だろう。


レーク城周辺には3万の兵が囲んでいた。


ワスト領の兵は5千人程度と聞いている。


もう勝ち目はない。


「シリ様のお覚悟、揺るぎません」

落ち着いた声でエルが伝えた。


ゼンシは無言で、真っ直ぐエルを見つめた。


ーー言いにくいことは早く伝えた方が良い。


「シリ様はグユウ様に殉じる覚悟です」

エルの発言にゼンシは瞳を閉じた。


「・・・父上、レーク城を攻めるのでしょうか」

奥の方からゼンシの息子 タダシは勇気を振り絞って質問をした。


「あぁ」

ゼンシは低い声で答えた。


「レーク城にはシリ姉が・・・」

タダシの顔は切なそうに歪んでいた。


「タダシ、そのような生暖かい気持ちでは争いには勝てない」

ゼンシが淡々と話す。


領主は非常な判断を下さなければいけない。


「必ずシリ様をお救いします」

キヨが必死の表情で話す。


「シリ様と話すより、グユウ様と話した方が良さそうです。

我々もそうしようと思ったのですが・・・」


「・・・シリが、いや、アレが・・・察して同席したのだろう」

ゼンシは見てきたかのような口ぶりで話す。


「はい」

エルは短く返事をした。


「アレは気が強い。並の男では扱いきれないと思っていたが・・・」

ゼンシは低い声で話し、エルの顔を見つめた。


エルはうなづいた。


「キヨ、エル、頼んだ」

少しだけゼンシに勢いが出てきた。


ゼンシの瞳に強い光が灯った。


「明日からレーク城、そして北側の領地を攻撃する」

強い声で家臣達に話す。


「承知」

家臣一同、頭を下げてゼンシに従う。


「兵の数は我らの方が多い。争いは有利だ」

ゴロクが吠えた。


「今回もワスト領は野外戦ではなく、籠城戦で行くだろう。北の領土を奪取するのが大事だ」

ビルが淡々と話す。


「レーク城は強固な城だ。攻めるのは難しい。

しかも、アレがいる。前回の戦い以上にレーク城は策を立てているだろう」

ゼンシがスクッと立ち上がる。


「けれど我々も策は立てている」

ゼンシの顎が少し上がった。


「どのような策ですか?」

ビルは前ににじり寄る。


「周りを攻撃していくのだ」

ゼンシは薄く笑った。


◇◇レーク城 領主夫婦の寝室


「今日はすみませんでした」

寝室に入るなりシリは身を縮めて謝った。


「シリはキヨ殿の前だと感情的になる」

グユウが優しく話す。


「キヨは嫌いです」

シリは頑なな表情をして下をむいた。


「感情が乱れた時ほど言葉には気をつけるべきだ。一度、吐いた言葉は取り消せない」

グユウはシリの髪を撫でながら伝えた。


「すみません。大事な時期なのに」

シリはしょんぼりしながら話す。


明日から争いが始まる。


ーーこんな事でグユウの気持ちを乱してはいけないのに。


「問題ない」

グユウはシリを抱き寄せて、髪に顔を埋めた。


シリの頭に、顔に、首筋にグユウは口づけを落としていく。


そして、シリの顔に両手を添えた。


ーー口づけ・・・そしてそれ以上の事がありそうだ。


「グユウさん、明日は早いです」

グユウの意図を感じて、シリは逃げようとすると、グユウのかたい腕がシリを捕えた。


「問題ない」


両手を顔に添えたまま、何度も唇に吸いつかれてシリは困ったように眉を寄せる。


手を離しても口づけに応えるようになったシリに、グユウは自分の身体をシリに密着させた。



グユウの手つきにシリは喉を反らして身悶えた。


「もぅ・・・!ダメです。嫌です・・・」

シリはグユウの腕から離れようともがく。


「嫌は困るな」


「嫌ですよ・・・」

顔を上げてグユウを見つめるシリは、とろけるような甘えた表情で、

それを見たグユウは満足そうに表情を和ませた。


ーー他の誰も・・・こういうシリの顔は見た事がないはずだ。


「オレは好いている」

グユウはシリの耳元でささやいて、ベッドに誘う。


最中に目を開くと、こちらを見下ろすグユウと目が合う。


慈しみ溢れるような瞳の色に、シリの胸は切なくなる。


唇が甘く胸を伝う。


寝室は息と布が擦る音が響く。


暖かいグユウの腕の中でシリは願った。


願わずにいられなかった。


ーーずっと、このまま一緒に過ごせたら良いのに。


朝が来なければ良いのに。


明日かもしれないお互いを想いながら夜は更け、無情にも朝は訪れた。


次回ーー


北の空に、無数の兵の影が押し寄せる。


「今よ!」

シリの声が響き、落とし穴が牙をむく。


石が飛び、矢が放たれ、少年兵たちが叫ぶ。


その瞬間、レーク城の長い戦いが始まった。


明日の17時20分 争いが始まった

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