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雨の終わり、愛のはじまり

「驚いたな」


眠っているユウとウイの顔を見つめながら、グユウはつぶやいた。


その言葉は、今日のユウの言動のことを指していた。


口下手なグユウの言いたい事を、シリは把握していた。


「普段、感情を露わにする子ではないわ。あんな気性が激しい一面を持っていたのね」


泣き疲れて眠っているユウの乱れた髪を撫でながら、

シリはつぶやいた。


「シリに似ているのだろう」

グユウは少しだけ微笑んだような気がした。


その後、乳母のヨシノが事情を説明してくれた。


⚫︎隠し小部屋でユウとシンが、2人の話を聞いてしまったこと

⚫︎子供達に質問をされ答えてしまったこと


「申し訳ありません。過ぎた振る舞いをしました」

ヨシノは泣きながら二人に謝った。


「ヨシノ 顔をあげてくれ」

グユウの声は優しかった。


「けれど・・・」

ヨシノは顔を上げることができなかった。


子供達から聞いた内容は、口を閉ざさなくてはいけない内容だった。


妊娠はもちろん、子を流す事は伝えてはいけない事だった。


「ユウ様の目が・・・子どもとは思えないほど・・・

まっすぐで、揺るぎない目をしていたのです」

ヨシノは涙を流しながら説明をした。


「ヨシノの仕事ぶりに私達は感謝しているの」

澄んだシリの声が聞こえた。


涙に濡れた目で顔を上げると、シリが悲しげに微笑んでいた。


「原因は私よ。私のせいで子供達を追い詰めたわ…」

シリの発言にヨシノは必死に首を振る。


「それは違う。シリをそこまで追い詰めたオレの責任でもある」

グユウが悲しげにつぶやいた。


自分の過失を責めない領主夫婦に、ヨシノは頭が上がらなかった。




雨と風の勢いが少し落ち着いてきた。


寝室の窓からは真っ黒で何も見えない。


「台風が去ったのね」

シリの声は残念そうな響きがあった。


「雨風が好きなのか?」

グユウが不思議そうな顔をする。


「ええ・・・今だけは好きです。雨風があれば・・・争いがありません」

シリは伏し目がちに答える。


シリの言葉に、グユウは何も答えられずにいた。


黙ってソファーに座ると、シリもその隣に座った。


妊娠をしてから体調不良が続き、さらに争いが始まった。

夫婦でゆっくり話すのは本当に久しぶりだった。


「シリ・・・」

グユウは隣に座るシリをぎゅうと抱きしめた。


突然の抱擁に驚くシリに、グユウがささやいた。


「ありがとう」


相変わらず口下手なグユウだった。


グユウは子供を産んでほしいとシリにお願いをした。

それに応えたシリに対しての言葉なのだろう。


「グユウさん・・・相変わらず言葉足らずですよ」

シリは微笑みながら、グユウの背中に手をまわした。


「オレは・・・シリが望むことは何でも叶えてあげたい。

子を流すことも・・・シリが望むなら、決めた事なら・・・そう思っていた。

けれど、今回は抑えが効かなかった」

グユウの腕に力がこもった。


グユウの告白にシリは泣きそうになった。


いや・・・違う。泣いていた。


「すまない。負担がかかるのはシリの方なのに」


シリは頭をふった。


「・・・私も産みたいと思っていました。グユウさんとの子ですもの」

シリは泣きながらグユウの瞳を見つめた。


「シリ・・・ありがとう」

グユウは微笑みながらシリを見つめた。


ーーまた見れた・・・グユウさんの微笑み。


滅多に表情を崩さないグユウが微笑んでいる。


元々、見た目は良いのに・・・笑うと一層素敵になる。

その顔を見ただけで、シリの頬は赤くなり、動悸が止まらなくなる。


グユウはシリの顔を見た後に、さっと身体を離してソファーから立ち上がった。


「雨がやめば・・・争いが始まる。もう寝よう」

光の速さでベットに潜り込んで寝ようとした。


ーーあぁ。触れたいのだ。


シリはその様子を見て察した。


領主は、第2、第3夫人と複数の妻を持つのは当たり前だった。


グユウは妾を作らない領主だった。

それは、この時代とても珍しいことだった。


グユウはシリの身体に対して、予想の斜め上の心配をする。


その件で、二人は何度かすれ違い喧嘩をした。


それ以降、シリは節目ごとに体調について口に出すようになった。


「グユウさん・・・もう大丈夫です」

控えめにシリが声をかけた。


今度はシリが言葉足らずだった。


しかし、断片的なシリの会話をグユウは理解したようだ。


カバっとベットから飛び起きた。


「大丈夫なのか・・・」

シリの顔をじっと見つめる。


「はい。優しくしてもらえたら・・・」

恥ずかしくなり、言葉尻は小さくなっていく。


グユウの口元は嬉しさで緩んでいた。


「こんな事、言わせないでください!!」

シリは、顔を赤らめて反論した。


「シリ・・・」

グユウはそっと呼びかけながら、シリの顔に頬を寄せた。


規則正しいシリの呼吸に耳を傾けると、シリが小さな声で何かを言った。


頬を緩ませたグユウは、シリに体重をかけないように覆い被さって、シリを腕の中に閉じ込めた。


夜のグユウは、いつもより少しだけ口数が増える。


名前を何度も呼び、嬉しい言葉を耳元でささやいてくれる。


グユウの動きに翻弄され、シリは記憶がなくなる。


次に視界をとらえたのはグユウの顔だった。


熱っぽい眼差しで見つめられたと思ったら、口づけをしてきた。


「グユウさん・・・優しくしてほしいと話したじゃないですか」

シリはグユウの胸に顔をすり寄せるようにして、ぐったりしていた。


「・・・すまない」

居心地悪そうに、グユウの指がシリの髪を撫でる。


「久しぶりだったから・・・抑えが効かなかった」

真面目に謝るグユウの顔が面白くて、シリはふっと笑ってしまった。


2人が睦み合っている間に雨は止んだ。


ーー争いが、また始まる。


けれど今夜だけは、この温もりに包まれていたい。


隣ではグユウの規則正しい寝息が聞こえた。


ーー自分たちの未来はまるで見えない。


宿った子供は産まないまま、自分もこの世を去るかもしれない。


明日がどうなっても、

最後の瞬間まで、この人の隣にいたい。


そう願いながら、シリは静かに目を閉じた。


ついに130回目の更新になりました。

ここまで付き合って読んでくれている皆様に感謝。

ブックマークと評価をしてくれた方がいます。

お陰様で元気に除雪できます。ありがとうございます。


次回ーー


命を選んだ母と、それを見守る者たち。

雨が止み、再び戦が動き出す。

崖の下に潜む影を見つめながら、シリは悟る――兄ゼンシは、まだ終わっていない。


明日の17時20分 途方もないことが起こりそう

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