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城とともに燃えた命

シリが息を切らして書斎に駆けこむと、

そこではグユウとジムが、重く沈黙した空気の中、言葉少なに向き合っていた。


「グユウさん お呼びですか」

焦りと不安で震える声に、グユウは顔を上げて短く告げた。


「リャク領が滅ぼされた」


その言葉が意味する重さに、シリの足元から力が抜けた。


リャク領――

ワスト領のすぐ隣、同盟を結び、ゼンシへの対抗に協力してくれていた領。


ミンスタ領のゼンシは、それが気に入らなかった。

リャク領に、ワスト領とシズル領と手を切るように迫ったが、リャク領はそれを拒んだ。

そこで軍事力で叩き潰した。


この前の夕方、キヨが出陣したのはリャク領を滅ぼすためだった。


「いつ行われたのですか・・・?」


「今朝。夜明け前の焼き討ちだったらしい」


ジムが広げた手紙には、静かに、しかし明確にその惨状が記されていた。


「ミンスタ領の兵が、リャク領の城を完全に包囲し、四方から火を放ったようです。

逃げ道は、どこにもなかった。全滅だ」


焼き討ち――

城を火で包み、出られぬ者ごと焼き殺す、最も残酷で、確実な戦法。


朝早くに攻撃したということは、

夜の闇に紛れて逃げ出さないようにしたということだ。

ゼンシの残酷性が透けて見えた。


「全滅とは・・・領主ですか?」

シリは乾いた声で質問をした。


「領主とその家族だけではない。家臣、その家族、侍女・・・1人残らず・・・」

グユウは淡々と答えた。


「数千人の死者が出たと手紙に書いてあります」

ジムが口を添える。


シリが手紙を読むと、わなわなと震えた。


「信じられない!城内にいた老人、子供、女性も皆殺しにしたの?」


「あぁ。助けを乞うものたちも決して許さず、1人残さず首を打ち落としたと聞く」


グユウの声は静かだった。


だが、その奥に燃える怒りがあった。


「そんな・・・そこまでする必要が・・・」


シリの手が震える。


目の前の現実が、すぐには受け入れられなかった。


「この襲撃を主導したのは、“ビル”という家臣だと記されています。ご存知ですか?」


ジムが尋ねる。


シリを書斎に読んだ理由はこれだった。


「・・・いいえ。聞いたこともありません」


「そうですか。私も、この三年で急速に台頭した人物だとだけ知っています」


「兄と似たような人間だわ」

シリは低く吐き捨てた。


「リャク領の領主は良い人だった」

ふいにグユウが呟いたその声には、心の底からの悼みが滲んでいた。


焼け落ちた城。

瓦礫の下で、命を落とした無数の人々。

それが、ゼンシのやり方だった。


ゼンシを敵にまわすと、怖い存在であることが身に沁みた。


王都ミヤビに近い隣のリャク領が滅びた。


リャク領は、ミンスタ領の土地になってしまった。


「これで・・・ミヤビへの道も閉ざされますね」


「孤立するな、ワスト領は」


グユウは呟いたように言い、地図の上に手を置く。


シリは、それを見下ろしながら静かに言った。


「兄は、必ず私たちを殺しに来る・・・そのためにも、準備をしないと」


次回ーー


りんごの実る季節、シリとオーエンは静かな秋を過ごしていた。

彼は気づいていた――仕える主を、恋してしまったことに。

けれどその想いは胸の奥に沈め、ただ彼女の幸せを願うしかなかった。

それは、ワスト領が最後に迎える穏やかな秋だった。

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