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矢を削る手、未来を守る意志

「リャク領が兄に脅されているみたい」

ため息とともに手紙を置き、シリがぽつりとつぶやいた。


リャク領──ワスト領の隣に位置し、王都ミヤビにも近い重要な土地。


今回の戦で、リャク領の協力なしにはここまで持ちこたえられなかった。


「ゼンシ様が・・・リャク領に、警告を?」


ジムが思わず作業の手を止めた。


「ええ。リャク領主に、“これ以上ワスト領を支援すれば、城ごと焼き払う”と脅したらしいわ」


「リャク領主は・・・?」


「屈しない、と返事をよこしたそうよ」


窓の外では、冷たい十一月の雨が激しく降っていた。


シリは静かに立ち上がり、その灰色の風景を見つめた。


「兄は忠告を二度までは許すけれど、三度目はない。リャク領を、本当に攻撃するつもりよ」


「それでは・・・ミヤビへの道が閉ざされてしまいます」


ジムが声を低くしながら言った。


リャク領が落ちれば、王都へ向かう最短路は断たれる。


他領との連携も取れなくなる。ワスト領は、孤立を強いられるだろう。


それだけは、避けなければならなかった。


争いが始まって、二か月。


小競り合いが続き、終わりが見えないまま冬の気配が近づいている。


雪に閉ざされる前に、何としても決着をつけなければならなかった。



レーク城では、雨の音を背に、籠城の準備が着々と進められていた。


矢の製作所では、老若の家臣たちが細い木の枝を削っていた。


一本一本、太さやしなりを見極めながら、ナイフで丁寧に整えていく。


削りすぎれば折れ、足りなければ飛ばない。


失敗を重ねるたびに、家臣たちは刃先から伝わる“手の感覚”を覚えていった。


「まさか、自分がこんな仕事をすることになるとはな」


老いた家臣の呟きに、シリは微笑んだ。


「立派なお仕事ですわ。矢を自分たちで作れるなんて、誇らしいこと」


火で炙り、削り、また乾かす──矢は少しずつ、兵器としての力を帯びていく。


外では雨が、容赦なく地面を叩いていた。


その雨音は、やがて流される血の前触れのように響いていた。


小説に挑戦して82日目。

20万文字を達成していました 驚

書いた当初、一万文字すら遠いと思ったいました。

第一話から読んでくれている人いますか?

いたとしたら嬉しいです。


次回――戦場で、情けない男が槍を投げる。


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