戦地からの手紙
「今頃、戦場ではどうなっているのだろう」
シリがつぶやく。
「そうですね。私も知りたいです」
ジムが微笑みながら静かに頷いた。
ワスト領が戦っている今、最も気になるのは戦況の詳細だった。
勝っても負けても結果は伝令が伝えてくれる。
けれど、どんな争い方をしたのか。
どんな戦法をしたのか。
家臣達はどんな働きをしたのか。
争いの状況は、目にしたものではないとわからない。
戦況状況を詳しく知りたかった。
領主のグユウは、多忙なので頼めなかった。
他の重臣も忙しい。
オーエンに至っては、最初から対象外だ。
「書ける人」をシリは考えた。
そして白羽の矢を立てたのが、カツイだった。
争い前にシリは、カツイに戦況情報のお願いをした。
カツイは戦力にならない事はシリは把握していた。
しかし、カツイは手紙を書く能力は非常に高かった。
重臣ならではの視点で、戦況を静かに描く文章は見事だった。
届いた封筒は、いつも厚い。
その重みを手にするたび、シリの指は震え、胸が高鳴る。
「・・・来たわ。ジム、一緒に読みましょう」
ジムは椅子を引いて、彼女の背後に座った。
エマは興味がないふりをしながら、耳をそばだてて一心不乱に靴下を編んでいる。
「ワスト領がミンスタを打ち負かした! 戦法を変えて、後方から弓矢を放ったのね・・・!」
シリの声が弾んだ。
「グユウさん、前線にはいないみたい。
オーエンが抑えてくれてるのね・・・“死んだら后に殺される”って言ってるみたいよ」
シリは憮然とした顔で話した。
「ふふっ・・・」
ジムが小さく笑った。
彼の頬が、ほんのり赤くなっている。
「チャーリーとロイが活躍したみたい。弓矢で敵の前衛を崩したって」
「さすがです。あの二人は、ワスト領の誇りですから」
「グユウさんはジムの手紙を喜んでいるって。
手紙を読んだ後は優しい表情をしているみたい・・・
他の重臣達とワスト領のことについて話をしているみたいよ」
シリの報告にジムは瞳を輝かせた。
手紙の最後に、シリの手紙を読んでいる時のグユウの表情について書いてあった。
——その表情は、シリがまだ見たことのない顔だと、カツイの手紙には書かれていた。
その一文を、シリは黙って胸にしまった。
嬉しさと、寂しさがないまぜになった感情は、宝石のように大切なものだった。
手紙を読み終えると、シリはふうっと小さく息をついた。
けれど、浸っている暇はなかった。
「ジム、オリバーも連れてベリー摘みに行かない?
ブラックベリーの時期が終わってしまう前に、たくさん摘みたいの」
「ええ、行きましょう」
「帽子、忘れずにかぶってくださいね」
エマが目を離さずに言った。
温かい日常と、戦の知らせ。
その両方を抱えて、シリは今日も歩き出す。
だが、次に届く手紙が運んでくるのは、彼女が望む安堵ではなかった。
次回――ブラックベリーの茂みで、少年の矢が飛ぶ。




