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自分達で作り、自分たちで守る


あくる日、シリはホールに家臣たちを集め、羊皮紙を手に立った。


「今回も、四つのチームに分かれて作業を進めましょう」


A:通常業務——最小限の人数で、城の日常を維持する。

B:収穫作業——ロク湖での魚やエビの確保。

C:開墾作業——畑を広げ、砦の補強を進める。

D:武器製造——弓矢、そして鉄砲玉の製造。


一同はA〜Cにうなずきながらも、Dに差しかかった瞬間、息を呑んだ。


「武器製造を・・・我らが?」


「それは・・・職人の仕事では……」


ざわめきの中に、戸惑いと疑念が混じる。


シリは、ゆっくりと周囲を見渡した。


「もちろん、銃は作ることができません。

けれど、消耗品・・・弓矢や鉄砲玉は作れないことはありません」

シリは言い切った。


「鉄砲玉を作る・・・」

そんなこと無理だと言わんばかりの口調で反論がきた。


「鉛を溶かして型に詰めていく作業です」

シリがさも簡単と言わんばかりに話した。


“やったことがないから無理だ“


家臣達は、そんな不穏な空気に満ちていた。


「私も今まで鉄砲玉作りや開墾作業について考えたことはありませんでした。

女ですから。やったことがない事を行うのは不安ですよね」

シリは微笑んだ。


花が綻ぶように笑うシリの顔に家臣達は、惹かれていく。


女性・・・それも、シリは領主の姫として育った。


それが今では、籠城の準備を一手に担っている。


「これからの時代は、何が起きるかわかりません。

“職人がいないから武器がない“そんな状況は避けるべきです」

シリは言い切る。


家臣達は少しだけ表情を緩ませ、空気が動く。


「自分達で作り、自分達でワスト領を守る。そのためには、新しい事を学び行うべきです!!」

シリが例の眼差しで一人一人を見つめ説得した。


「やりましょう!」

負けず、曲げず、諦めない瞳で語ると誰もがうなづいてしまった。


「おおっ・・・」

家臣達は動揺を隠せない様子で声を出した。


後ろで様子を見守っているジムは、その姿を頼もしく見つめた。


ジム自身、戦士だったので籠城の準備よりも戦場に行きたい人間だった。


しかし、シリのそばにいることで、

多くの人を魅了する人物に仕える事の楽しさを知った。


奇抜なアイデアと強い闘争意欲、

有無を言わせず家臣を従わせる瞳と言葉。

家臣を従わせるカリスマ性を持つシリ。


その姿を見ると、敵領 ミンスタ領の領主ゼンシを思い出す。


ーーゼンシ様に似てる。


ジムは何度も思ったことを改めて実感していた。


兄妹だから似ているのは仕方がないこと。


しかし、ゼンシは恐怖で家臣を支配するとしたら、

シリは笑顔で家臣を魅了している。


領主としては、シリの方が器は大きかった。





武器製造班は二手に分かれた。


一つは若手で構成された伐採班。弓矢の素材となる木を森で切り出す。


もう一つは、鉄砲玉製造班。少年と年配者が中心だった。


戦場で拾い集めたミンスタ領の鉄砲玉が並ぶ。シリはひとつを手に取り、じっと見つめた。


「・・・黒くて、艶があるのね」


「ミンスタの銃は最新型です。我々の古い銃とはサイズが合いません」


ジムの説明に、シリは唇を引き結んだ。


「この大きさに合わせて、新しく作り直しましょう」


「無茶です!」

年配の家臣が声をあげる。


「鉄砲玉は、ケーキのように簡単には・・・」


「手順を見れば、ケーキより簡単に見えるのよね」


本を片手に微笑むと、反論を封じるように仕切った。


「まず、鉛を溶かしましょう。火の扱いは慎重に」


石炭の上に鉄砲玉をかざし、やがてそれが溶けていく様子に、皆が息を呑んだ。


「次に、型に流し込みます。ゆっくり、こぼさないように・・・」


静まり返った空気の中、少年兵の手が小さな型に鉛を注いだ。


「蓋をして、冷まします・・・」


時間が過ぎ、蓋を開ける。


転がり出たのは、黒く光る小さな球体だった。


「・・・できた!」


シリの声が弾んだ。


皆の目が見開かれ、歓声が広がる。


「こんなに美しいなんて・・・まるで黒い宝石ね」


はしゃぐような声に、場が和んだ。


「思ったより簡単だな」

「これなら続けられる」

口々に声が上がる。


その時、シリは一人の少年に目を止めた。


黄土色の髪に、褐色の瞳。どこか見覚えのある顔だ。


「名前は?」


「オリバー・モトです」


「モト・・・?」


ジムが助け舟を出した。


「カツイの息子さんです」


「カツイの!」


まだ13の彼は戦場には立てないが、ここで何か役に立ちたいと志願していた。


「オリバー、この型についた鉛、削ってくれる?」


「はい!」


少年は真剣な目でうなずき、丁寧にナイフで鉛を削った。


「その削りくずも、また溶かして使いましょう。鉛は、宝石より貴重ですから」


オリバーの瞳が、少しだけ誇らしく輝いた



こうして、シリは家臣達を巻き込み、武器の製造をするようになった。


そしてその様子は、ジムの筆によって、戦地にいるグユウの元へと届けられるのだった。


だが、その手紙に綴られる「平穏な日常」が、戦場で血に濡れた現実とどう交わるのか


――まだ誰にもわからなかった。


インフルエンザになってしまいました。皆さんもお気をつけて。


次回ーー


争いの始まりに向け、再び立ち上がるグユウのその背には、揺るぎない信頼と静かな決意が宿っていた。


けれど、その決意を試すように――戦場には、容赦ない冷たい風が吹き荒れようとしていた。

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