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いつか終わる世界に  作者: 作者です
魔界の侵攻
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11話 ラファス防衛戦④





 各壁の拠点には見張り台が設置されており、そこから光る狼煙の確認をすることになっていた。


 紫色の狼煙は強い魔物の出現。


 赤色の狼煙は数に押され劣勢。


 青色の狼煙は物資要求。


 黄色の狼煙は緊急事態発生。例をあげれば聖域が消えた、回復役が重症または死亡などか。


 白色の狼煙は問題なし。日中は使われないが、夜間は照明の代わりとして、常に上がっている。


 他には黒などもあるが、とりあえずはこの五色で戦況を把握していた。


・・

・・


 ラファスの防衛において、二交代というのは一日を十二時間で回すのとは違う。


 時間のずれは受け持ちによって出てくるが、六時から始まった場合は十四時ころに交代し、休息を挟んで二十二時に再び配置へもどる。


 ただ港町から第四波の一部が迫って来たので、いくつかの組は数時間早く休憩を終わらせることになった。




 協会員の誘導にしたがい、天人菊が任されたのは海寄りの教都方面外壁。


 索敵で走らせていた犬からの情報では、魔物がラファスに到着するまで残り二時間もない。


 ただ天上界より得た内容が確かなら、途中で数百体が教都に進路を変更したらしい。それでもこちらに向かってくるのは、二千を越えるとのことだった。



 壁上にて。


 モニカは他の探検組や徒党のもとへ足を運び、挨拶と事前の打ち合わせに向う。


 親分がいない所為か、トゥルカは鉄塊団の団長が作詞した、防衛ソングを大声で歌っていた。


「三つの炎が一つになーればー 我らが心はスペシャルファイヤー♪」


 兵士・探検者・協会員の力が合わされば、すごい炎になるんだぞという内容らしい。


 ちなみに二番は戦う者だけでなく、教会や民も混ざればウルトラファイヤになる。


「まーものーを防ぐぞ ラッファスウォールー♪」


 火の加護者が一部こんな感じになってしまうのは、対象とする神が関係するのかと言えば、トゥルカとジェランドは同じ眷属神から力を得ているので違う。


「守れっ! 守れっ! まもーるぞ 俺たち防衛だぁーん♪」


 普段は大人しい性格の彼を、仲間たちは冷めた目で見つめていた。



 天人菊のサポートに回された脱落四人組。


 青年は剣の柄をギュッと握りながら。


「やるぞっ やるんだ。できる、俺ならできる、きっとできる」


 〖岩柱〗の戦意高揚がなくても、もともとこの剣使いは、やる気だけなら人一倍あった。


 ルチオは彼の肩に手をおき。


「あんま力み過ぎんな、できる事だけすりゃ良い」


 〖風刃・血刃〗を使えるので、ティトと同じ眷属神なのだろう。今の得物は将鋼の剣だけど、量産品なので突きに特化した形状ではない。



 リーダーでもある鎧使いは、なんどか深呼吸をして。


「私たちだって、前よりずっと戦えるようにはなったはず」


 この組で一番真面なのは彼女だ。



 水使いは壁上に敷き詰められた土を見渡すも、草が生えてないので森の方を指さし。


「精神統一するため、ちょっと草むしりしてきます」


「危ないからダメだって」


 草むしり大好きな彼は肩を落とすが、気を持ち直し。


「じゃあ隣りの花をむしっても良いかな」


「怒られちゃうよ」


 〖種吐き花〗の召喚者は隣りの持ち場にいるため、戦闘が始まってすぐは〖花〗の援護も得られず。


 もし第一世代が消えても、第二から最終世代は〖発芽〗してからカウントが始まっているので、しばらくは畑に残る。



 ゾーエは壁の凹凸から地上を眺め。


「私は骨鬼に備えるから、〖赤光玉〗は一つ温存しておく」


 壁上では彼女を中心に動く。


「なるべくモニカたちは壁の近くで戦う。こっちから指示するので、〖鎧〗のバフをお願い」


「わっ わかりました」


 アドネはゾーエの横に座っていた。


「中級の偽物より、魔物は防具が貧弱だから、神技なしの矢でも通用すると思う」


 弓の調子を確かめている所からして、彼の持ち場も壁上になっているようだ。


「もし雷を使う時は言って」


「わかった」


 〖いつかみた夢〗の基礎となるのは、頭上に発生する〖雷雲〗であり、これが消えた時点で長いクールタイムに入る。


 今なら新人のころとは違い、〖雲〗からけっこうな数の〖雷〗を落とすこともできた。



 二人の会話を聞いていたルチオは、先日の経験から。


「温存しすぎるのも、使いどころを見失っちまう。本当にやばくなりゃ、後ろに控えもいるしな」


 敵の数により劣勢という場面であれば、救援組だけでなく協会の戦闘員も援護に入れる。



 槍使いは一人うずくまっていた。


「うぅ」


 プルプルと震えながらも、槍を抱きしめていた。


 大声で歌っていたトゥルカが、そんな彼女の様子に気づき。


「なんだお前、もしかして怖いのか。気合が足りてないんじゃないか、気力がねえと必殺技も使えないからな」


 ルチオの方を向き。


「こいつに激励を使ってやれ」


「〖岩柱〗でも効き目がねえなら、俺の激励でも難しいんじゃないか」


 戦意高揚は本人に戦う意思が少しでもなければ、なかなか効果は発揮されにくい。


「〖お薬〗も飲んだんだけど、あまり効かない」


 精神安定というバフがなければ、多くの新人が探検者という職から離れていたはず。それが上手く働かないと言うのも、なかなか珍しい事例だった。


「もし厳しいようじゃ、戻っても良いぞ。俺らも怒らねえからよ」


「嫌です。みんなと一緒がいい」


 トゥルカは腕を組み、どこか悩んだ様子で。


「熱血は攻撃力が倍で、鉄壁が防御力が倍だったか。必中を使えば絶対に当たるし、閃きは必ず避けれる」


 彼はさっきから何を言っているのだろう。


「お前はマリカさんと一緒で脱力要員だな。敵の気力を下げてくれ」


 槍使いは困惑した表情で。


「ちょっとなに言ってるのか解りませんよぉ」


 本人はうんうんと納得した感じを出しているが、本当に意味不明。


「ルチオ、お前は幸運もってるよな。報酬増えっから、ボス倒す時は絶対使えよ。俺がお前のこと応援すりゃ、きっと経験値も倍になるぞ」


 そんな神技はない。


「報酬増やせるのは〖お宝ちょうだい〗だろ、そもそも魔物はなんも落とさねえよ。あと経験値ってなんだ?」


 戦場の空気にあてられ、彼は少し変になってしまったようだ。


「雑魚を殲滅できんのはゾーエの火炎放射くらいか、でもあいつ幸運もってねえよな。くそっ ラウロさんいれば祝福使えたのに」


 悲しき戦争の犠牲者ということにしておこう。




 地上には土使いとヤコポが立つ。


 やはり召喚するにあたり、地面から直接使った方がなにかと楽なのだろう。


 壁から少し離れた位置に〖宿木〗を召喚すると、土使いはそれを見あげながら。


「眠者か。探検者になってけっこう長いけど、使い手は始めてみた」


「俺も見たことないわ」


 ヤコポ君はそんな自分だけの特別に浸りながら。


「はやく立木になってくれたら、もっと嬉しいんだけど」


 〖守木人〗という二体の戦力追加。


 〖香る木花〗や〖寝息〗といったサポート。


 一度出現させれば数時間は存在し続けるが、消費する神力に相応する効果が期待できるのかと言えば、残念ながらそうだとは言い切れない。


「下手すりゃ俺らがオッサンになる時期だったりしてな。剣の紋章とかそうだったろ」


 グレゴリオは斧身一体で〖紋章〗を使っていた。打の強化が(中)になったのは、実際に引退の間際だったりする。


「まじか」


「地上と天上じゃ時間の流れも違うから、まあそこら辺はしゃあない」


 アリーダのように、地上界で人として生きる神もいる。


 あなたと共に歳を重ねたかった。


 眠者が老いていくのは、そういった願いの断片かも知れない。


・・

・・


 〖種吐き花〗の援護がないため、天人菊は最初から地上に降りて戦う。


 壁上 ゾーエ・アドネ・脱落四人組・土使い・守木人(女型)。


 地上 モニカ・ルチオ・トゥルカ・ヤコポ・守木人(男型)。



 誰かの声が聞こえる。


「森からも回り込んでくるぞっ!」


 夜目を持つアドネが叫ぶ。


「今のところ巨鬼はいません!」


 弓兵はどうか分からないが、トロールの多くは港町に残ったようだ。



 壁際は〖聖域〗で明るい。


 田畑にも灯火台が設置されているが、森の中は闇に包まれているため、欲望の加護持ち以外は確認できず。


 沢山の魔物がこちらに迫ってくる音だけが皆の耳に届く。



 宿場町方面とは違い、こちら側は防護柵の数も少ない。


「出てきますっ!」


「わかった」


 合図に従い、土使いが前方に杖をかざす。〖狼〗が戦いの主軸となるため、アドネから借りた物を使っていた。


 輝く〖ローブ〗を使った状態で、四十体ほどの〖狼〗はすでに出現させてある。


 犬はいない。


 量産品の軽装(将)をまとい、〖繋がる心〗を発動させ。


「森から来る魔物を喰い止めろっ!」


 宿場町の時に比べれば数も少ないが、夜の所為か勢いは負けておらず。



 もともとゴーレムには目がないので、夜をものともせずに走り出す。


 魔物の姿を地上のモニカたちが確認したのと同時に、〖狼〗と鬼が激突した。


 その衝撃で顔面が崩れた個体もいたが、石核は無事だったようで、少したつと復帰する。


「やっぱ大型は厳しいっ」


 数体の肉鬼が〖狼〗たちを跳ねのけて前に出てきた。その後ろを小鬼が続く。



 モニカが数歩前にでると、〖槍〗を構えたまま敵との間合いを測る。


 中距離攻撃だとしても〖伸〗は威力が低いので、肉鬼の大盾で防がれてしまったが、迫ってくる勢いを弱めることには成功していた。


 それは水神との合作神技。


 〖伸・水衣〗 命中と同時に〖伸〗が弾け、相手をずぶ濡れにさせる。また使用者も水の衣をまとい、防護膜が強化。クールタイムは蓄積型。


 続けて七体の肉鬼と小鬼に〖伸〗を放って足止めをする。



 すでに〖鎧〗のバフは得ており、〖食事〗のお陰で効果時間も長くなっていた。


「ルチオ君。ちょっとの間、リーダーをお願い」


 心に余裕がない。


「おう、任せろ」


「ごめん」


 〖氷衣・一点突破〗 一点突破の防護膜にだけ、氷の属性が加わる。効果は〖水の鱗〗とほぼ同じ。



 モニカは正面の肉鬼に急接近して、そのまま〖槍〗で大盾ごと貫く。


 〖寒波〗 扇状に衝撃波が発生。


 槍が相手の胴体に刺さった場合は、傷口を中心に全身が凍りつく。動き阻害。防御力低下。悪寒。


 〖波〗に巻き込まれた個体は吹き飛び、悪寒のデバフを付与。



 肉鬼は両足で地面を削りながら後退したが、腹の下部に重症を負い、そのまま片膝をつける。


 後ろにいた小鬼は吹き飛んだが、寒さからか身体を起こせない個体も見られた。



 モニカは右の足をさらに踏み込み、死にかけのオークをもう一度突き刺す。


 〖波〗の衝撃波は扇状に発生するため、横に並んで走っていた肉鬼には命中していなかった。


 槍を即座に引き抜くと、側面から大槌を振りかぶってきたオークの右大腿部に、石突からの〖無断〗を喰らわせる。


 〖幻〗には発生させなかったが、骨の折れた感触が手に響く。



 短剣を手にしたゴブリンが背中を狙って来たので、右手の握りを持ち変えてから、槍の切先で小さな喉を突く。


「この日のために」


 今日まで頑張ってきた。


 まだ足を砕いた肉鬼は生きている。大槌は落としてしまったが、モニカに噛みつこうと、その両腕を伸ばす。


「まだ灰にもどっちゃだめ」


 小鬼ごと槍を持ち上げれば、先ほど足を砕いた肉鬼にぶつけた。



 血走った目で、トゥルカは笑いながら。


「おらっ 熱消毒だ!」


 地面に倒れ、灰をかぶった肉鬼の口内へ〖火剣〗を突き刺し、そのままの勢いで〖地炎撃〗を発動させる。


 オークの首を足で踏みつけ、剣を引き抜く。


 周りを見渡し。


「暖かいだろお前らっ!」


 悪寒はデバフなので、炎に焼かれようと消えることはない。


 それでも〖炎の鎧〗をまとう彼に、凍える小鬼たちは群がっていく。


「ギャハハっ! 大人気じゃねえか俺!」


 動きの鈍ったゴブリンどもを、両手剣で次々に切り伏せていく。



 モニカは〖地炎撃〗に焼かれながらも、〖氷衣〗をまといながら。


「オークは私が殺すから、小鬼をお願い」


「親分の頼みとあっちゃ断れねえなぁ!」


 〖宿木〗や外壁から離れすぎないよう、気をつけなくては駄目だ。



 もともと〖一点突破〗や〖無断〗のクールタイムは短いが、〖波〗や〖幻〗に発生させるとそのぶん延長されてしまう。



 見上げれば涎を垂らす醜い顔面。

 

「……」


 両手持ちの大斧による斬撃を〖無断〗で弾き、続けて槍の先で肉鬼の足もとを切り払う。


 その個体は鉄靴を履いていたが、ボロボロの鋼なら〖私の槍〗が持つ斬撃(弱)でも、十分に事足りる。


 〖血刃〗が発動すれば、斬り裂かれた鉄靴から大量の血が飛び散った。


 瞬きをするまでは効果は消えず。


 振り抜いた槍を頭上で一回転させ、肉鬼の脇腹を〖血刃〗で斬る。


 瞬きをするまでは効果も消えず、損傷した鎖帷子から血が噴きだす。


 いったん後ろにさがり、肉鬼が倒れるのを待つ。


 出血により崩れたが、迫ってくるゴブリンを無視して、うつ伏せの肉鬼に〖伸〗を放ち続けた。


 灰になるまで。



 モニカを狙う小鬼はトゥルカが対応。


「必中だ!」


 あまりの気迫にゴブリンは怯えたようで、思わず尻から倒れてしまい、両手剣が股下の地面に減り込む。


「なんでだっ! 当たらねえぞっ!」


 トゥルカは剣を持ち上げ、小鬼の側頭部を蹴飛ばした。


 弱い個体は本当に弱い。



 モニカは周囲を見渡し。


「いったん戻ろ」


「わかった」


 ヤコポやルチオも〖宿木〗を守りながら戦っていた。


・・

・・


 〖炎鎧〗に肉鬼が怯んだ隙をつき、片手持ちの〖戦槌〗を叩きつける。〖炎槌〗により燃え上がり、そいつは転がってのた打ち回る。


 側面より熱に怯えなかった小鬼が、棍棒でルチオに襲い掛かってきたが、問題なく〖盾〗で受け止めに成功。


「まだ盾は効果切れなさそうだな」


 前もって隣接する探検組に、〖お前の盾〗をお願いしていた。


 守木人が宿木の槍で、小鬼を背後から突き刺す。


「あんがとよ」


 お礼を言ってから。


「ヤコポさん、いったん下がるから前出てくれ!」


「わかった」


 涎をもらったので、宿木に近づいて〖眠者の寝息〗に触れる。


 前方を見つめたまま、背後の壁上へ意識を向け。


「骨鬼はどうだ!」


 アドネの夜目はダンジョンの時よりも役に立っていた。


「いるけど弓兵はまだいないよ!」


 できれば〖赤光玉〗を二つ使ってもらいたいが、そこら辺の判断はゾーエに任せてある。




 足もとをふと見つめれば、〖聖域〗が輝いていた。


 夜は深まっていく。









 天人菊の戦闘は終わりませんでした。出来次第投稿したいと思います。

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