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いつか終わる世界に  作者: 作者です
魔界の侵攻
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9話 ラファス防衛戦②



 商人やら輸送の護衛などもあるが、戦い関係を選ぶのなら、兵士・探検者・協会の三つが主とされるだろう。


 それぞれに良い悪い面が見られた。


 まず協会の職員はけっこうブラックな環境で働かされる。


 国の戦力とされる探検者にも色々と保証はあるが、兵士という職業はそれ以上に手厚い。ただその分、別の町や都市への移動などもある。


 最前線。最終防衛ライン。裏方支援。


 各特色を活かせる、それぞれに合った持ち場で、魔界の侵攻に対抗しなくてはいけない。




 ラファスが直面している探検者の問題があった。


 上級に挑戦している連中も精鋭とはいえるが、基本的に内壁突破作戦で予備戦力だった者たちは、他の中級者たちと外壁を守っている。


 鉄塊団で重要な位置につくと、魔界の侵略時に探検者の代表として、責任を問われる役職を回されるかも知れない。こういった理由から上級を目指す者などは、あえて中小規模の徒党へ所属することを望む。


 ダンジョンと言うのはもともと、魔界の侵攻に備え用意された施設。


 探検者は国が管理する職業であり、多くの利益を得ているからには、拠点での担当を拒否するなど本来は許された行為じゃない。



 実力という面ではなく、探検者としての質。


 不謹慎との意見も確かにあるが、国家戦力だという自覚を持たせるには、魔界の侵略時に外れを引くのが効果的だという話があった。


 宿場町のような大外れは避けたいが、モニカ組などがその最たる例だ。


 今回よりも前の時代。ラファスが魔界の侵攻で外れを引いたのは、まだ先代のいぶし銀が若手だった頃。


・・

・・


 兵士にも精鋭と呼ばれる者たちはいる。


 彼らの大半は移動でラファスに回された、魔物との実戦経験者。


 任された持ち場は激戦を予想される宿場町側や、実力に不安のある教都方面でもなかった。


 そこを守る兵士だけは、質を保つため二交代での対応を命令されている。




 町壁は外壁よりも高い。


 だが遠くに見えるその建築物を、兵士たちは見上げていた。


 それらを繋ぐ通路も上り坂となっているのが見て取れる。



 地盤の関係か、それとも地形によるものか。他方面の外壁よりも、明らかに歪で防衛能力が低い。


 隙間は意図的につくられたのではなく、どうしてもそこに外壁を建築できなかったから。


「今のところ、こちらには抜けて来ないか」


 その人物が話しかけたのは、〖犬〗を操作する兵士。


「ターリスト殿がいるからこそですね」


 共有で繋がっているのは作戦本部ではなく、この方面の町壁拠点。


「同じ〖狼〗の使い手だからこそわかりますが、やはり次元が違いますね。あれほどの数を一人で召喚できるのは、国内でもほとんどいないはずです」


 壁上から地面に召喚するというのは、慣れないとやり難かったりするのだろうか。


「本当の意味での精鋭とは、まさに彼らのことだ」


 魔物が外壁を抜けて来ても、枝分かれした〖光の矢〗が降り注ぎ、こちらへの接近を許さない。


「彼らは二交代ですらないと聞きますが、問題はないのでしょうか?」


 兵士の数は満了組を含めた探検者の全体と同等だが、外周の距離は町壁の方が短い。


 満了組は二から三時間寝れば、その日は余裕で戦えるとのことで、各班が交代で休憩して回すとのこと。


「騎士団に課せられる訓練は、我々の比ではない」


 兵士は訓練以外にも、町や周辺地域の治安を守るという役目がある。普段は各村や屯所に散らばっているので、全ての兵士がラファスに集うのは、魔界の侵攻時でないとありえなかった。


 もっとも警戒期に入れば、兵士の多くはなるべく町に詰めるよう配置されるが。


「想像もできませんね」


「満了組の負担が大きいのは事実だ。魚族の方々には感謝しかない」


 ギョ族は二カ所に増援を送っている。ほとんどの精鋭は宿場町に向かったが、一体だけこちらにも同行していた。


 外壁の用水路はツヨギョを含めた一五体が受け持ち、町の二重壁はボスギョを含めた五体で守る。


「装備は民や兵のままでよろしいので?」


 得体の知れない味方に対し、誰かしら不満の声はなかったのか。


 ここは天上界に対し、もっとも忠実な国であり、今やかつての腐敗は見る影もなく。


 援軍は神々の意志として受け取られている。


「事情は説明してある」


 文字の文化はなかったが、まだ拙いながらもある程度のやり取りは可能となっていた。



 ギョ族が扱うのは神技とは別物。


 属性の力は水辺が近ければ回復もできたりするし、瘴気による弱体の有無は確認できてないが、神技のバフや治療も受けられる。


「納得もしてくれた」


 彼ら自身の属性力では、断魔装具に沈めても強化は出来なかった。


 量産品や引退者が売った物は、兵士や探検者に回した方が効果も期待できる。



 水堀の向こうで待機している〖聖拳士〗を眺め。


「まさかもう一度、この神技を見る日が来るとはな」


 今は小隊長という立場にあるが、当時はもっと下の役職だったのかも知れず。


「前回前々回と、私はかなり運が悪いようだが、ある意味では運が良いのか」


 ルカとラウロがいる。


・・

・・


 時刻は午前十一時。


 満了組の役割は本来だと探検者と同じ。



 回り込んできた魔物たちは、外壁の隙間を通り町壁へと迫ってきた。


「やはり来たか」


 ここを抜けられろば、その先はもう町中。


 まだ敵との距離はあった。


「風の神力は補充できているな」


 宿場町側に近い山脈方面の町壁を受け持つのは、この小隊長だった。


 一分隊を十名とした五十名。


「構え!」


 兵士たちは弓を斜め上にはせず、真っ直ぐに鏃を向ける。


 〖みんなの弓〗 飛距離強化。熟練によって突が強化されていく。


 〖みんなの矢〗 加護者の矢筒に他者が神力を沈めることで、各属性に応じた効果を得る。


 風の神力が使われた場合は追尾機能の付属。他属性との重複も可能。


「放てっ!」


 全ての矢が重力に逆らって伸びていき、魔物たちの上空に到達すると同時に急降下。


 〖弓〗に突強化があるため、敵方のボロい装備を貫通するのは容易だった。


「そのまま続けろ、しばらく様子を見るぞ」


 〖私弓〗と〖皆弓〗は同時に使うことは出来ない。


 味方に〖みんなの弓〗を使えば、加護者の〖弓〗も同じ神技となる。



 激戦となっているのは宿場町方面なので、ここまで来る魔物の数はそちらと比べればずっと少ない。

 骨鬼の姿も見られるが、連中の射程に町壁が入るよりも早く、兵士たちの矢が届いていた。



 平野に集結する魔物は、大まかで五千から一万とされる。


 時間が経過すれば回り込んでくる敵も増えてくるかも知れないが、魔物が山脈方面に数の脅威をもたらすには、今回の数千だけでは戦力が足りない。



 すでに第三波の情報を得てから、一日と六時間ほどが経過していた。


「第四波は港町、五波は宿場町で良かったか?」


「五波の方は途中で別れたそうです」


 一部が進路を変更したのは、製鉄町の方面。


「第四波はまだ港町に到着しておりませんが、もうそろそろかと」


 すでに峠の道は魔物で埋まっており、城郭都市の騎士団が二百名ほどで食い止めている。


 まだ予備軍を含めた騎士団の本隊は留まったまま。もし魔物が山を越えて都市に到着してしまえば、増援としての初動に手間取ってしまう。


 教国で確認された【門】は一カ所だけだが、未だ大陸全土ではランダムで開き続けていた。




 ラファスにとって第三波の数は脅威とは言えず。


 この小隊は弓兵だけでなく、別の役目を持つ者もいた。


 〖欲望の神眼〗を発動させていた兵士が、強化された視力でその存在に一早く気づく。


「大鬼発見しました、こちらに接近してきます!」


 個体数が少ないため、大鬼は出現した時点でボス級と判断。


 赤の狼煙は劣勢を意味するので、数に圧されている状況も当てはまる。


 問題は黒い靄をまとうかどうか。


「紫の狼煙を上げてくれ」


 たとえ間違いだったとしても、ここが最終防衛ラインなため救援は呼ぶべき。


「了解しました」


 伝達兵は〖犬〗を通して、山脈方面の町壁拠点へと知らせる。



 オーガの判別方法は他よりも分かりやすい。


「得物はなんだ」


 この魔物が有する脚力であれば、水堀を一息で飛び越える可能性は否定できず。そして鉄塊が町壁に打ち込まれた場合、どれほどの脅威となるか。


 兵士は弓を手に〖神眼〗を見開き。

 

「槍を持っています! 大きいですが鉄塊というほどじゃ多分ありません!」


 最悪の事態ではないが、別の問題が発生した。


 その大槍を投擲してくる危険性。巨大な矢や岩を放つ攻城兵器より、ずっと威力は高いはず。


 またオーガの握力は凄まじく、壁に指先を減り込ませ、そのままよじ登ってきた実例もある。突き刺さった槍を足場とされたら堪らず。



 小隊長は混血で強化された喉を使う。


「第二・第四分隊は盾を使え! 水使いは〖水魚の雨〗を急いで発動させろ!」


 矢筒に盾の神力を沈めることで、放たれた〖みんなの矢〗が銀光の防護壁をつくりだす。


 小隊長は欲望の兵士へ向け。


「投げてくる事前動作を見逃すな、お前の合図で〖盾〗を展開させるぞ!」


「了解っ!」


 まだ大鬼と町壁には距離があった。


「第一・第三分隊は火を灯せ!」


 矢筒に火の神力を沈めることで、刺さった本数に応じて燃え上がった際の火力が決まる。


「第五分隊は〖私の弓〗に切り替え、足もとに鎧の矢を撃ち込んでおけ!」


 矢筒に鎧の神力を沈めることで、壁そのものを強化する。



 第一と第三分隊が大鬼の方角に向け、一斉に矢を放った。


 風の力と重複しているので、追尾機能は健在。


「不発!」


 小隊長は舌をうつ。これは自分の失敗だ。


 多くの矢が命中したが大鬼の皮膚は硬く、刺さったのは数本だけ。火力も〖炎矢〗に比べればずっと低い。



 急停止の反動を利用して、大鬼が手に持った槍を解き放つ。


 欲望の兵士は凹凸から身を乗りだしていた。


「防壁展開っ!」


 それは彼の見間違いだった可能性もある。


 一瞬、大鬼の腕が黒い蒸気を。


 投擲された槍は空気を斬り裂き、壁の下部へと迫ってくる。



 兵士たちが放った矢は町壁の〖盾〗に変化。


 命中と同時に氷の膜が発生するも、重量を持った大槍は止められず。だが威力を弱めることには成功したか。



 槍は町壁に突き刺さったが、この建築物を守るのは〖鎧の矢〗だけでなく、石を専門とする加護者の神技。


 また壁上には、一定の間隔で彫刻家の作品が並んでいた。〖背負い十字〗と似た力があるようで、近くに設置された守護神の像には亀裂が入る。


 

 

 投げる動作を終えた大鬼は、反動でその場に立ち止まっていた。


 〖聖拳士〗たちが接近。


 〖化身〗と比べればまったく洗練されてない動き。それでも魔系統特化の一撃が、頑強な皮膚を持つ大鬼をも怯ませる。


「第一から第四分隊は土を使い足止めっ!」


 土の神力を〖矢筒〗に沈ませる。


 〖私の弓〗であれば命中した部位の重量を調節。


 〖みんなの弓〗であれば、地面に突き刺さった一定範囲の敵に歩行阻害。その本数により弱から強へと変化。


 大鬼の皮膚を突き破るのは困難なため、加護者が使ったのは〖みんなの弓〗だった。


「第五分隊は〖私の弓〗にて、近接武器の神力を使え!」


 打系統であれば命中した時点で、鉄板を陥没させるほどの衝撃が発生。


 斬系統であれば出血量増加のデバフ。


 突系統であれば貫通力強化。


 〖みんなの弓〗であれば、これら効果が全員の矢に分散される。



 第五分隊の〖矢筒〗には、鈍器の神力が沈められた。


 加護者が放った一本の矢は風の追尾を得て、大鬼の頭部に命中。


 額当てと頑強な頭蓋に矢は深くは刺さらず、負わせた傷も致命とまでは届かなかった。


 だが問題ない。



 止めていた呼吸を再開させ。


「角の破壊に成功しました!」


 あのオーガでさえ、ものすごく弱体化したのだから、もう〖聖拳士〗の敵ではないだろう。



 小隊長は周囲を見渡し。


「大鬼に気を取られすぎたな。他の魔物が大分迫ってきている」


 骨鬼は整列を開始しており、小鬼や肉鬼もすでに一部の〖聖拳士〗と交戦を開始していた。


 隣を受け持つ別小隊から、援護の矢が放たれる。


「第二・第四分隊はそのまま盾を継続! 第一・第三は風の追尾で小型と中型を狙え!」


 もし堀の中に潜られても、水の神力があれば問題ない。


「第五分隊は〖みんなの弓〗に切り替え、近接武具の神力で大型を仕留めろ!」


 とりあえずの危機は脱した。


 伝令に指示をだし、事の次第を拠点から本部に送ってもらう。


「協会から時空の加護者を呼んでもらってくれ」


 〖修復〗は壁上の神像にも有効だった。



 救援組は〖犬〗を利用して現場に向かう。


 紫の狼煙は時間の経過で消えるため、このままにしておく。


「私が来たっ 来ちゃったわよ!」


 ルカは制御できないので、赤か紫の狼煙に向かって爆走することになっていた。


「恨むな・妬むな・殴りましょ……あれっ?」


 大槍は灰にもどり、町壁に穴と亀裂だけを残した。

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