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いつか終わる世界に  作者: 作者です
魔界の侵攻
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7話 ラファス防衛戦 開戦


 町の場所をどのように把握しているかは判明してないが、鬼が偵察などを使うとは考えにくい。


 人が集まっている場所を察知できるのか、道にそって移動をしているだけなのか。


 宿場町からラファスまでは二日とされるも、魔物がゆっくり迫ってくるとは限らない。それでも大群での行動となれば移動は遅くなる。


 ただ忘れてはならない事実として、鬼は睡眠欲を持たず。



 教都までは徒歩で五日。この町に数千の敵が押し寄せてくるのなら、そちらに流れる魔物はどのくらいになるのだろうか。


 ある理由から、準備が整ったとしても騎士団や予備軍はすぐに動くことができない。


 魔物が集まれば瘴気もそれだけ濃くなるので、空間の腕輪があったとしても、馬車が使えなくなればそれだけ援軍は手間どる。


・・

・・


 ギョ族。


 思いもよらぬ増援に町中はちょっとした騒ぎになったが、今は長旅の疲れを癒してもらう。


 その風貌に皆々は度肝を抜かれたが、存在自体は噂という形で民にまで知れ渡っていたので、大きな混乱とはならなかった。


 本部としては防衛の上で水路が弱点とされていた点から、そちらへの配置をお願いしたいところ。


 しかし調べてもらった結果によれば、排水路や出水地点は水質の関係で難しいそうだ。なので用水路と入水地点の二重壁や、その周辺を主に受け持ってくれることになった。


 ボスギョは法衣のルカと渡り合える実力があるので、正直にいえば救援として動いてもらいたいが、彼または彼女には直属の手下もいるため見送られた。


 だとしても、人手不足を危惧されていた、山脈方面の補強ができた点は大きい。


・・

・・


 午前八時を過ぎたころ。


 その時は刻々と迫っていた。



 この場にいる全員が理解をしている。


 共有された〖犬〗の視界は距離がひらくほどに悪くなるが、今は確りと見えている。


 いや違う。もうそんな段階ではなかった。 


 不規則かつ野蛮な足音が地響きとなり、さっきから耳を刺激してしかたない。


 〖岩柱〗が無理やり闘志を掻き立てる。



 外壁の見張り台で警戒を続ける団員が、森へと続く大道の先を睨みつけ。


「来たぞっ!」


 軽装の神技で〖種吐き花〗の準備を始める。



 彼と同組である〖風読〗の使い手が。


「もう展開を始めてるから、そこら中から出てくるよ!」


 町門に続く大きな道からだけでなく、森中から鬼たちが怒涛の勢いで飛びだしてきた。




 外壁に近づくほど、〖岩柱〗による精神の圧迫が強まる。


 弱い個体が怯えて立ち止まろうとしても、後ろには大量の魔物がいるため足を動かすしかない。


 歯を喰いしばり、〖柱〗からの威圧に耐える鬼もいた。


 叫ぶことで心を奮い立たすのも確認できる。



 だがその中に骨鬼や大鬼の姿は見えず。


 後方の森中から、木々を薙ぎ倒す巨鬼の姿が複数。



 先端を尖らした防護柵に肉鬼が激突したが、黒い血を流しながらも足は止めず。


 小型の鬼も後ろからの圧で避けることが出来ないようで、木の先端に刺さって死んだ個体も多い。



 防衛戦なため槍の〖魁〗は採用されず。


 

 神力混血で強化させた喉を使い、土の加護者が叫ぶ。


 軽装の神技、繋がる心。


「〖放てっ!〗」


 外壁上の〖花〗は第一世代であり、斜め上を向かせた状態で発射させる。攻撃よりも種まきを優先させているので、地面に落ちるだけでもその役目は達成されている。


 敵が近くまで来ていたのは事前に把握していたので、〖肥料の雨〗により田畑にはすでに大量の〖花〗が生い茂っていた。

 



 防護柵を免れた鬼たちが大量の種に傷つけられる。


 古びた装備を貫通しても、本物の魔物はしぶとい。


 第二世代からの負傷では勢いは止まらないが、第三となってくれば姿勢を崩し、後ろからの圧に踏みつぶされる。


 第四世代は数がまだ少ないが、肉鬼すら倒れさせる威力が見られた。



 それでも押し寄せてくる波は止まらず、田畑はあっという間に荒らされ、盾を構え先頭を走っていたゴブリンたちが〖花〗のもとまで到着した。


 踏まれて倒れる第二世代。


 茎ごと切り払われる第三世代。


 肉鬼に毟られる第四世代。



 これまで一切の攻撃をしていなかったその〖花〗は、とても美しく咲き誇っていた。


 最終世代は他よりもずっと小さく、魔物に踏みつぶされようと、その身を再び起き上がらせる。


 同じ生きとし生けるものだとしても、その治癒は人間と違い瘴気に邪魔はされず。



 小さな花の周囲に存在していた〖親花〗たちもまた、ゆっくりと再生を始める。


 損傷に応じた時間を要するが、根ごと引き抜かれない限り、〖種吐き花〗は雑草の如き粘り強さを持つ。

 


 〖花〗を突破してもまだ外壁までは距離があった。


 群れには群れを。


 〖土狼〗が傷ついた小鬼どもに接近し、容赦なく激突する。


 量産された杖やローブだろうと、断魔装具であることに違いはない。


 土の身体に生える草は刃を防ぎ、根は石核を守る。さらにはゴーレムなので毒は利かず。



 そもそもこの方面を受け持つのは、迷いの森を活動の場とする連中だから、職人がつくった装備品を支給された者も多い。


 ただし〖土狼〗が〖犬〗なしで対応できるのは小鬼までなようだ。


 肉鬼は体当たりを大盾で受け止めることができ、大剣の当たり所が悪ければ石核も損傷する。



 壁上の誰かが顔をしかめながら。


「くそっ やっぱ僕じゃ力不足か」


 熟練故か、将製の杖やローブを使おうと、草が生えない個体もいた。



 小鬼は〖狼〗により足止めされても、肉鬼がゴブリンを追い抜いて前にでる。



 オークの側面から巨大な影が接近。


 とっさに大盾で防ぐが、うすく苔むした〖岩亀〗の体当たりによる衝撃は、〖狼〗のそれとは比べ物にならず。


 地面を削りながら吹き飛ばされ、続けて壁上からの矢が突き刺さる。


 〖炎矢〗によりオークは燃え上がった。


 それでも肉鬼は諦めず、涎を撒き散らしながら体を起こすが、灰となって散っていく。



 小鬼たちもなんとか〖狼〗の群れから抜け出し、こちらへと向かってくる個体が複数うかがえる。


「おら行けっ!」


 風矢の友が空に舞い上がると、〖雨〗となってゴブリンたちに降り注ぐ。




 大群が相手でも籠城はある程度持ち堪えることが可能。


 それに加えて地上では召喚された戦力。




 だが魔物は質よりも量だった。


 森を抜けてすぐの地点に、骸の兵士たちが整列すれば、斜め上に弓を構える。


 矢は壁上までは届かなかったが、ゴブリンやオークごと〖狼〗と〖花〗に降り注ぐ。



 骨鬼の矢だけでなく、〖岩柱〗による精神の圧迫。


 それでも消耗品のごとく、まだ田畑にいた小鬼と肉鬼は足を止めず。大道だけでなく、隊列を組んだ弓兵の隙間からも、続々と外壁めがけて押し寄せる。



 全ての矢を撃ち終えれば、骨鬼は補充をすることもなく矢筒と弓を投げ捨て、片手剣を抜いて走り出した。



 外壁の隙間。


 盾を持った二名。


 〖呼び声〗が鳴り響けば、魔物たちの一部はそちらへと引き寄せられる。


 流れが発生すれば、後へと続く個体も増えて行く。


「〖大型は通すな!〗」


 指示をうけた防御型の〖岩鎧〗が前にでて、岩盾で肉鬼の進路を塞げば、攻撃型が回り込んで岩の剣を振りかざす。



 壁上の〖種吐き花〗は〖肥料の雨〗に濡れながら、ずっと種を放ち続けているため減ることはなかった。


 〖土狼〗の数は魔物に比べればずっと少ないが、土使いが常に複数体を召喚して補充を行っている。


 〖闘争の岩柱〗により神力の消費も抑えられているし、〖食事〗によるバフもまだ数時間は残るだろう。




 森の木々をへし折りながら、その巨体がついに田畑へと足底を減り込ませる。


 〖花〗の種を打ち込まれ顔をしかめるが、無視して前進を続けた。


 馬鹿でかい鉄球がついた鎖を頭上で振り回す。



 投げさせはしないと、〖炎矢〗と〖風矢の連射〗が放たれる。


 突強化で剛毛を貫けばその部位が燃え上がり、〖友〗の一つが巨鬼の片目に命中した。


 熱さと痛みに耐えきれず、姿勢を崩して後ろへと尻もちをつく。地響きと共に数体の魔物が押しつぶされたが、巨鬼はまだ戦意を失っておらず。



 探検者の士気は高かったが、まだ最後の一押しが不足していた。


 両腕に中盾を装備していた土の加護者が、周囲の味方を見渡してから。


「まずは誰かがいかんとな」


 〖大地の腕〗に飛び移り、二名の探検者が地面に下りる。


 残りの三名は別組の〖岩亀〗を使わせてもらう。



 すでに地上は混戦状態なので、その隙を狙われる心配も少ない。


 ルドルフォは前を向いたまま。


「闘争の祝福があらんことを!」


 現在。戦いに参加している探検者は、遠・中距離の攻撃手段を持つ者だけ。



 叫べば敵にも味方にも意識を向けられてしまう。


「寄ってくる前に来させてやらあ」


 左右の盾を前と後ろに持っていき、腰を捻って姿勢を整えた。


 〖引力の渦〗 高い熟練を備えた〖飲み込む盾〗を、左右別々に発動させた状態で、身体を勢いよく一回転させる。


 周囲にいた骨鬼と小鬼がルドルフォに引き寄せられたが、肉鬼は踏ん張って耐えきった。


 〖弾ける渦〗 引力の渦を使用した直後、身体を一気に逆回転させ、敵を仰け反らせる。


「今だっ!」


 〖火心〗をまとった炎使いが、隙をさらした魔物どもを次々に槍で沈めて行く。


 〖錆の雨〗がボロボロの鉄を一層に劣化させているので、突き刺しても抜くのが楽になっていた。


 合図を待っていた数体の〖犬〗が、〖狼〗たちを肉鬼どもに群がらせる。


 

 巨鬼が身体を起こし、田畑に減り込んだ鉄球を持ち上げると、鎖を右の前腕に巻き付けてからこちらへと走り出す。


「道を開けろ!」


「了解っ!」


 〖ローブ〗に輝きを灯した土使いが〖犬〗に指示をだせば、〖狼〗が邪魔な個体を喰い止める。


 ルドルフォは真っ先に走り出し。


「俺が受け止める、援護を頼むぞ!」


「任せろ」


 風使いは〖狼〗に守られながら、その場にとどまった。


 リーダーの後を追いかけるのは火属性の槍。



 巨鬼とルドルフォが接触。


 腕に括り付けた大きな鉄球が容赦なく振り落とされるが、地面に靴底を沈ませながらも、なんとか盾で受け止めた。


 〖重の盾〗 土盾の発生。表面に当たっている時だけ、相手武器の重量を調節する。


 だが操作できる重さにも限度はあった。背後から放たれた〖風圧の矢〗が、潰そうとしてきた相手の武器を弾く。


 左腕の盾を装備の鎖に戻し、すぐさま〖片手剣〗に交換し、その切先を鉄球に当てる。


 〖重の剣〗 土剣の発生。命中した相手の装備を数秒だけ重く、または軽くする。


 巨鬼は接触した時点で傷ついていたこともあり、重くなった鉄球を支え切れず、前腕ごと地面へと吸い込まれる。


 その隙に仲間が側面にまわり込み、〖炎槍〗でトロールは完全に沈黙した。



 壁上の誰かが叫ぶ。


「矢が来るぞっ!」


 新たな骨鬼たちが森から姿を現していた。


 すでに整列を終えており、先ほどよりも前進した位置から矢を放つ。


 今度は壁まで届きそうだった。



 ルドルフォは舌打ちを一つ。


 巨鬼が燃えながら灰にもどり、前方の視界が塞がれていた。


 背後の仲間に意識を向け。


「間に合うかっ!」


 風使いは装備を弓から杖に交換。


 彼に返事をする余裕はなかった。


 神力を杖に沈ませることもできなかったため、〖向かい風〗が発動するもその風圧は弱い。


「身構えろ!」


 〖盾〗で矢に備える。


 もう一人は〖炎心〗の防護膜に守られた。



 魔物どもは矢が降ってこようと関係ないようで、防御姿勢に入った二人を狙うが、それは〖土狼〗も同じこと。


 背後にいた風・水・土の三名は、他組の召喚していた〖岩鎧〗の大盾に守られる。



 ルドルフォたちに感化され、いくつかの探検組が地面へと降り立っていた。


 中堅の男は団員たちに向け。


「良いかっ! 灰になるまでは油断するな!」


 足もとは〖聖域〗に照らされていた。


「遠距離で攻撃できる奴は、そのまま壁上から田畑の骸骨を狙ってくれ!」


 風使いもその指示を受け、〖大地の腕〗で外壁を上る。


「降りてくるのか怖けりゃそれで構わんさ!」


 経験者が率いる初級組などは、この方面を受け持つことになっていた。


「もし中距離が可能なら〖岩柱〗が壊されないよう、回り込んで来たのを対処してくれるだけで良い!」


 どうして俺がこんなことをしてるんだと、心の片隅で愚痴りなから。


「なにもできない奴は骨鬼に意識を向けてろ、そんで放たれる前に知らせてくれ!」


 前回の侵略は当たりだったと言えるだろう。流れてくる魔物も割かし少なく、召喚だけで十分に対応ができた。


 何事もなく終わると思っていた。


「それだけで良い」


 黒い靄をまとう鬼が現れるまでは。


「……っくそ」


 狼煙を上げるだけで、ある一つの組を除き、誰も壁から降りようとはせず。


 自分の組が出なくて済んだと、どこか安心しながら眺めているだけだった。



 本当はこんなことをする性分じゃないとわかっていた。


 すれば後には引けなくなる。


「ラファスに勝利をっ!」


 新人を率いていたリーダーが、〖炎矢〗を放ちながら。


「勝利を!」


 腹の底から、皆が同じ言葉を次々に叫び出した。


 








ここからどういった流れで運んでいくか、まだ曖昧なのでしばらく投稿は止まります。

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