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いつか終わる世界に  作者: 作者です
魔界の侵攻
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6話 ラファス防衛戦 目前



 大平原のように魔物を大量に吐き出せた方が、【門】は自然に閉じやすいと伝わる。


 山脈と海のあいだに存在する平野は、そこに比べれば狭いので、恐らく天上界が対処するまでは塞がらない。



 集結した数千の郡れは第一波として宿場町を目指した。


 天からのお告げを受けた教会の神職が、その情報を拡散して回る。


 第二波も宿場町で、もう現状で魔物に囲まれているそうだが、一部が峠の道を通り城郭都市の方面に流れているとの情報もある。


 ここまでは大方の予想通り。


 問題は次だ。


 港町か、それともラファスか。


 この二つよりも距離は離れているが、製鉄町という可能性も無いとは言えず。


・・

・・


 ラファスの内壁に面した建物が、防衛における本部となっていた。


 卓上には町の見取り図に駒が置かれ、数名がそれを囲う。


 軍。教会。協会。探検者。


 〖犬〗を扱える者が数名おり、また町壁や外壁で待機する者が召喚した〖犬〗も数体。


 集結を終えた魔物が動きだしたとの情報が届き、その一室は緊張に包まれていた。



 少しして足音が近づいてくる。


 扉が荒っぽく開かれると、中央教会の職員が呼吸を整えたのち。


「第三波、こちらに向かってきます」


 すでに各自はそれぞれの持ち場についていた。


 グレゴリオが皆を見渡してから、最後にミウッチャへと視線を向け。


「いよいよだな」


「……うん」


 この場にいるのは彼女とバッテオだけで、他のいぶし銀メンバーは別室で待機中。


 本当は兵士のように三交代で回せれば良いが、探検者は日中と夜間の二交代でないと人手が不足する。



 それぞれの〖犬〗に合図を送らせ、文章でのやり取りを経て、町壁と外壁に茶色い狼煙があがった。


 この場に鎧をまとう者はいない。



 軍服を着たうちの一名が眉間に皺を寄せ。


「情報にあった放浪が紛れてなければ良いが」


 【隻腕】【毛無】【汚染】などは元になった存在がいるため、オリジナルではとのことで決着している。


 ただもしその本物が出たというのなら。


「あれの対処は上級組でも無理だよ」


 もし同列の魔物がいるとすれば、ラウロが試練で戦った大鬼の全盛期。


 最悪だと天使ですら荷が重い存在の危険もあった。



 ヴァレオの上司である支部長が報告の内容を思いだしながら。


「遭遇した探検組は被害を受けたが、意図は解らずも見逃されたとのことです」


 土の柱教長は中央教会で天上界とのやり取りをしているため、ここを任されているのは上位の神官。


「今は我々にできることをするしかありませんかね」


「……そうですな」


 すでに打ち合わせは終わっていたが、実際に戦争が始まったこともあり、確認の意味も込め戦力の配置について語る。



 町壁に関しては兵士側の代表である軍服。


 彼は咳ばらいをしてから、気持ちを切り替えて見取り図を睨みつける。


「まず初めに、魔物は防備のうすい所を狙うといった行動はとらん」


 一方面が埋まったから別の所へ移動するだけで、それが包囲といった形になっているだけ。


「町の壁上は兵士が担当し、水堀の向こう側は〖聖拳士〗が立つ」


 本来は土の加護者が熟練の低い〖狼〗などで対応するが、今回はラウロがいるため予備戦力として温存しておく。


「各分隊に最低でも一名は弓の加護者が入るよう編成してある。それ以外の属性もなるべく均等に割り振ったが、やはり教都方面はそれが上手くできとらん」


 弓の神技はラウロの召喚と同じく、他者の神力を利用できた。



 続いて外壁に関してはミウッチャが説明する。


「予定してる配置なんだけど、それ自体に変わりはないかな」


 宿場町方面は鉄塊団が中心となっている。ただし初級の者は少ない。


 海の方面は中規模の徒党が団結して守る。


 教都方面は腕に自信のない連中が多いものの、天上菊のような小規模の徒党や、不良組なども含む。


「ただ受け持ちに関して、ちょっと変更がでちゃってさ」


 各方面の外壁には拠点が一つずつ存在しており、〖犬〗で本部と繋がっていたりする。



 宿場町側にはイルミロかミウッチャ、そして場合によってはルドルフォの誰か一名が、常にいる状態を保ってもらう。


 海側は頭首の誰かに交代でお願いするつもりだったが、ラファスが外れを引いたこともあり、降りたいとの願いが相次いでしまう。


 支部長が苦笑いを浮かべ。


「今はヴァレオ君に頼んでいますが、嫌味を言われてしまいました」


 協会の戦闘員は町で待機しており、状況を見て戦力の不足している所に送られていく。


 そして実力面でもっとも不安が大きいのが教都方面となっていた。


「正直いえばこちらにも役目がありますので、彼が抜けてしまったのは痛いところです」


 空間の腕輪が使えるので、そこまで大掛かりな人員は必要ないが、外壁に物資を運ぶのも協会員。


 彼らがいるからこそ、二交代で回せるという面もある。


「まあそういうことだからな、俺もそろそろ持ち場につかせてもらう」


 教都側の拠点にはヴァレオの代わりとして、これからグレゴリオが向かう予定。


 一人残されるミウッチャを見て。


「あまり気負うなよ。お前らの団長はまだイルミロだしな」


「なるようにしかならない。だったね」


 もし敵の攻勢が激しくなった場合。


 当人はものすごく嫌がっていたが、この作戦本部にはルドルフォが来ることに決まっていた。


 いぶし銀は貴重な上級組だから、仕方ないっちゃ仕方ない。


 グレゴリオは去り際にバッテオの肩に手をおいた。


・・

・・


 第三波の知らせを受けてから、もうすぐ一日が経過する。


 昨日のうちに〖聖拳士〗の必要数は揃えたので、いくらかの睡眠をとって今は夜明け前。



 山脈方面の外壁に聖者が立つ。


「魔物にとっちゃ、ここが狙い目なんだよな」


 地形も壁を建設するのには適しておらず、さらにはラファスへの水路が通っている。


 この場にはモンテとフィエロが付き添う。


「だからこそ満了組の受け持ちになったんだろ」


 現在〖聖域〗を張る作業に従事しているが、この方面は光属性が主なので、今は宿場町側に向かう途中。


「全員で守れりゃ問題もないんだがよ」


 満了組の一部は救援として、他の方面にも割り当てられている。



 モンテはため息をつき。


「イージリオさん、やる気だしてくれたら良いんだけどな」


 第二班はもともと強力な個体を専門としていたが、魔物は報酬を落とさない。



 モンテたちは〖聖域〗による支援が主体だが、もしかすると救援に回される可能性もある。ただラウロの身に何かがあった場合、回復の関係で全体が劣勢になる危険が拭えず。


「師匠、どこ行っちまったのかね」


 レベリオらが【門】のことを伝えに行った時点で、もうルカの姿は消えていた。


 〖犬〗を走らせ魔物の現在地を把握ているため、一人で大群に突っ込んだといった情報は入っていない。


 ラウロは苛立った口調で。


「ボスコの野郎もまだ戻って来ねえ。このままじゃ俺らの役目に響くんだがな」


 いなくなったルカを待ち、彼はダンジョン広場で待機しているが、そろそろ諦めろと正式に命令がくだる頃か。

 

「隊長がいないとなれば、強い個体への対処が厳しくなるぞ」


 ルカ一人ならどんなに離れていても、最速で現場に到着が可能。制御は難しいかも知れないが、とにかく赤や紫の狼煙が上がった所を目指してもらう。


 初見で大紋章の単独攻略を成功させるような化け物が、ラファスを守るために空を駆ける。


「師匠なりの考えがあってのことだろうけど、要件を伝えてから動けっつんだ」


「……」


 まったくその通りだと、フィエロがうなずく。


・・

・・


 まだ朝陽は確認できず。光神技に頼らなくても、〖灯火台〗が設置されているので問題はない。


 戦争が始まれば輝く狼煙も上げられるため、夜間はより明るくなるだろう。



 外壁から町壁への通路も土台は石だが、木製の造りとなっていた。建築系の神技で強化されており、土袋を積み重ねるなどで補強もされている。


 ただ大きさは外壁と同じなので、町壁とは高低差があった。


 そして両者の間には水堀。


 町壁の上部に設置されていた橋を下ろさなくても、この三人は〖壁・足場〗を使って自力で渡れる。


 また兵士の中には土の加護者もいるため、熟練はともかく〖岩亀〗を使える者もいた。




 モンテは堀の向こう側を眺め。


「よくもまあ、こんな数を召喚できるもんだな」


「俺が消費する神力は聖拳一回分ってとこか。ほんと闘争神に感謝って感じだな」


 〖岩柱〗は土の加護者につき、一本までしか召喚ができない。



 今となれば何となくわかる。


「骸の騎士や欲望神と同期ってことは天の位なんだろ」


「そうだな。制限しねえとカチェリの嬢ちゃんみたいになっちまう」


 この三人には〖認知結界〗が張られていた。


 いざ戦場となった時、これの有無で支援の作業効率が大きく違ってくる。


「……感情神か」


 はるか遠い昔。


 今は名すら消えた滅びゆく国で、勇気を振り絞った若者がいた。


 友の肩を借り、震える足で立つ。


 これは有名な逸話で、現在にも広く伝わる。


 恐怖の紋章を背負えば、徐々に心が蝕まれていく。


 それでも最前線で戦うほど、上空に浮かぶ勇気の紋章は、都市を覆うほどに大きくなる。


「正直。お前らがいるだけで肩の荷が下りたっつうか」


 前回の失敗を踏まえ、二人は【門】が開くと同時に、神としての記憶を取り戻していた。


 知ったのは数時間前。


「まあなんだ、心強いわ」


 フィエロが過信するなと、左右に顎を振った。


 モンテも苦笑いを浮かべながら。


「けっきょく人間であることに違いはないからな」


 無理やり力を引き出すと、徐々に肉体の崩壊が始まる。



 光の戦神。


 もとは傭兵だったから、戦のある所にはどこにでも行く。


 魔界がまだ地上界だったころ、失敗して罪を背負った神もいれば、大きな功績を残した神もいた。


 濃い瘴気により〖転移〗の精度もままならぬ状況で、創造主の命を受け降臨した者たち。


「ただこの機会にやっておきたいことはある」


 モンテがこちらに手の平をかざす。


「一応だが、許可は下りた」


 今の世に勇気と友情の属性があるのは、寸前で〖刻印〗を授けることに成功したから。


「……そうか」


 奴の性格を良く知るラウロからすれば、その交渉が成立するとは想像できなかった。



 幾多の世界を巡る者ほど、留まることを拒否する場合が多いのは事実だったりする。


 無自覚に無意識に、彼らは宿命を背負っているのだから。


・・

・・


 魔物も移動には道を利用するので、押し寄せてくるとすれば宿場町の方面。


 木製の壁上には土が敷かれ、第一世代の〖種吐き花〗が列をなして召喚されている。


 まだ種は吐くなと指示されているようで、〖花〗はクネクネとうねるだけで待機中。


 ラウロはその光景を眺めながら。


「敵として戦った経験しかないもんで、どうも身構えちまうんだよな」


 騎士団時代は周りに光属性しかおらず。


「城郭都市の時もこんな感じだったろ」


「まあな」


 あそこには立派な壁が聳え立っていたので、ラファスのような外壁はなかった。


 内壁も二重構造となっており、天空都市よりも頑強だったりする。


 大門は別として、一番外側の壁は突破されることが前提なので、入り組んだ迷路状の小壁が張り巡らされた空間となっていた。




 ラウロは資料を確認しながら、この持ち場を任された探検者たちを見渡し。


「ここには水使いがいるな」


「ああ、とりあえずは大丈夫だ。在庫が尽きる前に増援が来てくれりゃ良いんだけど」


 魔物を相手に水の神技で治療する場合は、〖雨〗と〖回復薬〗の二つが必要になってしまう。


「そうならんよう祈るしかないわな」


 モンテは森の方角を見つめながら。


「〖森〗に感謝だ。うちは余所の町より余裕はある方だ」


 いろんな〖薬〗の素材が揃っているので、教国にはこの町からの品が多く出回っている。


・・

・・


 ラファスは都市と呼ぶほどの大きさはなく、それと比べれば人口もずっと少ない。


 【門】のせいで何処からでも魔物が大量に出現してくるので、各町はその対処に要塞化が進められた。


 外壁の周囲は木々が伐採され田畑が広がっており、道は森へと伸びて消えて行く。


 探検者の役目は小型や中型の数を減らす点もあるが、町壁にとって危険な大型を排除するといった面が強い。


 なので完全に喰い止めてしまうと、それだけ圧迫は強まるため、外壁にはあえて隙間が用意されていたりする。


「ここは〖岩鎧〗か」


 大型とはいえ、その体長は外壁の半分もなかった。


 巨大な盾を岩の前腕から外すと、両手で端を握って持ち上げる。



 外壁と外壁の中間に足場ができたので、モンテは試しに飛び移ってみた。


 神力混血で肉体は強化されている。


「盾使わなくても飛び越えられそうか」


 フィエロは装備の鎖を使い、あえて騎士鎧で岩盾の上部を踏む。


 ラウロは地上を見下ろしながら、その光景を想像して。


「魔物がいる訳だし、ちっとでも安全に移れんとな」


 通れる場所があるのなら、無理して壊さなくても良い。


 知能が高ければ逆に怪しむかも知れないが、魔物にそこまで考えて動く個体はいないと信じたい。


・・

・・


 この位置を守る探検組には水の加護者が不足していた。


「聖域は地上で良いか?」


 鉄塊団の団員は足もとを指さし。


「できればこっちにもお願いします」


「おうよ」


 〖闘争の岩柱〗は外壁の裏側に出現していた。壁の内部に空間をつくり、そこに発動させるといった案もあったらしいが、強度の関係で没になる。


 この場で〖聖域〗を展開させてから。


「あれ使ってみたいんだけど」


 壁上には小型の昇降装置が取り付けられていた。


「別に良いですけど、〖足場〗の方がなにかと良いのでは?」


「すまんね。俺の所属してる徒党なんだがよ、あれに頼るしかないんだわ」


 サラがいれば可能だったが、追加料金を払っているのだから仕方ない。


「なるほど、そういう事でしたか」


 団員は装置を使うため準備に入ってくれる。


「ちょっと待ってくださいね」


 折りたたみ式の足場は壁上よりも一段低い位置に存在していた。


 小さな力で大きな力を生み出す。


 歯車。テコの原理。支点・力点・作用点。


 なんだか良く解らない機構が使われていて、とりあえず混血による強化がなくても、二名いれば一組分の足場を上下させることは可能。



 壁上の凹凸を跨ぎ、鉄板で補強された木製の足場に飛び移れば、視線は稼働音と共に下がっていく。


 手すりなどはないので、姿勢を崩さないようラウロは両足で踏ん張るも。


「不具合はないみたいだけどよ、戦場で使うとなりゃ不安もあるか。思ったよりは揺れんな」


 なるべくは〖大地の腕〗や〖岩亀〗に頼りたいところだ。


 地上までは運んでくれないようで、足場は途中でガタンと停止した。


 モンテは下方を覗きこみ。


「飛び降りろってか」


「まあそこまで高くもない」


 地上では〖狼〗を筆頭に、土属性の神技が召喚されているので、集中して狙われる心配もないだろう。



 ラウロは地面に着地すると、探検者にどの辺が良いか聞きながら、数か所に〖聖域〗を展開させる。


 三人は壁上にもどることなく、外壁にそって移動を再開した。


・・

・・


 しばらく団員とやり取りをしながら、〖聖域〗の支援作業を続けていたが。


「大門が見えて来たな」


 ダンジョン広場に向かう時は、いつもその道を通る。



 ふとフィエロが周囲を見渡す。


「んっ? なんか騒がしくないか」


 モンテの発言を受け、意識を集中されば、確かに団員たちが慌てていた。



 普段は迷いの森で活動している探検者が。


「魔物だっ! 戦闘準備に入れ!」


 ここは大きな道が通っているので、激戦が予想されている場所だった。


 なので見張り塔だけでなく、木製の壁で囲われた石造りの拠点も建築されている。



 上級で活動している中堅組のリーダーが叫ぶ。


「違うっ ありゃ味方だ!」


 三人は走り出した。


・・

・・


 すでに周囲は明るくなり始め、朝陽が全身黒ずくめの巨体を照らす。


 頭にはターバンを巻き、口もとも布で覆われている。


 目は色付きの眼鏡で隠されており、王の法衣をまとう。


 靡くマントは内側が白かった。



 ボスコ少年がこちらに手を振りながら。


「みんなぁー 増援が来たぞー!」


 一体は興奮した様子で踊り狂っていたが、始めての地上界に彼らはキョロキョロと周囲を見渡していた。


 連中は都会育ちなので、実は自然に触れるのは今回が初。



 故郷は天使たちが代わりに守るとの交渉が成立。


 人間と関係を持ったことで、彼らが得たのは武器だけではない。


 〖潤い薬〗により水辺から離れても、ある程度の活動が可能になる。


 成魚の数も増えた。


 ボスを含めた二十体がラファス。


 精鋭を含めた残り全ては宿場町。



 黒ずくめは立ち止まり、共闘せよのポーズを決める。


「彼らは味方よ!」


 どこの誰かは知らないけれど、なんか誰もが知ってる肉体美。


 日輪の光を帯びたその巨体がヒーローだとすれば、完全に敵役の怪魚だけれども。


 誰がなんと言おうと。


「良い人なのよぉーっ!」


 地上界の危機にギョ族が駆けつけてくれた。

 





 呆れながらも、皆の心に活気が灯る。





個人的に外壁というのは無理がある仕組みだなと感じているのですが、ちょっと頑張って練ってみました。

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