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いつか終わる世界に  作者: 作者です
魔界の侵攻
91/133

3話 魔物



 戦いのあった場所から移動した。


 ルチオの傷は〖泣くな友よ〗で出血は止まっているが、アドネに手伝ってもらい布をきつく巻いておく。



 村人を護衛している探検者たちには〖犬〗をつけていたので、何かあったことは合図により向こうも把握している。

 だが正確な情報を知らせる必要があった。


「現状をメモして、犬を村人たちのとこまで走らせてくれ」


 強力な小鬼と遭遇し、一名死亡と一名負傷。そいつは【小門?】を使って何処かに消えた。


 自分たちを見逃したことと、姿から察するに放浪の可能性。ただそうなるとあの個体は偽物ではなく、本物ということになる。



 周囲に散らばっていた敵に気づかれ、もしかすると戦闘になるかも知れない。現状で道を魔物に発見させたくないので、ここで隠れてやり過ごす予定。


 やばい時は救援の狼煙を上げるが、判断はそちらに任せる。上手く行けば他の村に向かっていた探検者が気いてくれるかも。


 ルートを変更してラファスへ向かうでも構わない。


 土使いは〖犬〗の胴体にメモを埋め。


「向こうの犬をこっちに付けてもらうべきだったな」


「しゃあない」


 一方通行になってしまっている。


・・

・・


 周囲の暗さは一層に増した。


 携帯食料は少しだが持参していたので、軽く食べておく。


 明かりは点けず。


 〖気配〗で周囲を探りながら。


「今のところ気づかれてないが、まだ俺らのこと探してる」


 アドネも〖神眼〗で周囲を見渡し。


「お陰で道は発見されてないみたいだね」


 遺体に関してだが、ここまで運び茂みに隠させてもらっている。肉鬼がそれにどういう扱いをするかの想像ができるので、本当は埋めたいが今は道具も時間も不足していた。



 しばらくして、目を閉じていた土使いが。


「犬が村人たちのとこに到着した」


 映像でしか判別できないが、文章でのやり取りは可能だった。


「村人の護衛で手一杯だから、こっちに回す余裕はないってよ。明日を待って別のルートからラファスを目指すそうだ」


 口調から苛立ちを感じられるが、抑えようとしていることも伝わってくる。


 夜になれば合流するはずだった戦力がこの様だから、仕方ないとしか言えないか。


「他の村に向かった探検者たちに救援を頼めないか、犬を走らせてくれるそうだ」


 馬車で向かった連中は今日中にラファスへと到着できただろうが、自分たちのように一夜を明かすことになった者たちもいるはず。


「本当に犬系統の神技って便利だな」


「これが使えるなら、優先すべきだって言われたからな。まあ現状からして、その通りだよ」


 現在。村人の護衛団には二体の〖犬〗がいた。


「向こうの召喚者が正確な位置を把握したいそうだから、俺の〖犬〗が先導してここまで連れてくる」


 犬と召喚者の意識は共有されているので、他村の護衛団へと向かわせた個体が、救援してくれる場合はこっちに連れて来てくれるそうだ。


「うちらからも、余所への救援要請は走らせといた方が良いか?」


 別の護衛団がどこにいるか分かっていない。ラファスへの道ぞいだとは思うが、ルートは幾つかあった。


「戦力に余裕がないからな。俺の意見としては向こうに任せとくで良いと思う」


 天上界から教会へのお告げと同じく、この世界において〖犬〗は最も使われる情報の伝達手段だった。


・・・

・・・


 数時間が経過した。


 誰も時計を所持していないので、正確な時間は今のところ把握できてないが、夜の九時または十時といった所か。


 護衛団の〖犬〗とは合流に成功しているが、三人は移動をしていた。


 現在地の把握に関しては土使いがいるので問題はない。


 隠れていた場所から動いた理由は一つ。


 

 アドネは小鬼の攻撃を兵鋼の盾で弾くと、そのまま短剣で喉を突き刺す。


 ゴブリンは黒い血を吐きながら、彼の右前腕を握りしめ、恨めしそうに睨みつける。


 偽物にはない反応に動揺してしまう。


「気を反らすな」


 土使いが短槍で、死角からアドネを狙っていた小鬼を殺す。


 もう〖あんたの槍〗はもらえないが、〖土の槍〗をまとわせていた。


「すみません」


 短剣を押し込み、手首を捻じりながら抜こうとするが、死にかけの魔物は手を離さず。盾で顔面を殴打して無理やり遠ざける。



 ルチオは両手持ちの戦槌を使っていた。神技の痛み緩和ではなく、〖鎮痛薬〗を服用している。


 〖炎の鎧〗に怯んだ隙を突き、小鬼たちを潰していく。


「確かに弱いけど、こいつら違う」


 横からの叩きつけが命中したが、そいつは顔面を歪ませながら柄に抱きついてきた。


 装備の鎖で得物を消し、すぐさま片手持ちの戦槌を取りだせば、側頭部を殴打する。



 オークが体格を活かして突進してきたので、振りかぶってきた大槌を横に避けながら、すぐさま脛を狙って〖炎槌〗を発動させた。


 骨を砕き、片足が燃え上がった。


 汚い口から唾液が飛び散る。


「細菌もらった」


「残り香いるか!」


 ローブや軽装だけでなく、彼は鎧の神技まで使えたりする。



 ルチオは再び両手持ちの戦槌に交換して、片膝をついた肉鬼の頭頂部へと飛び跳ねながら振り落とす。


「いや、自分で何とかする」


 〖泣くな友よ〗で状態異常を治癒するが、完全に症状が引くことはなかった。



 アドネは弓を構えながら。


「新手きたよっ!」


「あいつが居りゃ」


 〖魁〗を狙えたのに。


 防護膜もそうだが、戦意高揚が現状は欲しい所だ。


 ルチオでも可能だが、今は神力を温存しなくてはいけない。



 土使いは杖で一方を示し。


「そっちから来る敵を足止めしろ!」


 〖犬〗が〖狼〗を引き連れて走り出す。


「アドネっ あと何体くらいだ!」


 矢を放ち終えると、周囲を見渡して。


「もうすぐ半分ってとこ!」


 自分たちと戦っていた連中はあらかた沈黙させた。


「二人とも神力の残量はどうだ?」


「僕はほとんど減ってないかな」


 魔物は報酬を落としたりしないので、お宝ちょうだいは使い道がない。


「一体ずつ召喚してるから、俺もまだ半分くらいは残ってる」


 アドネから借りた杖にも神力を沈めているため、普段よりは減りも早い。


「……そうか」


 ルチオは混血なため、他の加護者よりも消耗が激しい。


 六/三で祈っていたので、火はいくらか余裕もあったが、友情は底が見えている。




 この場で神力を補充するにしても、今は焦っているので、普段よりも時間を要するかも知れない。


「敵の増援は狼に任せて、俺らはここから離れるぞ」


 現在、足止めをしているのは三カ所。


 そのうち〖岩亀〗は熟練が低く、周囲の木々を薙ぎ倒しながらの移動もできないので、ただ敵を引きつけているだけといった感じ。



 可能であれば何処かに身を隠して、そこで神に祈る。


 二人はうなずきを返し、即座に移動を開始。



 彼らはもう一つの選択肢に気づいていない。


 〖闘争の岩柱〗 戦意高揚。神力の消費を抑える。敵の精神圧迫。


 戦時中のみ使える神技があった。


・・

・・


 アドネの索敵を頼りに、移動すること数分。


 上手いこと身を隠せそうな場所は見つからなかったが、仕方がないので適当な場所で心を落ち着ける。


「〖花の鎧〗あるからな、鼻から吸ってくれ」


 この神技には精神安定の効果がある。


「しまった。すっかり忘れてたわ」


 二人とも息が切れており、口からの呼吸になっていた。


「さすが主神さまの加護持ちだね。助かります」


「器用貧乏になってる感が否めないけどな。一応育ててるのは〖犬〗とローブだけだ」


 土の主神(杖・槍・剣・鈍器・盾・設置型大盾・ローブ・軽装・鎧)


 召喚できるのは眠者以外の全て。


「狼は何体呼べそうだ?」


「三体で限界だ」


 この場には〖犬〗がいるけれど、こいつは彼が召喚した個体ではない。


「増援は期待できそうかな?」


 ルチオの周りをグルグル回ったり、体当たりをするなどの反応はあった。


 しかし問題が一つ。


「良くわからないんだよな」


 増援要請に成功したときは、こんな動作をさせる。


 彼らは事前にこういった特定の合図を決めていなかった。



 呼吸も安定し、神に祈ろうとした時だった。


「犬がやられた」


「まじか」


 〖犬〗は群れのボス的な存在だったりする。


「早いとこ済ませるぞ」


 姿勢をつくって祈りを捧げるのは久しぶりだった。


・・

・・


 十分か、それとも三十分か。


 戦いは終わることなく。



 ルチオは肉鬼の一撃を戦槌で受け止める。


 炎身はクールタイム中。


 肩を負傷している現状で、その体格からの圧力は辛い。



 〖激励〗は叫ぶ内容で効果が変化する。


「〖友よ、今こそ耐え忍ぶ時〗」

 

 敵に囲まれた現状で声を響かせるわけにはいかない。


 防御力を高め、劣勢な時ほど心を奮い立たせる。



 アドネがオークの死角から、肌の露出している部位に短剣を突き刺す。

 

 姿を消せなくなったのは痛いが、それでも〖探さないでください〗は気配を隠してくれる。


「浅いっ!」


 彼の背中に〖紋章〗が浮かぶ。


 ルチオの身体能力を手にするが、それでも二人は前提となる体格に差があった。


 別の紋章が〖友情〗に重なって出現した。


 〖決別〗 身体能力の強化。


 アドネがこれを背負った秒分に比例して、友情の紋章が使えなくなる。


 一秒から五十九秒で半日。


 一分から一分五十九秒で一日。


 二分から二分五十九秒で二日。


 理を捻じ曲げたことに対する代価を払うほど、神技は強い力を持つ。



 短剣の切先がオークに深く突き刺さる。


 装備の鎖を使い、短剣を消した。


「一体でも多くっ」


 黒い血を流して姿勢を崩した肉鬼を、取りだした両手持ちの戦槌(民)で沈黙させた。


「一分過ぎる前に消すぞ!」


 アドネの次は土の加護者に使う予定。


 いつか見た夢は、まだ温存しておく。


・・

・・


 どれほどの時間が過ぎたのだろうか。


 当初想定していた五十体は倒しているはずだけれど、実際に数えていた訳じゃないから何とも言えず。


 例外はあるとしても、魔物は迷いの森で出てくる偽物よりも弱い。一人欠けるだけで、ここまで違うのだろうか。



 〖炎の鎧〗をまといながら、勢い良く戦槌を振り下ろせば、小鬼は脳天に直撃して地面へと崩れた。


 周囲を見渡し別の個体へと意識を向ける。


「なんだよ」


 沈んだと判断していたそいつは、笑いながらこちらに腕を伸ばす。


 ルチオの足首に小さな手が触れた。


 燃える鉄靴をよじ登る。


 卑しい鬼が炎に焼かれながら、神の力に縋りつく。


「くそっ」


 簡単に振りほどけるはずなのに、〖炎身〗で焼き尽くした。


 少なくともここで使うべき場面ではない。


「ルチオ!」


「だめだ、まだ余裕はあるはずだろ」


 アドネは装備の鎖より、杖をだしていた。



 一度に複数体をつくりだす土使いを見て。


「狼の召喚は一体ずつで良い、それより花の鎧はまだか!」


「使えるなら使ってるわ!」


 リーダーは〖精神安定薬〗を取りだそうとしたが、つかみ損ねて落としてしまう。



 普段ならそんなことは絶対しない。


 戦槌から片手を離し、〖薬〗を拾おうと手を伸ばす。


「……えっ?」


 ルチオの側面から、小さな影が接近。


 〖炎〗の中に飛び込んできたゴブリン。


 両手にもった短剣。


 柄尻を自分の腹部で固定している。


「なんなんだよ、こいつら」


 空いていた腕で小鬼の顔面を鷲づかむ。


 ゴブリンは笑いながら体重を乗せ、少しでも深く突き進もうと片足を前に出す。


 〖炎身〗により強化された筋力で引きはがしながら、握り潰そうと指先に力を込める。



 眩暈がした。


 胃から何かが溢れそうな感じがする。


 オークが涎を撒き散らしながら迫ってきた。


「ルチオっ!」


 アドネが杖を掲げるも、発動は間に合いそうにない。彼にもまた忍び寄る小さな影。


 土使いはローブをまとったまま。


「あのオークを狙え!」


 この場に〖狼〗は存在しているも、犬が居ないので彼が敵と認識している対象を襲うだけ。



 リーダーは吐き気を抑えつけながら。


「友よ、今こそ活路を開け」


 まだクールタイム中だった。




 自分を見下ろす肉鬼の顔が憎らしい。


 食われるのだけは御免だった。


 伸ばされた腕を後ろに飛び退いて避けることには成功した。


 小鬼たちがルチオに群がろうと行動する。




 この場に〖犬〗はいた。


「活路は開きましたよ、貴方たちはよく耐えたわ」


 オークの腹部から剣の切先が突き抜ける。


 限界が来たのか、ルチオはその場に倒れ込む。


 〖波〗は味方を巻き込むことなく、小鬼だけを吹き飛ばす。


 肉鬼は〖剣〗の刺さり方が悪かったのか、抜けることなくその場に残る。


 もしこの体格で倒れられたら、ルチオが押しつぶされていた可能性もあった。



 〖雨〗が降る。


 解毒の雨中だからこそ、〖解毒薬〗は瘴気の傷に対抗できる。


「うわっ こりゃまた、ずいぶんボコボコにやられちゃったね君」


「……」


 杖を掲げ無防備となれば、そんなアドネの背後を狙うのもいるだろう。


 〖風伸突〗がゴブリンを吹き飛ばす。



 嫌味な回復役はルチオの隣に立つが、手を差し出したりはしない。


「一つ言っとくけど、あいつは自分が嫌われてるの自覚してるからさ。君らが不安がってることは起きないよ」


 吹き飛ばされたゴブリンたちを、カークが両手剣で沈めていく。


 ルチオはそんな光景を呆然と眺めながら。


「わかった」


 四人目の女性は突き刺さっていた剣を、装備の鎖に戻す。


 取りだした大剣で瀕死の肉鬼を叩き潰した。



 敵に視線を向けたまま、土使いに意識を向け。


「つれて帰ってあげたい所だけど、私たちはここに来る前に確認してきました」


 遺体の状態。


「……そうか」


 見ない方が良い。



 彼女のような実力者がいたからこそ、今回の救援は実行に移すことができたと言えるか。


 先代のいぶし銀。


 剣の主神から加護を受けた者。






次話とりあえず執筆できましたので、明日投稿したいと思います。

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