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いつか終わる世界に  作者: 作者です
いつか見た夢
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5話 明日


 その日、ラウロは武具屋を訪れていた。


「やっぱ高いな」


「神の装備ってのはそういうもんずらよ」


 グレースも言っていたが、もともと断魔装具は地上界の素材を加工している。


 民から兵。兵から将。将から王。


 王から神。


 イージリオなどはバカ高い金額を用意して買っていた。


 しかし普通に考えると、神素材を得られる探検者というのは、自分でそれを使う場合が多い。


「まあ仕方ないか。神素材をつくれる職人なんて、この国にはいないしな」


「修復できる職人はいるずらから、これでも良い方ずら」


 店内には元いぶし銀の二人もいた。


「そうだそうだ。俺もこいつも鋼だったから、お前より維持費かかってたんだぞ」


 鎧とメイス。


「特に私などは引き付け役でしたからな」


 神鋼を修理できる職人は、近場でも教都にしかいない。


 造れるとなれば大陸でも一握りなので、もしかするとそういった人物は、天上界から勧誘されている可能性も高い。


「やっぱあんたらも、神の装備つかってたのか」


「まあな。今じゃ宝の持ち腐れってやつだ」


 売れば老後に心配がないのに、なぜそれをしないのか。


「哀れなものですな。過去の栄光を捨てれないというのは」


「後進にくれてやりゃ良いのによ。ほんと情けねえわ」


 笑い合う二人。


 ただ武器に愛着を持っているラウロからすれば、笑えない話でもある。


「あと頼まれてたのもできたずらよ」


「すまんな」


 ここはあくまでも武具防具を専門にする店なので、アクセサリーをつくる職人との接点は薄い。


・・

・・


 ラファスには空き地が沢山ある。


 昼を過ぎた頃。


 今からエンターテイメントが始まろうとしていた。



 おっちゃんが木と木を打ち鳴らせば、遊んでいた子供たちが集まってくる。


 小銭をもらい、練り飴を渡す。


 そんな子供たちを押しのけて、小柄な影が腕を伸ばす。


「おじちゃーん。僕ちんにもお菓子おくれよぉ」


 手の平には二枚の小銭。


「えっ あんたも観るのか?」


 ゴブリンは元気よくうなづくと。


「二人ぶんねぇ!」


 彼が指さした方を見ると、シートに腰を下ろした筋肉爺が膝を抱えて座っていた。


「えぇ……まあ、いいですけど」


 お菓子を受け取ると、ボスコ君はお爺さんのもとまで駆け寄り。


「ほらほら、隊長のぶんも貰ってきたよ」


「いいのよ。どうせ私なんて」


 周りの子供たちも、気になったのかルカのもとへ近づき。


「なんで泣いてるの?」


「仲間外れにされたのぉ」


 お気に入りのハンカチで鼻水を拭う。


「おじいちゃん可哀そう」


「ありがとう。貴方だけよぉ」


 背伸びをして、筋肉お化けの頭をなでなでしてくれる。


「機嫌なおしておくれよ、僕ちんたちが悪かったって」


「もうボスコ隊員なんてしらない。私は絆されないわよっ」


 ゴブリンから飴を奪い取って、泣きながら練り始める。


 拳術神の嘆きはとまらない。


 そうこうしていると。


「みんなお菓子は受け取ったな。じゃあ今日の演目は日光仮面だ!」


 紙芝居が始まった。



 最初は泣きながら飴を舐めていたが。


「ダメよっ! 日光仮面っ 逃げてぇ!」


 いつしかゴブリンも片手を天に突き出し。


「やっちゃえ、今だっ 日輪の光を帯びて、今必殺のぉっ!」


 子供たちはその熱気に同調して盛り上がったが、紙芝居のおじさんはとても困った顔をしていた。



 最後は皆と一緒に肩を組みながら。


「日光仮面のおばさんわ~♪」


 仲良く元気よく、うたを歌って終幕となる。



 次回はゴールデンドクロという演目をするそうなので、ゴブリンと筋肉は絶対にまた来ようと誓い合った。


「今日は胸の日だから、もう張り切っちゃうわ!」


 一番辛いのは足の筋トレ。


「さー 皆もいっしょにやろう!」


「「おーっ!」」


 この日を境に子供たちは筋トレにのめり込んだ。かも知れない。


・・

・・


 普段は酒場を利用しない者が現れろば、自然と人目を引く。



 若者が始めて足を運べば、茶化すおっさんも出てきそうなものだが、今回はそういった人物もいなかった。


 レベリオは少し種類が違うから、ラファスという町で一番の新鋭といえば彼だろう。


 足を進める先は、朝から酒を飲んでいるフィエロとモンテの席。


「珍しいな。お前がここに来るなんて」


 情報交換であれば、普段は協会を利用することの方が多い。



 席を進められるのを待ってから、ルチオは椅子を引いて座る。


「いやまあ。ちょっと相談っつうかなんていうか」


「ラウロのことか?」


 しばらく黙ってから、青年はうなずく。


 フィエロは立ち上がると、ルチオの肩に手をおき、その場から離れて行く。


「すんません。別に残ってもらっても」


 しかし相手は手を左右に振って、俺には無理だという意思を動作で示す。


「あいつは喋らんからな。相談ってのは苦手分野なんだよ」


「新人のころは凄く世話になったんすけどね。特にアドネが」


 弓の使い方を教わった。


「例の三人か?」


「まあはい。というか主にダニエレなんすけど」


 完全に信用を回復したとまでは言わないが、間違いなく状況は以前よりも改善していた。


「好き嫌いで物事を判断しちゃ駄目ってのは、そりゃ俺らだってわかるんだけどよ。あいつの癇癪っていうか短気な性格には、俺もアドネも痛い目にあってきたんです」


 年齢が三つ四つ上というのは、子供のころであれば大きな差といえる。


「ガキだと思われるかもだけど、もしオッサンが天人菊に入れたいっつうなら、俺らは絶対に反対です」


「あいつにその気はないと思うけどな、もとはグレゴリオさんからの経由って話だし。まあそれを踏まえてだな」


 なにを話すべきか考えてから。


「好きか嫌いかってのは、判断する上じゃ重要な材料だ。俺だって仲悪い奴と組むのは御免だぞ」


「そうなんすか」


 酒を一口飲んで、喉を潤してから。


「ボスコっているだろ。あいつの金遣いが荒いのは知ってるな」


 パンツ一枚に布を羽織っている姿を見かけるので、ルチオは強くうなずく。


「まあ苦労させられてるわけだ俺も。だが奴にとっちゃ、あれがストレスの発散なんだよ」


 引き付け役。


「それにな、なんやかんやで一番仲間に気を使ってるのもアイツだ。もう頭が上がらないくらいには助けられてる」


 甘いものを食べに行こうと誘ったり、気に喰わない上官に殴りかかったり。


「俺も騎士時代は、本気で気に喰わない奴はいたわけだ。理不尽の塊みたいな糞だった」


 救済の光。


「でも本当に危険な場面だと、自ら率先して身体を張る。そんな場面を俺らは何度も見てきたのよ」


 どんなに殴られようと、後に処罰をされたとしても。彼がそういう人物でなければ、絶対に引き付け役なんてしなかった。


「世の中には本当の意味で害にしかならねえ奴もいる。でも全てにおいて悪だけとは限らんわけさ」


 人間色々。


 沢山の女を泣かせているが、友人は大切にする者。


 金づかいは荒いが、たくさん稼いで募金もしてる者。


 職場では屑でも、家族を大切にしている者。

 

「嫌いでも組む価値があると感じたなら協力するし、好きでも得られる物がなけりゃ、俺は適当な対応しかしない」


「やっぱモンテさん、大人って感じっすね」


 誰かさんと違って。


「だろ」


 ただ一つ言える事。


「まあ俺らは今でも、そいつのことは好きじゃないけどな」


 精神を病むレベルであるのなら、どんなに価値があっても断る判断をする。


「国が保護してくれない限り、嫌だ嫌だじゃ飯も食ってけない世の中だ。お前は現状でも生活できてるわけだし、今の環境を守るって判断するも間違いじゃない」


 相談するならラウロよりもモンテだと、ルチオは自分の価値観に自信を強めた。


・・

・・


 夕暮時の貧教会。


 老婆の様子を見に来たのか、満了組のボスが足を運んでいた。


 掃き掃除をしている青年が一人。


「なんだい、見ない顔だねぇ」


 箒の動きを止め、彼は姿勢を正す。


 別の位置で庭の手入れ作業をしていたシスターは、来訪者の声に気づき。


「あたしの新しい愛人さ」


「違います。手伝ってるだけなんで」


 そんなやり取りに笑みを浮かべていたが、ふと気づき。


「あんた、最近ラウロのやつが面倒みてた子だったか」


「はい。あの方には本当にお世話になってます」


 本人には言わないだけで、なんやかんや感謝はしていたようだ。


 まあ直接伝えると調子にのるか、ルチオたちの時みたいに泣いちゃうので、賢明な判断だろう。


「あいつが教え子を持つなんて、前にも思ったが私も歳をとるわけだよ」


「へんっ 小娘が」


 庭に唾を吐くシスター。


「撤回しな、お前にゃ十年早い言葉さ」


 誰にでも頭が上がらない人はいる。


「しかし私も五十過ぎましたので、そろそろ身の引きどころを考える時期ではありますよ」


 嫌われ役を買ってくれた、本当は気弱な男。


 共にこの聖職者から鍛えられた友人たち。


 将来を誓った相手。


「同期も今じゃだいぶ減りました。残ってる中でも付き合いがあるのは、自分の班にいる二人くらいです」


 デボラの老婆に対する態度を見て、青年の背筋が引き締まる。


「アタシは六十半ばまで頑張ったもんさ」


「私は騎士殿の加護を受けておりませんのでね」


 再生の蒼炎。


「まあ、お互い良い歳なのは認めるよ」


 老婆はデボラに作業道具を渡す。


「来るってことは暇なんだろう? せっかくだから手伝いな」


 本当に頭が上がらないと、苦笑いを浮かべる。


 三人は作業を再開させた。


・・

・・


 一日のデートを終え、自宅への帰宅途中。


「美味しかったですね」


 リヴィアは落ち着いた様子のドレスを着ていた。


「緊張で味がよくわからんかった」


 ラウロに至っては、専用の正装を特注するしかなかった。



 預り所の会長に紹介してもらった場所。


 食事が数回に渡り運ばれてくるなど、これまでの人生であまり記憶がない。


「ラウロさんは今まで偉い人とかに、なんかパーティーみたいなの招かれたりしなかったの?」


「柄じゃないからできるだけ断ってたな。俺は一般の騎士だからよ、普通に仲間内で酒飲んでる方が良い」


 期間満了した連中を送りだすのは、どちらかと言えば宴会だ。



 二人は装備の鎖を使い、服装を普段の物に交換する。


「本当にこれって便利だよな。髪型まで変更できるっつうんだから」


 バッグなどだけでなく、髪を固定していた物も、装備として認識されるのだろう。


「お化粧はさすがに登録できませんけどね」


 今は綺麗な布で髪を縛っている。


「自分が買ったのを使ってもらえるのは、何だかんだ嬉しいもんだな」


 にっこり微笑むと、腕を組んで歩く。


「すごく適当に選んでた気がしますけど」


 〖街灯〗が二人を暖かく照らしていた。


「武具や防具ならある程度はわかるんだけどな」


 相手の肩に頬をあてながら、その横顔を覗きみて。


「今日はとっても楽しかったけど、まだなにか残ってるんじゃないですか?」


「本当は食後に出そうと思ってたんだ。でもなんつうか、機会を逃しちまって」


 ポケットから小さな箱を取り出す。


「わあ、もう完成したんですね」


 察しが良いというか、バレバレだったというか。


「あっ ちょっと待ってください」


 腕をほどくと、その場から小走りでラウロの前に移動した。


「はい、どうぞ」


 宝玉をカチェリから受け取った日。


 これで作りたいから、サイズを教えてくれと馬鹿正直に伝えてしまった。


 サプライズも糞もないが、ある意味それもラウロらしい。



 小箱をひらき。


「結婚してください。お願いします」


 相手は一歩近づき、箱の中を確認する。


「うわぁ 綺麗ですね」


 土の指輪。とても繊細なつくりとなっている。


「ラウロさんのも見せてくださいよ」


「えっ ちょっと待っててくれ」


 首にかけていた装備の鎖を見える位置にだす。光りの指輪はシンプルなデザインだった。


「なるほど、私もそうしよ」


 素手で殴る場合だけでなく、剣を握るのにも指輪は邪魔になる。


 彼女は戦闘時だと重鎧なので、ガントレットに指輪はできず。



 指さきが彼に向けられる。


「でも今はこっちにお願いしますね」


「え」


 まだ答えをもらっていない。


「これが返事ですってば」

 

「あっ そうか」


 振るえる指で小箱から取りだすと、ぎこちない動作でリヴィアの手を握り、そっと土の指輪をはめる。



 この日。


 二人は婚約した。

 

 

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