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いつか終わる世界に  作者: 作者です
いつか見た夢
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4話 燃え尽きる魂




 民に慕われていたからこそ、王家の墓を守るように教都は存在している。


 当時の帝国も公開処刑などできるはずがない。



 劇場から時空紋で飛ばされた先。


 第一騎士にのみ許された試練の間。


 足もとは土。


 石の積み重ねられた壁には、木組みにタイマツが掛けられ、室内をうすく照らす。


 天井は落土防止のため木で固定されており、何本かの柱で支えられていた。


 広くも狭くもない空間。


 正面は登り坂の通路となっていて、そこから風が吹き込んでくるから、恐らく外が近いのだろう。



 ラウロは咥刃に〖夕暮〗を発動させ、続けて舌を切る。


 暮夜は発動しなかった。


 どうやら【墓地】には夜がないらしい。



 通路と広間の堺には、古びた両手剣が突き立てられていた。


「墓……なのか?」


 土が盛り上がっている訳でもないが、ラウロにはそれが墓標に見えた。



 あまり時間もない。


 咥刃を装備の鎖にしまう。


 カチェリから事前に攻略情報を得るか問われたが、相手が自分を知らないのだからと断っていた。


 前もって〔気〕を上中下の丹田に蓄え、もう練り込みも済ませてある。それでもこれは神力と違い、自然に身体から少しずつ抜けてしまう。


 もう一度〔気〕を整えておく。



 〔循環〕は手の動作で廻らせるのだけど、〔解放〕は敵の攻撃に呼吸を合わせて発動させる。


 ただこれは判定が異常にシビアだから、武器でするとなればまず成功はしない。


 〔合わせ〕とも組み合わせられそうだけど、この技術は剣士として得たものであり、素手だと感覚がつかめず精度も落ちる。


・・

・・


 試練の間とは違い、通路には石畳が敷かれていた。


 無機質な鉄靴の音がラウロの耳に入ってくる。



 黒く汚れた鎧は王でも将でもなかった。それは地上界に存在する鋼であり、所どころに傷が刻まれ、打撃を受けたかのような凹みが残る。


 装甲の隙間から溢れでた火が、ゆらゆらと明かりを漏らす。


 通常の神技とは違い、赤以外の色も混ざっており、どちらかと言えば自然のそれ。


 厚手のマントには穴があき、端もボロボロに破れ短くなって、もう腰にすら届いてない。その生地も燃えており、黒い煙が空気を淀ませる。


 兜が顔面を覆っていて、顔の骨は確認できず。


 手には鋼の槍。


 進行方向からわずかに反れ、地面に突き刺さった両手剣を横切る。




 骸の騎士がラウロのもとに到着した。




 骨鬼とは違う。


 偽物とも本物とも。


 感情が薄いのは同じでも、なにか根本が異なる。



 彼はそこに存在していた。


 自分の方を向いているが、こちらを認識しているかの確証が持てず。


「よろしくお願いします」


 革鎧に神力を沈めながら、装備の鎖より将鋼の片手剣を取りだし、それを胸に持っていく。



 骸の騎士は半身の姿勢をとって、ゆっくりとした動作で両手持ちの槍を構える。


「良いのですか」


 ラウロは片手剣を動かし、いつもの姿勢にもどす。


 咥刃と兵鋼の短剣改も出現させた。今はレベリオが居ないので盾は使わない。


 〖聖域〗と〖聖鎧〗を発動。


 なんとなく、彼のまとう空気が剣の師に似ている気がした。



 【怨嗟の炎】 骨と装備を残して焼きつくす。これまでに奪った命の数に比例して、喉の渇きと苦痛に蝕まれる。失った血肉の代わりに、火が使用者を生かす。



 無慈悲な炎が一層に鎧を焦がすと、前方の足を踏みだしながら、ラウロに切先を向ける。


 槍の先には相手の武器を受ける部位がついている。


 横手。


 鍵槍。


 ラウロは片足を動かし、騎士の突きを避ける。兜の側面に槍の切先を掠めながらも、横手へと片手剣を打ち当てて勢いを止める。


 騎士は手首を捻ることで、そのまま将鋼を絡め落そうとしてきたが、その前に〖残刃〗が発動していた。


 弱体化された〖空刃斬〗が発生し、右のガントレットに命中した。



 口腔内と頬傷から闇が発生。


 断魔装具としての力を頼りながら、【無月】の闇が全身へと広がり、騎士の背後に転移する。


 即座に姿勢を低くとり、〖儂〗の短剣で相手の腰当を狙う。



 〔殺気〕による気配の察知。


 騎士は〖旧式〗の打撃を前に出て躱すも、上半身よりも下半身の方が動ける距離は短くなるので、〖無断〗は浅くとも届いた。


 衝撃が装甲の内部に浸透する。



 骨だけになろうとも、火がその代用。


 血の代わりとして、先ほどつけた鎧傷から【怨嗟】の炎が噴き出した。


 革の〖鎧〗は熱せられるが神技のお陰もあり、大きな損傷は見られず。


 しかしその内側は別だった。



 焼け爛れる皮膚。


 その事実を捻じ曲げ、背中の〖十字架〗が燃える。



 〖聖域〗と〖聖鎧〗の秒間回復に身を任せ、今は相手の動きに注目。


 頬の傷は治ったが、咥え刃で舌を切り続けているので、口もとから全身へと闇は蠢く。



 骨の腕を槍ごと引けば、屈んでいたラウロの顔面に石突が迫る。


 上丹田により動体視力・集中力は強化されている。


 すでに〔闘気〕は体内を〔循環〕しているので、反応速度も普段より高い。


 腰を捻りながら肩と首を動かし、寸前のところで石突を避けた。



 騎士は槍を片手でつかみ脇で固定する。後ろへと振り返ったことで、連動した柄がラウロを薙ぎ払う。


 〖無月〗の転移が発動し、鍵槍は闇を通り抜けた。



 ラウロが出現したのは元居た場所。


 片膝を地面につけた状態のまま、両足が銀色に光る。


 〖背負い十字架〗の後ろに〖聖壁〗が展開されていた。


 わずかに膝を浮かせてから、靴底で〖壁〗を蹴り、〖旧式・一点突破〗で前進する。



 兵鋼の切先が装甲に突き刺さる瞬間。騎士は空いていた腕で刃を掴み、横へと反らした。


 それでもラウロの突進は止まるこなく、将鋼の柄尻を騎士の側頭部へと叩きつける。


 兜に亀裂が入り、そこから炎が噴射すれば、〖片手剣〗ごと右の〖拳〗を焦がす。



 騎士は〔覚悟〕により、柄尻の衝撃で仰け反りながらも、両足で地面を踏みしめていた。



 ラウロは横に転がりながら、肘と膝を使い身体を起こす。


 〖治癒の光〗を右腕に発動。


 〖背負い十字〗によるダメージの減少。



 痛みに慣れているはずの彼が、顔を引きつらせていた。


 焼け爛れだけであれば耐えられる。


 この痛みはそれだけじゃない。

 


 たとえ技名を変えようと、大本であればその本質に変化はなく。


 恨みは今生だけに留まらず。



 騎士は破損した兜を外し、無造作に投げ捨てた。


 眼球のあった窪みには、骨鬼と違って赤や青の光はない。


 虚しく内部で火が揺れていた。


・・

・・


 壁に掛けられたタイマツだけの薄い暗闇。


 槍と剣がぶつかって音が鳴る。


 傷つけるたびに燃え上がり、試練の間を明るく照らす。


 


 ラウロは肩で息をしていた。


 呼吸が上手くできず、息苦しい。


 喉が渇く。


「違う」


 あの老人は一部の時空神技が使えた。


 地上界に出てから、確認しないわけがない。


 少なくとも一度はその目に焼き付けたはずだ。



 自分のしでかした罪を。


 魔物に襲われる人々を。


 なにもできない無力な自分を。


「あんたは」


 逆位置の〖十字架〗に憎悪を向けることもなく、一度もこちらに興味を示さなかった相手が、始めて自分に反応した。



 眼球を失った窪みで、直剣に宿った〖夜明〗をじっと見つめる。


 

 兵鋼を装備の鎖にもどし、将鋼を上段に構えた。


 騎士は槍を地面に突き刺すと、ラウロに背を向けて歩きだす。


 通路まで進み、両手剣を抜く。



【銀光の剣】が発動。



 騎士の鎧が空間の歪みに消え、次の瞬間には軽鎧をまとっていた。


 破損した胸当と腰当。


 穴の開いた鎖帷子。


 (ひび)われた額当。


 変色したその染みは返り血か、もしくは自分から流れたものか。


 それでも【怨嗟の炎】は、彼の身体を蝕み続ける。



 始めて向き合う二人。


 将鋼を振り、空間の抵抗を〖刃〗が感じとった瞬間だった。



 研ぎ澄まされた〔殺気〕がラウロに襲い掛かる。


 剣士の両足が銀色に光れば、もの凄い勢いで【特攻】してきた。



 相手の〔殺気〕に〔合わせ〕、その幻覚を振り払う。


「それは駄目だっ!」


 心を削る行為がなにを齎すか。ラウロは良く知っている。



 〖刃〗を中断させ、振り上げられた【両手剣】を〖夜明〗の剣で受け止め、手首を緩めて威力を流す。


 左足を斜め前にだし、剣士の側面に回り込みながら、〖左手〗で骨の前腕を掴む。


 骸の剣士は手首を捻じると同時に、両手剣から片腕を離し、肘からの体当たりをラウロに仕掛けた。



 〖背負い十字〗が正位置になり、周囲に聖なる光が広がった。


 たとえ熟練が低くとも、〖十字架〗の傷つき度合いにより、身体強化の効果に変化がでる。



 左〖前腕〗で肘打ちを受け止めながら、〖夜明〗の剣で何もない空間を水平に斬った。


 相手の背後に〖刃〗が出現するが、またも〔殺気〕で察知されたらしく、頭をさげて斬撃を回避する。


 剣士は慣れた手つきで【短剣】を鞘から抜く。


 柄を持ち変えて逆手に持つと、屈んだ姿勢から【貫通突き】を放つ。



 強烈な突きを左の〖拳〗で握り止めたが、神技による勢いは抑えられず、そのままラウロの首を狙ってきた。


 確かな殺意を込めた一撃。


 〖左手〗で刃を握りながら横に反らすも、兜の側面が破壊され血が飛び散る。



 肉薄状態だと剣を振るのは難しい。


 それでも〖夜明〗であれば、誰もいない空間を斬って、相手に〖刃〗を届かせることが可能。


 剣士の肩に〖刃〗が入り、それが背中へと抜けて行く。


 傷口から【炎】を噴き散らせながらも、剣士は〔覚悟〕を決め、ラウロへと頭突きを喰らわせる。


 額当が〖兜〗に減り込む。



 【怨嗟】による熱は巨像の一撃よりも、ずっと酷い苦痛だったようだ。


 〖十字架〗が限界を迎え、その光が〖聖拳〗に蓄積される。



 一瞬。意識が遠のき、気づくとうつ伏せに倒れていた。


 剣士はラウロの腰あたりを跨いで立つ。


 短剣を投げ捨て、【両手剣】を握り締め、切先をこちらへと向ける。


「すげえな」


 騎士とは名ばかりの、血と汗と泥に塗れた剣だった。



 装備を法衣鎧に交換したが、まだ〖聖鎧〗は継続されていた。


 振り落とされた切先と自分の隙間に〖壁〗を割り込ませる。


 〖化身〗が腕を交差させていた。


 〖壁〗は自分の頭側に展開させており、その表面に〖聖十紋時〗が浮かぶ。



 ラウロは剣士の脛を靴底で蹴るが、相手は〔覚悟〕により耐え切った。


 将鋼を装備の鎖に戻す。


 〖聖強壁〗を消すと同時に、相手の脛を足場にして、前に回転しながら立ち上がる。



 自分と重なる〖相棒〗に向け。


「離れてろ」


 〖化身〗はうなずくと、その場から一歩遠のく。



 骸の剣士。


「あんたに拳は響かんよな」


 ラウロの右手には直剣が握られていた。


 こいつは〔合わせ〕を手伝ってくれる。



 反応するとは思っていた。


「〖儂の剣〗」


 巡る螺旋。


 無常の世で変化を重ねながら、似た人生を繰り返す。


 大国に見捨てられ故郷を。妻と子を失った剣士。


 あとに残ったのは、剣の道ただ一つ。


 基礎だけでなく、全てが同じ名の覚醒技。



 夢は散った。


 想いに背中を圧し潰され。


 人は幻のように去っていく。


 

 剣をその場に落し、男は師へと手を伸ばす。


 燃え尽きかけた魂が揺れる。


 なにかを喋ろうとするが、もう鳴らす喉はない。


「すまん。俺は違う」


 その言葉に剣士の指先が止まった。


 しばらくラウロを見つめる。



 無言のまま向きを返し、通路へと歩きだす。


 剣士は両手剣と鍵槍をそのままに、火と共に去っていく。


・・

・・


 予想外の反応に唖然としていたが、気を取り直して〖聖域〗に〖聖紋〗を浮かばせる。


 いつの間にか、そこにはカチェリが立っていた。


「もう燃え尽きちまってる」


「……そっか」


 破損した兜を拾い上げ、両手で抱かえる。


「でもまだ手遅れじゃなさそうだね」


 息を吹きかけて土を飛ばし、残った汚れを手で払う。


「わからん」


 彼女の近くには〖像〗が置かれていた。


「これまでは借り物で召喚してたけど、専用のを造ってもらったから」


 ラウロは自分の〖化身〗へと振り返り。


「気持ちだけ受け取っとく」


「マグマグとラウロっちじゃ、どう見ても違うっしょ。〖模擬魂〗にも神と同じく相性ってあるんだよ」


 さすがに〖輝筋〗は厳しいが、聖神よりも拳術神の方が素質は近い。


 一つの〖像〗に二つの〖魂〗


「なるほどな」


 〖化身〗を停止させ。


「んで、どうすりゃ良いんだ?」


「ちょっと待ってて」


 彼女の足もとに小時空紋が出現し、兜を持ったままその場から消える。


・・

・・


 しばらくその場で待機していた。


 通路が気になるが、動くわけにもいかず。


「お待たせ」


 カチェリは〖像〗のもとまで向かい、そっと手をかざす。


「これでも感情神の端くれだからね」


 見たことのない〖紋章〗が浮かび、それが〖像〗へと吸い込まれた。


「欲望ってそういうのなんだな」


「ちがうよ、これは感情の紋章」


 〖像〗の見た目に変化はない。


「装機兵の石板にも、これが描かれてるわけだ」


「そっちは知識が主だから、ちょっと違うんだなこれが」


 起動させていると徐々に薄まっていくので、消耗品とされている。


「はい、準備完了」


 カチェリは〖像〗の後ろに回り込み。


「ここに手を添えて、それと刻印の契約をする感じ。まあ実際にやってみた方が良いね」


「わかった」


 背中がゾクッとする所。


「されたことはあるんだけどな、した経験はないんだわ」


「文化にもよるんだけど、私らじゃ握手するイメージかな。とりあえず目をつぶって」


 言われた通りに想像してみた。


 〖像〗の中にある〖模擬魂〗が、自分の手を握り返した気がする。


「報酬ってのはこれか?」


 〖化身〗や〖聖拳士〗が強化されるのだろうか。


 通路の方を眺め。


「私ってさ、目標を持ってる人が好きなんだ」


 虚無を司る神。


「確りとした理想像があるに越したことないけど、世界の最果てを見たいとか、そんな理由でも良かったんだ」


 なぜ王の座を争ってまで、その立場に就こうとしたのか。


 本人にも説明できなかったが、それでも決して譲ろうとはせず。


「始めて魔物を見た時にね、怖いとか思うより先に疑問が浮かんだ」


 途中で生き方が大きく変わるのもまた、彼女が背負わされた宿命。


「こいつらと私ってなにが違うんだろってさ」


 それに意志はあるのか。少なくとも〔心合わせ〕はできた。


 でも虚ろな目には、そのように映ったんだろう。


「まあこっちに来たら、色々と知ることになるんだけどね」


 ラウロの方を振り向くと、彼女は手の平をさしだす。


「がんばって、応援してるよ」


 光と土。


 純度の高い小さな宝玉。


「まあラウロのぶんはついでだけどね。でも変な話し、そっちの方が貴重なんだよね」


 まず光りの属性を持つ個体が少ない。


「良いのか?」


「古き時空の紋章を受け継ぐ君にこそ渡したいって、創造主からだよ」


 魂だけとなっても、神力があれば抗える。


 しかし刻印が天から神へと上るほど、瘴気に集中して狙われるので、恐らく魔物との戦いで命を落とした天獣。



 時空紋がラウロの足もとに出現した。


「じゃあ私は行くよ。危険な目に合わせちゃって、本当にごめん」


 剣士は確かな殺意を込めていた。


「気にするな」


 骸の騎士はラウロにとっても特別な存在だ。


「ありがとう」


 欲望神は両手剣と鍵槍を持って、通路に向けて歩きだす。


「そっちには何があるんだ?」


「元々この先を試練の場にする予定だったんだ。でも来ないで欲しい、本当は私こそ入っちゃいけないんだけどね」


 頼まれては仕方ない。


「またな」


「うん」


 彼女がいつか見た夢。


 先代の皇帝たちが築き上げた地盤をもとに、この天下を統一する。


 全てを蹴散らしながらも、ただ真っ直ぐに進み続けた。


 夢が覚めるその日まで。


・・

・・


 登り坂。


 石畳の道。


 両脇の灯篭。


 空に月はなく。


 風吹く丘の上。


 中央には一本の木。



 枝に縛られた外套は緩やかな風に靡く。


 幹には木剣が寄りそう。


 兜がその二つを見守る。


 椅子に置かれた日記がめくれないよう、眼鏡が乗せられていた。


 机上の手鏡が暗い空を写す。


 開かなくなった懐中時計。


 誰かに宛てた手紙。


 

 国を守ろうとした者たちの末路。


 寂しくて埋めることもできず。


 そこは沢山の私物で溢れていた。



 彼が隠れ家で大切に保管していたものを、天上界が回収したのだろう。


 また交渉材料として、皇帝が集めた品も含まれている。



 佇んでいた墓守が石に腰を下ろす。


 装備の鎖に神力を沈め、見窄らしい服装に一枚の布を羽織る。


 吹く風に火が揺れる。



 傍らには、名もなき騎士の折れた片手剣。


「ちょいとお兄さん、今回は良いのを仕入れてきやしたぜ」


 そいつは破損した兜をかぶっていた。


 鍵槍を地面に突き刺す。


「こいつはずっと昔の槍豪が使ってた品でしてね、あたしにも馴染があるんすよ」


 指で金額を示す。


「えっ 高いって? バカ言っちゃいけやせんぜ兄貴ぃ、武器って言うよりゃ歴史的なもんでさぁ。一応うちの職人が手ぇ加えてるんで、使えないこともありゃぁせんが」


 無反応。


 彼女がウザくなったのは、いつも一方的に話しかけていたのが原因だったりする。



 まったく困った人だと、兜を外して大げさにため息をつく。


「じゃあこの両手剣なんてどうです。なんの変哲もねぇ、ちんけな品ですが」


 骸の男は頭をさげ、そのまま受け取ろうとしたが、カチェリが抱かえ込んでしまった。


「ちょっと何するんすか。タダじゃやれませんって」


 返してくれないので、俯いて黙り込む。



 呼吸を整えてから。


「じゃあ約束してもらっちゃおっかなぁ」


 彼女は欲望神と名乗っているが、実際は天使と大差ない。


「すべてが終わったら、私と刻印を破棄しよう」


 天の位になれば回復量も大きく増える。


「でもどうしよ。加護者に与えてるから、あんま貯められないんだよね」


 それを自力で可能とするのは主の位だけ。


「まあ創造主に頼めば、きっとなんとかしてくれるよ」


 彼の幼少期。


 その憤りは処刑の切欠となった彼女ではなく、両親へと向けられたもの。


 帝国への怒りもある。だがアンヘイに逃げた柱教の連中とは比べ物にならず。


 奴らが公開処刑をされていたのなら、そこらの罪人などよりも、当時の民たちは熱狂したはず。


「だからさ、君は負けちゃいけない」


 過去にただ一度、地上界へと現れた魔神。


 主神級が本体より力を注げば、人間の肉体は徐々に崩れていく。



 本当は教国だけじゃなく、彼は地上界の守護者だった。


 望みは一つ。


「消滅する時は付き合うから」


 沈黙で返されたとしても、彼女は声をかけ続ける。


「その時が来るまではさ、都市同盟で暮らそうよ」


 まるで屍のように返事はない。


「別に断ったって良いさ」


 両手剣を地面に突き刺し、柄尻に兜を引っかける。


「まあ私ウザいからしつこいけどね」


 女は男の肩に手をおき、爪を喰い込ませて。


「そもそも喋れなくても」


 恨みに焼かれながら、それでも真っ直ぐ睨みつけ。


「意志くらい示せるでしょっ!」


 まだ燃え尽きてないと信じて。


 うなずくまでは諦めない。


・・・

・・・


 〖怨嗟の炎〗に焼かれる期間に比例して、再生された肉体は強化される。


 〖蒼炎〗は装備も含めて復元可能。


 〖燃尽魂〗であった彼の神技だけは、剣を使った場合のみ、大本となった鞘が具現化。









 投稿してから修正しかしておりませんで、まだ次の話をまったく始められていません。


 登場人物の相手に対する認識というか相関図みたいなの浮かべながらやってたら、頭が回らなくなってしまいました。ちょっと疲れたから、すこし休んでから執筆しようと思います。



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