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いつか終わる世界に  作者: 作者です
いつか見た夢
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3話 裏ボスまでのエンターテイメント

 アガタとジョスエが来たこともあり、今年の年越しは去年よりも賑やかだった。




 【天空都市】


 内壁の中にも遮断壁は通っており、水路は大神殿から始まっているため、ギョ族も向こう側には行ったことがないとのこと。


 北の方面で火蜥蜴は確認されてないので、もしかするとそっちには生息していない可能性もある。



 冬も終わりに近づいたころ。


 内壁門の突破作戦だが、結果としては上手く行った。



 装機兵を守るのは鉄塊団の三組が中心となる。


 最前列は〖土狼〗のいる中堅組。


 前方はいぶし銀。作戦の中核となるため、ターリストが単独で彼らに同行していた。


 後方はレベリオ組となっており、夜なので必要時は〖聖域〗で〖真昼・影〗を補助する。


 最後尾は前回と同じく初老共。今回は全員が揃う。


 屋根上は満了組が受け持っており、こちらには十五班が配置されている。



 また今回の作戦には、ボスギョを含めた五体のギョ族も協力を申し出てくれた。


 北の中央通り周辺には水路がなく、不利な要素もあったが、〖雨乞の舞〗で補えるらしい。


 彼らからすれば大移動とも言えたから、北門の拠点に木製の水槽を設置して、長旅の疲れは癒させてもらった。




 前回の苦戦理由。


 レベリオ組が受け持つ脇道を装機兵が過ぎたあたりから、後方より出現してくる敵が一気に増えたことで、本隊と合流するはずだった連中が対処に当たったから。


 そのため終盤で数に押され、十五班とギョ族の援軍がなけれな、もしかすると失敗に終わっていたかも知れず。


 ボスギョたちだけでなく、宿場町からは二組が参戦してくれているので、戦力は南側の時よりも多い。


 今回は放浪が現れることもなく、南方面の時よりも安定して作戦を遂行できた。


・・

・・


 季節は春と夏の堺となり、地上界は警戒期に突入する。


・・

・・


 閉じていた目をあけると、そこは中級ダンジョンではなく、戦火に包まれた町並みだった。


 リヴィアと話し合い、これで最後にするとの約束で決着している。


 彼女にも語った理由。


 いずれ導かれることは確定しているから、ある程度は知っておきたい。


 そしてもう一つ。


 予備軍に参加しなくても魔物は必ず来るので、天上界の報酬を受け取れるのであれば、その機会は逃したくない。


 完全に納得してくれたわけではないが、ラウロが自分で考えて出した結論なので、ちゃんと送り出してもらっている。


「さて、どうしたもんかな」


 敵は出現しないと思うが、やはり上級で一人というのは心細い。


 上丹田に〔気〕をため、精神の安定でもすることに決めた。



 下と中は主に肉体強化で使う。


 常時強化する〔循環〕と相性が良いのは下丹田。


 爆発力を発揮させる〔解放〕と相性が良いのは中丹田。



 ルカなら〔下解放・硬気〕と〔中解放・闘気〕が可能。


 ラウロは〔下循環・硬気〕と〔中解放・闘気〕で限界。



 町中で呼吸法を開始したオッサンに、二階の窓から声がかかる。


「おいおい気が早いよダンナぁ、まだ裏ボスにはちっとかかりやすぜぇ」


「……」


 こっそり必殺技の特訓する。そんな場面を見られた恥ずかしさがあった。


「やあやあラウロっち久しぶりだね、カチェリちゃんだぁよ」


「おう」


 反応が薄かったのが気に入らないのか。


「久しいな、頭痕の双具よ」


「やめてくれ。んでっ、その建物で良いのか?」


 人差し指を顔の前で左右に振りながら、チッチッチと音を鳴らし。


「鍵もって来てないでしょ、ちょっと私の下まで来てちょうだい」


 放り投げてくれるのだろうか。


 言われた通り移動する。


「さあ、私を抱きとめてぇ~」


 こちらに手を差しだしながら、頭から落下してきた。


 唇を尖らせたまま。


「うわっ! バカ野郎」

 

 〖足場〗を展開させれば、カチェリは両手で着地をしてから、曲げていた肘をパっと伸ばす。クルクルと回転しながら、スタっと路地に靴底をつける。


「ふっ 決まったぜ」


「危ないっつうの」


 ニヤニヤしながら、このこのぉ~ とラウロの脇腹を肘でつつき。


「抱きとめても良かったんだよ、再会を祝してさぁ」


 この神さまがウザかったことを、今ごろになって思いだす。


「建物入るんだよな」


 歩きだしたオッサンを追い抜くと、腰に手を当てながら胸を張り、決め顔でこういった。


「ダンジョンと言ったらこの私。欲望神さまにお任せあーれぇ~」


 回転しながらつま先立ちでドアの前まで行く。


「案内役を変更できないか」


 相手をするのに疲れてきた。


「だぁいじょうぶだよラウロくぅーん。たかたたったた~ん マスタぁーキぃー」


 もうお家に帰りたいと、嘘じゃなく本当に心からそう思った。


・・

・・


 外見は他の建物と同じだったが、そこは一階が酒場となっていた。


 酒樽や瓶が並べられている。


「中身は入ってんのか?」


「うんにゃ空だよ。でもよく見てみ、酒瓶の中に宝玉のが混ざっているでしょ」


 青を筆頭に赤や茶色の物があった。


 属性生物(弱)の素材を〖水分解〗させ、同色の瓶で〖噴射〗や〖雨〗を使うと、一部の神技が強化される。


 ただし成功させるには、多くの知識と高い熟練が必要。


「空間の腕輪に入れて良いか」


 ジョスエは緑と銀の瓶を持っているが、育友剤開発のためにもっと揃えておきたい。


「ダメでーす。そしてここは一日ごとに場所が変わりまーす」


「こんにゃろ」


 でも仕方ない。今は報酬に期待しよう。


「すまないけど記憶の操作はさせてもらうよ、次からは偶然でもなんでも自力で探しておくれ。裏ボスは別のを用意しとくからね、今回のはちょっと違うんだ」


「誰なんだよ、合わせして欲しいってのは」


 この先で説明すると残し、ミウッチャは酒場に設置されているカウンターの裏へ行く。


 棚に納められていた普通の瓶を取り除くと、空いた隙間に手を入れる。カチャっと何かが外れる音がした。


 突っ込んだ腕を棚ごと押し込み、横へと動かせばその先に、地下へと繋がる階段が出現する。


・・

・・


 降りた先には豪華な椅子が置かれていた。


 二階の正面は金持ち連中の特等席。


「なんだよこれ」


「地下劇場ってやつさ」


 足もとを指さすと、そこには時空紋が浮かび上がっていた。


「ここまでたどり着いた探検者は、拠点と自由に行き来できるんだよ」


 自慢気に胸を張り。


「ちなみに内壁の中だけじゃなくて、この場所からも行けるんだけど、地下水路から大神殿に侵入するんだ。ちゃんと水が流れ着く先もあってさ、けっこう壮観の眺めだよ」


 鉄格子を通り抜け、そのまま空へと水が放出され、目下に虹が架かっている。


「違う」


 ラウロは一方を指さし。


「そんなこと聞きたいんじゃない」


「いやぁ 劇場なんて今は素敵な娯楽があるんだねぇ」


 二階の露台は高貴な者たちの見物席。


「本当に羨ましいよ。私たちの時代はさ、あれが一番人気だったんだ。民衆も熱狂するくらいにはね」


 舞台の上には処刑台が設置されていた。


「一緒にしちゃ駄目だろ。役者さんとか演技のために、めちゃめちゃ稽古してんだぞ」


 演奏している人たち。


 演出をする者。


 大道具やらの裏方にも失礼だ。


「そうかぁ。まあ、そうだよね」


 なんども頷きながら。


「でも見世物にされているみたいで、ちょっと恥ずかしいかな。私も帝国じゃ有名人だったりして」


 歴史上の人物。


「だからカチェリって名前なのか」


 欲望神が帝国の皇帝という認識は、少なくとも地上界の一般常識にはない。


「私個人としたら女帝なんてお勧めしないけどね。嫁を貰うのも同じかも知れないけど、旦那の一族が持つ権力はシャレにならんのよ、外国から婿を迎えるのだって悩むし」


 エカチェリーナ。


「まあ幸か不幸か、子供はいなかったんだ」


 やれやれと肩を竦め。


「旦那は余所でつくってたし、天使にならなくても私には最初から、産む機能はなかったようでね」


 子供がいなくて助かった点もある。


「後継ぎは兄のを養子にもらったから、ちょっとだけ仲良くなれたわけさ。マジで嫌われてたから、もうちょっとで殺すとこだったよ」


 危ない危ないと、額の汗をぬぐう動作をする。


「物騒だな。でもそういうもんなのか」


 カチェリはうんうんと頷きながら。


「騎士王なんてのは例外も例外。あんな弟欲しかったわ……本当に」


 ため息をつき。


「誰かさんが王家を断絶させたせいで、教国にはどうしても代わりの象徴が必要になっちゃってさ」


 創造主に最優先で作業をしてもらい、魂の器が完成するのに要した期間は百と五十年ほど。


「私も帝国じゃ似たようなもんだけど、彼には申し訳ないことを頼んだって自覚はある」

 

 海を目指し森中を這いずっていた時に、天上界は交渉を持ちかける。


「死後に本人の許可を得ないまま、勝手に英雄に祭り上げちゃった」


「俺の相手って骸の騎士なのか」


 ラウロにとっては自分と違い、本物の英雄だった。


「その頃はまだ私も今の君と同じく、刻印だけ捺された人間だったんだけどね」


 天上界とやり取りをしながら、教国の基礎づくりに励む。



 やるべきことを終え、[探さないでください]と書置きを残し、帝国から姿を消した時の年齢。


 今の姿から察するに天使へと肉体が変化すれば、その人物にとって心身の最盛期になるようだ。


「復活することだけを前もって民衆に伝えといて、彼が目覚めてすぐに交渉したんだ」


 聖神が言っていた。自分たちとは向き合ってくれないと。


 教国の守護者が。


「私がお願いしたのはね、第一騎士団の団長になるための試練として、【墓地】の大ボスになって欲しいってことさ」


「乗り越えたら加護を与えるんだよな」


 忠心の焔


「神技だけど、あれ嘘なんだ。加護をもらう相手は知ることになるけど、本当は〖怨嗟の炎〗で書にも記入してる」


 名前による固定はとても重要な要素。


「それと専用装備が騎士鎧ってのも違う。実際は私やルカさんと同じ」


 〖神の裁き〗 罪深き魂に天雷を落とし、神の怒りを帯びることで雷耐性(弱)。守りと身体能力を強化。


 〖罪魂雷砲〗 神の怒りを手の平から放つ。


 〖罪魂雷拳〗 両腕に神の怒りをまとう。


 英雄の真実。


「交渉した内容は守ってるんだろ?」


「まあね。ただ【墓地】から出てくれないんだ」


 教国の希望として、象徴となること。


「なんでだよ。実際に王家の墓があるのは教都だろ」


 普段は天上界で天使としての役割を熟してもらう予定だった。


 教国の民としてもそういう認識ではある。試練の時だけ【墓地】の大ボスになるのだと。


「それにさ、ちゃんと()に適ってるんだよね。彼は天上界にとっても切り札でさ」


「戦力としてか?」


 導かれた時期から考えても、まだ天使なはず。


「うん」


「そう言えばあんたも同期ってことになるんだよな」


 カチェリは二階席より飛び降り、一階へと靴音もなく着地した。


 舞台へ向けて細い通路を歩く。


「感情神は眷属もいないからね。私も刻印はまだ天の位だよ」


 二階席から彼女を見下ろしながら。


「そんなのあるんだな。じゃあ俺のは人の位って感じか」


「天使にも色々あるわけさ。君だってそうじゃん、さっきの気功っていうんだっけ?」


 拳術神の拘りは異常に強い。


「師匠って普段あんなんだけど、武に関しては頑固で愚直だからな」


 骸の騎士も何らかの秘伝を得ているんだろうと納得する。



 ラウロは交互に〖足場〗を展開させながら、ゆっくりと処刑台へと降りて行く。


「なにを考えてるか知りたいから〔合わせ〕か。そりゃ、あんた恨まれてそうだわな」


「恨んでいるならそれでも構わないさ。なにも考えず、物事を考え続けた報いだしね」


 欲望神は舞台へと飛び乗る。


「彼はなにも語っちゃくれないけど、好き嫌いだけで判断する人とは違うよ。もしそうなら、とっくの昔に私を殺そうとするはずさ」


 時間があれば、ちょくちょく一人で様子を見に行ってるから、その機会は何度もあったはず。


 【墓地】からでてこない。


「あんたへの当てつけじゃないのか」


「自分で言うのもなんだけど、たぶん私はそこまで恨まれちゃいないね。だってウザがらみしても怒られたことないもん」


 処刑台。


 人間が押えつけられる位置には、時空紋が光っていた。

 

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