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いつか終わる世界に  作者: 作者です
いつか見た夢
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1話 剣の鬼

前書きから失礼します。


作者の黒歴史になりますので、書くべきか本当に悩んだのですが、入れるべきと判断して今に至ります。





 廻る螺旋。


 なんどもなんども。


 繰り返すほどに魂は形を宿し、その道は定まっていく。


 されどこの世は無常なれば、一定ではないのだと信じたい。


・・

・・


 剣に生き、剣に死ねるなら本望だ。


・・

・・


 追われる身の父と二人、逃げながらの惨めな旅路。


 どこから来て、どこに行くのか。


 不安はあったけれど、そういうものだと納得もできた。


 父さん。


 貴方はいつも申し訳なさそうにしてたけど、少なくともこの時が俺にとって、もっとも幸せな日々でした。


 確かに自由は少なかったけと、本当に不満はなかったんだ。



 でも終わりは唐突に訪れた。


 父は負けた。


 生き残らねばと願ってしまったのが心の隙となり、一刀のもとに切り伏せられたらしい。


 きっと俺にとって、この時から剣の道は始まったんだ。


 弱い自分が許せなくなった。




 いつか殺し合うことを条件に、仇から剣を教わることになった。


 こいつと過ごした時間が一番長かった。


 多くのことを学んだ。


 沢山の経験を積ませてもらった。


 始めて人を殺したとき、あんたは不器用ながらも、気づかってくれたのを覚えている。


 なんやかんやで、俺は恵まれていたよ。



 父の仇としてだけでなく、このオッサンとはいつか決着をつけなきゃいけない。


 全力を尽くした勝負の果て。相手の剣士に殺されるのが、この人にとって理想の終わり。


 彼にはもう、剣の道しか残ってなかった。



 でもけっきょく、俺との約束は果たされなかった。


 狩りを楽しんでる王族。


 そいつを殺すよう依頼され、呆気なく返り討ちにあってしまった。


 立派な服を着ていたのは偽物だったようで、背後から刺されてオッサンは死んだ。


 俺と一緒にする仕事だったはずなのに、先走って行っちまうもんだから。


 急いで後を追ったが、もう全部終わっていた。



 殺したはずの張本人も驚いているようだった。


 自分が太刀打ちできる相手じゃないと思いながらも、破れかぶれで不意打ちを仕掛けたら、なんか成功してしまったらしい。



 王子なんて温室育ちのボンボンだと思っていたけど、そいつは歴戦の将って感じだった。歳もたぶん俺より一回りは上だし、この国の王様って高齢なんだな。


 オッサンのことを聞かれたが答えられるわけがない。こちとら暗殺が目的だっつうの。


 ただ困ったことにアホみたく強かった。俺より腕が立つんだからシャレにならん。


 見たところ他のお供はオッサンが全員殺してくれてる。


 逃げるかと考えた。


 その思考を読まれたのか、師の亡骸があれば、俺を追いかける術はあると言われる。

 なにそれ、魔術的なものだろうか。



 若いのにずいぶん剣が扱えると褒められ、顔には出さなかったが少し喜んでしまった。俺ってちょろい。


 重罪人として逃亡生活を送るか、自分に仕えるか選べと言われた。


 もう追われるのは御免だし、死にたくもなかったので、そいつから雇われることになった。



 最初の仕事がこれまた酷い。


 俺になにさせてくれてんだと、物言わぬオッサンを恨む。


 父親の墓すらつくれなかったのに、仇の墓をつくらされた。


 もし誰かの墓をつくるなら、剣を墓標になんてするな。


 それよりも一緒に埋めた方が良い。


 少なくとも自分はその方が嬉しい。


 以前聞かされた遺言にしたがい、そこらで適当に摘んだ花を添える。


 殺気なんて技術使っている時点で、ろくな人生を送れないことは、何となく俺も気づいていた。


 もし次があるとするなら、二度と剣豪なんかにならんよう祈っておく。


・・

・・


 まあそれからも剣の道を歩み続けた。


 山賊のねぐらに一人で突っ込んだりした。


 ある時に出会ったお頭は、とても優れた剣士だった。


 もとはどっかの国に仕えてたらしく、本当に有意義な一時を過ごさせて頂く。



 月日は流れ、やがて王子は王になった。


 一緒に王城まで連れてかれる。


 そこには空中庭園があり、ガキのころは弟と一緒に良く遊んでたらしい。


 景色がお気に入りなんだと進められ、眺めてみたが荒野しかねえ。


 なんでこんなとこに城を建てたのか聞くが、初代の王様である英雄が築いたんだと。


 どこまでも続く同じ眺めに飽きたころ、産まれはどこだと聞かれる。


 ないと答えたら、今日から此処がお前の故郷だと勝手に決められた。



 数日後。


 外野に達人は多くないと言われ、戦場に行くことを勧められた。


 実際になんどか豪の者と戦うことができて嬉しかった。


 少ないが兵士とか任されたけど、副官に指揮を押し付けていつも戦っていた。


 命を預かる身として、教養を身につけろと言われたが、剣の鍛錬で忙しいから逃げることの方が多い。


 鎧くらいしろと言われたけど、動き難いからお断りする。




 そんなこんなで数年後。


 呼び出されてお城に向かう。


 厄介なのがいるから、どうにかできんかと王に意見を求められた。


 重要な場所をそいつに落されてしまったらしい。


 剣のことしか考えてない俺に、いったい何を聞いてるのだろうかこの人。


 断ったが、相手が槍の豪者だと教えられる。


 王が何を思い俺に任せようとしたのかはよくわからない。



 酷い方法でも良いかと尋ねたら、夢のためなら手段は選ばんと返される。


 夢ってのは自分の代じゃ無理だけど、天下統一の地盤は固めておきたいんだと。


 まあそんなこと俺には興味ないけど、槍の達人と戦いたいから、王様から指揮権をもらう。



 副官には反対されたが、許可はもらってるから大丈夫だと安心させる。本当は王にも繊細はちゃんと説明してなかったけど。


 前に教わった空城の計ってやつだけど、町中に誰もいないというのはけっこう怪しい。



 まずは敵の足止めをするため、ちょっかいを出しては逃げるを繰り返し、策の準備を進める。


 火計の準備を民衆に悟られないよう、こっそりするのが大変だった。屋根に油を染みこませた枯草を仕込むとか。


 罪悪感で言いふらされないよう、作業をする者の家族を人質に取って対処はしてある。



 敵軍を迎え撃つと嘘をつき、自国の町から兵を引かせる。


 残兵と民だけの町に敵軍が入場。


 町壁の門を壊し火をかけ、残った一カ所から出てきた敵を自軍で待ち伏せして殺す。


 寝返られると困るので、町の兵は使わないと決めている。


 周辺から集めた軍の指揮を副官に任せ、俺は精鋭を引き連れ民に扮し、燃える町中で指揮を採っていたそいつに襲い掛かる。


 濡れた布で口もとを縛っていたが、息苦しくて大変だった。


 槍使いは激昂してたけど、この策を考えたのは副官ということにして、怒りを静めてもらおうとした。


 許可したのはお前だろと余計に怒られてしまう。


 兵士の大半は徴兵された民だとすれば、君だってたくさん殺してるじゃん。


 人殺しと英雄は何が違うのかね。


 

 まあ、こんな語り合いはどうでも良い。


 とても楽しい死合ができて嬉しかった。



 殺した瞬間、相手は自分を見事と褒めた。


 けっきょくのところ、俺たちの本質は変わらない。削っちまってんだ、色々と大切なもんを。


 炎の力が宿った良い槍を使っていたので、剣だけじゃなくそれも得物とするようになった。



 王に怒られると思っていたけど、いつか儂やお前も報いを受けるなと言われるだけで終わる。


 もし処罰されそうになったら、副官の考えた作戦だって言い逃れようかと思っていたが、なにもなくて良かった。


 町を燃やしたのは敵だと、嘘の噂が国内に広まった。


 でも敵国からは赤槍の外道と失礼な二つ名をつけられてしまう。


・・

・・


 それからも戦場に身を留めた。


 久しぶりに王が来いと言ってきたので会いに行く。


 副官に聞かされた内容を思いだし、お土産を買って行こうと思った。


 俺は下戸だけど、あいつはお酒が好きだから、それを持っていくことにした。


 高いのは癪だから、一番安いのにする。



 体調がすぐれないとのことだったけど、実際に会うまでは半信半疑だった。


 酌をしてやったら、美味いとか喜びやがる。


 もっと高いの買ってくれば良かった。



 酒のお礼にうす汚い剣の鞘を貰う。


 鞘だけもらっても困るんだけど、新種の嫌がらせだろうか。


 なんでも王の話では、これを国から遠ざけたいらしい。お礼とはいったい。



 別れ際。そろそろ剣道の旅に戻れと進められる。


 でももし疲れたときは、近くの町に住む環境くらいは残しておけるから、この国の行く末を見守って欲しいと頼まれた。


・・

・・


 王にも子供はいたけど、早くに亡くなってしまったらしく、弟が新しい王になった。


 ありゃ駄目だ。


 どうも奴は兄への対抗意識が強すぎたのか、無理な方針ばかり押し付けてきやがる。


 土台ができてたから最初は良かったが、少しすると負けが続いて領土が消えて行く。


 それでも攻めることを止めない。


 国の成り立ちが関係しているようで、王の権力が強すぎるのがなお悪い。


 副官に指揮官としての教えを受けながら、色々と頑張るが俺じゃ付け焼刃だ。



 敵方のお偉いさんが熱しやすい性格という情報を得る。


 自将の弱みを握って敵を誘いださせ、塞き止めていた水で味方ごと洗い流すとか、こういった方法じゃなきゃ勝てねえ。



 最近は剣の稽古もできてない。


 身体がだるく、頭がうまく働かない。


 鎧が重い。


 何日も眠れていない。


 勝ちどきの声を聞いてる時だけは安心できた。


・・

・・


 最近になってわかったことがある。


 弟のやることは全部意図的なもんだ。野郎は鼻から自分の国を潰すつもりだったんだ。


 あいつは無能じゃない。


 まともな家臣を自分で遠のけ、アホな奴だけ上手いこと残しやがった。


 一度だけ見た、あの虚ろな目は普通じゃない。



 もうこの国は王城にまで、敵軍が来れる位置に攻め込まれちまってる。


 国は城を捨てて、別の場所に本拠を構えることにしたらしい。



 僅かな兵を押し付けられ、城を守れなんて命令をされた。


 こんな蔑ろにされるなんて、もう本当に悲しい。


 お前は我が国の恥だなんてさ、皆さん俺のこと嫌いにもほどがあるだろ。一緒に戦ってきた仲間じゃんか。



 籠城は少数でも出来るったってさ、いくらなんても多勢に無勢すぎる。俺が歴史に名を残すような、策士やら軍師だと勘違いしているのだろうか。


 こうなっちゃもう仕方ない。貧乏くじを引かされた、可哀そうな兵士たちを解散させた。


 俺って本当に優しい。もうこんな国捨てちゃおう、君らは家族のもとにお帰り。


 でも副官を筆頭に嫌がる連中もいた。


 英雄が築いたこの城にはなぜか城下町がないので、歩いて二時間ほどの位置にある大きな町へ行くよう命じる。



 ほとんど誰もいなくなった王城。


 空中庭園で景色を眺めてたら、あろうことか副官が俺に剣を向けてきやがった。乱心したのだろうか。


 こいつには嫌われる覚えは、少しだけあるかも知れない。


 早く旅だてと煩いので返りうちにする。もし化けて出られたら、夜怖くてトイレに行けないので、命は奪わないでおく。


 この馬鹿女を残っていた部下に託し、包囲される前に城を脱出させた。副官は降伏の条件に命を差し出すと思うので、町には連れて行くなと頼む。


・・

・・


 隠し部屋にあった英雄の剣。


 王城の周囲が荒野となっているのは、大昔にこれが使われたからだったりする。


 あいつに託された鞘が封印の鍵だった。


 これがあれば一振りで全てを焼き尽くすこともできるが、残念ながら俺には扱えそうにない。



 地面に切っ先を突き立て、〖炎の城壁〗を展開させるだけで限界だった。


 たぶん三日くらいは消えないはず。


 これ以上この剣を使うと、魂まで燃え尽きちまう。


 太陽の如き炎に、先王から託された鞘を放り投げる。これがなければ英雄の剣もただの業物だ。


 地面に突き刺したまま、柄を手放して振り返る。


 熱気と共に乾いた風が吹く。


 武者震いだと強がるが、そんなの嘘に決まってるだろ。



 本当はまた、剣の事だけを考えて生きていきたい。


 俺だって国を捨てようとしたさ。


 これまで何度も何度も。


 そのたびにあの言葉が呪縛となって、もう身動きがとれねえ。



 相棒を腰に差し、背後の熱を身体に感じながら、赤槍を手に駆ける。


 火属性の槍なんて使うもんだからよ、敵さん俺が英雄の剣を持ち出したと勘違いして、とても歓迎してくれて悲しい。



 剣に生き、剣には死ねない人生だった。


 一人じゃ城一つ守れない。


 でも俺にはこの道しかなかった。



 今は、ただ故郷のために。


・・

・・


 悲劇の英雄として、この物語は後世に語り継がれた。


 男の所業は全て闇に葬られ、綺麗な美談として。


・・

・・


 うす暗い世界。


 真っ直ぐに伸びるその道を歩き続ける。


 月はない。


 もうどれくらいの年月を進んできたのか。


 道ずれとするには忍びなくて、赤槍は向こうに残して来た。


 最後まで付き合わせた、相棒の姿はもう腰にない。



 いつになれば自分は、夜明けを迎えることができるのだろうか。


 まあ、良いか。


 どうせこの道一本道。


 いつかどこかにたどり着くさ。


 

 俺は逝く。


 この果てなき罰の道を。


・・

・・


 〖剣の(おに)


・・

・・


 繰り返す


 似たような人生を


 いつになれば終わるのか


 なんども


 なんども



 神よ



 赦してくれ


 もう限界だ









 彼が導かれた理由です。


 とりあえずあと一話残していますが、難しく思っていた所は執筆できたので投稿を再開しました。


 この章は短いので、全部で5話くらいで終わりです。

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