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いつか終わる世界に  作者: 作者です
警戒期まで
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3話 共同訓練



 内壁門を突破してから南方面の外側は、小鬼と肉鬼の強化個体が出現する確率が増した。


 レベリオ組としては勝てない相手でもないが、現状だと貯蓄に余裕もなければ、天人菊には鉄塊団ほどの組織力もない。

 これら理由から資金集めのため、彼らは活動の場を一時的に中級【迷いの森】に移している。


 加えて都市同盟より二名が移住してきたので、しばらくはレベリオたちも初級と中級の案内に集中するようだった。



 


 その日。中級ダンジョンの訓練場には、いつもより多くの探検者が集結していた。


「おーい、ラウロさーん! こっちこっちぃ!」


 手を振るミウッチャに動作で返事をする。


 時空剣に関する情報を交わしたとき、時間ができたら新人の面倒を見るという約束。


「相変わらず忙しそうだな」


「天人菊の皆も手伝ってくれるってだけで、私としちゃ大助かりさ」


 定期的に共同訓練への協力をすると決まり、鉄塊団が資金援助をしてくれることになっている。


「北門の方は大丈夫なのか?」


「今からデボラさんと打ち合わせなんだよね」


 警戒期の数カ月前からは、死の危険を伴う挑戦は控えるよう国から命令がくるので、北内壁門の突破作戦は冬の終わりに予定されている。


「ラウロさんとこはどうなのさ」


「しばらくは上級も無理そうだ」


 久しぶりということもあり、レベリオらも最近はずっと五人での活動を続けていた。



 オッサンは周囲を見渡し。


「あいつらも第二ボスまでは突破してるから、たぶん大丈夫だとは思うけどよ」


 大ボスに関しては初戦のみ、レベリオ組から人員を当てる予定。


 モニカ組にはラウロ。ルチオ組にはアリーダといった配置になるか。


「まだ上級挑戦者ってわけじゃないから、不安の多い新人を担当させんのは勘弁してやってくれ」


 ミウッチャは気まずそうな苦笑いを浮かべると。


「それなんだけど、いつも担当してもらってる人たち、今はイルミロさんたちと【天空都市】でさ」


 ルチオたちと一緒にいる五人組は、とてもやる気に満ちている様子。彼らの装備は自前なようだし、武器も見当たらないので、装備の鎖は人数分が揃っているようだ。


 問題はモニカたちが受け持つのは四人組。


「あの連中、たしかもう一人居たよな?」


「ちょっと前に探検者やめちゃったんだよね、あはは」


 その新人たちは自信なさ気に身体を縮ませている。


「俺は念のため、あそこに加われば良いのか」


「午前中はそこら辺の敵と戦ってもらって、行けそうならゴブリンのねぐらって予定だから、たぶん大丈夫じゃないかな」


 第一ボスを狙う場合は協会に許可を取らなくてはいけないが、今日は鉄塊団がその権利を何カ所か獲得しているのだと思われる。


「まあモニカさんなら問題もないか。んで、俺はどこに行きゃ良い?」


 視線をミウッチャへと移すが、自分の隣りから姿が消えていた。


「お前は俺に付き合ってくれ」


 振り返ると、そこにはダンジョン広場の門番が立っていた。


 ミウッチャは目を輝かせながら、彼の周りを飛び跳ねてバンザイしたり、軽装をペタペタと触る。


「うわーっ おっちゃん探検者モードだぁ!」


「警戒期前の慣らしだ。復帰するわけじゃないぞ」

 

 魔界の侵攻。場合にもよるが、引退者も予備戦力として駆り出される可能性はあった。


「やっぱ私も参加したかったなー」


「満了組と打ち合わせがあるんだったか、そろそろ行った方が良いんじゃないか?」


 当時は一番星という名前だった彼女らは、先代のいぶし銀と上級で活動したことがない。


「次はボクらにも前もって教えといてよ」


 みんな頑張ってねと声をかけると、モニカやルチオたちに頭をさげてから。


「じゃっ おっちゃん後よろしくねえ」


 ミウッチャはこの場から離れて行く。



 去っていく彼女の背中を眺めながら。


「今じゃ実質、あのガキが鉄塊団のまとめ役をやってるんだからな。俺も歳をとるわけだ」


「イルミロさんたちも次で引退でしたっけ」


 ラウロにも訓練生時代があったのだから、グレゴリオにも新人の時代はあった。


・・

・・


 今回の中級活動に参加する新人は全部で五組。それぞれに補助役が付くので全部で十組。


 だがグレゴリオたちは誰も連れずに森中を移動していた。先導する〖犬〗もいるので、正確には二人と一体。


「例の奴らか」


「そうだ。今日は徒党が集団で活動するから、なにか無茶をするんじゃないかと思ってな」


 教育係にもターリストと同じく〖土犬〗を扱える加護者はいるので、グレゴリオが事前に話をしておいたのだろう。


「注目でも集めたいんですかね?」


「自分たちの価値を示して、今の評価を改めさせたいってとこだろうな」


 彼らの目的は周囲を見返すこと。


 承認欲求と言えば聞こえも良くないが、誰かに認められたいというのは大切な行動原理でもある。


「構い過ぎたせいで嫌われてしまってな、俺が言っても逆効果なんだ」


 注意される。叱られる。怒られる。


 何事も上手く行ってないからこそ、余計に腹が立ってしまう。


「でもあれからずっと中級で活動してるんすよね、大きな怪我もなく」


「なまじ戦えるからこそ、俺としては心配なんだが」


 自分たちの今を認められないからこそ、誰かに評価されたいと願う。


「説教とか産まれてこの方したことないですよ。俺っていつも怒られる側だし」


「それでいい。むしろ、その方が良いのかも知れん」


 ルチオとアドネに舐められまくっているのが、このラウロというオッサンだった。


・・

・・


 グレゴリオも久しぶりのダンジョン活動だったので、休みながらの移動だった。


 この二名に索敵はできないけれど、〖犬〗がそれをしてくれる。そもそも中級の序盤であれば、今のラウロなら相手もできる。


 敵が出現してもグレゴリオは軽装のままだった。もう鎧をまとったまま戦うのは厳しいらしい。



 しばらく森中を進む。


 先導していた〖犬〗が、茂みに隠れていた別の個体と合流すれば、そのうち一体が土に帰る。


「戦ってるみたいだな」


 剣の加護者。水の加護者。風の加護者。



 リーダーと思われる青年が盾でゴブリンの攻撃を受け止めれば、水の加護者がその横から剣で突き刺す。


 協会から借りている物品は一目で解るようになっている。装備の大半には印が入っていた。


「くそっ まだねぐらじゃねえのに!」


 第一ボスの手下どもは、こちらの数が多いと拠点に知らせに戻るが、少なければそのまま襲ってくる。




 移動中に現在地の確認はしていたが、グレゴリオの本職は広場の門番であるからして、まだ中級の地図は頭に入っていない。


「連中が狙ってたのはどっちだ?」


「たぶんオークの方だな」


 最近はこちらでの活動が主だったので、ラウロの方が把握している。


「前はゴブリンの住処を三人で攻めてたらしいから、今回はこうなると予想していたんだ」


 なまじ戦えるだけ、周囲を見返すために無茶をする。




 風の加護者が軽鎧の神技を発動させ。


「おいっ! また来やがったぞ!」


 放たれた矢の軌道を〖風鎧〗で反らす。


 〖風刃の鎧〗という発生神技は、一部が鋭く加工されている専用の物でないと使えない。



 増援には一体とはいえオークも混ざっているので、彼らはずいぶんと長いこと戦闘を続けているようだ。


 剣の加護者は足もとで倒れているゴブリンを蹴飛ばすと、まだ自分たちを囲っている数体に意識を向ける。水使いはリーダーとこちらを片付けるようだ。


「ダニエレ、足止め頼む!」


「あいよっ」


 〖風伸突〗 対象を吹き飛ばす。または仰け反らす。〖風圧矢〗の方が強力ではあるけれど、こちらの神技はクールタイムが蓄積型なので、熟練にもよるが連発が可能。


 迫ってくるゴブリンは小さいだけあり、〖風伸突〗でも吹き飛ばし転倒させることに成功していた。

 しかし巨体への影響は薄いようだ。


「オークは後回しで良い!」


「先に言えよっ!」


 〖風刃連斬〗 クールタイムは蓄積型。


 ティトの扱う〖風刃斬〗は、正式名称が〖風刃・血刃〗であるからして、こちらの神技に出血のデバフは付かない。



 二つの神技で六体の足止めには成功したが、オークを含めた二体はそのまま彼らに近づく。


 リーダーは〖君の剣〗系統を二人に発動させ。


「こっちは任せるぞ!」


 オークに向けて〖一点突破〗を発動する。



 彼らは長いこと戦いを続けていた。そして貸出される片手剣というのは、粗悪とまでは言わないが、量産された品だった。その質は兵士が使う物よりも劣る。


 剣は大盾で防がれると同時に折れてしまう。


 弓を投げ捨てたゴブリンが、彼の右側に回り込み短剣で突いてきた。〖一点突破〗の防護膜は上半身だけなので、小鬼の短剣は大腿部に刺さる。


 リーダーは足の位置をそのままに、折れた剣の柄尻でゴブリンの側頭部を殴りつけ沈黙させる。


 だがオークは待ってくれず。大剣が勢いよく振り落とされるも、その一撃はなんとか左腕の盾で受け止めた。


「ガスパロっ!」


 風使いに守られながら、水使いは二つの瓶をベルトホルダーから取り出し。


「回復はこれで最後だっ もうないぞ!」


 〖噴射〗には飲むまたは傷口にかけるのと同じ効果がある。〖解毒薬〗によりゴブリンの毒はなんとかなった。

 本来は毒の種類によって使い分けなくてはいけないが、そこは神技で(ルール)を捻じ曲げているので、加護者が相手なら問題ない。


 〖薬草の雨〗はしばらく止まず。

 もとになった薬草は中級で採取した、地上界には存在しない素材。神力混血中の対象に限り傷を治癒するが、それ以外は炎症を抑え、感染症の防止と止血だけ。


「くそっ 涎が肌に当たった」


 オークの細菌にも一応の効き目はあるが、〖消毒薬〗でなければ完全に鎮めることは無理だった。



 三人の足もとが聖なる輝きに照らされる。


「おっしゃ、このラウロさんが若者に格好いいとこ魅せちゃおっかな」


 頭部に布を巻いたオッサンが、オークの側面より〖空刃斬〗を放つ。


 〖聖域〗に〖聖紋〗が浮かぶ。


 装備の鎖より咥え刃を出現させ、舌を切ってから〖無月〗で転移すると、肉鬼の死角から将鋼で斬りかかる。


「オークはお前が殺せ」


 〖旧式・一点突破〗でその場から離れ、まだ残っている増援のゴブリンどもに突っ込む。







 とりあえず切の良いとこまで終わりましたので、まだ章は続きますが4・5・6話まで投稿していきたいと思います。毎日一話ずつの予定です。

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