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いつか終わる世界に  作者: 作者です
警戒期まで
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1話 再会



 勝った側が負けた側に無理な要求をする場合もあるが、交渉というのは両者に利益がなければ脅迫と変わらない。


 内壁突破作戦では探検者もギョ族も協力関係にあった。力関係は人間の方が上だとしても、だからといって強気になるといった恥をさらすわけにはいかない。


 連中とやり取りできるのが隊長しかいないので、そこが最大の難所ではあったが、ボスコを間に挟むことでなんとかなったとのこと。


 ギョ族の望みは内壁に生息するトカゲの駆除。そして生活区域の保証。


 探検者はギョ族との共闘だけでなく、彼らへ武具の提供もすると決まる。なんでもボスギョが〖雨乞の舞〗をしなければ、仲間たちの〖氷〗はとても脆いらしい。


 ボスのいる一カ所で勝利をつかめても、それ以外で負けてしまえば少しずつ戦況は悪化していく。

 人間がつくった片手持ちの槍と盾があれば、〖雨乞の舞〗に頼らなくても、ある程度は戦えるようになるとのこと。



 ギョ族にもボスほどではないが強い個体はいる。


 【天空都市】は壁や建物を無理やり破壊すれば、時空紋でどこかに飛ばされてしまうが、これは人間だけが対象ではないらしい。


 トカゲの成体は用水路の鉄格子を抜けれないが、幼体であればこちら側への侵入が可能。それを阻止するために、今もギョ族の精鋭は内壁付近で戦いを続けている。



 探検者は協力の見返りとして、彼らの鱗を定期的にもらえることになった。これから制作された〖薬〗を服用すれば、〖一点突破〗や〖輝く鎧〗の防護膜に水属性が宿る。ただ残念ながら〖火心〗との相性は悪い。


 ギョ族との関係だけでなく、満了組と鉄塊団が今回の作戦で得たものは多い。



 それとは対照的に、レベリオ組はけっこうな痛手を受けていた。


 オーガの強化個体。


 破損した武具と防具にかかった費用は馬鹿にならず。レベリオは予備の王盾だけですんだが、アリーダは防具一式と大剣。


 内壁突破作戦で得た報酬のみでは黒字にならず。お金の管理をしていたレベリオは、しばらくのあいだ頭を抱えていた。


 貯えていたぶんで揃えることはできたが、懐事情はだいぶ寂しくなったらしい。


 内壁より先は厳しいとの判断も仕方ないだろう。もともと彼らは五人組だったのだから。


・・

・・


 季節は夏を通り過ぎて秋となっていた。


 住処を奪還したい。


 騎士としての性質故か、デボラ組の面々がやる気を出してしまい、【天空都市】の攻略そのものは後回しになっていた。


 警戒期に突入するまでには、内壁北門を鉄塊団主導のもと突破する予定とのこと。



 ラファスにて。


 武具屋前の路地をラウロは歩いていた。背中を向けながら片手をあげ。


「じゃあな」


 オッサンは格好いい去り方を決めたのち、少し進んでから振り向くと。


「どうだ?」


 視線の先には二名の男性。


 店前はちょっとした階段になっており、そこに座りながら杖の先をラウロに向ける。


「立てる指は二本にしてはどうですかな」


「ちっとキザったらしくねえか。だいたい指二本にするなら、こう腕を組みながら」


 出会いざま。よう、久しぶりだなのポーズ。


「俺はもっと気だるげな感じが良いと思うぞ。歩き方もガニ股にして、やる気のなさをアピールしねえと」


 彼は車いすに乗っていたが、手すりにつかまって立ち上がり、自ら歩き方をレクチャーする。


「おい、無理すんなって。転んでも知らんぞ」


「馬鹿野郎、老人扱いすんじゃねえ」


 などと返しながらも、痛いのか腰に手を添えながら車いすに戻る。


 杖持ちは自分の膝をさすり。


「いやはや、歳はとりたくありませんな」


 この二名はラウロと同じく、格好いい去り方に拘りを持つが、それぞれに主張が異なる。


 紳士派と気だるげ派。


 年齢はグレゴリオやヴァレオよりも上で七十前後。


 先代のいぶし銀はこの二名が限界を迎えたことで、引退を余儀なくされた。



 杖持ちが鎧。

 車いすが戦棍。



 武具屋の扉が内側に開く。


「あなた達またやってるの。ラウロもこんなのに付き合っちゃダメよ」


 武具屋の嫁さんが剣。つまりはミウッチャの先生にあたる人物だった。


「まことに遺憾ですな。この良さがわからないのですか、貴族としての嗜みですぞ」


「そうだそうだ、もっと言ってやれ男爵」


 もうそんな連中はこの国にいないが、一応その末裔らしい。あと本人から聞いたわけではないが、預り所の所長さんも先祖は貴族だったと誰かから教わった。


「なんで貴族と関係あるのよ。それってグレゴリオの真似でしょ」


 実は格好いい去り方が一番うまいのは彼だったりする。


「あなたたちがアホみたいに騒ぐから、本人なんて恥ずかしがってやらなくなったのよ」


 グレゴリオの場合は素でやっていたので、ラウロを含めたこの三人が敵うはずもない。おそらく対抗できるのは、前に橋であった職人風の男だけだ。



 店の奥から店主が姿を現す。


「お前そろそろ行かなくて良いずらか、約束あるんずらよね?」


 その頭にはカツラという名の帽子が装着されていた。いつものそれとは違う。


 嫁さんはそれを見てため息をつくと、段差に座る男爵を睨み。


「恨みますからね」


「はて、なんのことでしょうか?」


 今。この町に教都から劇団が来ていた。


 演目は[誰がための我が道か]


 それはこの国の歴史をもとにした内容で、中には貴族を演じる役者も存在する。


 店主は嫁さんと劇場に行き、貴族がかぶっていた帽子(カツラ)に一目惚れをしてしまう。


 出待ちをして、なんとかその帽子を入手しようとしたが、案の定同席していた嫁さんに怒られ、その場は諦めざる負えなかった。


 だが神は会長を見捨てなかった。話を聞いた男爵が実家の倉庫から、古い帽子(カツラ)を発見してしまったのだ。

 大切に保存されていたようで、状態も悪くない。



 ラウロは何かを思いだしたようで。


「今日、初顔合わせだったんだ。遅刻しちゃ年長者の面子が立たんわな」


 嫁さんはあきれ顔で。


「ラウロよりレベリオさんたちの方が確りしてるじゃない」


 都合の悪い言葉は聞こえないようで、オッサンは老人二名に視線を移し。


「そんじゃまた指導よろしくな」


 小走りに武具屋を後にする。


「……そのまま行きやがった」


「紳士には程遠いですな」


 格好良い去り方をしないまま去っていくオッサン。


・・

・・


 当初は外に設置する予定だった筋トレ器具は、とある事情から室内にすることに決まり、尚且つ天人菊の拠点にもなっている。


 都市同盟より夫婦が移住してくるので、この機会にラウロは一週間ほど前に引っ越しをしていた。



 リビングに入ると、すでにあらかたの面子が揃っているようだった。


「遅せえよオッサン」


 ルチオもずいぶんと精悍な面構えになっている。大柄なラウロに迫る体格。


「悪るかった、ちっと話し込んじまってた。でもまだ来てないみたいだな」


「レベリオさんたちが門まで迎えに行ってるから、もうじきに来ると思うよ」 


 アドネも少しは身長が伸びたようだ。もっとも線は細く、声も相変わらず高いが。



 頭の布を縛りなおし、服装を整えるオッサン。今日はちょっとおめかししていた。


「良い大人なんだから、時間くらい守れよな」


「おじさんが教育係だったなんて、僕らとしては黒歴史だから言わないでよ」


 相変わらずこの二人は年長者に向けての敬意を欠いている。


「ずうたいばかりデカくなりやがって」


 室内を見渡す。


 部屋の隅でヤコポは膝を抱えており、ゾーエになんか説教されているようだ。


「あの二人も相変わらずだな」


 ソファーに座って、どこか緊張しているモニカを見て。


「どうかしたのか?」


「お茶菓子をお願いしてたんですけど、来る途中でヤコポったら転んじゃって」


 トゥルカが急遽走って買いに行っているとのこと。エルダもそのお供。


「人選ミスだな。あいつ洒落た菓子なん知らんだろ」


「おっさんだって人のこと言えねえだろ」


 苦笑いを浮かべるモニカ。


「ゾーエも同行してたので、大丈夫かと思ってたんですけどね」


 ここ最近は大通りが賑わっているので、ヤコポが前を歩き人避けの壁になる予定だった。


「お前を信じた私がバカだった」


「……」


 荷物持ちは男の仕事だと格好つけて、袋を奪い取ったまでは良かったが、小柄なゾーエに壁役は担えず。


「モニカ組もレベリオ組も年長者が頼りないよね。女性陣はしっかりしてるけどさ」


「それに比べて俺らはサラさんで良かったぜ」


 モニカの対面に座っていた彼女は、少し照れた様子で。


「いやぁ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。だけどヤコポもラウロさんも、いざって時は頼りになりますよぉ」


 ここにいる時はマリカと畑やら料理をしていることが多いので、こうやってくつろいでいる場面は珍しい。



 モニカの手には数枚の用紙。


「……」


 先ほどからそれを熱心に眺めている。


「なんだそれ?」


「あっ いえ、その。挨拶の内容を考えてきまして」


 本日はお日柄も良くとか言うつもりだろうか。


「相変わらず親分は真面目だな」


 ルチオは都市同盟のダンジョンについて、話を聞くのを楽しみにしていると言っていた。以前レベリオたちにも同じ質問をしていたが。


「お二人の前でその呼び方は絶対にしないでね」


 どうせいつかはバレると思うが、ラウロは大人なので言わないでおく。


・・

・・


 海峡といっても船で渡るにはそれなりに時間もかかる。港町から天気が良ければ、うっすらと向こうを伺える日もあるらしい。


 もし帝国と都市同盟が開戦していたら、ここが最大の難関と言っても良かっただろう。


 ゴーワズの海軍に対抗できるだけの手札が、少なくとも当時の帝国にはなかった。


 二人は馬車に揺られながらの移動だったそうで、旅装もそこまで汚れていなかったが、それでも疲れの度合いはダンジョン攻略後と同等かそれ以上。


 埃を軽く払ってから、借り屋の中に入り、それぞれと対面する。


「皆さん始めまして、ジョスエと申します」


 中折れ帽にネクタイと、あまり教国では見ない服装。


 眼鏡がよく似合い、手にはステッキとくれば、もうどこぞの男爵よりも紳士だ。


「あぁーっと、お尻が痛いんで、ちょっと座らせてねー」


「こちらが妻のアガタです」


 どうぞどうぞと、飯屋の娘が横に少しずれる。


「すまないね。えっと、サラちゃん」


「正解でっす、よろしくねぇ」


 ソファーに座ると、夫に差し出されたハンカチーフで額を拭く。


「聞いてたよりすごい活気のある町ね、驚いちゃった」


 マリカもアガタの隣に座り。


「うへ~ この時期は特にねぇ~」


 ルチオは椅子を引くと。


「ジョスエさんもここ座ってくれ、長旅で疲れただろ」


「ではお言葉に甘えさせてもらうよ」


 ふむ と青年の顔を眺め。


「トゥルカくん、いやルチオくんかな。でっ、君がアドネくん」


「はい。僕らまだ中級なので、同行させてもらう機会も多いと思うんで、よろしくお願いします」


 ラウロは思う。自分の時と対応が違う。


「さっきレベリオに聞いたけど、近く収穫祭があるんだって」


 アリーダは咳ばらいを一つ。


「お茶でも入れてくるわね、欲しい人は手を上げなさい」


 喉が渇いているのか、モニカがピンと腕を伸ばす。


「僕も欲しいです」


 アドネがそれに続く。


 ヤコポも手を上げようとしたが、ゾーエを見てやっぱりやめた。


「もうすぐお茶菓子も届く。用意遅れて申し訳ない」


「お気づかいありがとう。君がエルダちゃんかなー?」


 にっこりと微笑んで。


「違う、私ゾーエ。お二人に会うの楽しみでした、よろしく」


「ありゃ、間違えちったか。私もうんと会いたかったよ、レベリオちゃんの手紙が待ち遠しかったくらいさ」


 アリーダはお茶の支度をしながら。


「私もあんたと手合わせすんの楽しみにしてたわよ」


「けっこう訛ってるから、アタシも運動したいと思ってたとこでね」


 〖いつか見た夢〗は近接の剣。お茶を飲んで一息入れたら、さっそく始めようと肩を回す。


 ルチオも目を輝かせ、参加したいと名乗りでる。



 天人菊の面子と会話をする二人を、レベリオは感慨深げに眺めていた。


 その視線に気づいたのか、ジョスエは笑みを浮かべて。


「今日はこのままゆっくりしてて良いのかい?」


「少し休んだら、役所には行っておきたいかな」


 机の上に五人分の紙切れを置く。


「明日は僕ら五人で劇場にでも行こうかなって思ってるんだ」


「もしかして骸の騎士さまの話し? アタシ子供のころ、絵本で見て憧れてたんだよね」


「第一部だから、主人公は騎士王さまだよ~」


 王と言う呼び名だが、この人物はその立場にない。


 ジョスエは記憶をたどりながら。


「弟の話か。すごく仲が良かったという点は知ってるけど、都市同盟じゃ教国の守護者さまの方が有名だったかな」


 騎士団。つまりは柱教に出家するということは、旧教国において王位継承権の破棄を意味する。



 この場に置いて、まだ挨拶を済ませていないのは三名。


 オッサンがジョスエの対面に座った。


「すいません、ラウロさんですね。騎士だった方の前でそういった話をするのは、あまり褒められたものではなかったか」


「いやいや、あんま気にしないでくれ。俺も訓練生時代にちっと習った程度だからよ」


 ルチオとアドネを交互に指さし。


「ちなみにこいつらの教育係だった」


 騒ぎだす二人。


「そこら辺の話はレベリオちゃんから聞いてましたよ」


 夫婦が揃って頭をさげてきた。リーダーに彼らを呼ぶよう提案したのは、なにを隠そうこのオッサンだったので、そのことに対するお礼だろうか。


 照れ臭そうにしながらも。


「まあ、なんだ」


 ラウロにはどうしても確かめなくてはいけないことがあった。


「なによ急に真面目な顔して」


 アリーダが机にお茶をおく。



 オッサンは頭の布を外す。


「今はレベリオ組で世話になってる。いつも三人には助けられてばかりいる、しがないオッサンだ」


 水使いの目つきが変化した。


「失礼いたしました」


 室内ということもあり、彼も中折れ帽を脱ぐ。


「近いうち、君にぜひ合わせたい人がいる」


 これが育友会。のちの開発局長との出会いだった。




 天人菊のボスはアリーダからお茶を受け取る。


「大丈夫?」


 震えた手で口をつけ、乾いた喉を潤す。


「はい」


 アガタは何事かと首をかしげる。


「がんばって~」


 応援を受け、決心を瞳に宿し、モニカは強くうなずいた。


「……本日はお日柄も良く」


 少し場違いな気はするが、親分はなんとか文章を読み終えることに成功した。


 なぜか皆から拍手をもらい、どこかやり切った表情のモニカ。



 まだ挨拶を終えてない者が一名残っていたが、漆黒の闇に染まっていたので視界に映ることはなかった。








騎士王の元ネタは武田信繁という御仁です。この人本当に格好良くて。


もし第四次川中島で討ち死にしてなかったら、のちに起こる信玄と長男義信の確執も収められてたんじゃないかって話も聞いたことがあります。


有名な真田信繁(幸村)の名前も彼からとられているというので、やっぱ凄い人だなって思います。


次話で演劇を見に行くお話を書きたいと考えています。


外伝での内容と、劇での内容は着色などもあるので、事実との違いも上手く描けたらなって思います。


1と2話を外伝から続けて書きたかったので、三話からは書きためてから投稿したいと考えています。


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