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いつか終わる世界に  作者: 作者です
外伝 誰がための我が道か
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運命の日



 偵察で田畑の収穫作業が終わったことを確認し、護衛などを雇っていない村を襲うことになった。


 まずは馬に乗った八名が槍を手に村内へと侵入する。


 気づいた村人が手に持った道具でカンカンと音を鳴らし、緊急事態だと皆に知らせる。


「連中は抵抗する気だな」


 素直に差し出せば良いものをと、ボスがニタニタと笑っていた。


「俺らも行くぞ!」


 村の連中も自分たちの食い扶持だけでなく、国に納めなくてはいけない。


 馬で突っ込んだ連中とは別の方面から進入する。



 男も両手剣を掲げ、他の賊たちに続こうとしたが。


「待て」


 いつも行動を共にする相手が、肩に手をおいてこちらの動きを制する。


「どうした」


「嫌な予感がする。俺らは回り込んで行こう」


 戦うにせよ逃げ惑うにせよ、村人たちの悲鳴が聞こえない。


・・

・・


 家屋に浸入した三名の賊が、うずくまり震えている女を発見した。


「ついてるぜ」


 この中で一番威張っているのが、肩に担いでいた剣を鞘にもどす。


「おめえら、押さえつけろ」


「へい」


 背後に控えていた二名が短剣を持ったまま女に近づく。


「悪いようにゃしねえさ、大人しくしてりゃな。そうでしょ、兄貴」


 後ろを振り向いてしまうあたり、こいつらは油断しているようだ。



 賊が手を伸ばそうとした瞬間だった。女が前腕を握り返し、手下の短剣を奪いとる。即座に太ももを斬ってから、あいた腕で腹を押して転倒させる。


 突然の出来事にもう一名が動揺している隙に、女は向きを返して接近し、相手の短剣を叩き落す。


「間抜けだね、あんたら」


 左手の親指を手下の眼球に突き刺してから、手に持った短剣で首をかき切る。



 女に太ももを斬られた賊が上半身を起こし、足を引きずりながら後ろにさがる。


「大人しくしてりゃ悪いようにはしないさ。ねえ、お兄さん」


 その頃には家屋の外で隠れていた仲間が、威張っていた賊を殺していた。



 増長した連中をいつまでも放置している訳がない。


 山賊のねぐらと言っても、守る上で有利な場所にあったりする。


 村。


 地面スレスレに張られたロープが、先頭を駆けていた馬を転倒させ、後ろを走っていた数頭も動きを止められる。


 たかが賊退治。全ての団員を集結させることは出来ずとも、此処に村人は一人もいない。


・・

・・


 別行動をとった二名は対峙していた。


 自分を相棒と呼んでいた者が、片手剣を鞘から払う。


「なんのつもりだ」


「すまねえな、俺はもともとこっち側の人間だ」


 剣を胸に持っていく。


 容姿は自分と同じ小汚い山賊だが、それはこの国の騎士にだけ許される構え。


「……そうか」


 男は殺気を身の内に隠し、両手剣を握り締める。



 騙された怒り。


 友だった者と敵対する恐怖。


 やばい連中に狙われた焦り。


 夢を邪魔された悔しさ。



 余計な感情をそぎ落とし、ただ殺したいと純真に願う。


「なにが騎士だ」


 自分がもっとも憎むその役職に、研ぎ澄ませたはずの殺気が濁る。


「お前はいつだって詰めが甘い」


 山賊に襲われながらも、なんとか逃げ延びた者から、その存在が伝わったのだろう。


「俺がこの命令を受けたのは二年前だ。お前ら犯罪者の中に、覚醒者が紛れているという情報を得た」


「なるほどな」


 両手剣に鈍い銀色の光が灯る。



 覚醒者は神力の回復を自然に任せるしかない。だから加護者ほどに技を連発もできず。



 研ぎ澄まされた〔殺気〕を相手に向けて放つ。


 殺気を受けた対象は、剣で斬られる幻覚を見せられ、意識が一瞬飛ぶ。


「〖特攻〗」


 両足が銀色に光り、敵との距離を一気に詰める。



 だが無意識でも身体を動かせるだけの鍛錬を重ねてきたのだろう。賊に扮した騎士は男の斬撃に刃を合わせた。


 しかし次手の対応は間に合わず、男に手首をつかまれ、剣を持つ腕を横に退けられる。


 〖特攻〗による姿勢のぶれを整えてから、相手の脇腹に蹴りを打ち込み吹き飛ばす。


 覚醒技を使ったことで、神力混血が戦闘態勢に入り、身体能力が増す。


「お前のことは嫌いじゃなかった」


 地面に倒れた友へ、容赦なく刃を振り落とす。


「覚醒者を相手に」


 一人で対応するわけがない。


 両者のあいだに片手剣が入り込み、男の斬撃が止められる。


 かと思われた。


 「〖装甲砕き〗」


 斬を殺し打撃の威力を高め、割り込んできた剣を折った。


 男は即座に向きを返し、乱入者へと意識を移す。


 装備は騎士鎧に盾、そして折れた片手剣。



 両手剣を地面に浅く突き刺し固定させると、短剣をホルダーより引き抜く。


「〖貫通突〗」


 切先は盾で防がれたが、そのまま貫き乱入者の前腕を負傷させた。短剣を手放して、再び両腕で剣を握りなおす。



 盗賊に扮した騎士は立ち上がり、こちらの背後へと回り込む。


 男の全身より〔殺気〕が飛び散り、斬りかかろうとした賊騎士の刃が鈍ったため、両手剣での受け止めに成功。そのまま振り抜くことで、賊騎士は押し負けて一歩後退。



 位置取りがよろしくないので、男はその場から数歩動く。


 身の内に殺気を沈める。


「見逃せ」


 残っている覚醒技は〖出血斬り〗のみ。


 乱入者は負傷した前腕から盾を外し、折れた剣を投げ捨てると、予備の短剣を鞘から抜く。


「会話はせんぞ。技を再使用されては堪らん」


 〖出血〗以外の神技はまだクールタイム中だった。



 いや。まだあと一つ使える覚醒技があった。


「〖剣の魂〗」


 〔覚悟〕も〔殺気〕もこの技から得た。


 前世の経験を身心に共有させる。



 身の内に隠した〔殺気〕を即座に研ぎ澄ます。



 敵対する二名が一瞬だけ視線を合わせ、なんらかのやり取りをした。


 先に動いたのは賊騎士だった。


 姿勢を低くしながら接近。



 男は乱入者に向けて、研ぎ澄まされた〔殺気〕を放つ。


 男は両手剣を頭上に掲げ、一歩を踏み込む。



 幻覚に意識を飛ばした乱入者が、男の構えを見て叫ぶ。


「避けろ!」


 それを受けてはいけない。


 一刀両断の一太刀


 賊騎士はすでに斬り上げの動作に入っていた。互いの刃が合わさった瞬間に、彼は柄を手放す。


 もし握ったまま剣に力を込めていたら、そのまま身体ごと断ち切られていただろう。


 賊騎士は肩に重症を負った。



 渾身の斬撃は使用後に大きな隙が生じる。


「終わりだ」


 男は姿勢を整え、うずくまる相手を殺そうと両手剣を構えなおす。



 乱入者が短剣を天に掲げた。


「放て」


 男の側面。茂みより一本の矢が放たれる。向けられた〔殺気〕により一早く気づき、なんとか回避には成功した。

 だが逃げた先を狙ったようで、タイミングをずらした数本の矢が彼に突き刺さる。


 不意の攻撃に〔覚悟〕は発動しない。


「くそっ」


 両手剣を手放し、男は賊騎士に掴みかかる。


 重傷を負っているので抵抗もできず。


 矢の放たれた方面に、彼を壁として身を隠す。


「動くなっ!」


 折れた片手剣を拾い、そいつの首に刃を当てる。


「誇りある騎士様は、仲間を見捨てたりしないよな!」


 生き残ることに執着する。


「儂らはすでに、命を捨てる覚悟はできとるよ」


「たかが賊一人、見逃すだけのことだろ!」


 騎士とは言え、その格好は盗賊だった。


「すまんな相棒。お前を野放しにはできねえんだ」


 鎖帷子も装備していない。


「誰が相棒だ」


 刃が喉に喰い込み、血が流れ落ちる。


「悪いようにはせん。剣を手放せ」


「黙れ」


 〖出血斬り〗を発動。

 

「なにが騎士だ」


 誇りある死など、男は断じて認めない。



 首から大量の血を流しながらも。


「都市同盟に……行きたいんだろ」


「お前らが邪魔さえしなければ、俺は行けてたはずだっ!」


 乱入者は手にしていた短剣を放り投げ。


「そいつから聞いて、こちらでもお前のことは調べさせてもらった。世話になっているという盗品商についてもな」


 船員にしてくれるという約束。


「……」


 男は折れた剣を相手の首から離す。


 賊騎士を横たえると、力なく肩を落とし、その場で膝をつく。


「団長…こいつ……本気、なんすよ」


「わかっている」


 乱入者は呆然とする男のもとに丸腰のまま近づく。



 薄れゆく意識のなか、それでも確りと男を見つめたまま。


「俺た、ちに……協力しろ」


 あと数年もすれば、あの大国がなんらかの行動を起こしてくるはず。


「五年。いや、三年で良い。我々に力を貸してくれるなら、儂が必ず同盟都市への移住を約束しよう、市民権も含めてな」


 どこまでも海は遠く、その先は未だ見えず。



 命を賭けなければ、この男を説得できないと判断したのだろう。


「俺は騎士が死ぬほど嫌いだ」


 誇り高き生き様など、絶対に認めない。


「お前のことはけっこう好きだった」


 賊として罪を犯し続けた、名もなき騎士がいた。


 薄く笑うと、彼の瞳から光が消える。




 血と汗と泥にまみれた手で、友の瞼を閉じ。


「けっきょく一人で出来る事なんざ、たかが知れてると思うんだがね」


「儂もそう思うが、こいつが強く勧めたものでな。覚醒者としてではなく、お前という個人をな」


 自分よりも彼が生きていた方が、何かと国のためにはなったんじゃないか。

 

「約束は守れよ」


「無論だ」


 帝国の脅威は、もうすぐそこまで迫っていた。


・・

・・


 歴史にもしもはないとしても、やはりそういった想像を好む者は多い。


 もし、この団長なる人物が、あと数年長く生きていたのなら。後の世に【死平原】と呼ばれるダンジョンは、存在しなかったかも知れない。


 だがその英雄が短命だったからこそ、歴史に名を残した英雄もいた。


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