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いつか終わる世界に  作者: 作者です
試練ダンジョン編
7/133

6話 絶望から這いずる者たち


 休憩もとり、簡単だが作戦もあらかた決まった。

 今三人は扉の前に立っている。


「お前ら希望なんだっけ。たしかアドネは杖での後衛で、ルチオは前衛なら何でも良いだったか」


「まあ俺らも思い通りにはならないって解ってるよ。頂いた加護に感謝して活動する予定だ」


 それでもやはり、できれば希望どおりの加護が欲しい。


「おじさんは自分の加護をどう思ってるの?」


「それ聞くか、何となくわってるだろ。まあ、現状だと(つまず)いてはいるが、今日まで生きてこられたのは、間違いなくこの加護のお陰だ」


 精神への負担がなければ、使い勝手はかなり良いと自負している。


「そんじゃ行くか」


 うなずく二人の仲間。深呼吸をさせてから、大きな扉を開く。


 広場の形は半円。その場所は試練の間と呼ばれている。

 ボスの姿は今の所見えない。


 彼らを出迎えたのは、神々の白い像だった。


「なんか緊張すんな」


「教会みたいだね、でも見慣れない神さまもいるよ」


 神々によって背丈に違いがあるようだが、どれも成人男性より二倍以上の高さがある。

 円を描くように位置取り、それぞれが三人を見下ろしていた。


「中心が創造主か。ダンジョンだから、その両脇が時空神と欲望神だろうな」


 鎧と弓を持っているのは性別がわからない

 盾は男性。剣は女性。

 ラウロは一番端の左右を交互に眺め。


「光神と土神だな、たぶん」


 両方性別は不明。


 圧巻の光景に見入っていたが、突如として静寂は終わった。


「来るぞ」


 広場の中央。いつしか空間が歪んでいた。三人は横に並び、己の得物を鞘から払う。


「忘れるなよ、見かけ倒しだ。実は大したことない」


 二人は強くわかったと顎を動かす。


 歪みにひび割れが発生。そこから人間とは思えない大きさの指が突きでて、歪んだ空間を握りつぶす。

 抉じ開けて無理やり広がっていく。


 アドネが一歩下がった。


 藻掻き・足掻き・苦しみ。

 その巨体はまるで閉じ込められていたかのように、時空という闇の中から這い出てきた。黒い何かが四肢にまとわりついている。

 得物と思われる金棒は、戦いの中でそうなったのか、所々のへこみが酷い。


 空間から脱出できたはずなのに、未だのた打ち回っていた。


「お前ら」 


 青年らを横目で確認する。強張って剣を持つ手に力が入り過ぎていた。


「大丈夫だ、本物はもっと……」


 鋼の胸当は所どころ罅割(ひびわ)れ、腰当も左右が砕けている。それ以外は素肌で、浅黒い全身には無数の傷跡が刻まれている。背中の防具に亀裂が入っており、そこから覗く古傷が痛々しい。


 金棒は空間から出ると同時に、音を立てて地面に落ち、今は土埃(つちぼこり)が舞う。転がり回るのは止めたが、まだ痛みがあるのか、うずくまり肩で息をしていた。


 二本の角は根本まで折れている。


 大鬼。


「かなり再現されているが、見た通り弱っている。それにな、本物のオーガはもっと瘴気特有の臭いがするんだ」


 ただ気になる点がある。古傷の見た目は痛々しいが、もう完治と言って良い。だが頭部の角は出血していた。


「鬼の象徴だろ。魔物の生態なんかわからないけど、自分でやったのか?」


 力の弱体に繋がるのではないか。


 四肢は先ほどまで闇に拘束されていたようで、痛々しい傷からは黒い血が流れていた。その筋肉がなければ、引き千切られていたはずだ。


 角も闇に折られたのだろうか、にしては掌の血が気になる。手首の傷によるものの可能性もあるが。

 まあ、どうでも良い。それよりも心配すべきは仲間。


「返事はできるか」

 

 二人からは何も返ってこない。奥歯を震わせないように、噛みしめているのが見て取れる。

 事前にボスの特徴と、試練の目的を伝えてもこうなってしまうとは。


 恐怖を乗り越えられるか。


 少ないがここで剣をもって戦えた者がいる。

 なにもできなかったが、その悔しさを糧に成長した者がいる。

 自分には無理だと、諦めた者も沢山いたに決まっている。



 出現時の演出がえげつないので、実はラウロもちょっと引いてたりした。

 深呼吸。二人の肩を小突く。


 少し前にでて〖聖域〗を展開。


「これがあるからこそ、教育係を進められたのかもな。ズルとか言うなよ」


 〖聖紋〗 聖域からの発生 聖を司る紋章が中央に浮かび上がる。素早さと動体視力強化。素早さに比例して攻撃力と拳速上昇。状態異常回復。秒間回復量上昇。精神安定。秒数経過で消滅。


「言わねえよ……助かった」


 顔色は悪いが、安定した呼吸に戻っている。


「大丈夫。これなら戦える」


「頃合いを見て来いよ」


 まだ指定秒数に余裕もあるが、聖紋は消しておく。クールタイムというものがあった。


「わかった」


 一度でも心が安定すれば、〖聖紋〗がなくても自力で立ち直せるものだと思う。



 ラウロは聖域の中を進んでいく。〖聖者の威圧〗に気づいたようで、伏せていた鬼が顔を上げる。


 それは叫び。咆哮。皮膚が痙攣し、背筋に悪寒を走らせた。


「どんだけ再現するんだよ、趣味が悪いな」


 大きな鬼が片膝をつけ、地面に落としていた金棒を拾う。口を開けて牙を覘かせれば、空気を大量に吸い込む。

 土埃を巻き上げながら金棒を高く掲げると、そのまま歯を喰いしばり、地面の人間へ叩きつけようと筋肉を膨張させる。



〖聖十字〗 敵との間に輝く十字を出現させ、攻撃による威力を弱め、どんな衝撃も吸収し、体格差による圧力を軽減させる。物理判定はなく、弱い攻撃でも必ず通す。



 自分を潰しにきた金棒に、斬り上げた片手剣の刃を合わせる。


・・

・・


 剣技には〔合わせ〕という技がある。呼吸・視線・空気・殺気など、色んな要素を相手に合わせることで、敵の剣や爪などを弾き、姿勢を崩させる技。


 少しずつ相手に〔合わせ〕ていくもの。戦いの初っ端からできる技ではない。


 姿に畏怖はあるものの所詮は試練のボス。始めて使う神技であっても、まず試しをする。それは剣技も同じだろう。

 〖聖十字〗は防御の要。これと組み合わせれば、オーガが相手でも〔合わせ〕はできると信じていた。巨体と剣で対峙するのは今回が初。


 二人にとっては加護を得るための。ラウロからしても剣技がどこまで通用するか、自分の今後を決める大事な一戦だった。回復に頼り過ぎない、新しい戦い方。自分の心を守れるように。


・・

・・


 振り下ろされた金棒を片手剣で合わせる。オーガは片膝立ち。


 体格と体重と筋肉。すべてが劣っているのだから、そのまま押し込まれる。〖聖十字〗なしでは潰されていただろう。ラウロは一瞬の判断で手首を緩め、刃の角度を変え、金棒の軌道を横に反らす。

 仰け反りながらも、なんとかオーガの攻撃を地面に激突させた。



 柄を握り直すと数歩進んでから、新しく〖聖十字〗を展開させ、黒ずんだ前腕に片手剣を振り下ろす。


「ダメか」


 試練のボス。とても固くて斬れなかった。


 それでも今、彼は〖聖域〗の中に立つ。鬼の防御力は下がっているので、内側に浸透しているはずだ。

 凶悪な面が歪んでいるのだから、効いていると信じるしかない。



 動作を終えた片手剣を、自分の脇腹まで戻す。その頃にはオーガも姿勢を整え、金棒をにぎる伸びきった腕から、ラウロに向けて肘打ちを仕掛ける。


 〖聖十字〗を挟んで小盾で受ける。左腕が痺れ威力を押さえきれず、靴底が地面を削りながら停止した。


 間合いが離れたことで、ついに鬼はその巨体を立ち上がらせた。ここの神像より幾分小さいか。


「今だ」


 〖聖紋〗を発動。ルチオとアドネが死角からオーガの足を斬りつける。狙うのは二人とも同じ足。

 舌打ちをしたことから察するに、恐らく手ごたえがないのだろう。神力混血がなければ、攻撃力の不足はどうしようもない。


 浸透していると信じ、足を狙って剣を振るしかない。


 危険が大きいのはラウロと判断していたようだが、しばらくするとオーガが二人のいる足もとに、目玉だけを動かす。


「効果が切れるぞ!」


 〖聖紋〗は素早さが上がるので、それだけ退避がスムーズに運ぶ。


 仲間に意識を向けさせまいと、〖威圧〗を使う。鬼は再び自分を睨みつけてきた。


 片手剣を構えれば、ラウロの両腕が輝きだす。


 〖聖拳〗 腕に破魔の光をまとう。頑強、拳打の威力強化。魔系統に対する攻撃力強化。

 残念ながら、この神技は剣や盾に効果はない。グローブの上から殴っても反応は薄い。

 

 叩き込まれた金棒を〖聖十字〗と丸盾で防ぐ。痺れは殆どなく、片足を動かして鬼の足に剣を叩きつける。斬るよりも、こっちの方がきっと。


 順調ではあった。

 最初から弱っているから、自分達の攻撃が効いているのか確証がもてない。


「殴んなきゃ駄目なのか」


 自分の剣は試練ボスにすら通じないのか。三年間ずっと頑張って来たのだから、オッサンのくせに泣きたくなる。



 体格の違いから徐々に後退していく。〖聖十字〗を張り直すたびに神力が減少する。


 他事に気をとられてしまったせいか、靴底が土と小石の摩擦で滑り、踏ん張りができなくなった。叩きつけられた金棒を防げはしたが、片膝を地面につける。

 この期に乗じ、オーガが足裏で踏み潰そうとしてきたので、〖聖十字〗を挟さみ丸盾で受け止めた。


 ルチオが気づき駆け寄ると、鬼のボロボロになった腰当の裏側を片手で握り、なんとか足掻く。


「んぬがぁぁっ!」


 ラウロは悔しそうに歯茎を軋ませ。


「糞が」

 

 片手剣を手放す。右足のホルダーを外しナイフを取りだせば、足首の傷に突き立てた。筋肉が締まるので、即座に抜かなくてはいけない。


 鬼が眉間にしわを寄せる。怯んだ隙に盾で押し、角度をかえて横に反らす。


 肩に違和感。


 〖聖拳〗に〖聖十字〗 この状態にも関わらず、今ので脱臼したかも知れない。


 耳元で巨足が地面に激突した。脳が揺れ、小石が顔を傷つける。


 乱視状態になりながらも、なんとか立ち上がる。


 ふらつく足でこの場を離れる。


「くそっ」


 気配が・空気が・臭いが。防具を求めてしまう。


 法衣に光を、背後に聖者の威光を、この身に輝きを。法衣があれば、もっと怪我を、痛みを気にせず戦える。


 装備の鎖に意識を向ける。


 「違う。それじゃ駄目だ」


 この試練に挑む意味がない。これまでの戦い方で精神を壊したのは誰なのか。


 装備神は自分の装備しか神技を持たない。だが良い点もあり、味方の同種装備にも力を与えてくれる。

 もしアドネが盾の加護を得れば、少しだが自分もその恩恵を受けれる。もしルチオが剣の加護ならば自分の剣にも。


 試練のボスぐらい、自力で何とかしたい。


 鬼は足首の痛みに動きが鈍っている。


「大丈夫だ、行ける」


 〖聖域〗に〖聖紋〗を発動させ、痛みを伴いながら肩を治す。精神を安定させる。


 体勢を立て直し、ナイフを握り締める。


 再び敵のもとへ。


 重要視してこなかったが、速度は一応〖聖紋〗で強化されている。振り下ろされた金棒を足運びで躱し、鬼の懐に入り込み腹部を狙う。


 ナイフで小さな古傷に突き刺す。あまり効果はなかったが、後ろにさがる。鬼がもう片方の腕でなぐって来たので、丸盾でいなす。


 二人の少年が聖紋を確認し、再び鬼の足を狙っていた。


「俺は」


 駄目な教育係だ。最優先は彼らの試練。


〖聖者の威圧〗を発動。


・・・

・・・


 最初から弱っていたはずなのに、中々倒れない。


 ラウロは叫ぶ。


「駄目だっ! もう威圧が切れるぞ!」


 先ほど傷口を狙ったのを見ていたのだろう。アドネが足首の傷に攻撃したことで、オーガの意識がそちらに向かう。

 剣は突き立てたままだった。撤退が遅れる。

 ルチオが腕をアドネの腹部に潜り込ませ、そのまま火事場の力で投げ飛ばす。


 オーガは半身を翻しながら、ルチオに向けて拳を掲げる。



 ラウロは直ちに対応。


〖土紋・地聖撃〗 聖拳からの発生 地面を殴りつける動作で発動。足もとに土の紋章が発生し、そこに立つ敵を上から押さえつける。


 だがこのままでは間に合いそうにない。

 動作を途中で止めることで、範囲と圧力の弱まった〖地聖撃〗が発動。


 一瞬の隙が生まれる。ルチオは靴底をかけて剣を引き抜くと、転んでいたアドネの脇を掴み、そのままオーガとの距離を開ける。


「俺らじゃ駄目だ、攻撃なんかねえのかよ!」


 圧力に屈せず立っているオーガは、半身を捻じったままの姿勢だった。金棒を握り締めて、身体を返しながらラウロを狙う。


「……」


 左の〖聖拳〗が鬼の硬い皮膚に減り込み、筋肉を裂き内臓を抉る。


 ダメージは与えられたようだ。ラウロは異常に気づく。


「お前」


 鬼の顔を見上げようとした直後、視界が闇に包まれる。


 角のない鬼は激痛に片膝をつきながらも、そのまま金棒の柄尻を振り落とす。〖聖十字〗には物理判定がない。容赦なくラウロの前頭部に直撃した。



 アドネが叫ぶ。


「くそぉおおっ!」


 走る勢いをそのままに、背当ての下部から覗く古傷に剣先を突き刺した。

 ルチオはすぐさま駆け寄ると、二人でアドネの剣を抜く。


「おっさん!」


 鬼が邪魔で安否の確認ができない。


「おいっ!」


「大丈夫だ」


 ラウロは拳を突き抜いた瞬間に、ナイフを握ったままの状態で、右手を左上腕に重ねていた。


 〖聖十紋時〗 十字の中心に時空紋が刻まれる。腕の交差を解けば紋章は消える。



 兜はその役割を終え、内側の布巻が赤く染まり、額へと流れ落ちる。

 視界の不良に顔をしかめ。


「一撃、耐えてくれ」


 回復が間に合っていない。動けるようになるまで少しかかる。


「すまん」


 聖壁は熟練の関係から、強度に自信がない。この相手では無理だ。


 遠くへの発動は難しいが、二人との距離は鬼を挟んだ向こう側。仲間を守る位置に〖聖十字〗をもう一つ設置する。

 オーガは腰を捻り、腕を背後に振り回し、その勢いで二人を叩き飛ばした。アドネは腕で、ルチオは剣で防ぐ。


 ラウロは息を切らせながら、ナイフを握り締めて〖威圧〗を発動させる。


 呼吸を整え、腕を再び交差させ、丸盾で頭を守る。〖聖十紋時〗


 鬼は怒りに牙を鳴らせながら、脇腹や腕に足、全身を殴打していく。


 筋肉と体格と体重の暴力。たまらず〖聖十字〗を自分の左右上部にも発動。


 体重の全てを使って肘から飛び掛かられたので、傾斜のついた〖聖壁〗を頭上に重ねて出現させる。


 〖聖域〗に〖聖紋〗を加え、秒間回復を上昇させ、激痛と共に身体を軋ませる。


 なるべく前方に鬼を捕えるよう、守りながらも目を開けて足を動かす。


「神よ」


 聖神に祈りを捧げ、体内を巡る血に力の混入を試みた。


 攻撃を受ければ受けるほど、両腕の〖聖拳〗が輝きを増す。


 殴られながら、自傷気味にため息をつく。


「また回復頼りだ」


 大きく空気を肺に取り込む。もはやそれは人のなせる音ではない。


 〖聖者の叫び〗は全方位に光を放ち、それはやがて〖咆哮〗となり、前方に凝縮された輝きが鬼を確かに仰け反らせ後退させた。


 この神技は完全防御中に怒りと苦しみを蓄える必要がある。相手によって必要な度合いが異なる。


 防ぎ切ったラウロは構えを解く。両者の間に流れたのは沈黙だった。


・・・

・・・


 絶望から這いずる者たち。


・・・

・・・


 長い絶望の果てに、本来無かったはずの渇望が生まれたのか、その眼光は確かな意志を灯す。 


 聖拳の命中した所は未だに抉れたまま。象徴の角からも、背中の古傷からも、四肢からも黒い血は流れ落ちる。


 戦の中で歪んだように思われる金棒を、ゆっくり高い位置に持ち上げる。全身の姿勢を整えれば、そのまま微動だにせず人間を睨む。


「上等だ」


 兜を脱ぎ捨て、霞んだ視界を輝く左手で拭う。ナイフを咥え、小型の丸盾を外す。


 恐らく腕の方が上手くできる。それでもこれはラウロの意地だ。本当は片手剣をとりに行きたいが、それは待ってくれている相手に。

 鬼の目を睨み返す。


「無礼だよな」


 ナイフを握り締める。


 無防備のまま警戒もせず一歩近づき、聖十字も忘れて左を前にして半身の構えを作る。右腕は高くあげ、ナイフの角度を手首で調節。


 最後まで見届けると、薄く牙を覘かせてから、空気を吸い込む。


 鬼は叫びも咆哮もしなかった。目下に佇む者を粉砕すべく、孤独の中でただ一つ寄り添ってくれた友に、己が全身全霊の思いをのせて。


 ラウロは右足を前に進めながら、ナイフを金棒に。



 呼吸を


 殺気を


 視線を


 空気を 


 臭いを


 心に心を〔合わせ〕る。



 砕けたナイフを握る右腕は、未だ強い光を保ったまま、左腰のあたりまで下がっていた。金棒は弾かれ、先端が地面に刺さる。鬼は脇腹を無様さらす。


 すでに左の拳はさがり、姿勢も整っている。


 その者 無表情のまま、無常の時を待つ。


 魔を滅する輝きが、去り逝く眼光に影を落とした。


・・・

・・・


 『破魔の拳』 聖拳からの発生 

 発動条件・敵から攻撃を受けるほど、両腕の輝きが増していき、やがて破魔の拳へと変化する。


 能力・受けた痛みに比例して攻撃力上昇(痛み緩和は無効となり、現実として受けている痛みが反映される)。魔系統特化。攻撃をする度に光が薄くなっていく。


 〖無常の拳〗 破魔の拳からの発生 片腕に残っている光を全て使い、拳に託す。


・・・

・・・


 肉体から黒い靄が抜け、残骸は灰となって崩れ落ちる。ただ一つの救いがあるとすれば、相棒も装備していた防具も、旅路に付き添うよう砕けて散りになっていた。


 灰の中から戦利品を探るわけでもなく、その場に立ち尽くす。


 なぜそうしたのか自分でもわからない。ナイフをそっと残骸に沈める。



 吹き飛ばされた二人は、すでに身体を起こしていた。


 ルチオは痛みを堪えて立ち上がり、アドネに手をさしだす。


 アドネは手を借りて立つと、剣を握る腕に片手をそえ、天井を見上げていた。


「きれいだね」


 なかったはずの穴が上部の岩肌にあいており、そこから広場の中央へ光が差し込んでいる。神々が祝福でもしているのか。



 活発だった少年も今はその成りを潜め、共に戦ったオッサンへ意識を向けて。


「大丈夫か?」


 聖域が二人を癒いやしていた。


「こんなだが、もうじき治ったりする」


 聖域が血塗れの聖者を癒す。


「そうか」


 この中年男性への接し方は中々に難しい。



 町には二つの教会があった。排水路の臭いがする、貧困街の昔からある教会。


 中心地に建てられている新しい綺麗な教会。そこにいる神官たちの態度を見れば、ラウロへの評価がなんとなくわかった。


 本当は知っていた事実もある。


 求願の目を向けられていることも。憐情の目を向けられていることも。



 おっさんは、どっこらしょと座り込む。


「二人とも、そん中に入れ」


 首を傾げるアドネ。


「お前らは乗り越えた」


 戦いを終えて、顔つきが変わったと思ったが、アドネの表情が徐々に崩れていく。


「おめでとう」


 握力を失ったかのように剣を落とせば、一歩ずつ進み、徐々に速度を上げて走りだす。


 


 本当は知っていた。


 この人が失望の眼差しを向けられていると。


「……」


 まっすぐ歩く。拳は握られている。


 光の中に。


・・・

・・・


 アドネ 〖欲望神の加護〗(短剣・弓・軽装)


 ルチオ 〖火の眷属神の加護〗(槌・軽鎧・鎧) 〖友情神の加護〗



ここまで読んでいただきありがとうございました。少し上手く書ききれなかったので、いくつかこちらでお邪魔させてもらいます。


聖の加護ですが、回復タンク布装備だけでなく、選択によっては回避タンク布装備の道もあるようになってます。


回復タンクの方が攻撃力は高いです。でも精神病みます。


回避は回避で法衣の神技で速度はもっと上がるようになってます。動体視力も上がります。聖紋発動時に畳みかける感じです。専用装備が衣になっているのは、この回避タンクのためです。あとモンクなので。


主人公が作中で剣を持っているのは、拳を使うと癖で回復タンクの戦い方をしちゃうからです。それでもやっぱり攻撃手段がないのは危険だから、超小型の丸盾にして左手でも殴れるよう主人公なりに悩んだスタイルだったりします。


法衣を着てない理由は、痛み緩和で怪我する恐怖が減るからです。でも本音は主人公に鎧をまとわせたいという作者の我がままがふんだんに入ってます。布装備がなんか味気ない気がして。


もの凄くゲームの影響を受けてます。ハスクラとか特に。


というわけで、限界になってしまったモンクが、武器と防具を持つというタイトル回収でした。




今後はしばらく日常を描きたいですね。


次からはもっと今のラウロの適正レベルに合わせた、ダンジョンライフを送ってもらい、色々と模索しながら強くなっていくって話にしたいです。


それではお邪魔しました。読んでくださりありがとうございます。



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