11話 終盤 装機兵防衛戦・後半
放浪の前を無事に横切った。
第三班はそのまま先行してもらっているが、第二班には装機兵を直接守る役割が与えられた。代わりに初老組は後方につく。
護衛団を密にした理由は一つ。
内壁までもうすぐの位置で、装機兵が動きを止める。
〖土犬〗が自分の尻を追って回転を始めた。
「やっぱ来やがったねぇ」
右か左かなど、もはや確認するまでもないだろう。
満了組のボスが、内壁に大剣の切先を向けて叫ぶ。
「敵襲っ! 大詰めだ、凌ぎ切るよ!」
先行していた第三班も巻き込んで、大通りに無数の時空紋が出現。サイズからして骨鬼か。
ターリストは地面に手を添え、〖気配〗を発動させていた。
「左右警戒っ!」
装機兵の真横。
両脇を塞いでいたバリケードが爆発し、そこから大量の肉鬼がなだれ込んでくる。
「内壁まであと少しだ、守り切ってやろうじゃないか!」
屋根上には火炎瓶と弓兵。
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・・
前方を守るのは第一班。
ジェランドが〖火剣〗を発動させ。
「放浪を相手にするよりは、こちらの方が幾分マシだっ!」
ターリストは放浪を横切るにあたり、個体を半分ほど土へ帰してしまっていた。最終戦に備えて〖土狼〗を一体ずつ召喚していたが、敵の数が多すぎて間に合っていない。
ケーラは〖向かい風・追い風〗で骨鬼の足止め。
デボラは自分の背中に〖憎悪〗を浮かばせると、大剣からの〖横断〗で前列を薙ぎ払い、〖縦断〗で一列を吹き飛ばす。
ジェラルドが〖炎鎧〗をまとい、骨鬼の集団に突っ込む。
マルチェロが〖火炎放射〗で大通りを焼き払い、左右の脇道に向けて二つの〖赤光玉〗を走らせる。
場違いな騎士が、今ここにいる全ての探検者に向けて告げる。
「喜べっ! これが望んだ挑戦だ! 最後まで楽しもうじゃないかっ!!」
神技など使っていない。
探検者たちの叫びが、戦場の空気を奮い立たせた。
半分は嫌味のつもりだったのだけれど、そう感じた者はいなかったようだ。
「まったく、どうしようもない連中だよ」
第一班を除き、誰もがこの状況を楽しんでいる。
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後方を受け持つのは炎の初老組。
光の加護者が敵の矢から〖輝く鎧〗で仲間を守り、〖求光・呼び声〗で敵が装機兵に近づくのを阻止。
「メダルカレっ!」
「あいよ」
弓使いが骨鬼の集団に〖火矢〗を放ち、〖法陣〗を展開させる。
イルミロが短槍で舞えば、大量の炎が敵に飛び散る。
「フラヴァロ頼む!」
「しゃあねえ、やれば良いんだろっ!」
戦槌使いが〖火盾〗で突撃。
骨鬼がタイミングを合わせ、両手剣を振り下ろしてきたので、これを好機と〖炎盾〗を発動。そのまま無理やり突き進み、〖法陣〗の中に〖地炎撃〗を打ちつける。
「アルフィアっ!」
「まったく、わかったわよ」
〖光壁〗の足場を駆けあがった。二段までしか展開されなかったので、勢い余って落下しそうになるが、なんとか姿勢を立て直す。
短槍を肩の上部に持っていき。
「そぉーれっ!」
〖地炎法陣撃〗に向けて〖炎槍〗を投擲。
一体の骨鬼を装甲ごと貫いて、炎を燃え上がらせる。
片腕を夜空にかかげ。
「我が愛槍よ、時空の狭間よりこの手に出現せよっ!」
装備の鎖を使い、長槍を握る。
彼は先ほどデボラからの激を受けて、それはもう奮い立っていた。
助走をつけて、〖光壁〗の足場から勢いよく飛び跳ねる。
「熱血っ! ファイヤーハート!」
必殺技みたいな言い方だけど、〖炎心〗なので攻撃力はない。
〖法陣〗への着地に成功。上昇気流が落下速度を緩めてくれたのかは不明だが、足への負担は殆どなかった。
この場には歩行阻害(強)が働いている。
流れる動作で突いては抜き、斬っては脇に挟んで薙ぎ払う。
時々〖炎舞〗を交えては、少しずつ火力を強化していく。
この神技にクールタイムはないが、舞が止まると徐々に炎が弱まってしまう。
回転による遠心力で長い柄はしなり、石突が骨鬼の装甲を破壊する。
フラヴァロは〖火盾〗でイルミロの舞を中断させ。
「おら、〖法陣〗が消える前に戻るぞ」
夢中になって戦っているあいだ、〖炎槌〗や〖炎矢〗が撤退路を確保していた。
「よしっ ファイヤーダッシュで撤退だ、俺に続けぇ!」
一点突破みたいな神技は持たないので、イルミロは全力で走るだけだった。
火槌使いは短槍を回収しながら、リーダーの後を追う。
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装機兵を守るのは第二班。
二方面から肉鬼が迫ってくるため、三名を右側に対応させていたので、左側は必然的に二人で食い止めなくてはいけない。
イージリオは〖天の光〗に〖輝く鎧〗の防護膜を張り、矢から装機兵を守っていた。
「まだ戦士召喚できないんですか。うん、もう待てない」
三十前後の男は〖法衣〗をまとい、肉鬼の大剣を回避する。即座に〖輝く剣〗でその巨体を切り刻み、複数の〖光傷〗を負わせた。
召喚を主体としているフィロニカたちは、彼のように直接〖剣〗を振る技術が高くなかった。
「放浪の対処で、さっき消滅させたばかりですよ」
王布の法衣に神力を沈ませ、けっこうな数を召喚していたので、そのぶんクールタイムも長くなる。
「うん、じゃあ後光をお願いします」
「いくら嫌いだからって、この数を相手に酷くないですか?」
彼はサブの引き付け役だけど、なにぶん回避型だった。
「大丈夫大丈夫、私が君を守るから。たぶん」
「今たぶんって言いましたよね」
イージリオは自慢の長槍を石畳の地面に突き刺す。
〖光の長槍〗 耐久強化。
〖光槍背法陣〗 地面に〖光の長槍〗が刺さっている間だけ、使い手の背中に小さな法陣が展開される。
この状態でだけ使える神技があった。
「言ってません。ちょっと口が滑っただけ」
「思ってるんじゃないですか!」
イージリオは〖足場〗を使い、装機兵よりも高い位置に立つ。
〖光の槍翼〗 光る短槍は全部で四つ。まるで翼のように背中へ浮かぶ。物理判定はないが指定した対象に放てば、命中した相手の光耐性を低下させる。
左右の脇道より迫ってくるオークに向け、全ての〖槍翼〗を放つ。
「ほらっ 私ちゃんと援護しましたよ。うん、えらい」
一つは命中したが、残りは全て大盾で防がれてしまった。鎧でもいいので、身体に当てなくては効果も付属されない。
「あーあ、〖後光〗あれば当たってたかも知れません。うん、残念」
三十前後の男が〖槍翼〗の刺さった肉鬼に接近。大剣を〖光拳〗で受け流し、〖輝く剣〗を振って〖光傷〗をつける。
「わかりましたよ、もうっ! 投げ槍もお願いしますからね!」
渋々ながら〖後光〗を発動させた。
細い目で屋根上の様子を確認すると、少し考えてから軽鎧をローブに交換。
「うん、頑張る」
〖足場〗を使ってさらに飛び上がる。
再び背中に〖槍翼〗を発動させたことで、空中での姿勢が安定した。
〖光の投槍〗 使用者の手に物理判定のある短槍が出現。
肉鬼は法衣からの〖後光〗に夢中なので、高い位置から握っていた〖槍〗を交互に投げる。
空中で再び〖足場〗に着地し、もう一度〖投げ槍〗を両手に出現させた。
何体かの肉鬼が背中をこちらに向けていたので、〖槍翼〗を放ってから〖槍〗を投擲。
「ちょっとミケイラ君。少しは頑張っている私のこと、褒めたって罰は当たらないと思いますよ。うん、不満」
敵の攻撃を回避し続けた甲斐もあり、彼の〖法衣〗も最大まで輝いている。
「ありがとうございます、イージリオさん凄い!」
「いや、それほどでも」
照れてしまったのか、班長は頭を掻き始めた。
ミケイラ君は肉鬼の大剣を受け流しながら。
「さっきから全然減らないじゃないっすか。早くもっと投げてください!」
「数が多すぎますね。うん、頑張ります」
モンテと同等か、それ以上の苦労人がここにいた。
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・・
ターリストの〖土狼〗も増え、第二班からも〖戦士〗の召喚が始まった。
だが敵は減らない。
デボラは考えるために、少し戦いの場から距離を置く。
広場で待機している連中を呼ぶかどうか。
ただこの位置から南門の距離は、全力で駆け抜けても十五分は必要なはず。
なにより大きな問題が一つ。
「足止めの連中はどんな感じだい」
「こっちと似たようなもんで」
激戦を繰り広げている。
大通りに赤い狼煙。これが意味するのは救援とは少し違う。
待機しているのは実力に不安がある連中が主であり、役目は撤退時の援護だった。
「支援救援は」
「へぃ 今しがた足止め班に一通り合流したとこです」
到着したばかり。この状況で〖土犬〗について来いの合図をさせると、混乱を招いたり戦意が低下する可能性が高い。
土使いは瞼に浮かぶ映像を確認しながら。
「レベリオ組はもう限界を超えとりますな。特に酷いのは剣士の嬢ちゃんですが、盾持ちも引き付けをする気力は残っとりません」
「もう少し詳しく教えてくれるかい」
ターリストはうなずくと説明を開始する。
宿場町組の二人が率先して引き付けをしており、エドガルドがそのサポート。
屋根上は救援班が担当。
大通りは〖聖域〗で照らされている。
マリカの〖雨〗や、ミウッチャの〖真昼・黄昏〗が攻撃の主軸。
「聖者どの、ただの鋼で戦っとります」
「なに考えてるんだい、あいつは」
民は灰色。兵は濃い灰色。
「こりゃたまげた。装甲ばしばし削ってますわ」
「そうかい。なら良いがね」
最初から足止めを任されていた二班は、かなり疲労が蓄積している。
「まいったね」
足止め勢と装機兵の防衛勢は、どちらも四十名弱であり、余裕がないのは両方とも同じ。
こちらはある程度の連係が取れている。
向こうは即席で編成されたばかり。
「誰か屋根上の様子分かるのはいるかい!」
デボラの〖風鎧〗が降り注ぐ矢を弱めていたが。
「さっきからあまり矢も飛んできてないから、そろそろ制圧も終わるんじゃない?」
「なら連中が降りてくるまで、持ちこたえるしかないかね」
二班の〖戦士〗には制限時間がある。
それでも脇道や大通りからは、続々と敵増援の時空紋が出現する。
「……やばいね」
事態はさらに悪化。
内壁の上部にタイマツの火が灯った。
「ケーラっ!」
無数に放たれた矢を〖向かい風〗で防ぐ。
普段は禁止されているが、このイベント中だけは許される行為があった。
デボラはできる限りの大きな声で。
「屋根の連中は内壁の上部を制圧しなっ!!」
〖足場〗を交互に展開させて高度を上げる。
単純作業かも知れないが、地上から離れれば離れるほどに、同じ動作を繰り返せば頭は混乱するものだ。
また火炎瓶が落ちてくる中で、それを実行しなくてはいけない。
もし中央通りで赤い狼煙が上がれば、彼らは東の遮断壁門に避難する段取りがついている。
失敗の可能性。
撤退の見極め。
「……さて」
どうしたものかと悩んだ、その時だった。
第二班の班員が叫ぶ。イージリオたちの声とは違う。
「うわっ!」
「なんだこいつら!」
「ちょっと、なんで足生えてるの!」
雨は弱まっているが、まだ確かに降っていた。
「ギョギョギョのぎょ~!」
「「ギョギョっ!」」
得体の知れない生物が参戦してきた。
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ギョギョギョたちの怒り。
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私は他の仲間よりも、少しだけ考える能力が優れていた。
いつしか皆を率い、住処を奪おうとするアイツらとの戦いに身を投じることになった。
結果。
我々は負けた。
考える力はなくとも奴らは強かった。
四足歩行、硬い鱗に長い舌。鋭い牙に毒の水、地上では火を吐いてくる。
これだけならまだいい。もっとも厄介なのは、あの繁殖能力だ。
我々の一族は逃げた。
ずっと住んでいた水辺を追われ、本体の細い身体で硬い棒(鉄格子)をすり抜け、この地へと逃れてきた。
奴らとの戦いで、多くの仲間を失った。我らはアイツらにとって、餌の一つでしかったということだ。
調べてみたが、どうやらここから先は、もう逃げる場所もない。
いつの日か故郷を取り戻すためにも、この地を守らねばと意気込んだが、奴ら以外の生物は自分たちに無関心だった。
水質は悪くなったが、まあ生きてはいけるだろうと思っていた。
そんな時に何処からか、急に姿を現した連中を見かけるようになった。
奴らは我々を捕まえようと行動を開始した。
踊りは指先から全身で表現するもの。顔も身体も空気も心も、全てを感じ取って現す。
これができなければ、先代より教わった雨乞の舞は無理だ。
遠目から見てわかったことがある。
やる気があるのはデカイのと小さいのだけで、残りは付き合わされているだけに感じた。
食うつもりなのか、調べたいのか。
違う、捕まえたいだけだ。
ただ捕まえたいだけなんだ、それ以外のことを考えてない。
こいつらは一体なんなんだ。
考え怯え悩み調べ推測し対策する。これができるだけの能力を持つ者にとって、それは恐怖でもあれば怒りにも繋がる。
今回なんとなくの対話はできた。
負けたけど、これまでの鬱憤もぶつけた。
相手の種族は顔がどれも似ているので、表情などわからないことも多いが、デカいののボーズや仕草からはそういった表現がはっきりと伝わってくる。
なぜ頭をさげる動作が謝罪なのかは不明だが、彼らにとってそれが謝罪ということは、デカいののポーズを見ればなんとかなく推測できた。
だからこちらも感動や感謝、凄い素晴らしいを意味する動作で返す。
両手を合わせて、なんども音をならす。
デカいのならこちらの意図も気づいてくれるだろう。
戦いが終わってから、少しだけ対話をした。
連中が必死になって何かを探していることは知っていたが、あの壁を壊すつもりらしい。
だとすれば成功されると、かなり困る。
もし彼らがアイツらに負ければ、この地にも踏み込んできてしまう。
ただこれはチャンスでもあった。
連中との交渉は大きいのと小さいのが責任をもって引き受ける。
なるべく我々の要望が通るよう、協力してくれるとの話し合いがついた。
ただの口約束ではあったが、身を挺して私を守ってくれた者の言葉を、我々は信じると決断する。
・・
・・
踊りながら仲間に激を飛ばす。
「ぎょぎょぎょ!」
故郷を奪還するんだと。
「ギョギョっ!」
ギョ族たちは〖氷の槍〗で、肉鬼たちに攻撃を開始する。
ボスコはこの場にいる全員に、ずっと叫び続けなくてはいけない。
「魚人さんたちは味方だよっ! 攻撃しちゃ駄目なんだぞ!」
故意ではないとは言え、ルカに重傷を負わせてしまったからか、モンテはどこか疲れた口調で。
「十五班到着しました」
それでも彼は班長。いや違う、リーダーだった。
「これより参戦しますっ!」
フィエロは弓と矢筒に、沢山の時間をかけて神力を沈ませる。
「……」
〖光弓紋〗を通り抜けた矢は光の線となり、枝分かれするように〖分離〗して飛んでいく。
軽装の〖意思〗により、追尾しながら壁上の鬼たちに降り注いだ。
隊長がポーズを決めながら叫ぶ。
「突撃探検隊! 前進開始よっ!」
〖光の戦士〗たちが右の脇道より雪崩れ込んできた。
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・・
十数分後。
挑戦者たちはついに到着する。
装機兵は片方の膝を石畳につけると、全身に内蔵されていた細いワイヤーが、地面へと打ち込まれた。
巻き取り開始。
姿勢の固定が完了。
背部の長筒が両肩と両脇腹に可動する。
四つの口から発射されたのは、ワイヤーの爪ではなかった。
爆発音と共に、何かが内壁門へと撃ち込まれる。
煙が砲口からあがり、雨が砲身を冷やす。
独特な臭いが辺りにたち込めていた。
背中で何かが可動する音が響いている。バックパックから伸びていた細長い鉄の束が、砲身へと吸い込まれていく。
ガシャっという音と共に長筒の後ろ側だけが動けば、鉄の塊らしきものが宙に飛び出して、小気味良い音を鳴らしながら地面に転がった。
装填完了。
再び半壊した内門へと、何かが爆音と共に発射される。
ギョ族も含め、この場にいた全員が耳を塞ぎ、青ざめた表情でそれを見つめていた。
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・・
朗報が一つ。
都市壁と同じく、この内壁も二重の門となっていた。
抜けるには小紋章の攻略が必要だけど、カチュアの話だと難易度は遮断壁と同じ。
鉄格子の昇降門。
その先には神像と時空紋があり、これは帰還だけでなく、南門拠点への転移に対応していた。
内壁内部に転移できるのは、今回の作戦に参加した者たちだけであり、その中には待機組は含まれておらず。
魚族の天敵が、こちらに生息区域を増やす心配はなくなった。
あいつら(トカゲ)の餌はギョ族だけでなく、ゴブリンやオークなんかも含まれています。死んだら灰になるので、ドロップで肉などの報酬がついてくんのかも知れませんね。
革や鉄なんかも食ってたりして。
ダンジョンは大規模な更新を数年単位でしていますので、その時は天上界が彼らを一時的に別の場所に移して、終了後は記憶の操作などをしてから戻すんだと思います。
探検者の死亡率を下げなきゃいけないし。
これで内壁突破作戦は終了となります。
もう当分は戦闘描写は書きたくありません汗
内壁突破作戦は、自分でも書けるか不安だった山場の一つでしたので、少し安堵しております。
作者はしばらく休もうかと思います。また気が向いた時にでも、覗いてもらえると嬉しいです。
神技一覧も新しくしようと考えてますが、二章ぶんだからボチボチやっていきます。色々整理整頓もしたい所ですが、大変そうだな。
ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました。




