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いつか終わる世界に  作者: 作者です
上級ダンジョン【天空都市】内壁突破作戦編
65/133

8話 脇道突破阻止


 巨鬼を倒したのを確認してから数分が過ぎた。


 夜空を見上げれば、ポツポツと雨が降る。


「けっこう強くなってきたな」


 ボーっとしててはいけないと、自分の両頬を叩く。


 〖聖壁・足場〗はクールタイムがないぶん、発動時だけでなく発動中も徐々に神力を消費するので、屋根上に飛び移っておく。


「おっと。こりゃ、まじで気をつけんとダメだわ」


 緩くとも傾斜があり、濡れていた所為か靴底が滑った。


・・

・・


 懐中時計を眺めていたが、ふと視線を中央通りに切り替えた。


 こちらに駆けてくる小さな影を発見。


「土犬が来たぞ!」


 もうすぐ装機兵が横切るので、第一班の土使いが寄越してきたのかと思われる。


「あっ ワンちゃんだ~」


 マリカが駆け寄ろうとしたが。


「索敵の邪魔をしちゃ駄目だよ」


「この雨だし、能力落ちてたりすんのかしら」


 〖土犬〗は濡れており、表面が泥になっているようにも見えた。


 気持ちしょんぼりしながらも。


「私も警戒を密にしなきゃ」


 軽装に神力を沈ませ、〖風読〗を発動させる。



 アリーダは自分のまとっている革鎧を眺め。


「料理のお陰もあって、まだしばらくは大丈夫そうね」


 もうすぐ装機兵が来るということもあり、先ほどのカチュアたちが大通り側から来てくれ、〖鎧〗などのバフをかけてくれた。


「本当は通過するまで、残ってもらえると有難かったのですが」


 彼らが連れていた〖土犬〗が、リーダーでもある盾使いに体当たりをする。それはついて来ての合図。


 屋根で周囲の見張りをしていたラウロも、中央通りを挟んだ向こう側に、黄色と青色の狼煙を確認していた。


・・

・・


 レベリオたちが担当している脇道。片側の建物は崩壊が始まっているが、もう片方は状態を保っているので、戦闘時はそちらに出現する場合もあった。


 地上にはラウロが〖聖域〗を展開させている。持ち場に到着した時点で発動させたものだけど、この神技は彼の熟練もあり、まだ数時間は停止の心配もない。



 装機兵が通り過ぎてから、数分が経過したころだった。


 護衛の一団と交戦していた敵はかなり少なくなっていたので、今からこの脇道に時空紋が出現するのは確実と言って良い。


 もし突破されたとすれば、イルミロと第二班が対応することになる。



 予想通り、マリカが弓を取りだし。


「来るよ」


 いつもならここから規模などを探るのだけど、今回は〖土犬〗の回転で一早く判断ができた。


 右回りか左回りか。


「厄介なのが来そうね」


 皆が警戒を強める。


 〖土犬〗がレベリオの近くまで行くと、そのまま泥が混じった土に帰り、小粒の石核だけがキョロキョロしていて少し怖い。


「両側の屋根上からも反応あり。増援の気配は今のとこないよー」


「崩壊している側もですか。ラウロさんは屋根上の対応をお願いします!」


 地上にいるレベリオを見て。


「引き付けはどうする!」


「お願いします。ただし威圧でっ!」


 屋根に出現した敵の気を引くだけでいい。



 これから戦場となる脇道に、沢山の時空紋が出現する。もしカチュアがいれば、この段階で数も減らせるのだが、そこは考えても仕方ない。


「マリカはラウロさんの援護」


「は~い」


 レベリオがその場でしゃがみ込めば、マリカは彼の盾を踏み台にして飛び上がる。


 〖風圧の矢〗を地面に向けて放ち、より高度をあげてから〖足場〗に着地。


「ラウロさんとこまで届かないで~す」


「わかった」


 階段状に〖足場〗を出現させていく。


「かなり滑るから気をつけろ、あんま動かん方が良いかも知れん」


「うへぇ~ 了解しましたぁ」


 地上に出現したのは二十体ほどの肉鬼。


「運が良いわね」


 もし別の相手であれば、こちらを無視して大通りを目指したかも知れない。



 屋根上の時空紋からは骨鬼が出てきた。


「気をつけろ、弓兵だけじゃないぞ!」


(みんな)っ! いつでも消火剤を使えるよう、ホルダーにセットしておいてください!」 


 タイマツはそこまで困らない。問題は一体につき五つほど持参している火炎瓶だった。


 

 将鋼の直剣に〖夕暮〗を発動。


 〖威圧〗を使ってから、屋根上に到着したマリカに意識を向け。


「お前は向こう側のタイマツを狙ってくれ、本体の方は後回しでも良い」


 火炎瓶の口には油のしみ込んだ布が詰められているが、まだ火はつけられていない。


「わかった」


 右手に一つ。あとは腰ベルトに四つあるものの、タイマツさえなんとかすれば着火もできないはず。



 〖聖域〗を屋根上に展開させ。


「こっちは俺がなんとかする」


 ラウロは火炎瓶持ちの骨鬼に向け、左右の剣で交互に空刃斬を放つ。彼が熟練で優先させているのは、クールタイムの短縮なので、威力に関しては後回しだったりする。


 

 〖威圧〗の影響もあり、矢がラウロに向けて一斉に放たれるが、それは余裕を持って〖聖壁〗で防ぐ。


「私は聖十字だけでいいよ」


 軽装から軽鎧に変更。弓を扱うのに適した形状となっているし、先ほど〖鎧〗の神技を貰ったばかり。



 〖聖域〗は足もとにそって展開されているので、向こう側の建物まで明かりは届かず。


「風読使えないだろ」


「いっぱい練習したもーん」


 暗いなかでも矢を放つ訓練を重ねてきたので、なんとなくの感覚もつかめており、そもそも狙う対象はタイマツだった。


「そうか。んじゃ任せたぞ」


 両者の距離は近いので、〖聖十字〗を彼女の四方に展開させる。



 マリカが任されたのは脇道を挟んだ向こう側の建物であり、屋根はこちらよりも崩壊が進んでいるので、個体数はそこまで多くない。


 〖風矢の友(連射)〗を宙に浮かせてから。


「よーく狙ってぇ」


 着火した火炎瓶を投げ落とそうとしている個体がいたので、まずはそいつを射る。


 瓶に命中すれば中身が骨鬼にかかり、火のついた布が油に付着して燃え広がった。



 ラウロもタイマツ持ちに〖空刃斬〗を放っていく。


 将鋼の直剣だけでなく、短剣も改になったことで、斬撃だけでなく連撃も強化されているようだ。


 〖威圧〗に加え〖空刃斬〗で攻撃していたので、こちら側の弓兵は自分に矢を放ってくることが多い。



 だが引き付けの効果は(弱)なので、向こう側の敵はマリカを狙ってきた。


 〖聖十字〗を通り抜け、〖鎧〗の肩当てで受ける。刺さらずに落下した矢を即座にキャッチすれば、少しだけ鏃を観察して。


「普段使ってるのより、これ高品質だよ。たぶん弓の方もそうじゃないかなぁ」


 弦に羽根を引っかけてから、狙いを絞って放つ。


 先ほど肩当への命中時に、()が歪んでしまったようで、真っ直ぐに飛ばず外してしまう。それでも後を追いかけていた二本の〖友〗が、骨鬼の腕とタイマツに突き刺さる。


「あっちゃぁ~」


 その個体はすでに火炎瓶に着火していた。



 マリカは地上に向けて。


「レベリオっ! 火炎瓶くるよー!」


 すぐさま反応して盾で防いだが、中身が飛び散って炎が広がる。骨鬼はもうタイマツを持っていないので、残る火炎瓶をその中に放り投げた。


 地上の肉鬼は炎を畏れもせず、敵意の銀光に身をゆだねて大剣を振るう。


「今なんとかしまーす」


 ベルトのホルダーから〖消火剤〗の入った瓶を抜き取り、レベリオを巻き込んで燃える炎に一球闘魂。


「やったー」


 完全には鎮火できなかったが、気にしなくて良い程度には落ち着いた様子。



 屋根上で〖空刃斬〗を放ちながら。


「火傷は大丈夫か!」


 余裕がなく、目視の確認が難しい。


「この程度なら〖聖域〗で大丈夫です」


 レベリオは〖盾の紋章〗も発動させているようだった。


 重症となれば話は別だが、神技による痛みの緩和がなくても、戦いに集中しているうちは意外となんとかなる。


「そうか」


 マリカが担当する向こう側は足場が悪く、身動きが取れない個体も多い。


 それに対してラウロは苦戦しているようだった。タイマツを〖空刃斬〗で斬り落とすだけでは、再び着火もできてしまう。


 屋根ということもあり、そのまま転がって地面に火が落下する場合もあるが、ここはそこまで傾斜がきつくはない。


「そっちの火炎瓶は片付いたか?」


「うん。まだ本体は残ってるけど、あとちょっと」


 マリカを守る位置に二つ〖聖壁〗を出現させる。


「ここの〖聖域〗と〖威圧〗を消すぞ」


「わかった。じゃあ私も軽装に戻しとくね」


 〖風読〗で辺りを把握する。


・・

・・


 爺との戦いで脳裏に浮かんだわけではないが、わざわざ時刻を意味する言葉が入っているのだから、何か特殊な要素があるはず。


 そのようにレベリオが予想し、二人で検証を重ねた結果。


 〖孤独の闇〗は無理だったが、ラウロの時空剣には夜限定で使える神技があった。


・・

・・


 歯型を咥えているので喋り辛いが、以前よりも改良されていた。


「ちょっくら行ってくるわ」


 左手首に直剣を当て、そのままゆっくりと引けば、流れでた血が刃をつたっていく。すると浅黒い将鋼が一層に深く染まる。


 咥刃に神力を沈ませ、〖夕暮〗を発動させてから舌を切れば、一瞬だけ口もとが黒くぼやける。


「気をつけて~」


 聖域を停止させ、辺りが暗くなった。



 〖暮夜(ぼや)・剣〗 斬打突(弱)。日が沈んだ時間帯のみ発動可能。剣身に闇がまとわりつく。


 〖夕暮〗の剣に自分の血を吸わせることで、一定秒間だけ〖暮夜〗に変化。


 〖夜入〗が使えなくなるも、〖無月〗が強化され暗闇(弱)という制限が消える。ただし〖暮夜〗からの自傷でなければ転移はできない。



 再び咥刃で舌を切った。


 マリカを狙う弓兵に向けて転移し、兵鋼改からの〖旧式・無断〗で沈黙させる。


 一瞬だけ〖聖域〗を展開させ、周囲を見渡す。


 落とされたタイマツを拾おうとしている個体がいたので、その正面に〖無月・迫〗で移動。すでに着火されていたから、火炎瓶を将鋼で叩き割る。


 炎が広がり辺りを照らす。


 地上を狙う弓兵に向けて、〖旧式・一点突破〗で距離をつめた。兵鋼改で突き刺すも、一緒に空中へ飛びだしてしまう。


 〖波〗で吹き飛ばしてから、下方のレベリオとアリーダの位置を観察する。


 彼らが落下の巻き添えを喰らうことはないと判断したが。


「ガイコツおちてくるけど気にすんな! もうハイになる!」


 窪みの赤い光は消えていた。


 うまく喋れないので伝わったか不安もあったが。


「了解っ!」


 〖無月〗を発動させ、屋根上の適当な場所に転移。



 計らずして間近に骨鬼がおり、しばらく見つめ合ってしまった。


「どうも」


 弓をこちらに投げ捨ててから、片手剣を抜きながら歩み寄ってきたので、振ってくる前に咥刃で舌を切る。


 相手の背後に転移したが、向きの調節をする余裕もなかったから、振り向きざまに斬った。


 刃が命中する寸前に〖聖域〗を発動。



 〖暮夜〗の剣が光に触れることで、まとっていた闇の存在が具現する。


 斬(中)突(中)打(中) 


 ただし炎の灯りは揺れているので、この効果は発動しない。一度斬れば〖聖域〗の中でも、〖暮夜〗の闇は再びぼやけてしまう。

 

 

 背当ごと骨を断つ。



 ここは雨に濡れた屋根。


「しまっ」


 靴底を滑らせて姿勢を崩す。


 さらに〖聖域〗で姿をさらしてしまったので、自分よりも高い位置から矢を放たれた。それを〖聖十字〗と小丸〖盾〗で受け止める。


 マリカへと意識を向け。


「いったん〖聖壁〗を消すぞ、お前はこっち側を狙ってくれ」


「はーい」


 向こう側の建物を睨みながら、〖無月〗でその場から消える。


 空間を把握するたびに、脳が悲鳴をあげていた。


 転移するたびに、眩暈が酷さを増す。




 出現後にすぐさま〖足場〗を展開して着地する。


 目前の敵はラウロの存在に気づいたが、崩れそうな建物だけあって、振り返るだけでも大変そうだ。


 吐き気を喉の奥で堪えながらも、将鋼で兜ごと頭蓋骨を叩き落す。一度では沈められなかったので、〖聖拳〗で殴って破壊した。


 直に〖暮夜〗が終わる。


 もう〖無月〗の連発はできない。


「一気に終わらせる」


 〖聖域〗を使ってから、具現した闇の直剣で〖空刃斬〗を放ち、近場にいた個体の首を断つ。


 〖聖域〗を消滅させる。複数の矢が飛んできたので、小丸〖盾〗と〖鎧〗で弾く。


 〖聖域〗を展開させる。黒い〖空刃斬〗で敵の腕を断ち、落下した火炎瓶が相手の足もとを燃やす。


 〖聖域〗が点滅する。




 〖無月〗を使ってマリカのもとに戻る。


「ちょっと休ませてくれ、気持ち悪い」


「ぐへぇ ラウロさんお疲れさまぁ、大丈夫?」


 弓を絞って狙いを定めているので、彼女がこちらを見ることはなかった。


「でもうんと頑張った甲斐もあって、屋根上のホネさんもあと少しだよ~」


 言われて見渡せば、確かにだいぶ減っていた。


「増援の気配はどうだ?」


 マリカが矢を放てば、骨鬼の眼球があった窪みに突き刺さる。


 残った片目の赤い光は、弱まるも消えはせず。


「ちょっと困った感じかなぁ」


 〖風矢〗の連射が顔面を貫通して、その個体は完全に沈黙した。



 集中してたので気づかなかったが。


「なんか、ちっとこりゃ凄くないか」


「うん。こんなに強くっちゃ、すっこし〖風読〗が難しいかも」


 風はそこまでないが、雨が身体から熱を奪う。


 汗なのか水滴なのか。それでも料理神技のお陰か、疲労はそこまで感じていない。


 マリカは矢の先を一方に向け。


「疲れてるのにゴメンね、もうひと踏ん張り」


 自分たちの持ち場である脇道に、紫の狼煙があがっていた。



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