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いつか終わる世界に  作者: 作者です
上級ダンジョン【天空都市】内壁突破作戦編
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5話 最後尾の熱


 最後尾を担当していたイルミロたちも、時々だが紋章より出現する肉鬼や骨鬼と戦っていたが、第三班の受け持ちと比べれば残党狩りといったようなもの。


装機兵の位置は残りあと半分ほど。気を緩めていた訳でもないが、そんな時に出現したのが巨鬼だった。


 イルミロは安堵した表情で。


「よかった、毛無じゃない」


 前回の戦争を最後に、予備軍を免除された者。


「強化個体かも知れないでしょ」


 上級となれば全ての個体が将や王の装備を使っているので、まずどれが強化個体なのかを判別できない。


 ゴブリンのように一回り大きいとかであれば、まだ分かりやすいのだけれども。



 巨大な鬼。


 王革の交差ベルトが上半身に巻かれており、将鋼の腰当をしている。露出している面積は多いも、全身の剛毛は下手な鎧よりずっと厄介。


 左腕には手枷が嵌められており、巨大な鉄球と鎖でつながれていた。



 頼りなくともリーダーであることに違いはない。


「輝く鎧を」


 光の加護者である女性が、〖天の光〗と〖光の鎧〗を使ってから皆の前にでる。



 巨鬼は右手で鎖を掴むと、頭上で回転させて勢いをつける。左右の建築物にも当たったが、抵抗もなく粉砕し瓦礫が散乱する。



 盾と片手持ちの戦槌をもった男が、いつでも動けるように姿勢をつくり。


「来るぞ」


 火の眷属神(戦槌・盾・鎧)


「任せろ」


 火の眷属神(弓・ローブ)


 〖火矢〗 敵に命中すると、その部位が燃える。弓を引き絞る秒数で〖炎矢(突強化)〗に変化。


 〖赤光のローブ〗が徐々に輝きを増すも。


「すまねえ、間に合わん!」


 敵の身体は硬い毛に覆われているので、〖炎矢〗だけでなくローブも相応に輝かせる必要があった。



 放たれた矢は巨鬼の肩に命中するが、すでに鉄球が飛ばされた後だった。


 命中部位が燃え上がり、巨体を怯ませることには成功した。こちらとの距離が近いので、トロールが〖炎矢〗に身をよじっても、鎖に影響はなく鉄球が四人へと迫る。



 光の眷属神(戦棍・盾・鎧)


 〖輝く鎧〗で防ぐ対象は大鉄球。


 〖光強壁〗を突破してから、〖天の光〗に展開された防護膜を貫通したが、〖光十字〗と〖光十盾〗での受け止めに成功。




 燃え上がる闘志。


「今こそ好機っ!」


 古びた槍を手にイルミロが〖天の光〗から出て、巨鬼に向けて前進する。



 〖火槌〗の使い手は巨鬼が大鉄球をもどす前に、〖炎槌〗を鎖に叩きつけた。


「おいっ! ちょっと迂闊なんじゃないか」


 これだけの重量物を繋いでいたのだから、相応の太さもあり一撃では破壊できず。


「私が壊しとくから、貴方も前に出て」


 光の加護者は戦棍(メイス)を装備の鎖より取りだした。


「わかった」


 イルミロの後を追いかけた彼の予想は的中する。周囲に大量の時空紋が出現し、そこから【種吐き花】が発生。



 弓使いは巨鬼の動きを止めるため、その大きな的だけを狙う。


「まるで中級じゃねえか。戻ってこなくて大丈夫か!」


 イルミロは涼し気な顔で。


「こっちは平気だ!」


 光の加護者は呆れ顔で。


「貴方じゃないって」


 火槌使いは防具が盾に鎧でもあるため、第一世代の【花】であれば問題はない。


「俺もとりあえず大丈夫だよ」


 〖炎身〗は攻撃向きの神技と言える。


 対して軽装の神技は防御だった。


 〖火心〗 軽装が赤く光り、防護膜となる。火耐性(強)



 だが【花】の数は中級の第二ボス戦よりも多かった。世代が積み重ねられていけば、いずれこちらの守りも破られてしまうだろう。


 赤く光る防護膜で自分の身を守りながら。


「引き付け頼んます」


 毎度のことではあるけれど。


「勝手なんだから」


 彼女の加護には騎士鎧も法衣もないので、〖後光〗は使えない。


 〖光の呼び声〗 盾の呼び声と同じく(弱)だったが、一緒に〖求光〗を使うことで、引き寄せ(中)くらいまでは効果も強まる。


 〖天の光〗に展開された光のドームは、先ほどの大鉄球により穴が開いていたが、徐々に塞がり今はもとの状態に戻っている。


 背後の弓使いに意識を向け。


「さっきの攻撃で防護膜も薄くなってる。壊されたら光壁と光十字で守るけど気をつけといて」


「あいよ」


 【花】の種による攻撃が〖呼び声・求光〗に集中。



 

 巨鬼は〖火矢〗を振り払い、大鉄球を引き戻そうと鎖を引く。だが戦槌とメイスによる攻撃で脆くなっていたのか、途中で接合部が壊れた。

 思い通りにならず苛立たし気に叫んでから、手枷から伸びる鎖をその腕力で引き千切る。


 〖大地の巨人〗などは重力の操作で、その巨体を二本の足で支えているが、本来これほどの大きさで立つというのは難しい。


 だが巨鬼は確かに存在していた。〖巨人〗も含め、何かしらの要素が働いているのだろう。



 すでに大鉄球はないので、〖求光〗に向けて石畳を陥没させながら移動を開始する。


 〖炎矢〗が放たれるも手枷に当てて弾く。どうやら刺さらなければ燃えないようだ。


「行かせんよ」


 盾を構えた炎の加護者が道を塞ぐ。


 〖火盾〗 耐久強化。


 巨鬼は左膝を持ち上げ、踏みつぶそうと足底を地面に叩きつけた。


 両者のあいだに〖光十字〗が展開される。


 〖炎盾〗 衝撃吸収。攻撃を受けると、盾の表面より炎が噴き出す。



 イルミロは姿勢を崩した巨鬼の右足首に接近し、〖火槍〗で耐久を強化した〖炎槍〗を突き刺す。


 突強化(中) 突き刺さった部位が燃え上がる。


 その巨体が倒れ、地響きが中央通りを揺らす。


 「離れろっ!」


 二人が距離をあけると同時だった。巨鬼が駄々をこねる子供のように、手足をジタバタと動かした。


 しばらく近づけそうにない。


「ちょっとあなたたち、【花】も減らして!」


 第二世代だけでなく、第三世代も現れ始めていた。集中攻撃を受けた〖天の光〗も、すでに防護膜を破壊されている。


 〖光十盾・光十字・光強壁〗でなんとか守っているが、もう余裕はなかった。

 

「わっ 悪かった」


 引き付けの効果は〖呼び声〗と〖求光〗を合わせても(中)ほどなので、前に出ている二人を狙う【花】もいた。


 〖火の盾〗と〖炎の鎧〗で種を防ぐが。


「うぐっ ちっとやばいわ」


 片手持ちの戦槌で〖地炎撃〗を使い、なんとか数を減らす。


「ごめん、ちょっと待っててくれ」


 〖炎心〗 軽装に火か灯る。火無効。徐々に燃え上がっていき防護膜強化。


「【花】は俺がなんとかする」


 しなる長槍を地面に叩きつけ、その反動で刃を背後に持っていく。頭を軽くさげ背中の槍を転がしてから、脇に引っかけて一回転させる。


〖槍炎舞〗 槍を振り回すほどに武具が燃え上がり、炎が大きくなるほどに攻撃力強化。無差別に炎が飛び散り、周囲の敵を燃やす。


 火力はそこまでないが、紙装甲の【花】であれば、灰にもするのも難しくない。


「俺にもくれ」


 戦槌を持った仲間が〖炎身〗を発動させていた。


「わかった」


 〖炎舞〗により飛び散る炎が、【花】や巨鬼だけでなく、彼の肉体を焦がしていく。


「なんか、息苦しい気がすんだよな」


 左右交互に槍を回転させながら。


「それはない」


 始源の意思より授けられた力か、それとも前世の記憶か。


 〖剣の紋章〗その源。


 かつて〖剣の(おに)〗という神技が存在した。


 覚醒技にだけ許される言葉。


 火属性(騎士鎧)


「〖燃尽(しょうじん)(こん)〗じゃあるまいし」


 朽ち果て骨となり、心と身体が尽きようとも、まだ燃やせるものは残っている。


・・

・・


 〖炎舞〗で飛び散った炎により、【種吐き花】もその数をかなり減らせた。巨鬼は火の粉を振り払いながら、再び立ち上がろうともがいている。


 槍を頭上で回転させるのを止め、構えると後方に意識を向け。


「法陣を」


 〖聖壁〗の足場に乗った弓使いが狙ったのは、巨鬼ではなく二人の足もと。


「ほらよっ」


 石畳の隙間に矢が入り込む。


 〖火矢法陣〗 地面に突き刺さった矢を中心として、赤く光る法陣が展開される。範囲内の火属性攻撃強化。


 イルミロの瞳に火が灯る。


「よっしゃ、燃えてきたっ!」


 巨鬼は足の火傷を堪え、その身体をなんとか起こす。


「あいつ居ないから翼は無理だぞ」


 釘を刺しながらも、〖地炎撃〗を発動。


〖地炎法陣撃〗 法陣の中に〖地炎撃〗を打ち込むと、その内側が勢い良く燃えあがり、上昇気流が発生。範囲内の敵に歩行阻害(強)


 だがイルミロの耳には届いていない。


「ちょっと!」


「あの馬鹿やる気だ」


 光の加護者と弓使いも止めようと走り出すが、やはりリーダーの耳には届いていない。



 性格や口調に変化はないが、戦闘が始まるとこうなってしまうのは、どこかトゥルカと共通する部分がありそうだ。


「炎の初老ども、ファイヤーっ!!」


 槍を地面に突き刺すと、しなりの反動を利用して、上昇気流に乗って高く飛びあがる。



 空中で身動きが取れなくなったイルミロを、ここぞとばかりに巨鬼が狙う。


 本来はここで〖赤光玉〗を彼の背中へと移動させ、〖炎心〗をまとった軽装に〖炎翼〗を発動させる。


 イルミロは装備の鎖より、神鋼の短槍を出現させたが、そこで気づく。


「しまった、特攻できないっ!」


 〖火鳥螺旋特攻(かちょうらせんとっこう)


 前言撤回。彼はトゥルカよりも質が悪い。


「だから言っただろっ 話し聞けよ!」


 〖炎翼〗がないので、空中で姿勢を安定させることも出来ず。


 巨鬼は〖地炎法陣撃〗に踏み込む。発生時に巻き込まれなかったので、歩行阻害は受けなくとも、片足が燃え盛る炎に包まれる。


「飛んで火に入る夏の鬼」


 強化された身体能力で、巨鬼の脛に〖炎槌〗を叩きつけ、片膝をつけさせることに成功した。


 舌打ちを一つ。


「しぶといっ!」


 〖炎身〗が〖赤光玉〗と合わさっていれば、結果もまた違っていただろう。


 骨を粉砕した感触は確かにあったが、巨鬼はイルミロを掴もうと手を伸ばしていた。



 光の加護者が〖呼び声〗と〖求光〗を同時に発動させるも、必死な相手の意識には響かず。


 掴まれる寸前。


「海老反りハイジャンプ、炎のファイヤーランス投げだぁぁっ!」


 なんとか投擲された神鋼の短槍が、巨大な手の平に突き刺さる。どうやら〖炎槍〗が発動したようで、その部位が燃え上がる。



 元気だけど、彼はもう良い歳だった。


「あっ やば……こし」


 姿勢を崩して〖光壁〗の足場へと肩から落下。


「ぐわぁっ」


 クッション効果は発動しなかったが、石畳の地面よりはマシだろう。


「もう放っておけないんだから」


 〖天の光〗から〖天の輝光〗を発生させれば、頭上に聖なる紋章が浮かびあがる。



 弓使いは火盾を踏み台にして飛び上がると、未だ息のある巨鬼の眼球に向け、〖炎矢〗を放ち沈黙させた。


「しゃあねえ、残りは俺らで片づけるぞ」


「おう」


 戦槌使いも残った【花】に向けて走りながら、飛ばされてきた種を〖火盾〗で防ぐ。少しの間は地炎撃も使えない。



 イルミロはしばらくうずくまっていたが、頬にポツンと冷たさを感じ、光の騎士団だった女を見あげるも。


「ほらっ」


 手を借りて立ち上がる。


「無理しちゃダメってなんども言っているでしょ」


 神技で治せようと、やはり蓄積はされていく。


 リーダーという役職にも色んなタイプがある。彼がアホなぶん仲間が確りしていったのが、[炎の青年たち]という探検組だったようだ。


「老後の面倒見る私の身にもなりなさいって」


「ごめん」


 腰をさすりながら周囲を見渡せば、〖土犬〗がこちらを眺めていた。


 召喚主に情けないところを見られたかもと、少し困った表情を浮かべ。


「はやく終わらせて、定位置にもどろう」


 恐らく強化個体ではなかったので、そこまでの時間はかからなかった。



 ふと頬を指でふれ、先ほどの冷たい感触を思いだす。


 戦闘中にも関わらず、手の平で雫を感じながら夜空を見上げる。


「ボーっとしない、【花】が増えたらどうするのよ」


「ごめん」


 雨が降り始めた。


・・

・・


 用水路の水面から何かが顔を覗かせる。空を見上げ、水面の波紋を見つめ、雨を感じる。


 周囲を確認してから、人間と同じ手足を使い、魚の身体を地面へと這い上がらせた。


「ギョギョ」


 二足歩行。肌色の皮膚は見えているので、巨鬼ほどではないが毛深かった。


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