1話 内壁突破作戦まで
小丸盾が完成するまでは、中級での活動を主とする予定だった。
しかし職人が我慢できなかったらしく、こちらで依頼をする前に王素材での制作を始めており、【森】での活動は数度で終わった。
ラウロとしても別に文句はないけれど、それで良いのだろうか。
・・
・・
そんなこんなで春が終わる頃。北側での活動に向けて、満了組と鉄塊団が本腰を入れる。
拠点を設営する上で、巨紋章と一緒に大紋章も攻略した。戦いを終えた後は神像に祈りを捧げるのだけど、予想していたよりも状態が良好だったとのこと。
遮断壁にある時空紋は、飛ばされた先の空間が共通しており、修復すべき神像も同じ物なのではないか。
ヴァレオたちも普段は別の業務があるので、頻繁に上級で活動することもできない。大時空紋の神像が共通しているのであれば、それだけ仕事量は減るのでありがたい話ではあった。
北門の拠点が安定したころには、その方面にある帰還紋や神像も発見されたので、協会組の次なる修復活動は北側が主となる。
・・
・・
季節は流れ夏の手前。警戒期まであと一年を切ったころ。
鎧をまとう者の暑さ対策。
冷涼感のあるハーブを乾燥させ、そこから抽出した油を〖水分解〗した、〖清涼剤〗なるものを身体にかける。揮発性が高く、すぐに乾くとのこと。
もし水の加護者が使うのであれば、〖噴射〗ではなく〖雨〗の方が良いらしい。
ラウロとしても港の〖砂漠〗ではお世話になった。あえて不足する量しか持たされず、ギリギリで鎧をまとったまま行軍させられたので、彼からすればあまり思い出したくない。そもそも本来だと法衣なのに。
協会員のお陰もあり、【天空都市】の死亡率は【町】の頃と比べても、かなり良い数字となっている。まったく死傷者が出ていないわけじゃないが、神像の破損具合を見れば一目瞭然。
神力管について。
倉庫から二つ。
町中の家屋から一つ。
用水路に仕掛けた捕獲檻に一つ。
最後のは置いておくとして、全てを集めるのにけっこうな時間を要した。
・・
・・
そしてついにその時が訪れる。
協会のラファス支部に、内壁突破について書かれた紙が貼りだされた。
まだ装機兵は起動していないが、予定通りであれば○○日に動かす。よって、その一週間後に作戦が開始される旨が伝えられた。
これは宿場町側とも協議の上で決まった日程であり、前もって上級で活動している連中にも話は通してあったので変更はない。
相応の危険があるから腕に自信のない者や、当日に体調不良者がでた場合なども、無理はしないようにとの注意事項。
また予備戦力として南門で待機してくれるだけでも、参加料は協会から少額だが用意してくれるらしい。
各組の持ち場は満了組と鉄塊団で割り当てさせてもらう。
色々と面倒な決まりも多いが、これはある意味だと本番に向けての練習とも言える。だからか今回はミウッチャがデボラについて、なにかと教わりながら作戦を立てていた。
もしかすると北側の内壁を攻略する時は、イルミロとミウッチャが主体となるのかも知れない。
・・
・・
レベリオ組は本番の前日に【天空都市】へ入る。
都合により起動の瞬間には立ち会えなかったが、すでに南門の広場には装機兵が立っていた。
大神像よりは小さいが、それでも見上げる大きさ。
「一週間後って曖昧で良くわからんよな」
「日付が変わる時刻ってのが、余計にわかり難いのよね」
レベリオ組と同じく、確証のもてなかった連中も多いようで、普段よりも混雑していた。こちらへと駆け寄ってくる者が一名。
「こんばんわー 早い到着ね」
「お久しぶりです。少し不安もあったので、早めに行動しました」
欲望と虚無を司る神。
軽装ではあるが、別段エロい格好ではない。歳は大まかで二十代半ばくらいか。
「カチェリさんたちは予定どおりだったのか?」
「私たちは今日のつもりだったんだけど、明日の夜中なんだってさ。あとカチュアだって、もう何回間違えるのよ」
すまんすまんと謝っておくが、どうしても間違えてしまう。
マリカは胸を張りながら。
「私たちは予定通りだよ~ 前もって段取りとか確認しなきゃいけないからね」
それをするのは主にレベリオだけど、そこら辺には触れないでおく。
「お前らの組はやっぱ支援になんのか?」
「うちは槍盾鎧の加護が揃ってるからね、バフかけて回るよー」
「確か、いぶし銀も同じ役目だったわね」
光の戦士は時間の経過で消えてしまうが、ゴーレムなどは指示さえすれば、その場に残しても戦ってくれる。
〖君の剣〗〖お前の鎧〗〖貴様が盾〗 これらの神技は時間の経過で停止する。
「ねえねえ、もう料理人さん来てるの?」
「まだだよ。たぶん明日の日中じゃないかな」
試練を受けることなく、その分野で働いていれば、やがて神託を授かる。
色々と事情があり、探検者は料理神技の恩恵を受ける機会は少ない。
楽しみにしていたようで、マリカは明らかに気落ちした様子。
「それで、レベリオ組の受け持ちは何処なのよ?」
「僕らも支援や救援と聞かされていたのですが、なにかあったらしく脇道の守りに回されました」
以前の【町】だと装機兵ではなく、破壊槌を持った〖大地の巨人〗だった。それが通る直前に中央通りの脇道から雑魚がなだれ込んでくる。
「内壁の近くに回されたら、気をつけた方が良いよ」
「なんとも言えないわね。私らまだ上級で活動して日が浅いから」
終盤に近付くほど、強化個体の出現も増える。
「ただ強いってだけなら良いけど、特殊個体だとまだ不安かなぁ~」
現在【天空都市】で活動している組の中には、旧【町】の大ボスとも戦っていた連中が含まれている。
大鬼・隻腕。 片腕がない。
巨鬼・毛無。 育友会の会員とは違う。
骨鬼・青目。 眼球のあった窪みから、青い光が灯っている。
肉鬼・汚染。 唾液の量が多く、脳みそにまで細菌が到達しているのか、色々とやばい。
小鬼・放浪。 いつの間にか瓦礫などに腰を下ろして座っている。笠と外套をまとい、とても静か。逃げれば追ってこない。
「ここはまだ内壁の外側だからな、そこまで心配もいらんさ。気をつけた方が良いのは俺らより、カチュアさん達かも知れんぞ」
確かにそうだとうなずきながら。
「ルチオ組が上級に挑戦する時は、しばらくボス戦は控えるよう言っときませんとね」
「天人菊には私と同じ加護者も居るんだね。本当に注意した方が良いよ、上級の外れ枠はシャレにならんからさ」
アリーダは過去を思い返しながら。
「まあ、そうね」
もともとレベリオ組にも欲望の加護者はいたので、三人とも身をもって体験済み。
「決めるのは彼らですので、強制は難しいかと」
危険を冒してきたからこそ、この三人は混合とは言え、神製の武具を揃えている。
「あいつらなら大丈夫だろ」
ルチオとアドネは活動目的が違うので、そこまでの無理もできない。
装備の鎖から弓を取りだすと〖神眼〗を発動させ、遠くの大神殿を眺める。
「十五時まわった頃か。今日は皆さんもうお休み?」
「まだ夜中の活動経験がありませんので、明日に備えて近場で戦ってみるつもりです」
タイマツを持った敵との戦闘。
あとは〖暮夜・剣〗の慣らし。
「ならちょうど良いし、良かったら一緒に活動しない? 私ら十九時頃に出る予定だし、それまでに返答ちょうだい」
自分の眼を指さして。
「火事場泥棒するなら、外れもそうそう引かせないよ」
熟練が高ければ、〖私の神眼が疼く〗には壁の透視能力がつく。
四人は互いの顔を見合ってから。
「僕らは二つ鍵がありますので、お願いしても良いでしょうか?」
「戦うのが目的なら、そっちは任せちゃおっか。今なら鎧のバフも付けちゃう」
ラウロの鎧は強化したばかりだった。
「それなら有難いな」
将革と王鋼。次は全ての素材を王製の軽鎧にしたい。
武器に関してはもう望まないが、これから神技が増える鎧に関しては、できれば神の素材も欲しい。無理をしない現状での入手方法は、特殊鍵からの倉庫探索となるが、これでの確率はかなり低い。
巨紋章を二組だけで攻略するとか、大紋章を一組だけで挑戦するなどであれば、神の素材(小)くらいであれば出るかも知れず。
「上手くいけば敵も減らせるけど、どうする?」
時空紋から出現する前に、〖明日はどっちだ〗を成功させれば、出現数を半分くらいにはできる。
「明日の本番もありますので、もし可能であれば」
ダンジョンにおいて、欲望の神技は本当に有効だった。
近場で済ます予定ではあったが、カチュアたちの協力もあり、すこし遠出をした。
それでも無理はせず、何件かの探索と数度の戦闘だけで終わらせ、日が変わる前には拠点へもどる。
・・
・・
格納庫から広場までの道で、装機兵がどれほどの速度で動いたのか。
またその時は敵も出現したが、装機兵は止まることなく前進を続けたとのこと。
内壁突破作戦。
これら情報から、何処を何時通るのか、大まかに割り出すことができていた。
とりあえず7話までできましたので、執筆終了してるとこまで一日1話で投稿していこうと思います。




