7話 未来に思いを馳せて
挑戦前に入手していた情報。
・大紋章のボス戦となる空間に存在している神像は、遮断壁門の周辺を安全地帯にしてくれ、各紋章戦での死亡率を落としてくれる。
・像を破壊するための雑魚戦だが、敵が出現するまでにいくらかの猶予があった。開始直後に一点突破など距離をつめる神技を使えば、ギリギリ間に合うのではと上級組の間でささやかれていた。
もっとも最初に出現する雑魚が消滅するとは思えないので、囲まれる形になってしまうが。
・怖くて試せてないが、壁の外側を〖足場〗などで回り込めば、本ボスの戦場から雑魚戦への移動が可能かも知れない。
報酬について。
ルカの時は神布(中)が出たらしいが、今回の戦いでは特殊鍵を入手した。
各組と話し合った結果。
特殊鍵 いぶし銀。
鉄製の扉を開けれる鍵は倉庫なども含まれており、運が良ければ神素材の入手も可能。また神力管も期待できる。
像を守っていた雑魚の素材 協会組。
売った金はそれぞれの給料に振り込むと保障されていた。グイドも長期の休みが貰えると喜ぶ。
そしてレベリオ組は、今回の戦いでつかんだ情報報酬を満了組からもらう予定。
・大時空紋でも特殊鍵の入手が可能。
・聖神の加護者が挑戦した場合は【聖域】となる。挑戦者が満了組ではなく、他の探検組であった場合も、【天の光】ではなく【聖域】が使われるかも知れない。
・ミウッチャ戦の終盤で【聖紋】が使われたこと。もしこれが【天の輝光】で、さらには本ボス側が大型だったとすれば、筋力が強化されやばいことになる。
・天上界がどういう仕組みで各ダンジョンを管理しているのかは不明だが、聖属性が少ないというか聖神しかいないという事は地上界でも判明していた。なので毎回【聖域】がくるとは限らないのではないか。
・像の破壊後も雑魚は少し残っていたので、全滅させるまでにはちょっと時間がかかった。灰からの素材回収はせず、協会組の戦いが終わるまで神像の部屋で待機していた。
もしかすると像を壊しても、しばらく本ボスの【聖域】は残る。
・像を破壊された本ボスは、【聖域】【天の光】のバフやデバフに関係なく、弱体化している気がする。ヴァレオの話によると、旧【町】内で遭遇した素の強化個体は、もっと強かった記憶がある。
二代目いぶし銀の面々も、言われたら確かにそうだとうなずいていた。
それぞれが納得し、神像修復活動は終了。
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今後の方針。
満了組は南門を現状維持させながら、北門の拠点設営に向けて舵を切っていくと思われる。
神力管の探索は他の探検者たちを中心に進められていく。
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数日後。
中央教会に通じる建物にラウロの姿があった。
受付に数枚の用紙を置く。相手はその内容を確認してから。
「財産を移す場合、一カ月ほど引き下ろしなどができなくなりますが、よろしいですか?」
神に仕える職業なのか、それともただの職員なのか。
ここで保管してもらっているのは騎士団時代の財産で、探検者として稼いだ金は預り所を使っている。だから問題ないと伝えた上で。
「ラファスと教都の孤児院に寄付したいんだけど」
その言葉に相手は祈りというか、感謝の姿勢をつくってから。
「ではこちらへご記入ください」
金額やら氏名やら職業やらを書く。
役所に寄ったりして、個人証明を発行してもらうなど、色々と面倒な手続き。
すでに話は進めているが、財産を移す先の預り所にも、今から行かなくてはいけない。
一通りの手続きを終え、オッサンは身体を伸ばす。
陽気を取り込んでから、辺りを見渡す。
「内壁ねえ」
正式に名称の決まった【天空都市】ほどではないが、ラファスの町にも主要施設を囲うように、内壁が設置されている。
先ほどまでいた施設もそうだが、中央教会や役所などなど。
「遮断壁か」
防衛の面から考えると、もし町壁が一方面突破されても、それが通っているだけでまだ安全な区域は残っている。
「ただこの町じゃ無理だよな」
ラファスは空き地が多いとはいえ、すでに色々と建ち並んでいた。今から造るとなれば、権利関係で揉めるだろう。
もしやるとすれば用水路にそって、もう一つ内壁をつくるなどか。
魔界の侵略。
「さすがに今からじゃ間に合わんな」
最短で八年。最長で十二年
「前回は春と夏の境目くらいだったか」
もうすぐ七年目に突入する。警戒期まであと一年と少し。
水の張られた掘はダンジョンの一斉封鎖で、多くの探検者がニートになったからこそ、あの期間で作れたようなもの。
【岩亀】という中ボスが加わった初級。
宝玉という可能性を秘め、価値の上がった中級。
そして名称が【町】から【天空都市】に変化した上級。
こうなってしまえば、遮断壁などを造る余裕もないだろう。
もしもの事態に避難できる場所はいくつかあるも、その筆頭が今いるラファスの内壁。
「溢れかえるな」
村からの避難民どころか、町の民だけでも全員は無理だろう。
そういった事を考えながら、内壁の門を潜る。
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預り所は壁に守られて建っている。元探検者などが護衛についているが、このように独自の戦力を持つには、特別な許可が必要なのだと思われる。
緊急時はここと同じく、防壁に囲われた倉庫街などもあった。兵士が良く巡回していた。
用水路と掘の入水地点。あとは排水路と堀の出水地点の二ヶ所も、外側に出っ張った二重壁で守られている。
これら水路は鉄格子で外敵を防いでいるが、やはり侵入経路として狙われやすく、外壁による防備もこの方面は薄かった。
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預り所の受付で、先ほど教会の職員に渡された用紙を提出する。
契約内容にはいくつか種類があった。
ラファスの支店とだけ交わすもの。教都にある本店とも契約するもの。教国内の全ての店舗を含むもの。
自分がこれだけの資産を預けており、更新料もたくさん払っていたという記録が余所にも残るので、色んな意味で証明となる。
窃盗や強盗。または戦争により施設が破壊された時など。
戻ってくるのは三割から始まり、次に六割となって一番良いもので八割。
今日まではラファスの支店とだけの契約だったが、預ける金額が大きく変わることからして。
「んじゃあ、これで頼む」
「ではこちらにご氏名と印鑑を」
ラウロが更新したのは、教国内の全店舗と交わすもの。もし何かあったとしても、財産の八割は戻ってくる。
ただし年毎の延長料金はこれまでの数倍。時期が近付けば知らせてくれるので忘れることもないと思うが、三年分を今のうちに払っておく。
受付は用紙を確認しながら。
「探検者とのことですが、万が一の場合は徒党にということでよろしいですか?」
「まあ、とりあえずな」
問題なく事は運んでいく。
面倒なやり取りも終わりだと身体を伸ばしていたら。
「やあやあ、これはこれは。ラウロさんではありませんか」
「おお、所長さん。こんちわ」
本腰を入れた利用に変更したので、それについての感謝みたいなのを言われた。だが彼とは客としてではなく、もっと別の関係性がある。
「こないだは災難でしたな」
でっぷりとした腹とちょび髭。
「会長が気を落とされていないか、心配していたところです」
そしてなによりも頭頂部は枯れた森ではなく、もはや不毛の大地。あの粉は薄くとも髪が残ってなければ使えない。
「ちょうど今から用事があって行くとこだ。所長さんの心使いも伝えとくぞ」
「よろしくお願いしますね」
所長は意志のこもった目でうなずくと。
「もし場所が必要であれば、私の方でなんとかいたしましょう」
いつまでも、あると思うな、君の友。
彼は若かりし頃に悩み抜いた経験から、育友会の最大にして最強の出資者となってくれていた。
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武具屋の扉を開くと、店主もとい会長は椅子に座っていた。
膝に乗せていた帽子の毛を抜きながら。
「一本、二本、三本、四本……やっぱり一本足りない」
帽子を優しく撫で始めたが、ふと頭上を見あげると、持ちし者たちに向けて。
「恨めしやぁ~」
「おい、戻ってこい。客が来たぞ」
店主はハッと気づき、急いで帽子を装着する。ものすごく焦っていたが、こちらを見て安堵の表情を浮かべる。
「なんだラウロずらか」
彼が変な語尾をつけるのは、なぜか帽子をかぶった時だけ。
カウンターまで行き、小丸盾をそこに置く。
「新しいの頼みたいんだが、こいつ売れるか?」
店主も気を持ち直して椅子から腰をあげ、ラウロの向かいに立てば商売人の顔になる。
「ちょっと難しいんじゃないずらかね。この盾はお前用の特注品ずらから」
通常の盾は前腕を通し、さらに持ち手を握り、二カ所で固定する。
ラウロの盾は拳を使えるよう、かなりの小型なものだった。
〖我が盾〗を使えば防御範囲も広げられるが、それなら普通の盾を買った方が良い。
「そうか。まあ素材も兵だしな」
防御の意思を込めた時に実体化する銀光の幅は、元になっている盾の大きさに比例される。
「かなり安くても良いなら、買い取るずらよ」
提示された金額は、購入時よりも大分やすい。
「いつも壊してたからな。まあ良いや、それで頼むわ」
処分されずに、始めて売られた小丸盾。まったく迷いのないオッサン。
「そういえばあの剣、おいちゃんのとこ戻って来たずらよ」
売る相手は選んでくれていたはず。
「今は外装の修理中ずら」
ちゃんと修理などに出してくれているのなら、大事に使われているのだろう。しかしそうなると問題が出てくる。
「誰かは知らんけど、もう中級だったりするのか?」
個人情報の守秘義務などあるのだろうか。
「まだ初級ずらが、いつかは行きそうな感じずらね」
「そうか」
ラウロが手放したのと同じ理由で、いつか売りに出されるかも知れず。使っているのだから、その時は状態も悪化していて当然だ。
職人の技術料。民鋼の剣に劣化防止の〖コーティング〗をするのは、流石に普通はあり得ない。これを定期的に頼むのは将の素材から。
「役目を終えたのなら、俺が預かることにすっかな」
「了解したずら。じゃあ、盾の話しだったずらね」
ラウロは気を取り直して、大金袋をカウンターに置き。
「全て王素材で頼む」
「わかったずら、形状は同じで良いずらね」
小丸盾は固定するのが前腕だけなので、その部位が特殊な構造をしている。
「職人も喜ぶずら。お前が上級に挑み始めてから、王での発注はまだかって煩いんずらよ」
最初からの造り直しや、修理のたびに試行錯誤を重ねていた。
「咥刃と短剣を優先させちまったからな、遅くなったって伝えといてくれ」
ラウロの装備はどれも違う職人が制作している。
「使い心地はどうずらか? 特に咥刃の方が気にしてるずら」
初めて作る形状だったので、いくつかの材料を駄目にしてしまったと聞く。
「バネがもうちっと強い方が良いかもな。神力混血状態のことを想定し忘れてた」
刻印を授かってからは常に混ざった状態となっているが、通常時と戦闘時では何かと違う。
「あとは木と歯の隙間にクッション材とかないか?」
制作時は柔らかい粘土みたいなのを噛んで、わざわざ歯型をとっていたが、それでも戦いが長引くと痛い。
店主はそれらをメモに取りながら。
「どうするずら?」
改善のために預けるか。しかしそこまで困るほどの不具合は今のところない。
許可はもらえると思うけど、組の予算を使っているので、一応レベリオに相談はしておかなくてはいけない。
なにより天人菊に所属したこともあり、各組ごとの稼ぎに応じた額を徒党にも送っている。
「次の挑戦が終わったら改めて頼むわ」
書き終えたメモを見せ。
「じゃあ前もってこれだけは渡しとくずらよ」
ソロ時代はこういった経費を自分でやりくりしていたが、今は組の費用から出してもらっているので、預り所の利用回数も減っていた。
仕事関係の話は終わった。
生活と趣味。個人が自由に使える金も、納得できるだけもらっている。
マリカは食費と畑。
アリーダはお茶セットと本。
レベリオに至っては全てがダンジョン。
「んで、あの粉は没収されちまったのか?」
話題を振れば、会長の顔色に影がさす。
「へんな宗教を広めるなとか言われたずら。しかも金まで信者から巻き上げてって怒られたずら」
苦笑いを浮かべながら。
「いや、俺ら宗教じゃないだろ」
「そうずらよ。そりゃ確かに、おいちゃんは毛根神さまを崇めてるずらが、会員に広めた覚えはないずら」
ルカの筋肉神といい、なぜ彼らはすぐに想像の神をつくりだすのだろうか。
「困るよな一緒にされちゃ、毛根神さまもお怒りだろきっと」
全ての毛穴には、毛穴の数だけ神さまがいる。本人たちは自分が異教徒とは思っていない。
ああそうだと、ラウロは何かを思いだし。
「所長さんが心配してたぞ。もし場所が必要なら、どこか用意してくれるってさ」
希望の粉たちは何処かに持ってかれてしまったが。
「そうずらか。そうずらよね」
育まれた友たちはちゃんと残っていた。
「実を言うと長老からもお言葉を頂いたずら」
ラファスと村を繋ぐ行商人の中にも、育友会の会員はいた。
「再起の詩を考えてくれるそうずら」
「ありがたい話だな」
もとはラファスにいた高名な作家だと聞くが、今は晩年を近場の村で過ごす。
聳え立つ山々や村人たちの日常を題材にして、趣味であった詩を読みながら、残りの人生を精一杯に楽しんでいる。
そう言えば今ごろ一仕事を終えたグイドは、山岳信仰の集落についている頃だろうか。
「次は粉だけじゃなく、帽子の改良や育友剤の開発にも着手するずら!」
帽子は頭が蒸れてしまったり、勘の鋭い人に見破られるなど問題点は多い。というか勘が鋭い人が多すぎるだけで、バレバレという訳ではない。絶対に、絶対にだ。
育友剤にも以前は挑戦していたが、効果のほどは帽子の下にある真実が全てを物語っていた。
やる気を取り戻した店主をみて。
「長老さんに習って、俺もなんか読んでみっかな」
「良い趣味になると良いずらね」
髪の毛が、あったらきっと、イケメンだ。
「なんか浮かんだずらか?」
「……いや、難しいな」
店主と一緒にしばらく考える。
頭上の未来に思いを馳せて。
大紋章戦を描いてみて、〖鎧の鎖〗のクールタイムは蓄積型にした方が良いかなと思いました。時間の経過で123と出現させられる滑車の数が増えていく感じで。
〖巻き取り〗もクールタイムは滑車ごとに別々って感じにしないとあれか。蓄積型だと同じ個体を連続で巻き取れちゃうもんな。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




