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いつか終わる世界に  作者: 作者です
上級ダンジョン【町】神像修復編
54/133

4話 上級活動 嵐の予感


 ヴァレオ率いる協会組は南側に転移させられたようで、一早く拠点に到着していた。それでも北側に飛ばされた二組より精神の消耗は激しく、無理はせず本格的な行動は翌日からとなる。



 活動二日目。


 大紋章の攻略は最終目標なので、まずは町中で発見された神像の修復から。


 だが当初の予定と異なり、午前中は別行動になった。満了組より、レベリオたちに見せたい物があるとのこと。

 すでにいぶし銀は現物を見ているそうなので、協会との活動は午後からとなる。



 道案内を任されたのは、付き合いのある十五班。


 南門拠点の一角で、情熱を燃やす者が二人。


「今日こそ捕まえるわよ!」


「おーっ!」


 やる気があるのはもちろん隊長とボスコ隊員だけ。任務を終えたら今日は自由行動となるらしい。


「良いのか、好きにやらせて」


「それが仕掛けていた網が破られててな。ついでに置き針も食いちぎられてた」


 レベリオは驚いた様子で。


「実際になにかいると」


「破損の具合から、かなり大きいんじゃないかって。仕方ないから上に報告したんだ」


 アリーダは腕を組んで考えてから。


「用水路の近くは気をつけた方が良いのかしら」


「なにか被害があったって報告は今のところないぞ」


 ラウロはいぶかし気な顔をして。


「巨大魚ねえ。にしてはあの用水路って、そこまで幅はないよな」


 神力混血をした上で、もとの身体能力が高ければ飛び越えられそうな感じ。


「【森】に流れる沢の方が、まだ信憑性もあるわね」


 対策はしていたとしても、町を流れる用水路など、そんな綺麗なものではない。ましてやダンジョンといっても、ここは都市規模の大きさ。


「怒られなかったのか?」


「多少はな。まあ始末書は免れたし、むしろ大変だなって労われたよ」


 ルカを止めれる者などそうそういない。ましてや騎士団時代からの問題児つきだ。


「調査の許可はおりたのですか?」


「放ってもおけねえからな」


 苦笑いを浮かべながら。


「網が破られるんじゃ、釣り竿も無理だろ」


「つかみ取りするって隊長は言ってたぞ。俺とフィエロは周囲の警戒にあたるから、実行すんのは連中だ」


 指を向けた先。


「今日のために決意の赤褌を用意したわ」


「俺はこの(もり)で一刺しだ」


 こいつら本当に仲が良いんだなと思った今日このごろ。



 マリカとフィエロは互いの弓を交換したり、矢を見せ合ってなにやら情報交換をしていた。


「ふぇ~」


「……」


 会話にはなっていない。


 なんでも骨鬼に効きやすい鏃の形状というのがあるらしい。


・・

・・


 これまでに判明したことを幾つか。


 ・内壁の近くは壁上の骨鬼が矢を放ってくる。


 ・建物の破損具合で、屋根上から敵が出現する確率が違う。

  もし〖足場〗や〖岩亀〗などの対策がなければ、周囲の崩壊が激しい道を選んだ方が良い。


 突撃探検隊に案内された場所。


「ここだ」


 中央通りは通らず、町壁にそってしばらく進み、脇道に入って数分。


 目的地は拠点から徒歩で三十分もかからない位置にあった。


「倉庫というより、格納庫といった感じですね」


 カイドッホ地方の産まれだけあり、小型の船などが入れられている建物を見たことはあった。ただ周囲には川や海どころか、用水路も流れてはいない。


 角ばった構造に、シャッター付の出入口。


「こっちはまだ開けられなくてな、裏に回るぞ」


 誘われるまま移動すると、正面よりは小さいが、鉄製のぼろい扉があった。


「南門側の巨時空紋を攻略した時、専用の鍵がでたみたいでな。それが使えるのも何カ所か発見はされてたけど、拠点に近いこの場所に使うって決めたわけだ」


 格納庫の壁は所どころ錆びている波板。


 ガシャガシャと音を立てながら、横開きの戸を動かす。



 モンテは自分の仲間たちに。


「外の警戒を頼む」


「……」


 フィエロはうなずくが、残りの二人は心此処にあらず。


「先に用水路の様子を」


「駄目です、ちょっとは我慢してください」


 リーダーの命令は絶対。それが隊長というもの。


 肩を落としたルカを見て、ボスコが涙目で。


「モンテ隊員のいけずぅ」


「うるさい、たまには言う事を聞けよ」


 ルカ隊長が隊員の肩に手をおき、諭すような口調で。


「いいのよ。私は筋トレでもして待ってるから。ボスコ隊員、重りになってちょうだい」


 親指を立て。


「鎧はまとった方が良いか」


「まずはウォームアップからよ。いきなり重くすると怪我の原因に繋がっちゃうもの」


 とりあえずは法衣のままでいいらしい。



 軽くストレッチをしてから、デカイ手でボスコの両脇を抱えると。


「今日は足と肩の日だったかしら。うーん、そうねぇ……まずはフォームフラワーから行くわ」


 呆然とその光景を見ていたが、徐々にラウロの顔面が青白く染まる。


 ハっと気づいたように。


「お前ら行くぞ。早く中に、中に入ってくれ早くっ」


 三人を手で突き飛ばし、無理やり内部へと追いやろうとし始めた。


「ちょっと、何よいきなり」


「良いから!」


 ただならぬ様子に、渋々ながら面々は出入口を潜る。



 後ろで声が聞こえる。


「良いわね、掛け声はアンデュウトロワよ。アン・デュウ・トロワで行くわよ!」


「合点承知っ!」


 アンで体重を感じながら両膝を曲げ、デュウで重力に逆らいながらゆっくり伸ばし、トロワで腕を高く持ち上げる。


 膝は前にでないように、お尻を後ろへ突きだす感じ。


 足先の位置は膝の曲がる方向に合わせる。


 そしてここからが一番大切。


 最大まで腕が伸びきった瞬間に、重り側は両手足をひろげ、花の満開を表現しなくてはいけない。


 ゴブリンが叫ぶ。


「フラワーっ!」


 美しい花はすぐに散ってしまうもの。手足はすぐに縮めて、蕾にならなくてはいけない。



 その場に残っていたリーダーは目元を隠しながら。


「ダンジョン内だぞ、叫ぶのだけは止めてくれ」


 隊長たるもの、リーダーの指示には従わなくてはいけない。


 小さな声で。


「アン・デュウ・トロワ」


「フラワー」


 大きなため息をつき。


「頼むなフィエロ」


 任せろとの返事を動作でもらったので、モンテもレベリオ組を追って中に入る。


・・

・・


 三人がもどってこないよう、出入口の先でラウロは見張っていた。


「お前も大変だな」


「時と場合による。あの二人がいねえと乗り切れん場面もあるわけだ」


 そこまで大きな建物ではないので、この人数でも気持ち狭く感じる。


「ちょっと埃っぽいわね」


「なんか変な臭いする」


 油臭いと言うべきか。


「動力源は神力かと思うけど、可動部なんかには油もさしたりするんだろうな」



 狭い通路の両側には、武骨な金属製の棚が並んでおり、バケツやら雑巾やら整備道具やらが雑多に置かれていた。


 突き当たりには扉が一つ。ここの鍵は普通に雑魚から入手できる物で良いようだ。


 開いた先の空間にあった物。


「これは……装機兵ですか?」


「へえ、これが」


 ゴチャゴチャした内部の中央に、土下座のような姿勢で座り込んでいる人型の機械。


 マリカは目を輝かせ、興味深々とした様子で駆け寄り。


「あれ? これ人が乗り込むとこないよ」


「いかにも何か入れろって感じの穴があるわね」


 折り曲がった腰の奥に、挿入口が四カ所。


「カチュアさんに調べてもらったんだが、そこに神力管って筒状の物を入れろってよ」


「欲望の加護持ちか……そんな名前だったか?」


 ラウロの記憶ではカチェリだった気がするも。


「そういや、お前とレベリオさんは初日に会ったんだってな」


「彼女が遮断壁の情報を入手してくれたお陰で、僕らも色々と助かりました」


 大量の敵と戦わされはしたが。


「うちの二人が世話になったな」


「いえ、助けられたのはこちらの方です」


 マリカは装機兵を見て回り、アリーダは室内の様子を探っている。



 モンテは四人を見渡して。


「じゃあ説明するから聞いてくれ。記録するなら待つぞ」


「了解しました」


 レベリオが書き物を用意する。



・神力管とは機械属性の神力が込められている物。町中にあるから探すように。


・起動後は自動で南門の拠点まで行く。


・南門に到着してから一週間後。日付が変わる時刻にイベントが開始され、装機兵は内壁の門に向けて移動する。


・失敗により装機兵が破壊されても、月を跨げば此処に再び出現する。ただし神力管はリセットされ、ここの扉も閉じられる。



 〖明日はどっちだ〗という神技は罠だけでなく、こういったイベントの説明もしてくれるらしい。


 一通りの内容を聞き。


「装機兵が内壁の門を開けてくれるってことね」


「ただ加護者が装備してるわけじゃねえから、戦力としてはあんま期待できないそうだ」


 本来。人がいる位置にあるのは、自動操縦するための機械。


「当日は皆で集まり、装機兵を守りながら内壁門を目指すという感じですか」


「恐らく移動ルートは中央通りだ」


 活動を可能としている地域の中で、最も危険な場所だと言われている。


「その神力管ってのは、どんくらい集まってんだ?」


 マリカはペタペタと装機兵を触っていた。少し危なっかしいので、レベリオは一歩近づき。


「壊れたら困るから、見るだけにしてください」


「は~い」


 苦笑いを浮かべながら。


「俺らは怪魚探しを任されてっから、あんま探索には加われてないんだ。他の連中は周回の合間に探してるけど、今のところ一つも見つかってない」


「月が変われば更新されますし、もともと数は少ないのかも知れません」


「北側にあったりして」


 まだその方面は探索が進んでいない。モンテはうなずくと。


「内壁の突破より、まずは北門の拠点設営が優先だな」


 装機兵の起動はもっと先の話になりそうだ。


「神力管かぁ~ やっぱ鍵の掛かったお家や、倉庫とかにあるのかな?」


「だとすりゃ此処と同じ鍵が必要になるわけだろ、ちっと集めんの厳しくないか」


 巨時空紋なら確実に入手でき、大中時空紋は確率になるのかも知れない。



 ラウロも装機兵には興味があるので、マリカのもとまで近づき見物を始める。


「武器はないんだな」


「背中のこれから、なんか出るみたいだよ」


 バックパックの上部と下部に取り付けられた長筒は、肩や脇腹への可動もできそうな構造。


「もともと機神は鎧の眷属神だからよ、鎖っていうかワイヤーで敵を引き寄せるらしいぞ」


「装備する機械って奴ね」


 背中の部分にワイヤーが仕込まれており、両肩と両脇腹の四カ所から発射させる。


「長筒の可動域もまあまあ有るみたいだな」


 いつの間にかモンテも二人の近くに来ていたようで。


「ワイヤーアームつってな、前腕から先も発射できる構造になってるみたいだ」


 一度に引き寄せられるのは六体まで。


「帝都にあるダンジョンで各部パーツを取れるらしいけど、一体どんな仕組みで動いてんのかね」


 機神の加護には二種類ある。


 装着者としての加護と、整備士としての加護。


 生産製造の加護はその職に携わっていれば、そのうち神託を得る。


「追加の武装や防具などは、ダンジョンで入手するのでしょうか?」


「たぶんな」


 豪の称号を得た者たちもいるが、これは努力や才能の結果なだけ。


「装機兵は帝国にとって、軍事面じゃ最大の強みだからよ。けっこう分かんない事も多いんだ」


 もしかすると教国の役人やら研究者などが、調べに来るかも知れず。もっともダンジョンは天上界の管轄なので、手出しはするなと警告されそうだが。


・・

・・


 先にモンテが外に出て、ルカたちの筋トレを止めてから、レベリオ組も格納庫を後にする。


「じゃあ、俺らはこのまま近場の用水路に行くが、送ってかなくてすまんな」


「帰りは自分たちだけでも大丈夫です。これ以上はルカ隊長やボスコさんに申し訳ないので」


 もう我慢できないといった様子。こっちに意識を向けられていないだけ、ラウロとしても有り難かった。レベリオの筋肉的な意味で。


「気をつけろよ。巨大魚じゃなくても、危険なのもいるからな」


 ダンジョン内に限らず、海にも山にも毒をもった生物は多い。


「なんかの本で読んだことあるけど、肉食のやばい魚もいるそうよ。たしかカンディルって名前だったかしら」


 アリーダは両手の人差し指で大きさを教える。


「こんくらいの小さい魚なんだけど、皮膚や肉を抉って入ってくるそうよ」


 表面だけでなく、内臓にも届くから本当に危険な魚とのこと。


「そんなのがいるのか」


 記憶の中をさぐりながら。


「熱帯地方の魚だから、こんなとこにはいないと思うけどね」


 モンテは腕を組んでしばらく考えたのち。


「地上界もなんだかんだで、けっこう危ない生物って多いんだな。普段からダンジョンにいる所為か、どうも忘れがちだけど」


 なぜかマリカが自慢気な顔をしていた。



 孤児院の子らは畑やら掃除やら配給の手伝いやらで、けっこう働かされており、あまり勉学の時間は設けられていない。というよりも裁縫・料理・畑仕事など、最低限の技術習得が優先されている。



 アリーダは手合わせ大好きな戦闘狂だけど、ルチオやアドネに読み書きなどを教えている時もあった。

 地上界で人として生きる。主神として褒められたものではないかも知れないが、本当に剣しか頭になかったあの爺さんよりも、彼女は主神に向いている気がする。


 

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