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いつか終わる世界に  作者: 作者です
上級ダンジョン【町】神像修復編
53/133

3話 上級神像修復活動 準備から挑戦開始


 年が明け一カ月ほどが過ぎた。


 【町】の中を探索したり、大神像の効果を延長させるために中紋章を週回するなど、上級での活動も順調。



 ただ一つ。突撃探検隊のチビと奇人が騒ぎ出した。


 用水路に潜む人食い巨大魚。


 その魚影を目撃したとか言って、竿を手に釣り上げようとしているのを見て、レベリオらとドン引きした。別の日には網まで用意しだすありさま。


 仕方なく付き合わされる、モンテやフィエロが可哀そうに思う。


 言い出したら猪突猛進らしく、義務づけられた中紋章の周回以外は、用水路から離れないそうだ。


・・

・・


 ある日。ラファスの武具屋にて。


「使い心地はどうずらか?」


 咥えているのは木製の歯型。その間にはバネが仕込まれており、口をひらくことで舌を切るための刃が露出する。


 王素材の咥刃。


「いい感じだ」


 木と刃には隙間があるため、呼吸も楽で一応だが咥えながら喋ることも可能。たまに舌を切ってしまいそうなのは難点だったが。


「特注品だから値は張るずらが、気に入ったなら良かったずら」


 使われている素材は少ないけれど、神力を沈められるだけでも利点は大きい。


 

 そして用意してもらったのはこれだけではない。


 店主の手には布に包まれた棒状のなにか。


「普通に王鋼を買った方が良いと思うんずらが」


 兵鋼の短剣改 剣身は兵のままだが、鞘や柄などが王製になっていた。こちらも職人に無理を言って頼んだ品なので、料金は割増しになっている。



 気持ち喋り難そうにしながらも。


「色々となやんだ結果なんだよ」


 左手に兵鋼改。右手に将鋼。そして咥刃を噛んだ状態のまま、装備の鎖に登録する。


 腰のベルトには鞘を装着しているので、使う時はこちらにも神力を沈ませなくてはいけない。


「次で盾の必要分は揃うかな」


 武具屋の仲介料もあるが、職人の技術料でかなり持っていかれる。


「あとは鎧ずらね」


 専用の神技がなくても、神力を沈ませれば防具としての質が向上する。ボス級や大型の攻撃となれば厳しいが、これだけでも十分な効果はあった。




 店主は奥の扉に振り返り。


「母ちゃん、そっちの方はどうずらか?」


「もうすぐ」


 声の主と店主は夫婦といった関係だけど、籍は入れてないらしい。


・・

・・


 しばらくすると六十代前半の女性と一緒に、重鎧をまとったリヴィアが扉から出てきた。


 修理と調整で支給品の防具を預けていたそうだ。使われているのは将鋼製。


 フルフェイス兜なので、こもった声で。


「うん、良い感じ」


 以前、デートで服を仕立てにいった時とは毛色が違うも、どこか楽しそうな様子。


「一苦労だな」


 こういった鎧は一人での装着が困難だから、こういう時は奥さんに頼むそうだ。


 鎖帷子の下に着ている服は女性の場合だと、無理せず胸を絞めてくれる素材となっているので、男よりも値段は割増し。

 ただリヴィアの話だと着心地が良いので、動く時などは普段からも愛用しているらしい。



 〖土の鎧・盾〗を使いながら、全身の動きを確かめる。


「【町】は外の季節にそって温度が変わるから、熱中症に気をつけなさい」


 ラファス周辺は気温の差もそこまでないが、夏はやはり暑い。



 鎧を装備の鎖に登録し、普段着へと交換する。


「移動時は軽装ですから、たぶん大丈夫かな。でも水分はちゃんと摂りますね」


 騎士団時代を思い出し。


「港町の広場は中級が【砂漠】だから、まじで鎧の連中には厳しいんだよな」


「初級が【雪原】ってことは、なんか中級と行き来したら風邪ひきそうですね」


 ラウロを顎を左右に動かし。


「【砂漠】って夜が寒いんだよ」


「敵対生物より、環境の方が辛そう」


 ラファスの協会員で良かったと、リヴィアは乾いた笑みを浮かべていた。


「とりあえずこれで準備は完了ずらかね。気をつけて行くずらよ」


 【町】で神像を修復するメンバーは、グイドとティトだけでなく、もう一名参加予定だった。


「少し前に彼の装備も見たけど、けっこうなブランクだから、私としたら反対したい立場ですがね」


 すでに引退しているが、彼女も上級で活動していた探検者。


「他に名乗り出る人がいなかったので、課長も仕方なしって感じです」


 支部長や副支部長は昔から協会員だった者だけ。一般の職員は受付やダンジョンでの活動も両方やっているが、一応は幾つかの部署に別れている。あってないようなものだけど。


 課長なる人物は戦争が始まると、協会戦闘員のまとめ役という立場に任命される決まり。


「レベリオは楽しみだって言ってたけどな」


 先代いぶし銀の引き付け役。


 盾の眷属神。


「噂の殴盾を見るのは、私も今回が初めてなんですよね」


 前腕に取り付けるのではなく、持ち手を握るだけ。ナックルに小さな盾らしき物を取り付けた形状。


「たしか試作品がここら辺にあったと思うけど、ちょっと見てみる?」


 ラウロの丸盾よりも小さいようで、それは棚に置かれているようだ。


「だっ 駄目ずら!」


 棚の中には瓶に入った粉。前よりも数が増えていた。


「これなによ?」


「皆の夢と希望ずら」


 その中の一つを手に取り。


「帳簿の中に入れてないでしょ」


「それはあの、その。趣味ずらから」


 視線を瓶から店主に移す。


「値段を教えなさい」


「……ロマンにお金なんてないずら」


 涙目で店主に助けを求められるオッサン。


「許してやってくれないか。開発費用は会員が皆で少しずつ出し合ってるから、店の金には手を付けてないはずだ」


 たぶん。


「会員ってなによ。初耳なんだけど」


 リヴィアにジト目を向けられ。


「やっぱここで買ってたんですね」


 床下など、もっと目の届かない場所に置いておくべきだった。同志の話では日当たりなどの保存環境でそこにしていたそうだが。



 ラウロは深呼吸を一つ。


 絶望の中でも、決意の詩を口ずさむ。


「在りし日の、夢幻(ゆめまぼろし)か、枯れし森」


 店主は続けて。


「諦めぬぞと、いざ植林」


 余計に怒られた。


・・

・・


 数日後。レベリオ組は【町】の中にいた。


「北側のようです」


「ここだけじゃないけど、上級ってこれがあるから色々と面倒なのよね」


 進入時のランダム転移。


 マリカの〖風読〗と、ラウロは大まかな位置を知るために高度を上げる。


 〖足場〗から着地して。


「遮断壁に近い」


「北門には寄らずに行きますか」


「周辺は問題ないよ~」


 光には索敵の神技がないので、事前にある程度知れるというのは、本当にありがたいと思う。


・・

・・


 小さな戦闘もありながら移動を続け、遮断壁にそって歩いていると、行く先に四人組がいた。


「おーい、今なら開いてるよー!」


 どうやら小紋章に挑戦したばかりのようだ。


「走りましょう。一応、警戒はそのまま続けてください」


「は~い」


 遮断壁の門まで距離が少しあった。


「運が良かったわね」


「本当にな」


 前回はアリーダが引き受けてくれた。その時は異様に疲労しているので、翌々調べると血剤を使っていたことが判明。


 レベリオに怒られてしょぼくれていた。〖紅〗を使いたくて仕方ないらしい。


 最近、暴走気味なのは気のせいだろうか。



 装備も万全ではないが整い、小紋章戦の情報も得ていたので、今回はラウロが挑戦する予定だった。でもしなくて良いのなら、それが一番ありがたい。



 三分ほどで門に到着した。


「よう、ミウッチャさんのとこだったか」


「今回はよろしくお願いします」


 レベリオは懐から金袋を取りだし、決められた額を彼女に渡す。


「毎度あり。レベリオ組も北側だったんだね」


 遮断壁を開けてくれた者に通行料を払うのは、一応のマナーとして決められていた。


「私ら同じ時間帯で進入してたのかも知れないわね」


 今回の活動はいぶし銀との合同だった。そして集合場所は南門。


「協会の連中、無事に到着してくれてりゃ良いんだけどな」


「ヴァレオさんもいるし、大丈夫だと思うよ」


 二代目いぶし銀。


 引き付け役は鎧の眷属神。


「あの姉弟も、そこらの探検者より腕が立つしな」


 小紋章に挑戦したと思われる女性は、戦槌の加護。


 装備の鎖を使い、鎧から軽装に交換すると。


「協会員に関しては、私らよりラウロさんたちの方が詳しいでしょ。十分【町】でやってけるよ」


 片方に腕輪をしている男は、イザと同じ水の加護持ちと思われる。


「グイドさんなら、町壁をよじ登りたいとか言い出すかも」


 地上より壁を見あげ、どのルートで行くかを考えている姿を思い浮かべ。


「あの人なら本当に言いそうで怖いな」


 想像できてしまうので、ラウロも苦笑い。



 先ほど通り抜けたのは東側の遮断壁。


 レベリオ組の三人は大紋章を眺め。


「こうやって私たちが揃っちゃうと、なんかもったいない気がするねえ~」


 攻略後に神像が出現する。


「でも肝心の協会組がいないから、どうしようもないわ」


 一カ月が過ぎ、満了組は南門の時空紋を開放するため、ここに再挑戦していた。そして神像に亀裂が入っていることを確認する。


「イルミロさんたちじゃなくて、僕らで良かったのですか?」

 

「私たちよりも多めに休んでもらっているから。それにあんま続けて無理もさせれないしさ」


 巨紋章をデボラたちが挑戦した時、鉄塊団の二組はこの大紋章を受け持っていた。


 鎧の加護者は当時を思い返し。


「単独で挑んだルカさんと俺らじゃ、なにかと状況も違くてよ。けっこう苦労したわけだ」


 予想でしかないが、もし巨紋章を一組だけで挑戦した場合は他がいないので、どんなに待っても弱体化は望めない。



 北門側の大紋章はルカが単独で攻略。


 南門側の大紋章は鉄塊団と満了組が攻略。


 計三回の事前情報があるので、レベリオたちとしてもありがたい。



 アリーダは顎に手を当てて、考える仕草をすると。


「満了組が攻略してから半月くらい経ってるけど、今回成功させれば一カ月延長されるで良いのよね?」


 戦槌の女性から空間の腕輪を受け取ると、水使いはそれをもう片方の手首に装着する。


「たぶんそうじゃないかな。上乗せしてくれるとありがたいけど、拠点の大神像と違って蓄積はされないと思うよ」


 彼は回復役だが軽鎧をまとい、盾と金棒を装備していた。そして腰には中身のない鞘。



 ラウロはその姿を見て。


「水の加護なのに、なんか前衛みたいだな」


 ルチオたちもそうだが、装備の加護持ちがいるのであれば、全員が同じ系統で揃えた方が良い。


 モニカとヤコポも以前は軽装だったが、エルダとの共闘を考えて、今は軽鎧も用意していると聞く。


「私も予備で盾とか用意しようかな~」


「風の軽装ってたしか索敵系の神技だっけ? ならその方が良いよきっと」


 ミウッチャも今は王製の軽装だけど、戦う時は場面によって鎧もまとうのだと思われる。


「バッテオなんか本来は後衛の加護だけど、エドガルドの〖鎧〗とコルネッタの〖戦槌〗があるから、今じゃ前にでても戦えるし」


「僕としては後ろで支援してる方が良いんだけどね」


 ラウロを見て。


「満了組の戦いを見てると、やっぱ全部受け持てるって利点は大きい」


「一つの役割に集中するのも大切なんだけどな。下手をすると器用貧乏になっちまう」


 それで死んでいった連中も多く、生き抜いたのが満了組や居残組だった。


 レベリオはいぶし銀の面々を見渡し。


「装備系の加護であれば、光と違ってそう簡単に役割はぶれませんよ」


 〖貴様が盾〗〖君の剣〗〖お前の鎧〗


「まあね。私とコルネッタが攻撃で、エドガルドが引き付け役で、バッテオが回復役なのは変わらないよ」


 空刃斬などで中距離にも対応できる。ミウッチャに時空剣が加わっただけでも、かなり戦方の幅が広がったはず。


 アリーダがふと気づき。


「たしかもう一人いたわよね?」


「ムエレは南門に残ってるから、今はいないよ」


 前回の活動で帰還はせず、拠点の方で色々と調整をしているらしい。



 コルネッタはマリカを見て。


「索敵とかアイツの担当だったから、正直いうとレベリオ組と合流できて助かった」


 土の加護(打武器・杖・鎧・軽装)


 八名は南門に向けて移動を開始する。


・・

・・


 マリカの〖風読〗で敵の気配を探り、屋根上への移動はラウロの〖足場〗で対応。


 これら二つの役割は、本来ムエレという土の加護持ちが担当していた。


「本当は炎の初老共から一人来てもらう予定だったんだけど、ちょっと予定が狂っちゃってさ」


 南門まで到着すれば、そこから帰還も可能。


 エドガルドは頭を掻きながら。


「組名のとおり、あの人たちもう良い歳だからな。ほんと感謝しかない」


 イルミロ組の回復役は光の神技を使える。つまりは騎士団として従軍させられた過去を持つ。


 その人物は任期が明けた時点で満了組にはせず登録せず、生まれ故郷でもあったラファスの鉄塊団に所属した。

 戦争時は他と同じく予備軍に編入もされるが、警戒期でなければイルミロ組で活動していたそうだ。


「たしか十四班と十三班の連中って、もう予備軍は免除されてたか」


「そうだよ。私たちとしては貴重な戦力だけど、イルミロさんたちと同じで、次の戦争が終わったら引退かな」


 魔界の侵略が一段落つけば、任期を明けた元騎士団がラファスにもやってくるだろう。



 レベリオは周囲の警戒を続けながら。


「天上菊の現メンバーも、あと数年で上級へは到達できるかと思います。モニカさんも指揮下に加わる意思はありますので」


「そっか。頼りにさせてもらうから、こっちとしてもよろしくね」


 迷宮に挑みたい。レベリオの思惑は口外していないが、天上菊が魔物との戦いを想定して結成された徒党というのは、すでに広まっていた。


 ラウロは良く情報交換をする者たちを思い浮かべ。


「あの中堅組も一応の決心は固まったって聞いたけど、実際のところはどうなんだ?」


「うん、近いうちに初老共と活動する予定だよ。だから今回はこの四人で南門を目指すことになったんだけどさ」


 鉄塊団は中級で活動する者が中心で、その規模は大きい。資金面も満了組の次点なだけあり、王製の装備を用意するのは難しくない。


 彼らが上級での活動に踏ん切りがつかなかったのは、【町】では黒字にできないと判断していたから。


・・

・・


 八名で慎重に進んでいたが、マリカが立ち止まり。


「この先、空気の流れが淀んでるから、道を変えた方が良いかな」


「大通りを行くのか?」


 軽装に神力を沈ませ、一層に〖風読〗を強化させてから。


「うん。たぶんその方がまだ安全」


「そこの大通りなら、ボクら知ってるよ。少し進めば脇道あったと思う」


 アリーダは念のため鞘から剣を抜き。


「本番は明日からだし、とりあえず温存はしたいわね」


 コルネッタも鎖から戦槌を取りだし鎧をまとう。


「やっぱ専用の装備があるだけ、ムエレの索敵より優秀だわ」


 〖大地の気配〗


 索敵を専門とする〖土犬〗は使えない。


「遠回りになりますが、大通りを進むでいいでしょうか?」


「うん。ボ……私も賛成」


 警戒度を上げながら、進路を変更する。



 その後は数時間をかけ、最小限の戦闘で南門に到着した。

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