表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか終わる世界に  作者: 作者です
上級ダンジョン【町】神像修復編
52/133

2話 年越しの集い


 初日の緊急事態などもあったが、レベリオ組は当初の予定どおり年明け前に帰還した。


 年末。借家に集まったのはダンジョンで活動している者たちだけでなく、エルダやサラの両親なども招き、普段よりも豪勢な食卓となる予定。


 レベリオは調理場の方をみて。


「すみません、ご飯の準備までしてもらっちゃって」


「いいんですよぉ、オトンもオカンも張り切ってるから」


 この日はサラの父親が腕を振るってくれていた。エルダの母親も勉強するんだと手伝っている。


「うへへぇ 楽しみ~」


 エルダ本人とその父は鍛錬場で、アリーダやトゥルカらと手合わせをしていた。明日は筋肉痛だろうか。


 ルチオは頭を掻きむしりながら。


「駄目だ勝てねえ」


 卓上には一対一のボードゲーム。各駒には決められた動きがあり、強い物から弱い者まで揃っている。そしてキングを取られたら負け。


 勝者であるゾーエは一息つくと、周囲を見渡して。


「こうやって大勢が集まってるの、すごく久しぶりな気がする」

 

 商会の娘だったのなら、これよりも沢山の人間に囲まれて育ったのかも知れず。


「確かにそうですね。僕もこういった雰囲気は、もう経験できないと思ってました」


 漁村。こういった年末は寄合所などで、村人と過ごしていたのだろうか。


 周囲の反対を押し切ってカイドッホに向かったのか、それとも送り出されたのかは不明。次男や三男などであれば、そこまで問題もない気はするが。



 モニカは緊張した様子で会話に参加できていなかった。機会をうかがっていても、このまま話を切り出せず終わってしまう気がしたようで。


「レべリオさん、できれば聞いてもらいたい事があるんだけど、今でも大丈夫ですか?」


 徒党への勧誘が始まった。


・・

・・


 時刻は夜入り時。街灯の〖火〗が通りを照らしていた。


 お揃いのニット帽は色違い。寒空のもと厚手の服に肌を隠す。


 リヴィアの自宅から借家に向かう道中。


「レベリオさんに説明すれば良いんですか?」


「休みなのにすまんね」


 満了組など活動している連中はいるので、協会も手当はつくが年末年始は働いている。だが彼ら彼女らも私生活はあるので、休みをとって故郷の村に帰る者たちはいた。


「ゴーワズからお仲間二人を呼ぶにあたって、契約内容とか事前に知っておきたいんだとさ」


 最前線で活動する連中もいれば、安定した収入を目的に、中級あたりで無理をしない者たちもいる。


「なんせラファスの中級は優秀だしよ」


「確かにそうですね。なにより水の加護持ちだとすれば、ゴーワズよりうちの方が確実に稼げます」


 序盤の森でも薬の素材は入手できる。時々でもレベリオらが同行するのであれば、迷いの森でも活動は可能なはずだ。


 横目でラウロを見て。


「出稼ぎだけじゃなくて、家庭持ちの探検者も多いですからね」


 専用の契約も用意されていたりする。


「アドネとエルダはどうすんのかね。次の侵攻が終わったらよ」


 十年前後で戦争が始まると解っているからなのか、警戒期は出産率が下がりやすい。



 年末でも巡回している兵士たちを見て。


「この先について、考えていかないとな」


「私はいつでも良いですよ」


 継承をする前日。


「あの日あの時点で、こっちは決心もついてますんで」


 警戒期に入籍する者たちは多い。


「英雄なんて糞くらえだな」


「そうですよ。誰にも文句いわれる筋合いはありませんし」


 どんなに長く生きようと、基本はあと三十年から四十年ほどだろう。


「人並みの一生を送りましょう」


 せめて人間の時代だけは。




 協会は労働環境が悪いけど儲かってはいるので、年末の出勤となれば相応に稼げるのだろう。


「姉ちゃん遅いっすよ」


 これから借家にて年越しの集いがあり、仕事を終えたティトがラウロたちを待っていた。


「私、こういうの初めてで楽しみです」


 一人前になったイザも、久しぶりにリヴィアを見たからか満面の笑みだった。


・・

・・


 ダンジョン活動。


 モニカ組の目的は、魔物とも十分に戦えるだけの実力をつける事。


 そのためにもフリーであったレベリオ組を、なんとか引き入れたい。親分の座にこだわりもなかったから、もし相手が望むのであれば譲るつもりでもあった。



 だが予想外の返答に、モニカは困惑する。


「ン・マーグですか」


「すぐにではありませんが、僕らは今それを目指して活動しています。なので正直に言えば、モニカさんの誘いはありがたい。鉄塊団は地域に根付き過ぎていますので」


 もしレベリオがこの徒党に所属する場合は、いつかラファスを拠点として、遠征隊を率いて【迷宮】に挑戦する。


「ですからトップは今のまま、モニカさんが勤めてくださると助かります」


 思いもよらない将来図に、ルチオも驚いていた。


「……まじか」


 瞳の奥底で光がさす。


「俺らもずっと続けられるわけじゃねえんだよな。もしそれが先の話なら、ちっと興味はある」


 活動目的は上級への挑戦。だがこれはルチオ本人の意思であり、アドネたちは将来に向けての資金集めだった。

 エルダの両親がそうであったように。



 卓上を片付けながら、ゾーエはいくつか気になることを。


「教国は都市同盟よりも移動するのが難しい。外国も関わってくるから、そもそも誰に話を振れば良いのかも分からないし、私たちにはそんな伝手もない」


 往来が盛んなのは商人くらいで、町や村の住人はその近場で一生を過ごす。例外があるとすれば、光の加護を授かった者など。


「はいゴメンよぉ、机を運びまーす」


「よかったー 傾けなくても扉通れそうだね~」


 サラとマリカが大きい机をリビングに持ってきた。神力混血をしているようで、そこまで重そうではない。


 この場に居た者たちは立ち上がり場所をあけ、レベリオとルチオが運ぶのを手伝う。


「ラウロさんのコネを使わせてもらいます」


 大きな机を指定された場所に置くと、サラを見て。


「派遣軍の訓練状況について、いくつか質問をしても良いですか?」


 今のところこちらで用意できそうな事は、これしか思いついていない。



 ゾーエは交渉材料について納得したのか。


「続きは私がするから、サラさんお願い」


「んじゃあ、俺も準備手伝おっかな」


 首を傾げながらも。


「はいよぉ、私でわかることならねぇ」


 派遣軍は教国にとって最大の強みと言って良い。


「指導員ですが、やはり教国の者が?」


「そうですよ。もとは兵士さんだって聞きましたけど」


 だからこそ都市同盟や帝国から力を借りるという行為が、中々に難しい状況となっていた。


「サラさんから見て、訓練内容は十分なものでしたか。ダンジョンでの活動などはしていたのでしょうか?」


「たぶん人手は足りてなかったかなぁ。数回は初級での訓練もしたけど、ほとんど外でやってたよぉ」


 回復神技を使い熟練を上げる。


「なるほど。そうであれば、とりあえずは行けるかも知れませんね」


 交渉材料。


「僕ら遠征組が一年の半分ほどを、指導員としてアンヘイに出向く。今のところ用意できるのは、こういったものしか思いつかないのですが」


 話が大きくなりすぎて、ちょっと混乱気味ではあるけれど、モニカは頭の中で考えながら。


「それなら教国にとっても、都市同盟にとっても、有り難い申し出かも知れません」


 レベリオたち遠征組がダンジョン訓練を受け持つ。


 勇者の居ない町も沢山あるので、派遣軍が強化されるということは、都市同盟としてもそれだけ魔物に対する手札となる。


「いつか、土の柱教長さんと交渉をさせてもらえるそうです」


 政治は綺麗ごとだけでは難しい。もしかすれば人間性など無い方が、為政者としては向いているのかも知れない。


 教国という国家の成り立ち。


 宗教に腐敗はないのかといえば、歴史上にはあったはずだ。


 人の罰は人の罰。


 人の罪は人の罪。


 創造主がこういった考えであったとしても、魔界の侵攻により天上界が直接に介入したことで、神に仕える者たちが自分だけの欲望を持てなくなったのも事実。




 レベリオはモニカの目をしっかりと見つめ。


「ラウロさんを国外に出すことは難しいので、僕らは次の戦争が終わったら、本格的に回復役の育成に入ろうかと思います」


「それに目途がつけば、レベリオさんたちは都市同盟に戻るということですか?」


 上位陣や中堅は別としても、今の鉄塊団を見ていればわかる。危機感の薄い若手を見ると、かつての自分たちを思いだしてしまって嫌だった。


 どこにでもいる脱落四人組だった、あの頃に戻りたいと。


「私はダンジョン活動じゃなく、魔物と戦うための団体をつくりたい」


 こういったモニカの考えと、レベリオの目的は食い違っている気がした。


「もし教国が弱い国だとすれば、他の二大国は派遣軍だけでなく、もっと無理な要求をしてきたとは思いませんか。現状そうなっていないのは、この国が発言力を持っているからです」


 天上界という後ろ盾でいうのなら、都市同盟や帝国も同じ。


 

 レベリオは懐から一通の書状を取りだし。


「これは血塗れの聖者から、土の柱教長への紹介状です」


 探検者はいつ死ぬかわからない仕事。


「僕の計画には時間が必要なので」


 ここにいる全員を含め、十年後にはどうなっているかの予想などできない。だからこそ、ラウロはこの書状を用意した。


「いつか交渉を持ちかけるのは、この国を動かす者の一人です。どんなに材料を集めても、今のままでは不利でしかありません」


 無粋な話かも知れないが、けっきょくは力。


 軍事力だけでは駄目だ。色んな力の手札が多くなければ、強国とは成りえない。


 レベリオが求めるのは発言力。


「鉄塊団とまでは行かなくても、徒党を強くしなくては始まりません」


 帝国に根を張る時空の柱教。


 五大都市ではないが、それと同等の知名度をもつ古都アンヘイ。


 これら二つの勢力は教国と根深く繋がっている。


「強い徒党……ですか」


「はい」


 両者それぞれの望み。


 重なる所と違う所。


「皆と話し合おうと思います」


「時間はありますので、急がなくても大丈夫ですよ」


 旗揚げされたばかりの徒党。


「僕らは[天人菊]に所属することを望みます」


 ガイラルディア 花言葉は団結や協力。




 モニカは一方を見て。


「私だけじゃなくて、あんたも話に加わってよ」


「悪かった」


 ヤコポは己の存在を漆黒の闇に委ねていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ