8話 上級【町】初挑戦 挑戦者たち
二人が時空紋に消えてから、少ししてイージリオの代わりに第三班の班長が方針を決める。
全員が揃っている第八班。
「門が開いたら、貴方たちは南門に向かってもらえるか。報酬については後ほどになるが」
彼らはそれぞれに顔を見合い。
「わかった」
カチェリと自班の仲間に目を向け。
「各紋章の記録を取りたい。申し訳ないが手伝ってもらえるか?」
「あいあいさー」
残りはこの場に残りルカを待つ。
欲望の〖神眼〗は熟練が高ければ壁も透視できるが、道中でカチェリはそれを発見できていない。
三班班長は懐中時計を取りだし。
「今から三十分過ぎても戻らなければ神像帰りをしたとして、私たちもイージリオから情報を得て、小紋章に再挑戦する」
彼が失敗したとなれば、どこか近場の神像に飛ばれる。
決断は必要だ。
「ルカさん……隊長は大丈夫でしょうか」
「なんとも言えんな。師匠はアホみたいに強いけど、さすがに無敵じゃないし」
本体なら別だろうが、今の肉体は人間だった。
ボスコは大紋章を眺め。
「隊長みたいな探検者は舵取りできるのがいれば、もっと本領を発揮できるんだがよ」
レベリオは過去を思い返し。
「そうですね」
暴走を止められる者。
「まあ俺らとは潜り抜けた死線の数も違うだろうし、神像帰りしても自力でなんとかできるだろ。師匠が化け物であることには違わんさ」
「だな」
あなた達がそれを言いますかと、レベリオが苦笑いを浮かべていたら、一通りの指示を済ませた三班班長がこちらに来て。
「すまなかったな。うちの馬鹿が」
「気にすんな。俺としても良い練習になったからよ、フィロニカさんも大変だな」
満了組に移りはしたが、彼女は第三騎士団の同期でもあった。
「普通に探検者をやれていれば、あそこまでの変人にはならなかったと思うんだが」
「イージリオ殿の年代じゃ、次で予備軍も終わりだろ。そしたらちっとは落ち着くんじゃないか」
民に優しい教国ではあるけど、光の加護者にだけは厳しいと言われており、実際にそうでもあった。だけど五十代になれば予備軍も免除もされる。
「だと良いがな」
魔界の門が開いてから、八年から一二年が警戒期とされており、四十代前半の彼であれば解放は近い。
ボスコは瓦礫片で地面に落書きをしながら。
「ありがたいじゃん、何時もああやって面倒ごと率先してくれっし」
「ですが立場というものがありますので」
対処をさせられた三班長を気づかえるあたり、レベリオも好青年と言える。
「それで信頼を勝ち取って今の地位にいるんだが、あの様だ」
化けの皮はもう完全に剥がれていた。
お馬さんの絵を描きながら。
「少し種類は違うけど、隊長と同じタイプの探検者だったわけよ」
ただ素材と報酬を求めていただけで、そのために暴走しがち。
落書きを続けるボスコにため息をつき、班長はモンテのことを思い。
「お前もな」
突撃探検隊。第一班を除けば最強の戦力だが、この班には厄介なのが二人いる。
「僕は意図的だもん、やる時はやる男さ」
「余計質が悪いだろ」
彼の性質は騎士団時代から変わらず。なんど厳しい罰を与えられても、へらへらしていた。
「お前が残ると知った時は驚きましたよ」
国を守る。民を守る。柱の教えを守る。
徴兵期間を経て、騎士道精神に目覚めたのだと、尊敬の目を向けられる連中。
「だってそっちの方が一目置かれて格好良いじゃん。モテるし」
実態などはこんなものだ。
レベリオはゴブリンと小紋章を交互に眺め。
「それでも情報なしで挑戦してくれたのは、確かな事実になりますから、望む素材が出ると良いですね」
神鋼の素材は鉄鉱石ではなく、必ず鉄塊で出現する。
「まあもし出たとしても、たぶんかなり小さいんじゃないか」
鉄塊にも大中小と違いがあった。
・・
・・
十分ほどが経過した。
門が開き、第八班は一足早く南門へ出発。
「ごめんなさい。うん、本当に反省してます。たぶん」
「たぶんってなんだ。お前という奴は、デボラさんに報告しますからね」
王布(中)がボスの素材で、それ以外の雑魚数体は将だったらしい。
「始末書は任せてください、僕あれもう得意分野かも知れません。でも報酬と素材は渡しません。うん駄目、絶対」
騎士団であれば没収の可能性が高い。それでもここは満了組。
「それは私が決めることではない」
今回の素材だけでも、売れば一カ月は贅沢な暮らしができる。彼の場合は全てを神素材に回すと思うが。
資産を預けられる施設は幾つかある。
・探検者協会 限度額が決まっており、新人のうちはこちらを利用することが多い。手数料は安い。
・民間の預かり所 役所からの個人証明が必須。さらに四桁の番号を登録し、それを提示された用紙に記入できなければ、借りた倉庫へは入れない。
独自に護衛を雇っているが、もし窃盗などがあれば、いくらか返ってくる。手数料を年ごとに払い、数年滞れば倉庫内の品は売却される契約。子供などに相続も可能。
・教会 死亡後は国に寄付される。どういった予算に回されるかも、本人の希望があれば適応される。
ラウロとレベリオは落書きに夢中なボスコを残し、門の向こう側を眺めていた。
「小紋だけか」
「南門を開ける場合は、東遮断壁に行けということですね」
二人が門の前に立っていると、後ろから肩を叩かれ。
「おめえさん方から受けた恩義、あっしは忘れやせんぜ」
エロい服装の女がニコニコしていた。追加の報酬が楽しみで仕方ないらしい。
「先導すんのか?」
「光の神技に索敵ってないじゃんよ」
ここには光以外の加護者もいる。
「ボスコきゅん嫌いじゃないけど、なんか憎まれ口叩かれそうだし、ありがとって伝えといてくんなせえ」
「次会う時はよ、本人にその呼び方は止めとけよ」
「お気をつけて」
すでにお供する五名は門より先に進んでいた。
「イケメン殿とラウロっちも気をつけてね」
「できれば俺もな」
「僕もイケメン殿はちょっと」
ニヤリと笑い。
「では二つ名を授けよう。これからは[頭痕の双具][穿つ盾]と名乗るが良い」
「ラウロっちで頼む」
「僕も以前のままでお願いします」
ちぇ と残念そうな顔をしながらも。
「じゃあまたいつか、ダンジョンで会いましょう」
手を振りながら、待ってくれていた五名のもとへ向かう。
「変な奴だったな」
「これからは拠点などでも顔を合わすでしょう。宿場町に関する情報も得たい所です」
ラファスの方が規模は大きいが、そこの探検者も上級攻略の貴重な戦力だった。
・・
・・
イージリオが叱られていると、時空紋から大量の素材を抱えた爺が出現した。
「死ぬかと思ったわ」
すでに傷は癒えているが、彼の全身は赤く染まる。
〖治癒の光・輝き〗があったとしても、〖天の輝光〗は筋肉特化なので回復は苦手分野。
いつの間にか落書きを終えていたボスコが駆け寄り。
「隊長のうっかりさん」
血剤を渡す。
「上級の罠を舐めてた。さすがに反省しなきゃ」
イージリオを叱るのは一時中断し、フィロニカもルカのもとへ向かう。
シスターと並ぶ二大巨頭とまで呼ばれる英雄らしいので、彼女もそこまで強くは言えないようだ。
二班班長が欲とすれば、ボスコは虚偽。
「師匠は素だからな、注意したとこで意味ないんだよ」
「本人は真剣ですからね」
見張りをしている満了組を見渡してから、隣のラウロへと視線を移し。
「実際のところ、ラウロさんは予備軍を断れるのですか?」
光の加護者には厳しい教国。
特別扱いされる者を満了組はどう思うのか。
「醜態をさらしたお陰もあって、当初は変に気づかわれてたからな」
教会からの脱走と協会への手続き。
居残組として彼が尽力した事実は変化せず。フィロニカを含め、選ばれし者の苦労を目にしてきた連中もいた。
「まあ文句を言われても、俺は騎士団にも予備軍にも戻らんよ」
探検者。
・・
・・
門が閉まり、再び小紋章への挑戦が開始される。
イージリオが名乗りを上げたが却下され、別の者が彼からの情報を得て時空紋に乗る。
小紋章の戦いは一対一ではなく、敵は五体だったとのこと。そのため選ばれたのは三班の騎士鎧。
召喚するのが十体弱であれば、〖光の戦士〗も消費やクールタイムは大分抑えられる。
ルカは弱っているので、ごめんなさいと挑戦者の身体を撫でまわしていた。
「筋肉神の祝福がありますように」
「えっ? ああ、拳術神さまのことか」
以前、本人に聞いたが違うらしい。彼が崇めるのは自分で考えた空想上の神さまとのこと。
異教徒になるのだろうか。そこら辺は下手なことを言えないと、ルカも理解はしているようで、拳術神だと皆には言っている。
騎士鎧が紋章に消えれば、ルカは記録係に大紋章での戦いを聞かれているが。
「鬼さんがドーンて来て、他の鬼さんはドキュンって、もう嫌になっちゃう」
すこし可哀そうになってくる。
「ちょっとボスコ来てもらえるか」
「僕に任せたまえ」
隊長に対しては協力的で、嫌がることもなく通訳として参加する。
今はレベリオと二人。
会話もなくしばらく隊長らの様子を眺めていたが。
「無粋な質問になりますが。アドネ君とエルダさんは、やはりお付き合いされているのですか」
「まあ端から見ればそうなるんじゃないか」
空を見上げ。
「ルチオ君はどうなんでしょうか」
「さすがに気づいてるだろ」
苦笑いを浮かべ。
「僕は気づかなかったんですよね、大怪我をするまで二人がそういう関係だって」
かつてではなく、今も仲間ではある。
「ダンジョンに夢中でして。恥ずかしながらそういったものには疎く」
「お前だってモテそうだろ」
爽やかなイケメン。性格も真面目で思いやりもある。
「全てにおいてダンジョンが最優先なので、すぐに振られちゃんですよね」
「なるほど」
ラウロがイージリオの誘いを断っていたのを見て、なにか思うことでもあったのだろう。
「お前。上級始まってから、本当に楽しそうだったもんな」
時が過ぎれば生き方も変化する。
ダンジョン攻略が最重要だった。水も欲望もそれは同じ。
【迷宮】再挑戦に向けて努力を重ねていたが、仲間の意欲が自分とズレていることに気づかず。
「ショックでした」
レベリオにとって。
「仲間のこと大事に思ってたのは上辺だけで、けっきょくダンジョンしか考えてなかったのかも知れません」
「じゃあもう迷宮は諦めたのか?」
沈黙。
「攻略ってのはなにも最前線だけじゃないだろ。補佐とかお願いしても良いんじゃね、水と欲望なら薬を用意してもらったり、それ売った金を一部こちらの資金に回してもらうとかでもよ」
「ラウロさんを都市同盟に誘うのは無理ですよね」
血塗れの聖者。
「この先どうなるかなんてわからんけど、お前まだ二十代前半だろ。水使いを育てたり、優秀な人材を引き入れたり、焦らず準備進めろよ」
「こちらで育てた人材を、都市同盟に連れて行くことは可能でしょうか」
レベリオはうつむき考え込む。
「交渉だな。まあ神職との付き合いはあるから、なんなら紹介しても良いぞ」
気乗りはしないが仲間のためだ。今は教都に出向いているが、ラファスの中央教会には土の柱教長もいたりする。
「お金だけでなく、僕らが用意できる交渉材料」
なにかが動きだす。
「アリーダとマリカが南門で待ってるから、早く合流せんとな」
国を越えてまで、レベリオと行動を共にしてくれた仲間。
「そうですね」
顔を上げた彼の瞳には、意志の光が灯っていた。
本当は年末まで描く予定だったんですが、自分が適当なプロットしか作らないので、ズレが。
そこら辺は次の章で描きたいと思います。
それでは、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。




