6話 上級【町】初挑戦 突撃探検隊・逆境を覆せ、熱き血潮に踊る筋肉
用水路の上空に時空紋が浮かびあがり、そこから鎧をまとったゴブリン(強化個体)が落下した。
「うぎゃー ごbおgoぼ だzuげてぇ」
少し遅れて、同じ紋章より巨体が出現したが、〖足場〗を即座に展開させて着地に成功。
「待ってなさい、今行くわっ!」
まとっていた法衣を装備の鎖にしまい、戦闘服の褌(王布・予備あり)に着替える。
隊長は自らの危険を顧みることなく、果敢にも激しい濁流(用水路)に飛び込む。
ゴブリンの身長では底に足がつかず。鎧のせいで次第に沈んでいく。
町中で泳いではいけないと少し前に学んだ。
水を掻き分けながら勇ましい足取りで進み、ボスコの両脇を抱えて持ち上げる。
「とったわっ! もう大丈夫よぉ!」
咳き込んだあと、泣きべそをかきながら。
「うぅ ありっ がどぅ」
「ボスコ隊員、お着替えしてくれると助かるわ」
ウィンクしてから。
「まだ私を腕と肩を膨張させるには早すぎるでしょ」
「うん」
その鎧は騎士の物ではなかった。
光の守護神(素手・錫杖・盾・法衣・鎧)
もとは白銀の美しい鎧だったが、長きに渡る激戦の中で色もくすんでしまった。本当はただの手入れ不足とも言う。
装備の鎖を使い、所々に継ぎ接ぎあとの見える、使い古された法衣へと交換する。茶色の模様が入っていたが、もう褪せてしまったようだ。
「ほら男の子でしょ。強い隊員は泣かないの」
「うん」
隊長はボスコを上下させて無意識に筋トレしていた。
「わーい わーい たかぁーい!」
キャッキャと笑う。
「ラウロよりも高ぁーい」
時刻は十時を過ぎた頃。
同じく時空紋によって転移させられた二名が、騒ぎを聞きつけ用水路へと駆けつけていた。
「なにやってんだお前」
「あっ ハゲのおじちゃんとお兄ちゃんだぁ!」
レベリオは状況を掴めず、困惑していた。
隊長はゴブリンを肩車すると、のっしのっしと穏やかな流れの水路を歩きながら。
「転移場所が水路だったのよ。神さまも意地悪よねぇ」
ボスコを下ろし、自らも用水路から這い上がる。
「お初にお目にかかります。以前そちらの方は中級の訓練場でお見掛けしましたが」
身体の水滴を払ってから、隊長は移動用の法衣をまとう。
拳術神(素手・筋肉・法衣)
しばらく無言でレベリオを見つめていたが。
「良質な筋肉の臭いがするわ」
咄嗟にラウロは二人の間に割り込んだ。
「しっ 師匠たちは満了組なのに、時空紋に引っ掛かったんですか?」
「そんな呼び方イヤよぉ、嫌や嫌や! 今の私は隊長なの」
彼らはまっすぐ拠点に向かい、その準備をすることになっていた。
「もしかしてあんたら、家屋に浸入したんで」
「だってぇ 我慢できなかったのよぉ」
呆れてため息をつく。
「でもおじちゃん、満了組だって別に強制ってわけじゃないんだよ。あっ ハゲつけ忘れた」
「そりゃそうだがよ。ていうか何時までその喋り方続けんだ、子供おやじ」
騎士団なら厳罰ものだが、彼らは徒党に参加してるだけの探検者。限度もあるが個々の自由は約束されている。
脱退だって可能。
「まあ僕ら組の方針も破ったから、帰ればママに怒られちゃうけどね」
ダイエットにはなんとか成功したようだ。
「しかし良かった。四人での行動ができます」
すでに南門までもうすぐの位置だったので、アリーダとマリカは大丈夫だと信じるしかない。
前衛と中衛・前衛と後衛で別れることができたのは、不幸中の幸いと言っても良いだろう。
臨時の組となるわけだが。
「最終決定権はレベリオでも良いか?」
「うん。僕ちゃんと言うこと聞くよ」
二人ともそういったのは苦手だった。
「ルカさんじゃないのですか?」
「私は隊長だからね、リーダーとの兼任はできないのよ」
ボスコは自慢気に。
「皆を守ったり、自ら率先して危険に飛び込むのが隊長の役割なんだ」
どうやらモンテ組の中で、隊長とはそういうものだと決めたらしい。
それ引き付け役だろという突っ込みは、なんか面倒なのでやめておく。
ボスコとルカを交互に見て、すごく不安もあるのだけど、レベリオはとりあえず今後の方針を。
「今我々がいるのは北西です。大神殿はあっちの方角ですね」
「僕たちけっこう飛ばされちゃったね」
テヘっと舌を出すが、反応しないことにする。
「まだ十二時までは余裕もありますし、北門を目指したいと思います」
どちらかと言えば南北遮断壁よりも、そちらの方が近い。
ボスコは元気よく手を上げて。
「りょっうかーい!」
了承の返事をする。ダンジョン内部なので、できれば大声はひかえて欲しい。
「二人はもう隊員よ。なにがあっても大丈夫、だって私が守るもの」
「僕は盾なのですが、ルカさ……隊長の方ができることも多いと思うので、そちらをお願いしても良いですか」
盾の攻撃神技は防御力低下や、敵意を向けさせることに重点をおいている。〖復讐〗であれば威力も高いが、〖苦痛〗で蓄積させた力は〖叫び・咆哮〗で使うことが多い。
「じゃあ引き付け役はレベリオ隊員に任せるわね」
ボスコが回復の後衛。ラウロは全体を見て動く中衛。レベリオとルカが前衛。
・・
・・
移動をしながらも、レベリオは二人に質問をしていく。
〖天の輝光〗 ボスコは回復特化。ルカは筋力特化。
〖光壁〗 ボスコは〖光強壁〗 ルカは〖足場〗〖光強壁〗両方。
もともと光属性について調べていただけあり、詳しかったのも幸いだった。
「これで大体は聞けたでしょうか」
「いや、まだ師匠の」
隣を歩いていたルカが、手でレベリオを制す。
細い通路は途切れ、その先が大通りになっていた。
「横切らないと、北門までは行けそうにないですね」
「私の筋肉は危険だって反応しているけど」
ピクピクと胸板が左右順番に動き、最終的には右だけが動きを止めた。
「隊長センサーもほらっ これやばいわよ」
ルカの筋肉神技に索敵はなかったはず。
裏路地は全て塞がれてしまっているので、時空紋の関係から壊すこともできず。脇道に入るにも、しばらくは大通りを進まなくてはいけない。
「まずは私が安全を確かめるわ!」
隊長は自ら率先して危険を引き受ける。
「あっ ちょっと」
行ってしまった。
「皆で進んだ方が良いと思うんですが」
苦笑いを浮かべながらも、レベリオはそこまで焦ってはいないようだ。
彼は過去にも経験していた。
「まさに猪突猛進ですね」
なぜか何とかなってしまう。なんとかしてしまう化け物たちだ。
ボスコはレベリオを見あげながら、手をさしだし。
「ねえお兄ちゃん僕と行こ」
「えっ」
流石に手を繋いで歩くのは避けたい。
ラウロはレベリオの肩に手を置き。
「いちいち付き合わんで良いぞ」
こいつらは馬鹿なだけだ。
「ルカさんの後を追いましょう」
二人は先に歩きだす。
「ノリが悪いぞお前ら、隊長を見習えよ」
「うるせえ」
ボスコは後頭部に両手を持っていき、指を絡めながら歩きだした。
警戒をしながら進んでいた二人だが、最初に気づいたのは子供おっさんだった。
その場に片膝をつけると。
「振動あり、けっこうな数がこっちに走ってくるぞ」
今進んでいる大通りは道が曲がっており、その方向は確認できず。
レベリオも言われて地面に手をそえた。
「どうする、師匠のとこまで走るか」
「いえ」
前に出て盾と守短剣を構える。
「もう間に合いません」
ボスコは鎧をまとい、盾と錫杖を鎖より出現させ、その後ろに位置どった。
ルカがいないので、ラウロは兵鋼と将鋼を抜き、レベリオの横に立つ。
「剣の加護だったか」
「まあな」
敵対生物が来ると身構えていたが、姿を現したのは女だった。
「うっひょぉ♡」
軽装ではあるが、なんというかそれはもう軽装。お腹が見えており、足に至っては短パンにブーツ。
それでも王革や王布製なので、素材としては上位組で間違いないだろう。
得物と思われる短剣をフリフリさせながら。
「おーいそこの探検者さーん、助けておくれよぉ」
思わずラウロは一歩さがって。
「ちょっ ま」
彼女の背後から土煙と共に、骨鬼や肉鬼が姿を現す。
数はもうわからない。とにかく沢山。
「ごっめーん、あとでお詫びするのでぇ。だから〖探さないでください〗」
あざとい子供口調は何処へやら。
「ふざけんな」
走る勢いは簡単には止まらない。
「まず受け止めなくてはいけません」
事前に剣で〖我が盾〗を攻撃しても、時間が経過すれば〖苦痛〗は去ってしまう。
急な出来事であったから、今回は〖叫び〗〖咆哮〗も使えない。
「ボスコさん、こちらも数で乗り切りましょう」
「召喚できんのは道幅一列くらいだぞ」
ここは大通りなので、それでも結構な多さだ。かなり優良な神技なので、使えるのなら自然と熟練も上がっていく。
「一列じゃ無理だろあれ」
「しゃあねえ、俺らの前だけは二列にしてやる」
装備の鎖を使い、鎧から法衣へと交換。
舌打ちをしてから。
「お詫びは高くつくぞ、あの野郎。騎士道ねえと消費も多いんだよ」
まだ活動も序盤だった。ボスコは神布の法衣に二列分の神力を流し込む。
「あたしゃ女の子ですよ」
ボスコの隣に立っていた。
逃げずに戦ってくれるなら、まあラウロとすれば許さなくもない。
横目で睨みながら、錫杖の先を女に向け。
「へっ 女の子って歳かぁ?」
「失礼だよ君ぃ、これでもまだ二十代だもん。酷いこと言うと〖こっちみんな〗つかっちゃうよ……」
敵集団の視線が彼女に集まり、明らかに勢いづく。
「えへっ」
「こっちみんな」
弓を片手にもったまま、残った腕を目もとへと持っていき、片目を隠す。
「許しておくれよぉ……う゛ぅっ」
突然の衝動に女はうずくまりながら。
「〖私の神眼が疼く〗」
ラウロは苦笑いで。
「その神技名を堂々と言う奴は初めてだな」
矢筒に手を持っていき。
「なんでぇ 格好良いじゃんよお」
レベリオは敵集団との距離を見極めながら。
「戦力は多い方が助かります。できれば戦闘の前に出会いたかったのですが」
「そりゃ私も同感さね。話せば涙なしには語れやせんが、ちと無理して調べ物しちまったぃ」
上級で活動している欲望の加護者。なにか情報を掴んでいるようだ。
できれば後でお聞かせくださいと頼んでから。
「戦士が接触したら、ラウロさんは足場からの地聖撃で前列を止めてください」
「わかった」
〖足場〗を二段で出現させた。
その前に立ち。
「まだか」
「うるせえちょっと待て」
〖光の戦士〗 法衣または騎士鎧専用の神技。一定秒間、光る人型の戦士を召喚する。物理判定あり。
熟練によって数が増えて行く。性能としては〖聖拳士〗と〖聖化身〗の中間。
ボスコの前方に沢山の小さな紋章が出現し、そこから法衣らしき光をまとった人型が団を成す。
得物は盾のみ。
「早く前に出せよ」
「まだ準備終わってねえだろ、見てわからんの?」
鎖を操作し、再び鎧をまとう。すると〖戦士〗たちの姿も鎧を模った光に変化した。
いつかアリーダに言われたことを思いだしてしまった。聖拳士の足りないとこを全部補っている。
「うへぇ、まだ濡れてやがる」
先ほど用水路に落ちたから、鎖帷子の下に着ていた服が体に張り付いて気持ち悪い。
「ざまぁない、日ごろの行いだな僕ちん」
「あ゛ぁん、もういっぺん言ってみろや」
欲望の加護者は矢を敵に撃ちながら。
「お二人さん、こんな時に喧嘩はやめよーよ」
「誰の所為だ」
レベリオ組の時は比較的に冷静なやり取りをしているが。
「おらもう終わたんだろ、さっさと出せよ」
戦士たちは敵の集団に向けて走り出し、盾を身構えた。
なんとなく関係性は知っていたので、レベリオは気に留めることもなく、前方を見つめたまま。
「〖夢〗はどちらですか?」
「特に希望はなかったからね、どっちでも大丈夫」
確かレベリオも加護は何でも良かったと言っていたが、そういう人は両方になるらしい。無欲の勝利とはこのことだ。
「ちなみに私の夢だけど、あんな意思も主張もない連中に勝手されんのは堪らんから」
ただ一点だけを見つめ、狙いを絞ってから矢を放ち。
「とりあえず世界平和でーす」
〖光戦士〗の間を通り抜け、骨鬼の足に命中して姿勢が崩れろば、後方も巻き込んで転倒。それでも勢いは衰えず、踏みつぶされて数体が灰に帰る。
ボスコは装備の鎖から槍を取りだした。
「誰も聞いてねえだろ」
戦士たちは盾を構えながらも、同じ得物を光の中より出現させる。
錫杖には対応してないようだが、召喚者の使っている武具を投影するようだ。槍の神技を持たないので、本人は弱体化してしまうが。
「知ってはいましたが」
実際に見たことで実感する。
「これは……有用ですね」
石突と思われる部位を地面に固定させ、槍の切先を敵の集団に向ける。
一列目はしゃがみ姿勢で盾は地面に。二列目が中腰のまま盾の位置を調節。
〖化身〗と違い独自に神技を使うことは出来ないが、数こそ力とでも言うべきか。
「俺りゃ高みの見物と洒落こむわ」
自ら〖光強壁〗の足場に乗り、高い位置から見下ろすと。
「接触五秒前ってか」
骨鬼は止まろうと速度を緩めたが、肉鬼が我先にと押しのけて行く。
「ねっ ねっ 役立ったでしょ?」
「こっちみんな」
そして両者が激突した。
受け止めたのは槍や盾だけでなく、ボスコの鎧に比例して重くなった身体。防御力も上がっている様子。
「ラウロさん!」
聖壁の〖足場〗は二段だったが、いつの間にか四段になっていた。
「私の隊員に手を出さないでちょうだい!」
飛び上がると同時に法衣から、戦闘用の筋肉へと移行。
〖光筋〗 鉄の肉体。熱き血潮が筋肉を躍らせる。
〖光拳〗 腕頑強・拳速強化。
地面に叩きつけられた厚い拳は、石畳ごと大地を陥没させた。
〖土紋・地光撃〗
大通りを埋め尽くしていた鬼たちが地面に倒れるか、または片膝をつける。
欲望の加護もちは手に持った矢を高く振り回し。
「ルカさんさっすがぁ」
「いや飛びすぎだろ」
前列を跳び越して、かなり後ろのほうで着地していた。
弓をもつ骨鬼は敵味方関係なく、矢を斜め上に向けて放つので、まあ助かると言えば助かる。しかし当初の目的は別だった。
「おい、もう持たねえぞ!」
槍が突き刺さろうとも、汚い口内からは涎をまき散らす。盾の防御と鎧の重量だけでは厳しい。
「十分です」
受け止めには成功していた。レベリオは〖呼び声〗を鳴らしながら前にでる。
「ラウロっちだったね、〖足場〗一つ貸しておくれ」
「奥の二つは師匠のだからな」
なんか出遅れてしまった。
「早くいけっつうの」
尻を靴底で蹴られる。
「後で覚えとけよ」
〖空刃斬〗でオークを狙い、将鋼に神力をできる限り沈ませてから、刃を握り〖無月〗でその背後に転移する。露出部位を〖旧式・血刃〗で斬れば、大量の血が流れ出る。
こういった乱戦になってしまえば、ガイコツは弓を捨てて片手剣を鞘から抜く。
闇より出現したラウロへと斬りかかるが、〖聖十字〗を挟んで小丸盾で受け止めた。もともと弓兵だったこともあり、三人一組も乱れているようだ。
肉鬼が振り返り、こちらに金棒を振りかざす。もう血塗れになっていた。
「瞬きはしないからな。こういう耐えるの得意なんだわ」
再度〖聖十字〗を間に挟み、オークの金棒を将鋼で受け止める。
「骨鬼は任せてください」
レベリオが〖相棒〗を使い、ラウロを狙っていたガイコツを引き付けてくれた。
瞬きはまだしていない。
「ほいっ 援護ぉ」
欲望の矢が出血オークの首に突き刺さった。
〖聖域〗を発動させてから、軽鋼の刃で手の平に傷をつけ、そこから闇が漏れ出る。
「おいハゲ、後ろだ」
背後から別のオークが大剣を振り下ろしてきたが、〖聖壁〗で防ぐ。巨体からの威力は高く、壊されてしまったが時間は稼げた。
出血と矢で虫の息になった肉鬼の側面に転移し、そのまま斬りかかるが大盾で防がれる。
「中々しぶといな。行けるかレベリオ!」
「了解」
〖打撃〗により、ラウロから意識を外した。
「よしっ!」
チャンスだと思ったが。
「多すぎだろ」
骨鬼が割って入る。
レベリオだけでは引き付けが足りない。そもそも彼が得意とするのは、どちらかと言えば強力な単体だった。
〖天の光〗がラウロとレベリオの身体を温めていた。
〖活力の輝き〗が付着した唾液を浄化する。
「隊長だ」
ボスコの言葉に目を向ければ、まだこちらと距離が離れている。
「助けに来たわよー!」
敵を掻き分けてここまでたどり着いたが、なぜかルカはその場に立ち止まった。
「さあ、ご照覧あれ!」
筋肉を魅せるための姿勢を整える。
「なにを!?」
さすがのレベリオも神技・筋肉の繊細はつかめなかった様子。まず扱えるのが一人しかいない。
出血していた肉鬼が倒れたので、瞬きをして。
「大丈夫だ」
ルカの腹部に骨鬼の剣が突き刺さり、肉鬼の大剣が首に減り込む。
「私の愛、受け取りなさーい!」
〖輝筋〗 ポーズを十秒間決めるごとに周囲へ光が広がり、味方の筋力を強化する。ポーズは全部で五種類。鋼鉄の肉体を得る。痛みの緩和はなし。楽の刻。
第一から第五へと移るたびに、肉体が芸術性を増していき、引き寄せ効果が強まっていく。
筋肉が膨張することにより刃先を押し出し、埋もれていた大剣が盛り上がった。
ダメージがないとは言えず。
ルカは自分を囲む鬼たちを見渡して。
「さあ語り合いましょう、まずは筋肉について」
未知の危険生物に意思の疎通を図るのも隊長の役目。
ポーズを決めているので動けず。オークの大剣が頭部に直撃した。
「あなたその身体、鍛え甲斐があるわね。筋トレ中に歯を喰いしばるのは、欠けちゃったりするからお勧めできないけど、そんなの関係なくハミガキはしなきゃ駄目よ」
唾液のデバフをもらったので、〖活力の輝き〗で回復。
「そろそろ次の話題に変えましょう。あっ 背骨は止めて、痛い」
ガイコツが背後から突いてきていた。
〖天の輝光〗を発動。暖かな光が筋肉を癒す。
十秒経過。
振り返り苦悶を浮かべながらも、優しい口調で。
「骨格についてなんてどうかしら、あなた才能あるわよ。こればっかりは本当に努力じゃ補えないの。でも栄養不足ね」
第二のポーズを決める。
「しっかり食べないと、卵よ卵、あとミルク。あなた骨とか…ゎ…だけ…じゃ……ごめんなさい。でもその骨格は誇って良いわ」
思いやりの心がなくては隊長など勤まらない。
研ぎ澄まされた〖輝筋〗の光は周囲に広がり、欲望の加護者まで届いていた。
「ちょうだいしました!」
先ほどラウロの背後を狙った肉鬼に矢を放つ。そいつは気づいて盾を構えたが、突き破って前腕ごと貫いた。
女はよろこびに飛び上がり、拳を天に掲げながら。
「ひゃっほう 爽快だぜぇ!」
十秒経過し再び周囲に光が広がる。
〖天の輝光〗 筋力に比例して攻撃力上昇。
「俺じゃ期待できねえがな」
フィエロは攻撃。モンテはバランス。
「十分だ!」
ラウロは骨鬼の剣を将鋼で受け止めると、兵鋼へ〖儂の剣〗をまとわせ、その胴体を鎧ごと叩き斬る。〖旧式・無断〗が王鋼を砕いた。
腕を負傷したオークへと〖空刃斬〗を放ち、首をも巻き込んで切断する。
「〖苦痛〗の準備ができました」
天に掲げた盾が周囲に広がる。
聖者の叫びと違い沈静化はないが、あの神技の元になっただけの効果はあった。
「行きますっ!」
〖咆哮〗は一人で囲まれているルカへと放たれる。
すでに光の戦士は消滅していた。
ボスコは全体を見渡す。
盾役はレベリオがいる。ラウロの〖聖域〗は広範囲なため、ルカと欲望にも治癒は到達している。
第四のポーズが決まり、一層に引き寄せが強まっていく。
乗っていた〖光強壁〗から下り、地面に着地する。
法衣をまとい、〖光拳〗を腕に灯す。
「俺も攻めっかな、熟練上げてえし」
〖輝拳〗 両手を合わせることで一定秒間、筋力に比例して拳打と素早さを強化。
発動時の姿勢を維持し続けると、自分と他者につかう〖光十字〗が〖光十紋時〗へと変化。輝拳終了後もしばらくこの効果は続く。
手の平を重ねたまま微動だにしないボスコを狙い、骨鬼が側面から剣での突きを仕掛け、正面からは肉鬼が大槌を振り落とす。
「あとちょっとだったのによ」
輝くゴブリンがその場から消え去り、骨鬼は大槌に叩き潰された。
〖光法衣〗 秒間回復(瘴気弱体) 痛み緩和。攻撃を避けたり受け流すほどに、筋力を強化する。
回避した先に〖光壁〗の足場をつくり、手の平と踵で重力に逆らって着地。
靴底を蹴って身体を発射させると、大槌のオークに〖輝拳〗を減り込ませ沈黙させた。
「……よし」
その場で再び飛び跳ね、上空に展開させた〖光壁〗に手の平をつけ、逆さ吊りになってから次のターゲットを探す。
身体を発射。
〖土紋・地光撃〗で動きを封じ、足払いで骨鬼を転ばせ、拳の打撃で装甲ごと骨を破壊する。
ラウロも動きの鈍った肉鬼を〖旧式・一点突破〗で貫き、〖波〗で吹き飛ばす。効果は対象だけだが、背後にいたガイコツが巨体に巻き込まれて潰された。
「今はそっちも進めてんのか?」
記憶の中だとボスコは錫杖と盾・鎧が主体だった。
「まあな……そろそろか」
「ああ。もう俺らの勝ちだ」
ルカの居た場所より眩い明かりが一面を照らす。
光が金色に輝き、温もりが消えた。
〖降臨筋〗 全てのポーズを決めることで、筋肉の神様が微笑み、芸術モードから戦闘モードに突入する。全身が黄金に染まる。
それは〖破魔拳〗の元となった神技。
〖光拳〗が〖金剛拳〗へと変化した。
楽が終わり。
苦が始まる。
登場人物の台詞や行動はできるだけ個々の性格や背景にそっているので、正しい間違いあるかと思います。作者も自分の考えが正しいかどうかなんてわかりませんし、間違いだったなとよく思い返すものですが。
間違っていても、そのキャラならそんな行動するわなって納得できれば良い。正しくてもこいつはこんなことしないだろってのは避けたい。なかなか難しいんですがね。
7話は終わっていますので、明日には投稿したいと思います。8はちょっと構成というか苦戦してますのでしばらくかかります。




