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いつか終わる世界に  作者: 作者です
上級ダンジョン【町】初挑戦編
45/133

4話 上級挑戦開始式



 あと一週間ほどで年が終わる。協会員に限らず忙しい時期かも知れないが、上級ダンジョン【町】が解放された。

 だが協会としては初級や中級と比べると、やるべき仕事は圧倒的に少なかった。



 早朝。


 広場に設置された台の上に立つ者が、集いし歴戦の勇たちを見下ろしながら。


「これより【町】への挑戦を開始する。今回の第一目標は町壁南門への拠点設営」


 上級の中ではコンパスが機能する。町壁の南と北には門があり、そこには時空紋と特殊な時空神像がある。


「仕掛けを解除しなければ、大神像と時空紋は使えないものと思ってくれ」


 通常の神像よりも広範囲に結界を張れる。


「拠点の設営は我々が受け持つ。満了組以外の同志諸君、もし余裕があれば家屋に浸入し、神像または時空紋を探しながら、南門を目指してくれると助かる」


 大神像が機能するまでは、自分たちで拠点の防衛をしなくてはいけない。


「……あと何んかあったかねえ?」


 デボラの斜め下方には、細目の男が立っていた。用紙を見ながら。


「出現位置に関して言っときませんと」


「あっ そうだった。初級や中級と違い、上級は進入時に適当な場所へ転移させられる」


 広場では上級に挑戦する者たちだけでなく、他の探検者たちもその様子を眺めていた。この人は大丈夫なのかと、少し周囲がざわめく。実際のところ不安を現したのは新人の者たちだけだったが。


 ラウロなどは背筋を伸ばし、微動だにすることなく話を聞いている。仲間らに奇妙なものでも見るような目を向けられているとも知らずに。


「強制ではないが、もし南門から離れた位置に飛ばされた時は、無理せず北門を目指してくれ」


 デボラ側には細目だけでなく、鉄塊団団長や協会支部長なども並んでいた。


 少し離れた位置には協会員もおり、教会からも数名参加している様子。



 懐から時計を取りだし。


「午後十二時を待ち、北門に集結していた者らは南門を目指す予定だ」


 レベリオ組は任期満了組の所属ではないので、近くにミウッチャ達の姿も確認できる。


 上級で活動しているのは鉄塊団だけでなく、他にも何組か存在していた。


 宿場町からの参加者とはあまり面識がない。


 もう良いかとの視線を下に向けるデボラ。


「……」


 細目は用紙を見てから、OKのサインを送る。


「では上級に挑戦する順番だが、申し訳ないが我々からにさせてもらう。続けて鉄塊団、最後にその他上位組で頼みたい」


 こうやって気も使ってくれるので、鉄塊団を含め上位組とも満了組は問題を起こしていない。


「あの……デボラさん。ほらあれ、内壁とかの注意事項」


 気まずそうに手を上げたのは、[炎の初老共]のリーダー。


「すまない、忘れてた。えー 【町】には内壁があり、それらを無理に壊したり乗り越えようとすれば、罠の時空紋が足もとに出現する」


 敵の待っている空間に飛ばされるか、【町】内にランダム転移させられる。またはその両方。


 破壊された壁はすぐに修復されてしまうので、なんらかのイベントをクリアしなければ、内壁の門を通ることはできず。


「我々に協力する義務もないが、情報などを提供してくれるなら、相応の対価での交渉をしたい」


 個で抜けれる裏ルートはあるかも知れないが、正規は多人数で攻略する大きなもの。


「また倉庫と思われる建物や、見るからに頑強な造りの建築物も警戒が必要だ。無理に進入を試みるのはお勧めしない」


 満了組はもう騎士とは違う。これはむしろ彼らが誰よりも声高に訴えている事。加護のせいで従軍させられただけなのだから。


 デボラは違うが、細目などはまさにその筆頭。本当は予備軍なども嫌な命令でしかない。


 だからこの言葉だけは、気合を入れて。


「一日でも長くダンジョンを楽しむために!」


 皆が一斉に拳を空にかかげ、意気込みを声にだす。



 ラウロと一部の満了組だけが、なぜか敬礼をしていた。



 咳ばらいが一つ耳に届く。


「あーっ ちょっと良いか」


 門番をしていた男性が、老婆を伴って前にでる。


 空気が一気に引き締まった。



 グレゴリオという人物はそれだけの影響力を持っているのだろう。ミウッチャの目が輝いていて、さっきから眩しい。


「お告げがあったようでな。シスター、前にどうぞ」


「朝っぱらから良い迷惑だよ。だいたい何で中央じゃなくて、あたしの教会なんだい」


 一番ダラけていた大ボスが騎士モードに入ったからして、天上界が貧教会にお告げを出したのはそういう理由かも知れず。


 デボラはすぐさま台上を空け、見事な敬礼を決める。



 煙草を咥えたまま、専用の紙に書かれた文章を読み上げていく。


「なんとなく気づいてると思うが、ここだけ解放が遅れたのはそういうこった。気を引き締めていきな」


 絶対に色々と内容をはぶいていると思われるが、要約すればそういうことなんだろう。


 

 火のついているそれを指で挟み。


「個々で栄光を勝ち取るのも、無様な死体を残すのも好きにしな。組織の歯車として役割をこなすのも、あんたら一人ひとりの自由だ」


 口調はいつも通りなのに、声は皆に良く通る。


「阻む者は捻り潰せ、頭脳を駆使して叩き落せ」


 敵対生物のことを言っているのか、人間も含まれるのか。


「他人の成功を妬むのも、称えるのも全ては人の生業にある」


 それは書かれている内容なのか、それともシスターの発言が混じっているのかは不明。


「探検者よ、舞台は用意した」


 シーンと静まり返る。


「ただ私は願う。人類が未来を掴むための、足掛かりとして欲しい」


 お告げ主。


「欲望のままに、満たされぬ渇望を」


 静寂を打ち破る者が一人。


「ひぃっ なんで婆がここにいるのぉ」


 どこにいても目立つ巨大な爺が、ガタガタと震えながら縮こまり、前にいたモンテの両肩に手をおいて身を隠す。

 もちろん全然隠れていない。


 えぇ なにこの人といった表情で、モンテは困惑しているようだった。


 背の高いラウロもなんか嫌な予感がするので、姿勢を低くする。



 シスターは爺を一瞥し。


「時代は流れてくもんさ。いつまでも老害がでしゃばるもんじゃない」


 台上からおり、デボラに用紙を放る。


「もう私に一々意見求めるのは止めな。あんたが自分で何とかできることくらい知っとるよ」


「……御意のままに」


 すこし寂しそうだった。



 門番と二人で去っていく。


「茶でも出しますよ」


「菓子も寄こしな」


 沈黙はしばらく続いた。


 レベリオの身体に隠れながら。


「一体なんなんだ?」


 アリーダは呆れた口調で。


「なんで騎士団にいたあんたが知らないのよ」


 モンテ組に突然組み込まれた謎の老人が気になるのは、ここで活動する者からすれば当たり前のこと。彼らの情報収集能力であれば、調べるのもそう難しくなかった。


「ラウロさんたちより幾つか前の世代ですが、教国を支えた二大巨頭ですよ」


 探検者に引退があるのだから、騎士にも老後はある。


「モンテは後釜ってとこか」


 主神級でも身体は人であることに違いはない。


「いやよぉ イヤいやぁ。怖いぃ、こわいぃ」


 素性がなんとなくわかっても。


「あの婆さん何者なんだよ」


 今は見る影もないが、肉体は全盛期の頃と変わらないように思える。

 

 ガチで怯えているマッチョ爺。むしろいつもこうであって欲しい。


・・

・・


 集団は解散していた。レベリオたちの順番はまだしばらく先なので、それぞれが思い思いに過ごす。


「あぁーっ 羨ましいな!」


「ルチオ君たちなら、来年か再来年にはもうここに並んでいるかも知れませんね」


 拠点を安定させるだけでも時間はかかり、なおかつ二カ所。


 内壁を突破するにも、まずはイベント内容の把握から始めなくてはいけない。


「まずはそれが目標だな」


 エルダは神殿を指さし。


「ほらルチオ、もう行くみたいよ」


 第一班 デボラを長に五名


 第二班 細目を長に五名


 第三班 四名


 このような具合に満了組は組織だっており、全部で十五班ほどなので、総勢だと六十から七十名。予備軍として編入される時は、小隊規模として扱われる。


 教都や旧王都、平原の城郭都市にも広場はあり、そこで活動する満了組はもっと大規模になる。


 ダンジョンが近場にない、製鉄を生業とする町などは、どうしても兵士が中心となってしまう。

 魔界の警戒期間に突入すれば、国の援助や独自の資金を使い、探検者や一部の満了組を呼び寄せて対策もしていく。



 アドネは周囲の面々を見渡しながら。


「こうやって満了組が集まったの初めて見たけど、思ったより少ないよね」


 言われてエルダも上級挑戦者たちを眺め。


「確かに。もっと多いと思ってた」


 ラウロの頭は布で隠されていた。生地の感触を確かめながら。


「まあな」


 訓練期間を終えれば、待っているのは中級からの上級であり、止まることも許されない。

 そして【死平原】や【落城】の先に待ち受けるのは戦場だ。


 徴兵期間を死に物狂いで生き抜いた連中。



 アリーダはダンジョンに突入していく満了組を眺めながら。


「私らはできる限り彼らに協力するつもりよ。とりあえず拠点が安定するまではね」


「焦っちゃダメだな。回り道なんてねえ、やっぱ目標は中級完全攻略だ」


「ルチオ君はそのタイプですか」


 レベリオの返答に首を傾げる。


「僕もそうです」


 未知へと突き進んでいく化け物たちを見て、自分では追いつけないと悟る。

 それでも慎重に事を進めて行く者たちが、彼にとっては希望の光だった。



 これから自分たちも迷いの森ではあるが、アドネらとしては気になることがあった。


「レベリオさんたち、年末までには帰還できるよね?」


「私もせっかくだから、皆と年越したいな」


 最近は設備が整っていることもあり、活動外は一緒に訓練することが多い。


「その予定ではありますが、何事もなければ」


 欲求を隠しながら。


「じゃあもし間に合ったら、モニカ組も含めて家で過ごしましょうよ」


 新年初手合わせ。


「わかった。僕らから伝えとくね」


 親分としても、そろそろ関係を築けてきたので、勧誘の頃合いだろうか。



 アドネとエルダを交互に眺め、仲間だった二人を思い浮かべる。


「もしそうなるとしても、先のことですね」


 上級ダンジョンに目を輝かすルチオ。



 ラウロはあれっと仲間たちを交互に見て。


「ところでマリカはどこだ?」


「サラさん連れてご飯食べに行ったわよ」


 相変わらずだなと笑いながらも、そういった図太さを羨ましく感じる。



 良く考えると、ずいぶんと若者に囲まれた生活をしている。もっと年長者として背中を見せなくてはと考えていたら。


「もーらい」


 背後から忍び寄っていたゴブリンが、ラウロの頭から布を奪い取り、走り去っていった。


「てめえっ この野郎!」


 オッサンを追いかけるオッサン。


 その背中を若者たちはしばらく見つめていた。


・・

・・


 協会員に怒鳴られ、二人して並ばされる。


「周りには新人の探検者も居るんですよ。自覚を持てとは言いませんが、若い子たちに示しがつかないような行動は控えてください」


「それ自覚を持てって言ってるじゃん」


 涙目になりながら反論するボスコ。睨み返され視線をさげる。


「こいつが俺のを取るから」


 自分は悪くないと主張するラウロ。


「だからって追いかけっこするのは大人のやることですか?」


「ごめんなさい」


 リヴィアはため息を一つ。少し自分も興奮していたと冷静になってから周囲を見れば、注目されていて恥ずかしくなってしまった。


「もういいです。私も悪かったです」


 ボスコは二人を見て、ラウロに布を放り投げる。


「悪ふざけが過ぎたな。俺りゃもういくわ」


「おう。まあ気をつけてな」


 頭を掻きながら去っていく。



 布を頭に縛りなおし。


「まあ安全第一で行くわ」


 仕事中だとしても。


「もっとちゃんとした形で送り出したかったんですがね」


 追いかけっこをされた日には腹も立ったが。


「なんだかんだでボスコさん、色々考えてくれてたみたいですね」


「なんの話だ」


 ボスコはモンテ組に合流した。


「あの人、良いお友達ですね」


 いぶかし気な顔で。


「俺に構ってる暇ないだろうに、もう直に順番なんだから並んどかんと」


 満了組は各班の番号だけで、これといった名称はない。ただ一つの例外を除き。


 第十五班。 別名[ルカ隊長と挑む、突撃ダンジョン探検隊]


 ゴブリンは戻ると同時に、リーダーから怒られている。


「それでもラウロさんにちょっかい掛けに来たんですよ、ボスコさん」


 未だにモンテの背中で震えているマッチョを見て、顔を引きつらせながらも。


「大切にした方が良いですよ」


「そうか。いや、そうだな」


 最後まで反対していたのは事実だったから。今どう思っているのかは、本人にしか分からない。


「まだ神像帰りはできるだろうけど、最初からそんなもんには頼らんで行動すっから」


「今日はグイドさんが時空紋担当です。とりあえずは上級挑戦者との顔合わせだって」


 遠目で神殿を眺めると、彼の近くにはティトもいた。訓練に付き合っていた時点で予想していたが。


「イザも一人でやってけると判断しましたので」


 前々から話は聞いていたから、たぶんそうなると本人から知らされていた。


「拠点の用意ができたら、もうすぐに始めるのか?」


「神像に亀裂が入るまでは様子見です。それに最低でもあと一人は募集受けてくれないと」


 以前から上級での死亡率を気にしていたので、弟に関係なく彼女は要請を承諾していた可能性が高い。


 だとすればティトが名乗り出たのもまた、姉を思ってのことだろう。


「ちっとは情報でも集めとく」


「お願いしますね」


 自分が上級に挑戦するから。そういった理由もあるのかも知れず。



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