3話 手合わせ・弓鍛錬・自鍛錬
ラウロも色々と検証したいことは多いので、モニカと表の訓練場に向かう。
「あいつは盾で弾くの上手いからよ、やばいと思ったら自分から転げろ」
「反応できるか分かりませんけど、覚えておきますね」
少なくともアリーダは≪合わせ≫でそれをやっていたので、不可能ではないはず。
≪合わせ≫による隙の生じ方は、心合わせとなれば一瞬意識が真っ白になるから、身体が無意識に動くレベルでないと回避は難しい。
アリーダにもやり方を聞かれたが、≪合わせ≫の覚えかたは何度も≪合わせ≫られるしかない。
三年で習得できたが、これが早いのか遅いのか、爺はラウロに教えてくれなかった。
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・・
本日のメイン試合という訳ではないが、少しの休憩を挟んで両者が向かい合う。
「よろしくお願いします」
装備の鎖より普段着から軽装へと交換。モニカの得物は練習用の槍。
「あんがとね。レベリオは守り主体だし、ラウロも素手じゃ戦ってくれないから、あんまこういう機会ないのよ」
アリーダはすでに革鎧をまとっていた。木剣と木盾。
けっきょく一本も取れなかったようで、トゥルカは思いをリーダーに託す。
「親分頑張って!」
モニカは内心、あんたまでその呼び方は止めろと思ったが、今は目前の相手に集中。
神技は禁止。一応、回復薬は常に用意しておく。
モニカは肺に空気を取り込み、呼吸を止める。切先は下に向け半身で構え、後ろの足で地面を蹴って、前に出ながら浅めに突く。
様子見の一手と判断。
槍の側面から剣を当て軌道をそらし、一気に懐へ入ろうと足を進めた。
接近はさせまいと、一歩さがりながら槍を縦回転させ、石突で地面を削り土を飛ばす。
盾で顔にかかる土を防ぐが、同時に視界も塞がれた。この隙を見逃さず、一度相手に背中を向けてから姿勢を低くとり、槍で足払いを仕掛ける。
剣を地面に突き立てて受け止めると、アリーダは靴底で槍の柄を踏みつけた。
「まだっ」
モニカは得物を手放して、装備の鎖から短剣(木製)を取りだし、そのまま斬りかかる。
「判断が早いわね」
悪手良手は関係なく、この一瞬で悩むよりはずっといい。
左腕の盾で短剣を弾き上げ、片手剣を逆手に握ると、土を削りながら斬り上げる。
下手な回避は間に合わない。モニカは背中から転がって斬撃を躱し、左肘を使い身体を起こす。
片膝が地面についているが、短剣で受ける姿勢はとれていた。
アリーダは追い打ちせず。
「仕切り直しましょう」
木剣の先で落ちていた槍を弾き、モニカのもとまで転がす。
ラウロは二人を見ながら、隣のトゥルカに。
「大したもんだな」
「昔はサボってばかりだったらしいけど、今は休みでも鍛錬してるよ」
生き方の変化。切欠というものもあるのだろう。
「俺も頑張らんと、置いてかれちまいそうだ」
剣に本腰を入れて四年ほど。おそらくモニカも本格的に始めたのは同じ時期。
「たぶん彼女には勝てんな」
「なら親分も何度かやれば、アリーダさんから一本取れるかな?」
たしかなことは分からず。
「俺より勝率は高そうだけど」
「そっか」
応援に一層の力を込める。
「親分がんばれー!」
モニカの動きが乱れ、アリーダがその隙をつく。
「ちょっとトゥルカ」
睨まれた青年をその場に残し、ラウロは一団から離れる。
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・・
弓矢の訓練場ではマリカが目隠しをしながら、二つある的に矢を同時に放っていた。
アドネとヤコポが拍手をしている。
「えへへ~」
曲芸披露みたいになっていたが、暗闇(弱)に対する特訓だった。
「あれ、おじさんも矢の練習?」
「うっす。邪魔してます」
二人とも弓の練習はできているのだろうか。
「お疲れさん。俺は様子みに来ただけだ」
マリカはラウロの存在に気づかず、矢筒に手を持っていき、二本の矢を指に挟む。
それを放てば、また見事に命中。
「ふえ? 声援ちょうだいよ~」
「見事なもんだな」
三人で拍手を送る。
「あっ ラウロさんお帰りなさーい」
目隠しを外すと。
「じゃあ次はヤコポさんの番」
「いやあのその、自分は普通に練習したいです」
女性が使っていた物など、照れてしまった彼には無理だ。
「エルダは来てないんだな」
「うん。今日はお母さんと出かけるって」
鍛錬や作戦会議だけだと、流石に気が滅入るだろう。サラも今日は店の手伝い。
「息抜きもしんとな。んじゃ少し通るからよ、矢を放たんでくれ」
裏庭へと向かう。奥には二重の扉が設置されていた。
「出たら閉めるからね」
鍵というよりも、角材をはめて固定するので、向こう側からは入れない仕組み。
「はいよ」
帰りは裏口から帰宅するか、逆側からに庭に出れば良い。
家庭菜園と言っても、裏庭のスペースを使っているので、まあまあ大きい。
今は休ませているとのことで、なにか花を植えている。詳しくないのであれだが、これで土が良くなるらしい。
小さな倉庫があり、そこに農具が置かれている。
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・・
弓矢の練習場がない、逆側の側面。
レベリオが筋トレのために、背筋を鍛える機具やらを設置したいと言っていた。外でそれをすれば奴が嗅ぎつける危険があるので、ラウロは今も全力で止めている。
専用の部屋を造り、そこに器具を置こう。雨でも使えるし便利だと、それはもう必死に説得するしかない。
師の事を思い出してしまったが、ある意味だと今から素手の鍛錬をするので、調度いい機会だと自分に言い聞かせる。
教え。
どんなに努力を重ねようと、越えられない壁は実際に存在する。
才能。
輪廻というものがあるのなら、経験は魂に刻まれていくはずだ。
他人と自分を比べるな。辛くなるだけだ。
戦うべきは過去の自分。
競うべきは過去の自分。
一年前の自分より、今の自分は一歩でも進んでいるか。
結論
筋肉は裏切らない。
光の拳術神。自称、主神さまの一番弟子。
「武闘派っていうか、接近戦ができる神さま多いのって」
先代 光の主神。
「やっぱ爺さんの所為だよな」
身体を動かして準備を整える。
「始めるかね」
アリーダの〖紅〗特訓や、〖剣の紋章〗に時間を割いて来たので、こちらは後回しになっていた。
近接武器の加護者が神技を得たのと同じ時期。
光と聖の神技が一部更新された。
〖聖壁・光壁〗 足場として熟練をあげると、これらの神技を〖聖なる足場・光の足場〗として名前を変更できる。普通に守りとして使う場合は、今まで通り〖聖壁〗でも可能。
〖聖壁・光壁〗 防御として一定の熟練を得ると〖聖強壁・光強壁〗に名前が変化する。
ラウロは深呼吸をしてから。
「〖足場〗」
輝く足場が前方に出現。同時に発動できるのは今までと同じく二つ。
「名前で固定する……か」
たったそれだけなのに、全然違う。階段状にもう一つ出現させ、そちらに飛び移る。
後方の〖足場〗を消滅させると、再度前方に〖足場〗をつくる。なんども繰り返す。
両手に〖聖拳〗を発動させ、着地と同時に〖土紋・地聖撃〗を発動。
地面に拳をつけたまま。
「〖聖壁〗」
前後に二つ出現させる。
一度消してから。
「聖強壁」
試してみたが、こちらは無理らしい。
立ち上がり。
「次にいくか」
法衣専用神技には〖聖法衣〗や〖威光〗の他にもう一つあった。
〖聖なる化身〗 育て方によって二種に別れる。
〖化身・回避〗 法衣の光が化身として実体化する。独自に〖聖拳〗〖聖十字〗〖聖壁〗〖威光〗を発動可能。
使用者と別々に戦う。回避型だけが持つ〖聖絆〗という神技がある。一定秒数経過で消滅。
「あんま気が乗らないんだよな」
ラウロは装備の鎖を使い、普段着から法衣鎧に交換した。
深呼吸を一つ。
〖化身・回復〗 法衣の光が化身として出現する。物理判定はないが、独自に〖聖十字〗〖聖十紋時〗〖聖壁〗〖威光〗を使える。
使用者と一体になって戦うため、動くと再び重なるまで効果停止。回復型だけが持つ〖聖痕〗という神技がある。一定秒数経過で消滅。
完全防御時の要。
「久しぶりだな、相棒」
法衣鎧にも対応しただけなので、聖神が言っていた神技とは違う。
「よし。まずは肩慣らしだ」
呼吸を整える。
〖化身〗に〖聖十紋時〗を発動させてから、自分は一歩踏み込んで〖聖拳〗を放つ。
ラウロは〖聖壁〗を前後に発動。
〖化身〗は〖聖強壁〗を左右に発動。
「やっぱお前そっちか」
続けて〖聖十字〗を〖聖壁〗の裏に張る。
「重ねろ」
〖化身〗が〖聖十字〗を〖聖壁〗の表に張る。
無表情のまま。
「やっぱ辛いわ」
ラウロは痛みに慣れている。もしくはこの神技により、慣れてしまった節がある。
〖聖痕〗 体中に輝く傷が刻まれ、そこから痛みが生じる。〖聖なる化身〗と一体になっている間はずっと続く。パッシブ効果みたいなものだから、任意で切り替えもできない。
痛みが〖聖拳〗に蓄積されていく。
少しでも緩和させるため、聖法衣を使おうとしたが、どうやら法衣鎧では無理らしい。
「しゃあない。一度仕切り直すぞ」
全ての〖聖壁・聖十字〗を消滅させる。
ヤコポやモニカの所為じゃない。
〖化身〗を使うと思い出してしまうだけだ。
これまでの人生で最大の死地。
〖救済の光〗
寄せ側と攻め側は同じ場所にいては意味がない。
限られた手勢の中で、こちらに割り振る余裕もなかった。
それともう一つ。
五人以下でなくては、〖騎士の道〗も〖聖者の行進〗も発動せず。
町から魔物を引き剥がすことには成功したので、モンテはすでに戦旗を鎖にしまっていた。
当時の記憶を掘り返し、あの戦いを想定する。
終盤。
・・
・・
〖光の戦士〗が消滅。
押し寄せる敵を〖陽の光〗で怯ませた隙に、ラウロは前に出て〖威光〗を使う。
【前方から大剣を持ったオーガが接近】
腕を交差させて〖聖十紋時〗を発動。
まだ神力が技に馴染んでないようで、紋章は発生しない。
「これがそうか」
〖化身〗が〖聖十紋時〗を重ねていた。輝く十字の中央に、古き時空紋が浮かぶ。
【骨鬼が右後方より剣での刺突】
〖聖十字〗をそちらに二重で張り、腕の交差を解き、片腕で剣を受け止めた。
【大鬼がこちらに到着】
紋章の消えた〖聖十紋時〗の裏側に〖聖壁〗を張り付ける。
【大剣を受け止める】
ボスコが〖天の光〗を停止させ、フィエロが〖天の光〗から〖天の輝光〗を発生。
オーガとガイコツは〖浄化の打撃〗と〖輝く短斧〗によって沈む。
【左側より槍を投擲される】
〖聖壁・聖十字〗で備えるが、味方の誰かが〖光壁・光十字〗で防いでくれた。
それが可能なのは回復役のボスコか、〖光壁〗に乗り高い位置から全体を把握しているフィエロ。
【敵味方もろとも矢が降り注ぐ】
頭を〖聖拳〗で守りながら、上部に〖聖壁〗を展開させるが、間に合わず数本が腕と肩に刺さる。
仲間も独自に神技を使い矢を防ぐ。
〖聖紋〗発動。
フィエロが骨鬼の弓兵に対処するため、〖光弓紋・分離〗を発射。
【乗っていた小鬼たちを振り落としながら、迫ってくる巨大な鬼】
ラウロが対処要請。
モンテが〖輝く短剣〗でトロールにデバフ付属。
ボスコが〖光壁〗の足場でラウロを飛び越え、〖輝拳〗と〖光法衣〗で巨鬼に殴りかかる。
【拳の熟練が足りなかったのか、トロールは片腕で防ぎ、そのままボスコは弾き飛ばされた】
[〖輝く短剣〗が無駄になるが、ボスコの〖光十盾〗という選択肢もあった]
もう大斧を防ぐしかないので、片膝を地面につけて姿勢を低くする。
[化身の効果が一時的に停止してしまうが、回避行動に移っても良かった]
前方の〖聖壁〗を二重にしてから傾け、その表面に〖聖十紋時〗を重ねて発動。
[左側の聖壁を消し、三重としておくべきだった]
【威力を消しきれず、聖壁を破壊される】
振り落とされた大斧の側面を両手で受け止めた。
・・
・・
ラウロはその場から立ち上がる。
ここから先は記憶がないので、どうやって巨鬼を仕留めたか確信はないが、各自の神技から予想すれば。
「斧には斧か」
〖輝く大斧〗は味方の強化が主だから、攻撃に使ってもあの巨鬼が相手だと、沈めるのは難しい気がする。
吹き飛んだボスコはどうやって合流したのか。
「きっとゴブリンの振りして紛れたんだろうな」
モンテの旗持ち中に〖古の聖者〗を召喚し、〖破魔拳〗の光を使い切ったのも痛かった。
ただの独り言なのか、それとも実際に問いかけているのか。
「なあ相棒」
返事はない。
「もし今のお前なら、防げてたか?」
〖化身〗が〖聖強壁〗の輝きを強めた気がした。
一定の秒数が経過したことで相棒は消滅する。
「やっぱ聖痕だけじゃ簡単には満たさんな」
破魔の拳には遠い。
・・
・・
まあまあ長いクールタイムを挟み、もう一度〖化身〗を召喚。
「よし、こっちでも試すぞ」
友鋼は嫌がると思うので、装備の鎖より将鋼を取りだす。
今度は剣の加護こみで、あの戦いを想定する。
「あれ?」
〖儂の剣〗を使った瞬間、身体から痛みと共に〖聖痕〗が消え、それと同時に〖化身〗も消滅した。
「身体が光る系は相性悪かったもんな」
腕が光る聖拳。足が光る一点突破。全身に刻まれる聖痕。
検証を重ねないと確かなことは言えないが、化身は素手でないと使用が難しい。
呼吸方により心を落ち着かせる。
構えを整え、素手での足運びを意識しながら、敵対者を想像して拳を振るう。
小鬼・骨鬼・肉鬼・大鬼・巨鬼。
体術の鍛錬をしながら、〖化身〗のクールタイムが終わるのを待つ。
・・
・・
〖救済の光〗が昇った状態での戦いを想定。
〖騎士の道〗〖聖者の行進〗はあるが、一人が旗持ちのため大幅な戦力低下。
〖光の戦士〗が途切れ、生まれてしまう数分の隙間が、引き付け役としての出番。
ラウロは前に出て〖威圧〗を放ち、法衣鎧により〖化身〗を呼ぶ。
もう予備軍には参加しないと決めたのに、こんなことをしている。
「俺は」
当時より一歩でも前に進めているのだろうか。
力なくその場に立ち止まる。
「なんか面白いことしてるわね、私も混ぜてよ」
後ろでアリーダがこちらを見ていた。
いつから見てたのか。顔に出ていたようで。
「良し、こっちでも試すぞから」
剣の銀光が全身に広がっている所からして。
「血剤使うなよ」
「ううっ」
先ほど渡したばかりの〖薬〗を数本握っている。我慢していたが、本当は〖紅〗を使いたくて仕方ない様子。
「良いじゃない、減るもんじゃなし」
「いや減るだろ」
ラウロはため息をつく。上級に向けて在庫を増やさないといないのに。
「〖紅〗は諸刃の剣って奴だ。本当にやばい相手以外は使わない方が良い」
「そうね。でもその時に備えて、熟練は上げておきたいのよ」
使いどころを謝ると痛い目に遭う。
「モニカさんとの手合わせはもう終わったのか?」
「今は休憩してる」
集中が途切れてしまい、〖聖痕〗に耐えきれず〖化身〗を消してしまった。
ラウロは全身をさすりながら。
「剣で良ければ相手するぞ、でもちっと休ませてくれ」
「ねえ、回避型の化身は出せないの?」
〖聖なる拳士〗より断然に強い。
「できれば使ってるだろ」
「残念。じゃあルチオ君呼んで来ようかしら」
最近ちょっと暴走気味のアリーダ。
「今は作戦会議中だから止めてやれ」
狂戦士か。
化身=聖身です。
最初の予定では。
回避 光が増すほど速度強化。
回復 光が増すほど痛みが生じる。
第二ボスのゴブリン戦を書いてみて、前回救済の光つかったとき無理だろと感じまして変更しました。
化身回避が強すぎるので、聖絆には化身の受けた痛みが共有されるとか、リスクも付けようと思います。
メリットは今のところ、なんかの条件が揃うと実体化できる秒数が増えるにしようかな。




