表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか終わる世界に  作者: 作者です
上級ダンジョン【町】初挑戦編
44/133

3話 手合わせ・弓鍛錬・自鍛錬



 ラウロも色々と検証したいことは多いので、モニカと表の訓練場に向かう。


「あいつは盾で弾くの上手いからよ、やばいと思ったら自分から転げろ」


「反応できるか分かりませんけど、覚えておきますね」


 少なくともアリーダは≪合わせ≫でそれをやっていたので、不可能ではないはず。


 ≪合わせ≫による隙の生じ方は、心合わせとなれば一瞬意識が真っ白になるから、身体が無意識に動くレベルでないと回避は難しい。


 アリーダにもやり方を聞かれたが、≪合わせ≫の覚えかたは何度も≪合わせ≫られるしかない。


 三年で習得できたが、これが早いのか遅いのか、爺はラウロに教えてくれなかった。


・・ 

・・


 本日のメイン試合という訳ではないが、少しの休憩を挟んで両者が向かい合う。


「よろしくお願いします」


 装備の鎖より普段着から軽装へと交換。モニカの得物は練習用の槍。


「あんがとね。レベリオは守り主体だし、ラウロも素手じゃ戦ってくれないから、あんまこういう機会ないのよ」


 アリーダはすでに革鎧をまとっていた。木剣と木盾。



 けっきょく一本も取れなかったようで、トゥルカは思いをリーダーに託す。


「親分頑張って!」


 モニカは内心、あんたまでその呼び方は止めろと思ったが、今は目前の相手に集中。



 神技は禁止。一応、回復薬は常に用意しておく。



 モニカは肺に空気を取り込み、呼吸を止める。切先は下に向け半身で構え、後ろの足で地面を蹴って、前に出ながら浅めに突く。


 様子見の一手と判断。


 槍の側面から剣を当て軌道をそらし、一気に懐へ入ろうと足を進めた。


 接近はさせまいと、一歩さがりながら槍を縦回転させ、石突で地面を削り土を飛ばす。



 盾で顔にかかる土を防ぐが、同時に視界も塞がれた。この隙を見逃さず、一度相手に背中を向けてから姿勢を低くとり、槍で足払いを仕掛ける。


 剣を地面に突き立てて受け止めると、アリーダは靴底で槍の柄を踏みつけた。


「まだっ」


 モニカは得物を手放して、装備の鎖から短剣(木製)を取りだし、そのまま斬りかかる。


「判断が早いわね」


 悪手良手は関係なく、この一瞬で悩むよりはずっといい。



 左腕の盾で短剣を弾き上げ、片手剣を逆手に握ると、土を削りながら斬り上げる。


 下手な回避は間に合わない。モニカは背中から転がって斬撃を躱し、左肘を使い身体を起こす。


 片膝が地面についているが、短剣で受ける姿勢はとれていた。



 アリーダは追い打ちせず。


「仕切り直しましょう」


 木剣の先で落ちていた槍を弾き、モニカのもとまで転がす。




 ラウロは二人を見ながら、隣のトゥルカに。


「大したもんだな」


「昔はサボってばかりだったらしいけど、今は休みでも鍛錬してるよ」


 生き方の変化。切欠というものもあるのだろう。


「俺も頑張らんと、置いてかれちまいそうだ」


 剣に本腰を入れて四年ほど。おそらくモニカも本格的に始めたのは同じ時期。


「たぶん彼女には勝てんな」


「なら親分も何度かやれば、アリーダさんから一本取れるかな?」


 たしかなことは分からず。


「俺より勝率は高そうだけど」


「そっか」


 応援に一層の力を込める。


「親分がんばれー!」


 モニカの動きが乱れ、アリーダがその隙をつく。


「ちょっとトゥルカ」


 睨まれた青年をその場に残し、ラウロは一団から離れる。


・・

・・


 弓矢の訓練場ではマリカが目隠しをしながら、二つある的に矢を同時に放っていた。


 アドネとヤコポが拍手をしている。


「えへへ~」


 曲芸披露みたいになっていたが、暗闇(弱)に対する特訓だった。


「あれ、おじさんも矢の練習?」


「うっす。邪魔してます」


 二人とも弓の練習はできているのだろうか。


「お疲れさん。俺は様子みに来ただけだ」


 マリカはラウロの存在に気づかず、矢筒に手を持っていき、二本の矢を指に挟む。


 それを放てば、また見事に命中。


「ふえ? 声援ちょうだいよ~」


「見事なもんだな」


 三人で拍手を送る。


「あっ ラウロさんお帰りなさーい」


 目隠しを外すと。


「じゃあ次はヤコポさんの番」


「いやあのその、自分は普通に練習したいです」


 女性が使っていた物など、照れてしまった彼には無理だ。


「エルダは来てないんだな」


「うん。今日はお母さんと出かけるって」


 鍛錬や作戦会議だけだと、流石に気が滅入るだろう。サラも今日は店の手伝い。


「息抜きもしんとな。んじゃ少し通るからよ、矢を放たんでくれ」


 裏庭へと向かう。奥には二重の扉が設置されていた。


「出たら閉めるからね」


 鍵というよりも、角材をはめて固定するので、向こう側からは入れない仕組み。


「はいよ」


 帰りは裏口から帰宅するか、逆側からに庭に出れば良い。



 家庭菜園と言っても、裏庭のスペースを使っているので、まあまあ大きい。


 今は休ませているとのことで、なにか花を植えている。詳しくないのであれだが、これで土が良くなるらしい。


 小さな倉庫があり、そこに農具が置かれている。


・・

・・


 弓矢の練習場がない、逆側の側面。


 レベリオが筋トレのために、背筋を鍛える機具やらを設置したいと言っていた。外でそれをすれば奴が嗅ぎつける危険があるので、ラウロは今も全力で止めている。


 専用の部屋を造り、そこに器具を置こう。雨でも使えるし便利だと、それはもう必死に説得するしかない。


 師の事を思い出してしまったが、ある意味だと今から素手の鍛錬をするので、調度いい機会だと自分に言い聞かせる。



 教え。


 どんなに努力を重ねようと、越えられない壁は実際に存在する。


 才能。


 輪廻というものがあるのなら、経験は魂に刻まれていくはずだ。



 他人と自分を比べるな。辛くなるだけだ。


 戦うべきは過去の自分。


 競うべきは過去の自分。


 一年前の自分より、今の自分は一歩でも進んでいるか。


 結論


 筋肉は裏切らない。



 光の拳術神。自称、主神さまの一番弟子。


「武闘派っていうか、接近戦ができる神さま多いのって」


 先代 光の主神。


「やっぱ爺さんの所為だよな」


 身体を動かして準備を整える。


「始めるかね」


 アリーダの〖紅〗特訓や、〖剣の紋章〗に時間を割いて来たので、こちらは後回しになっていた。


 近接武器の加護者が神技を得たのと同じ時期。


 光と聖の神技が一部更新された。



 〖聖壁・光壁〗 足場として熟練をあげると、これらの神技を〖聖なる足場・光の足場〗として名前を変更できる。普通に守りとして使う場合は、今まで通り〖聖壁〗でも可能。


 〖聖壁・光壁〗 防御として一定の熟練を得ると〖聖強壁・光強壁〗に名前が変化する。



 ラウロは深呼吸をしてから。


「〖足場〗」


 輝く足場が前方に出現。同時に発動できるのは今までと同じく二つ。


「名前で固定する……か」


 たったそれだけなのに、全然違う。階段状にもう一つ出現させ、そちらに飛び移る。


 後方の〖足場〗を消滅させると、再度前方に〖足場〗をつくる。なんども繰り返す。



 両手に〖聖拳〗を発動させ、着地と同時に〖土紋・地聖撃〗を発動。


 地面に拳をつけたまま。


「〖聖壁〗」


 前後に二つ出現させる。


 一度消してから。


「聖強壁」


 試してみたが、こちらは無理らしい。



 立ち上がり。


「次にいくか」


 法衣専用神技には〖聖法衣〗や〖威光〗の他にもう一つあった。



 〖聖なる化身〗 育て方によって二種に別れる。



 〖化身・回避〗 法衣の光が化身として実体化する。独自に〖聖拳〗〖聖十字〗〖聖壁〗〖威光〗を発動可能。


 使用者と別々に戦う。回避型だけが持つ〖聖絆〗という神技がある。一定秒数経過で消滅。


「あんま気が乗らないんだよな」


 ラウロは装備の鎖を使い、普段着から法衣鎧に交換した。



 深呼吸を一つ。


 〖化身・回復〗 法衣の光が化身として出現する。物理判定はないが、独自に〖聖十字〗〖聖十紋時〗〖聖壁〗〖威光〗を使える。


 使用者と一体になって戦うため、動くと再び重なるまで効果停止。回復型だけが持つ〖聖痕〗という神技がある。一定秒数経過で消滅。


 完全防御時の要。


「久しぶりだな、相棒」


 法衣鎧にも対応しただけなので、聖神が言っていた神技とは違う。


「よし。まずは肩慣らしだ」


 呼吸を整える。


 〖化身〗に〖聖十紋時〗を発動させてから、自分は一歩踏み込んで〖聖拳〗を放つ。



 ラウロは〖聖壁〗を前後に発動。


 〖化身〗は〖聖強壁〗を左右に発動。


「やっぱお前そっちか」


 続けて〖聖十字〗を〖聖壁〗の裏に張る。


「重ねろ」


 〖化身〗が〖聖十字〗を〖聖壁〗の表に張る。



 無表情のまま。


「やっぱ辛いわ」


 ラウロは痛みに慣れている。もしくはこの神技により、慣れてしまった節がある。



 〖聖痕〗 体中に輝く傷が刻まれ、そこから痛みが生じる。〖聖なる化身〗と一体になっている間はずっと続く。パッシブ効果みたいなものだから、任意で切り替えもできない。


 痛みが〖聖拳〗に蓄積されていく。



 少しでも緩和させるため、聖法衣を使おうとしたが、どうやら法衣鎧では無理らしい。


「しゃあない。一度仕切り直すぞ」


 全ての〖聖壁・聖十字〗を消滅させる。



 

 ヤコポやモニカの所為じゃない。


 〖化身〗を使うと思い出してしまうだけだ。


 これまでの人生で最大の死地。


 〖救済の光〗


 寄せ側と攻め側は同じ場所にいては意味がない。


 限られた手勢の中で、こちらに割り振る余裕もなかった。


 それともう一つ。


 五人以下でなくては、〖騎士の道〗も〖聖者の行進〗も発動せず。



 町から魔物を引き剥がすことには成功したので、モンテはすでに戦旗を鎖にしまっていた。


 当時の記憶を掘り返し、あの戦いを想定する。


 終盤。


・・

・・


 〖光の戦士〗が消滅。


 押し寄せる敵を〖陽の光〗で怯ませた隙に、ラウロは前に出て〖威光〗を使う。


 

【前方から大剣を持ったオーガが接近】


 腕を交差させて〖聖十紋時〗を発動。


 まだ神力が技に馴染んでないようで、紋章は発生しない。


「これがそうか」


 〖化身〗が〖聖十紋時〗を重ねていた。輝く十字の中央に、古き時空紋が浮かぶ。



【骨鬼が右後方より剣での刺突】


 〖聖十字〗をそちらに二重で張り、腕の交差を解き、片腕で剣を受け止めた。



【大鬼がこちらに到着】


 紋章の消えた〖聖十紋時〗の裏側に〖聖壁〗を張り付ける。



【大剣を受け止める】


 ボスコが〖天の光〗を停止させ、フィエロが〖天の光〗から〖天の輝光〗を発生。


 オーガとガイコツは〖浄化の打撃〗と〖輝く短斧〗によって沈む。



【左側より槍を投擲される】


 〖聖壁・聖十字〗で備えるが、味方の誰かが〖光壁・光十字〗で防いでくれた。


 それが可能なのは回復役のボスコか、〖光壁〗に乗り高い位置から全体を把握しているフィエロ。



【敵味方もろとも矢が降り注ぐ】


 頭を〖聖拳〗で守りながら、上部に〖聖壁〗を展開させるが、間に合わず数本が腕と肩に刺さる。


 仲間も独自に神技を使い矢を防ぐ。


 〖聖紋〗発動。


 フィエロが骨鬼の弓兵に対処するため、〖光弓紋・分離〗を発射。



【乗っていた小鬼たちを振り落としながら、迫ってくる巨大な鬼】


 ラウロが対処要請。


 モンテが〖輝く短剣〗でトロールにデバフ付属。


 ボスコが〖光壁〗の足場でラウロを飛び越え、〖輝拳〗と〖光法衣〗で巨鬼に殴りかかる。


【拳の熟練が足りなかったのか、トロールは片腕で防ぎ、そのままボスコは弾き飛ばされた】



[〖輝く短剣〗が無駄になるが、ボスコの〖光十盾〗という選択肢もあった]


 もう大斧を防ぐしかないので、片膝を地面につけて姿勢を低くする。


[化身の効果が一時的に停止してしまうが、回避行動に移っても良かった]


 前方の〖聖壁〗を二重にしてから傾け、その表面に〖聖十紋時〗を重ねて発動。


[左側の聖壁を消し、三重としておくべきだった]



【威力を消しきれず、聖壁を破壊される】


 振り落とされた大斧の側面を両手で受け止めた。


・・

・・


 ラウロはその場から立ち上がる。


 ここから先は記憶がないので、どうやって巨鬼を仕留めたか確信はないが、各自の神技から予想すれば。


「斧には斧か」


 〖輝く大斧〗は味方の強化が主だから、攻撃に使ってもあの巨鬼が相手だと、沈めるのは難しい気がする。


 吹き飛んだボスコはどうやって合流したのか。


「きっとゴブリンの振りして紛れたんだろうな」


 モンテの旗持ち中に〖古の聖者〗を召喚し、〖破魔拳〗の光を使い切ったのも痛かった。



 ただの独り言なのか、それとも実際に問いかけているのか。


「なあ相棒」


 返事はない。


「もし今のお前なら、防げてたか?」


 〖化身〗が〖聖強壁〗の輝きを強めた気がした。



 一定の秒数が経過したことで相棒は消滅する。


「やっぱ聖痕だけじゃ簡単には満たさんな」


 破魔の拳には遠い。


・・

・・


 まあまあ長いクールタイムを挟み、もう一度〖化身〗を召喚。


「よし、こっちでも試すぞ」


 友鋼は嫌がると思うので、装備の鎖より将鋼を取りだす。



 今度は剣の加護こみで、あの戦いを想定する。


「あれ?」


 〖儂の剣〗を使った瞬間、身体から痛みと共に〖聖痕〗が消え、それと同時に〖化身〗も消滅した。


「身体が光る系は相性悪かったもんな」


 腕が光る聖拳。足が光る一点突破。全身に刻まれる聖痕。


 検証を重ねないと確かなことは言えないが、化身は素手でないと使用が難しい。



 呼吸方により心を落ち着かせる。


 構えを整え、素手での足運びを意識しながら、敵対者を想像して拳を振るう。

 

 小鬼・骨鬼・肉鬼・大鬼・巨鬼。


 体術の鍛錬をしながら、〖化身〗のクールタイムが終わるのを待つ。


・・

・・


 〖救済の光〗が昇った状態での戦いを想定。


 〖騎士の道〗〖聖者の行進〗はあるが、一人が旗持ちのため大幅な戦力低下。



 〖光の戦士〗が途切れ、生まれてしまう数分の隙間が、引き付け役としての出番。


 ラウロは前に出て〖威圧〗を放ち、法衣鎧により〖化身〗を呼ぶ。




 もう予備軍には参加しないと決めたのに、こんなことをしている。


「俺は」


 当時より一歩でも前に進めているのだろうか。




 力なくその場に立ち止まる。


「なんか面白いことしてるわね、私も混ぜてよ」


 後ろでアリーダがこちらを見ていた。


 いつから見てたのか。顔に出ていたようで。


「良し、こっちでも試すぞから」


 剣の銀光が全身に広がっている所からして。


「血剤使うなよ」


「ううっ」


 先ほど渡したばかりの〖薬〗を数本握っている。我慢していたが、本当は〖紅〗を使いたくて仕方ない様子。


「良いじゃない、減るもんじゃなし」


「いや減るだろ」


 ラウロはため息をつく。上級に向けて在庫を増やさないといないのに。


「〖紅〗は諸刃の剣って奴だ。本当にやばい相手以外は使わない方が良い」


「そうね。でもその時に備えて、熟練は上げておきたいのよ」


 使いどころを謝ると痛い目に遭う。


「モニカさんとの手合わせはもう終わったのか?」


「今は休憩してる」


 集中が途切れてしまい、〖聖痕〗に耐えきれず〖化身〗を消してしまった。



 ラウロは全身をさすりながら。


「剣で良ければ相手するぞ、でもちっと休ませてくれ」


「ねえ、回避型の化身は出せないの?」


 〖聖なる拳士〗より断然に強い。


「できれば使ってるだろ」


「残念。じゃあルチオ君呼んで来ようかしら」


 最近ちょっと暴走気味のアリーダ。


「今は作戦会議中だから止めてやれ」


 狂戦士か。







化身=聖身です。


最初の予定では。


回避 光が増すほど速度強化。


回復 光が増すほど痛みが生じる。


第二ボスのゴブリン戦を書いてみて、前回救済の光つかったとき無理だろと感じまして変更しました。


化身回避が強すぎるので、聖絆には化身の受けた痛みが共有されるとか、リスクも付けようと思います。


メリットは今のところ、なんかの条件が揃うと実体化できる秒数が増えるにしようかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ