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いつか終わる世界に  作者: 作者です
上級ダンジョン【町】初挑戦編
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2話 鍛錬と作戦会議


 回復薬や解毒薬といっても、神技の熟練や素材など性能に関係してくるので、上級に備えてそれなりの物は用意したい。


 だが今日はこれらとは別の〖薬〗を求める。


「えーと〖三型〗で頼む」


「ラウロさん〖四型〗でしたよね」


 四型は全体での割合が少ないので、他よりも値段が気持ち高い。しかし合わない型を使えば、下手な状態異常より体調が悪化する。


「仲間のだ」


「レベリオさんは〖一型〗じゃ?」


 この薬は主に引き付け役が使う。かつてのラウロにとっては、〖回復薬〗よりも重要だった。


「最近じゃアリーダ嬢がお求めでな」


 検証の結果。〖紅・血刃〗への代用が可能だと判明した。もっとも本物の血と比べれば、効果も低いと思われる。


 一つの目安としてだが、〖血剤〗が必要なほどの怪我を負えば、その戦いはラウロにとっては反省点の多いものになる。

 実際には使わなかったが試練のボス戦や、爺との継承戦あたりか。


「どうもでーす」


 徒党員に金を支払う。アリーダが張り切るものだから、最近はこれの出費がバカにならない。



 門の方を見れば、すでにミウッチャは門番と別れ、今は神殿で順番待ちをする団員に合流していた。


「あの連中、たしか」


 三人の若者が広場の受付から門を通り抜けて行く。


 グレゴリオが何かを話しかけているようだが、顔を合わせもせず彼らは町への道に。


「お疲れさんです」


「ああラウロか。もう用事は済んだのか?」


 広場での買い物や、長期間ここにいる者たちへ荷物を届ける。ダンジョン活動が目的でなくても、そういった理由があれば、外出許可の用紙は渡される。


「連中あれだよな、軽犯罪で労働させられてた」


「知ってんのか。中級は止めとけって言ったんだが、俺らに構わんでくれとさ」


 ルチオやモニカのように求められる若者もいれば、その逆もまた。


「もとから素行は良くなかったからな。徒党への所属も難しいだろう」


「……そうか」


 以前は探検者だったが上手く行かず、諦めて町で働く。しかし問題を起し軽犯罪者になって労働。


 刑期を終えて自由の身になったは良いが、もう町で働くのも難しくなり、再び探検者として活動を再開させた。


「ああいった連中は出てくるもんだが、放っておくわけにもな」


 軽犯罪から犯罪への悪循環。


 まだ装備の鎖もないようで、使っている武器や防具のなかには、協会からの借り物も混ざっていた。



 去っていく彼らを見ながら。


「とりあえず初級から始めて、少しずつ信頼を回復させてくしかないだろ」


「そう言ってんだが、聞く耳持たん」


 でも悪いことばかりではないようで。


「仲は良いんだ、あの三人。長いこと様子を見てるが、喧嘩とかしたことは一度もないようだ」


「それがどう作用するかにもよるけどな」


 吉とでるか凶とでるか。



 ラウロも身のまわりだけで精一杯なので、様子を見る以外のことはできない。世知辛いなと思いながら、町を目指す。


 それに彼らが助けを求めているとも限らない。


・・

・・


 町壁を潜り、自宅にもどる。


 訓練場となっている借り家の庭では、アリーダがトゥルカと手合わせをしていた。


 片手剣に両手剣。使っているのは練習用の木剣なので、先端は尖っていない。


「今度こそっ!」


 勢い良く踏み込んでからの振り落とし。


 だが突きもせず伸ばされた片手剣の切先が、両腕を上げたままだったトゥルカの喉元に向けられていた。


「勢いだけじゃなくて、ちゃんと見てるのね」


「あーっ くそ!」


 気合だけで突っ込むと、自分から剣先へ当たりに行ってしまう。


 どうも彼は戦闘に入ると性格が変わってしまうようだが、心のどこかで普段の自分が残っているのかも知れず。


「このままっ!」


 首に当たっていた切先を自剣の柄尻で叩き落す。


 姿勢を整えてから、アリーダの心臓を狙って一突き。


「そうね。まだ終わってない」


 後ろにさがりながら、木盾でトゥルカの剣を弾いた。


 

 片手剣を右下から斬り上げれば、隙だらけになった横腹に命中。


「まだトゥルカじゃ一本は無理そうだな」


 打たれた場所をさすりながら。


「偉そうに、ボク知っているよ。ラウロさんだって滅多に勝てないでしょ」


「勝ったことありますぅー」


 二十戦して取れるのは一本ほど。できる限り勝負を長引かせ、こちらの準備を終わらせる。


「あんた、その返答は逆に格好悪いわよ」


 アリーダは≪合わせ≫を知らないが、どうも本体の方がその技術を持っているようで、身体というか魂が対処法を知っている節があった。


 弾かれて隙をさらそうと、まだ勝負は終わっていない。転ぶでも武器を手放すでも、とにかく体勢を立て直す。


「格好悪くてもけっこう」


 ラウロがこだわっているのは、格好いい去り方だけ。背中で語る的な。


「ほらよ」


 紙袋に包まれた〖血剤〗をアリーダに渡す。


「大切にしろよ、安くないんだから。っていうかそれなくても、〖紅〗の特訓はできるだろ」


「別にいいでしょ、自分の金なんだから。使いたいのよ」


 血を流し、流させるほどに〖私の剣(斬)〗が強化される。


「まあいいや、マリカたちは弓の方か?」


「アドネ君とヤコポさんらもそっちよ」


 弓の練習場は借家の横側に作られていた。的や矢の通り道に木製の囲いを張って、外へ誤射しないよう対策をしてある。


 素人だとそんなものは作れないので、職人に頼んだらしく、これに一番費用が掛かったとのこと。


 町の許可と周辺住人に賄賂(?)もしてある。ダンジョンの町だけあり、そこら辺の理解もなくはない。


「アリーダさんじゃボク相手になんないから、ラウロさん手合わせしてよ」


「やめた方が良いわよ。まだこの人、寸止めとかできないから」


 練習用の剣といっても、怪我をしないとは言えない。トゥルカは何度も打たれているが、大した負傷もなく再戦できているのはその証拠。


「そういうこった。俺も中でちっと休んだら顔出させてもらうよ」


 いくら剣の主神と同一だとしても、彼女の腕前は五年やそこらで成せるものじゃない。

 もともと産まれた家が武術やらに熱心なご両親らしい。




 借り家の中に入ると、リビングには四人。


「やってるねえ、頭脳派さんがた」


 ゾーエとモニカには挨拶され、レベリオにはお帰りなさいの言葉をもらう。


「今俺ら真剣な話してんだよ。おっさんに構ってやりたいけど、ちょっと外で遊んできてくれ」


「なにそれ酷くない。俺も混ざりたいんだけど」


 得意分野とは言えないが、けっこう嫌いではない。



 卓上を盤面とした中級第二ボスの作戦会議。


 木製の駒。〇が味方 △が雑魚 □がボス。


「んでっ、ルチオ組からは誰が出張するんだ?」


 あえて四人組にしていたのは、こういった時に組み換えが楽だから。残った三名は【森】の開拓地付近で活動したり、素材集めなどをするようだ。


「ボスに向けて移動してかないといけないから、〖眠者〗はちょっと使い難い。だから私としてはサラさん」


 〖香る木花〗は嗅がなければ効果も弱まるので、戦いに集中しているのどうしても忘れてしまうのが難点だった。精神安定もあるが、切迫している時など余計に鼻呼吸はできない。


 モニカは四角駒を指さし。


「回復は〖薬〗に頼るでも良いかなって考えています。不足してるのは、ボスを速攻で倒すための火力かな」


 だとすればルチオか。


「ヤコポさんとモニカさんあたりが、俺とマリカの役割になんのか?」


 三名が巨鬼に向けて接近し、弓と〖伸〗で彼らのサポート。


「火力面で親分が抜けるのはきついだろ」


 もうそれで定着したようだ。


 ゾーエは丸駒を後方支援の位置に移動させ。


「でも私がこっちに回ると、トゥルカの強化ができなくなる」


 〖火炎放射〗 敵味方の判別をしなければ、〖炎の身体〗で攻撃力も上げれる。


「僕らの戦法はラウロさんがいないとできませんので、全員で少しずつ前進してくほうが良いかと」


 ボス戦が終わっても、ダンジョンからの脱出は自力でしなくてはいけない。


 神力の消費が激しすぎると没になったが、〖聖拳士〗六体に【花】の対処を任せ、四人でボスを目指すという作戦もあった。



 ラウロが丸駒を盤面に加える。


「〖宿木〗は戦力が二体追加される訳だし、援護側はヤコポさんと〖守木人〗に任せるでも良いんじゃないか?」


 移動ができないので、ある程度全員で進んだあと、〖宿木〗でヤコポはその場に残り【花】を刈る。


「そうなるとボス接触後の援軍(ゴブリン)に不安があります」


 〖盾の咆哮〗と〖断罪落とし〗があったからこそ、レベリオらは中ボスを一気に殺せたが、モニカ組でそれをするのは中々に難しい。


「ゾーエさんの〖赤光玉〗を宿木側に残しておくとか」


「あの神技は全自動じゃなくて、ある程度こっちで指示しないといけない」


 ボスとの戦いに意識を向けながら、後方にいるヤコポを支援するのは無理。


「ていうかヤコポ外して、ルチオ組から二人欲しい。第二ボスと〖宿木〗は相性悪い」


「モニカ組としてそれは許容できません」


 全員で中ボスを目指すとして、【花】を放置したまま移動するのも危険。あの妖精は時間経過で強化されていく。


「俺が行くなら、トゥルカと二人で〖地炎撃〗しながら進むでも良いか。あれ紙装甲だし」


「〖日の光〗も相性はかなり良いけどな」


 モニカは盤面をみて悩みながらも。


「火力じゃ貢献できないかもだけど、防御や回復の援護は大きいです」



 サラとルチオの二択となっているが。


「アドネは〖夢〗の発動に不安あるし、〖お宝ちょうだい〗も第二ボスに慣れてからじゃねえとあれだな。エルダって選択はないのか?」


「鎧の引き寄せは群れを得意としてますが、今回の【花】にはあまり向いてませんね。ですが〖鎖の呪縛〗は巨鬼にもかなり有効かと」


 四方からの発動となれば、戦況は一気にこちらへ傾くだろう。


「ただ僕の考えになりますが、ルチオ君が良いと思います。モニカさんに〖友情の紋章〗を使えますので」


 耐性は無効とは異なる。自らを焼くという条件で強化される身体能力は、そこらのバフとは性能が違う。


 ゾーエは丸駒を全て四角駒の付近に持っていき。


「ボスまで到着すれば〖宿木〗も使える。援軍の【花】は私の〖火炎放射〗でもなんとかなる」


 流れを一通り皆に伝える。



 全員で巨鬼に向けて進む。【花】は〖地炎撃〗を主体にしながら倒していく。


 接触後に〖宿木〗を使う。ルチオとトゥルカを〖火炎放射〗で強化してから、増援【花】を焼く。


 小鬼はヤコポと男型に出てもらい、女型の弓と〖赤光玉〗で援護。


 ボスはルチオ・トゥルカ・モニカを主軸とする。


「【花】にもボスにも、防御力の不足は否めない。防具は絶対に揃えてから」


 エルダかサラが入れば、今度は攻撃が不足する。


 丸駒を動かし、ボス戦の位置取りを決める。


「こんな感じ」


「そうですね」


「私もそれで良いかと」


 とりあえず誰が行くかは決まったようだ。今は装備を整える段階なので、先の話になるとは思う。それにヤコポも中級での活動に復帰しているが、まだ本調子ではない。



 モニカはレベリオに感謝をしてから。


「そろそろ庭の方に行きますね」


「アリーダに付き合わせて、申し訳ないです」


 手合わせ。


「いえ、私も勉強になりますので」


 ルチオは机の上に並べられた駒を眺め。


「俺も見に行きてえけど」


「考えるなら私も付き合う」


 今度はモニカ組から誰を呼ぶか。まだ先としても、恐らく順番はこっちが先になるだろう。


 最高火力はアドネになるが、雷鳴の杖にもっと雷を落とせるようになってからの方が良い。

 

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