表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか終わる世界に  作者: 作者です
試練ダンジョン編
4/133

3話 ダンジョン広場


 木壁には兵士が待機していたが、検問はなくお疲れさんの挨拶だけで通り抜ける。


 その先には田畑が広がっており、昼時なため畑のそばで飯を食べている人たちがいた。

 水路には簡単な木橋もかかっていて、自然独特の青臭さがただよう。今からダンジョンに行くとは思えないほどに、どこか穏やかな空気が流れる。


 通常時は魔物もいないが、害獣や害虫はしっかり生息していたりする。

 人間に関する疫病などは活力系統の神技で落ち着いているが、植物の病気は生物とは違うのかも知れない。


 目的地には歩いて一時間もかからない。

 元気なルチオには、革の鎧を着ているから、そのペースだと疲れるぞと注意をする。緊張しているアドネには早く歩けと背中を押す。

 そのようなやり取りをしているうちに、三人は到着した。


・・・

・・・


 ダンジョン広場。そこは町と同じで大きな壁に囲まれているが、管理しているのは探検者協会の者たちだ。


「おっさん、あっちからでも入れるみたいだぜ」


「ありゃ物資の運搬専用だよ」


 町への道も馬車が通りやすいよう、探検者たちとは別になっている。


 近隣の村で仕事が少ない連中は、自分たちの住んでいる町に行き、そこを拠点に活動している出稼ぎ探検者。そして収穫期など人手が必要な時期になると帰っていく。


 またダンジョンがない町にも協会支部があり、近隣の宿場街に仮設受付所を設置し、そこを一時的な拠点とする。

 

「俺ら専用の入り口はあそこか?」 


 張り切っているようで、ルチオは前を歩いて二人を急かす。


 物資搬入側よりも少し小さな出入り口には、ラウロよりもずっと年上のオッサン。


「おう、来たなガキども」


「こんちは。これ」


 ルチオより証書を受け取り、内容を確認するとそのまま預かる。代わりに三人分の木札を渡された。


「ラウロ、しっかり頼むぞ。将来の希望だからな」


 探検者協会は怪我や年齢で引退した者たちの引き取り口。そしてなにより緊急時の戦力。もし魔界の門が開くと、神が作り出したダンジョンでも異変が起きる。


「ああ、任せとけ」


「頑張ります」


 アドネは頭をさげる。ルチオは壁の先が気になるようで、木札を受け取ったらそのまま走っていく。




 整備された広場の奥には倉庫が四棟あり、各倉庫に繋がっている別の建物が見える。余っているスペースでは、回復薬や保存食などを売っているようで、簡素な露店がいくつかうかがえる。


「土台と柱と屋根だけの建物がいくつかあるだろ。今回俺らが挑戦するのはあれだな」


 ラウロが指さしたのは、左端にある倉庫の手前に立っていた石造りの神殿。


「ちっさ」


 初心者は慣れるまで何度か挑戦して、それから次に移る。


「まあな」


「並んでる人も少ないね」


 列の最後尾を探す。


「こちら試練・練習ダンジョンです! 四名以下限定です!」


 誘導の協会員が看板を持っていたので、三人は迷うことなく列に並べた。


「俺が教育係、こいつらが試練です」


 一応、木札を見せる。


「こんにちわ。ではこちらにどうぞ」


 会話が聞こえ、誰か来たのかと最後尾の少女は振り向く。


「ルチオとアドネも今日だったんだ」


「よっ、お前もか」


 少女は一人だったが、大人の男女が付き添っている。


「こんちわ」


「ラウロ」


 父親の方は少女よりも落ち着かない様子。


「ここに来るの久しぶりなんじゃないか、二人とも」


「ええ、この人ったらこんな感じで」


 ずいぶん前に探検者を引退したと聞いていた。


「そんなんで大丈夫かお前」


「むっ 娘の門出なんだ、大丈夫さ」


「今からそんな調子だと、私が嫁に行くとき気絶しちゃうんじゃない」


 娘の言葉に父親は鼻息を荒げ、お前はどこにもヤラないと意気込んだ。


「ねっ」


 女の子に声をかけられて、アドネが顔を赤くする。


「マセガキども」


「私たちもう成人してるもん」


 一五歳で大人。皆は収穫期の祭りで一斉に年齢を上げる。少女とアドネはその手前に産まれたらしく、ルチオよりも実際は差があった。


「そういえばそうだったな、爆散しろ」


 ルチオは並びから少し外れて、目的の神殿を見て目が輝やいていた。恋路にはあまり興味がないようだ。



 不安そうな父親に聞くわけにはいかないので、母親に小声で尋ねる。


「契約はどうしたんだ?」


「とりあえずお金は払ったので、光神さまの加護でなければ」


 そうか、と考えこむ。

 緊急時に第一防衛地点で戦うかどうか。今後も年ごとに更新料を払っていく必要がある。

 母親はしまったと。


「ごめんなさい」


「気にすんな、そんな嫌な思い出でもない。世話になった孤児院にも金が入ったしな」


 光の加護を授かった場合は、教国のために従事しないといけない。


「たしか、ラウロさんは教都の出身でしたっけ」


「ああ」


 少女はアドネの装備を見て、格好いいねと革の兜をバンバン叩いて笑っていた。


「ずいぶん奮発したな」


「短剣は私のお古です」


 後衛でも接近されろば対応が必要。娘の装備に話が移れば、父親は自慢げに胸を張って。


「良いのを買った。全部嫁任せだけど」


 同じ革製でも違いはある。


「これは町のガイコツか?」


 ダンジョン〖【町】】この広場では最難関。

 その魔物は薄い黒革の装備をしており、倒したときのレアドロップで同じ革素材が手に入る。


 鉄・革・木・布などなど。ダンジョンで入手できる装備素材は、位が上がるほどに灰色から、徐々に黒くなっていく。そして一番上だけが白になる。


 直接工房に持ち込むことも中々できないので、結局はここで金に換えてから、町でオーダーメイドする形が多い。白素材だけは少しルートが異なりもするが、【町】ではまず出ない。



 母親はアドネとルチオから少し距離をとり。


「本当は自分の力で少しずつ、頑張ってかないと駄目なんですけどね」


 女性で一五歳となれば、そこまで体格も変わらないだろうと、袖の短いコートを仕立ててもらった。

 授かる加護によっては鎧の上に着るかも知れないため、調節できるよう店とは相談している。頭は衝撃吸収用の布巻にコートのフード。軽鋼(かるはがね)の鎖帷子はお古を作り直した品らしい。


 思わずラウロは言ってしまう。


「うっ 羨ましい。俺も欲しい」


 ルチオはその会話が聞こえていたようで。


「おばちゃん気にすんなって。俺らだって安い金で支給してもらったんだ」


 死亡率を少しでも減らすために、各国は色々と対策をしている。本当は兵士を目指した方が死亡時など、色々と手厚い保証がつく。だが新人期間を終えると、移動命令を受ける場合もあった。


 アドネも話を聞いて、同意見とうなずいた。


「ありがとね、二人とも」


 父親の方は孤児院の出身。その関係から教会の炊き出しなどを手伝ってくれており、幼いころからの知り合い。ラウロともそこから繋がった。


「パーティ組んだ時、もしエルダが言うこと聞かなかったら、おばちゃんに教えるのよ」


「なにそれー 私ちゃんとリーダーの指示守るもん」


 教育期間を終えたら、この三人は組むことになっている。リーダーはルチオとして、あと一人は探したいところだ。


・・・

・・・


 エルダと話をしているうちに、アドネの緊張もほぐれた様子。ついでに爆発しろ。


「二人とも、お互い頑張ろうね!」


 両親は普段着のままだが、自前と思われる装備の鎖をしている。ブランクが長いが、数カ月前から娘と一緒に訓練はしてきた。


 壁のない神殿の床には、時空を象徴する紋章が描かれていた。協会の人間がその端に手をそえる。


「それでは目を閉じてください。十秒後に開けるようお願いします」


 時空神または眷属の加護持ちだろう。母親はうなずきを返す。父親は娘の肩に手をおく。

 紋章が輝けば、次の瞬間に親子は消えた。


 最前列を管理していた女性が紋章に手先を向け。


「真ん中までお進みください」


 紋章の大きさは三人なら余裕をもって入れる。


「試練ですか、それとも練習でしょうか?」


 ルチオがこちらを見あげる。ラウロはうなずいた。アドネも両手を握る。


「試練です!」


 元気が良い。木札も見せておく。


「確かに。それでは、準備はよろしいですね」


「いつでも大丈夫だ」


 時空の加護持ちが紋章に手をそえる。


「目を開けた状態ですと、転移酔いを強めますので」


 いくつかの説明を受けたのち。


「それでは閉じてください。十秒後に目を開けてくださいね」


 二人の試練が始まる。


〖〖大空洞〗〗 魔界の介入率 0%


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ